<憑依>あなたはわたしの中に①~精神同居~

ごく普通の女子大生ー

しかし、彼女にはある秘密があった。

それはー
”幼馴染の男の意識に憑依されている”ことー。

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「--そういえばさ、奈緒美って、どうして彼氏作らないの?」

お昼の時間ー
昼食を食べながら、女子大生同士が会話をしている。

奈緒美と呼ばれた女子大生が
その言葉に返事を返す。

「--わたし?
 う~ん、ちょっと色々あって!」
奈緒美が笑いながら言う。

奈緒美と呼ばれた女子大生は、
とても綺麗で、美人と称されるようなタイプ。
それでいて性格も優しく、明るいために
人気があるー
男嫌いとか、苦手とかそういうこともないのだが、
彼氏の噂が一切なく、実際に彼氏もいないために
親友の和枝(かずえ)は不思議がっていたー。

「--も~!教えてよ~!」
和枝が言うー
奈緒美は「ひみつー!」と笑いながら返事をしたー

・・・・・・・・・・・・・・

”なぁ…もう、気にするなよ?”

「----」

帰り道ー
夕日が眩しい道を歩きながら
奈緒美は、誰かに話しかけられていたー

”……その…いいからさ…
 俺のことは”

彼の言葉に、
奈緒美は、立ち止まったー

「--ー無理なんかしてないよ」
奈緒美は優しく呟くー

「--わたしが好きなのは、淳史(あつし)-。
 これからも、ずっと、変わらないからー」

”----…”

淳史と呼ばれる男と、奈緒美が話しているー

だが、奈緒美の周囲には男は見当たらない。

スマホを手にしているわけでもないー

誰かと喋っているのに、
周囲に、誰もいないー。

”----本当に、ごめんな…”

「--……」
奈緒美は悲しそうな表情をすると、
「ほら、そういう話はやめよ!」と
明るく振舞うー

そしてー

「交代!」
奈緒美がそう言うと、奈緒美が少しだけ
ビクンと震えて、
少ししてから、目を開いたー

「----」
奈緒美が歩き出すー。

スーパーに立ち寄って
奈緒美が好きなスイーツと
”淳史が好きな”お寿司類を購入するー。

「---」
買い物を終えた奈緒美は静かに呟くー

「俺はーー
 消えたほうがいいのかな…」

ふと、呟くー

自分のことを”俺”と言う奈緒美ー。

彼女はーー
”幼馴染の男”に憑依されていた。

だが、
無理やり乗っ取った、わけではない。
奈緒美自身も今の状況を受け入れているし、
むしろ、進んで、淳史と呼ばれる男に身体を提供しているー。

淳史は、申し訳ないと思いながらも、
奈緒美の身体で過ごしている。

もう、2年以上になるだろうか。

こうなったのは、高校2年生の冬ー。
あれからずっと、淳史は、奈緒美の中で過ごしている。

帰宅すると、奈緒美は、部屋着に着替える。
シャツとトランクスー
まるで、男のような格好にー

「---ごめんな…こんな格好して」
奈緒美が呟くー
今は、淳史が奈緒美の身体を支配しているー

”別にいいよ。
 それに。もう何度も言ってるでしょ?
 わたしの身体はわたしと淳史のものだから”
奈緒美の意識が、今、奈緒美を動かしている淳史に語り掛ける。

「--どうしても、女の子~!みたいな格好に慣れなくてさ…
 この方が楽で」

奈緒美はその格好のまま胡坐をかくと、
寿司を食べ始めるー

”人前じゃなきゃ、大丈夫大丈夫”
奈緒美の声が、頭の中に響き渡るー

周囲には、
今”表”に出ている方以外の声は聞こえない。

つまり、
奈緒美の意識が喋っている言葉は、
周囲には聞こえないー
そのため、奈緒美の身体の主導権を握っている
淳史が独り言を喋っているかのように、見えてしまうー。

「ふ~~~~」
寿司を食べる奈緒美の仕草は
完全に男のようだったー。

食べ終わると、奈緒美は
「--なぁ、さっきの話だけど…」と呟く。

”え?彼氏作らないのか?ってやつ?”
奈緒美の意識が言う。

「そう…俺のことは気にしなくていいからさ、本当に」
奈緒美の身体で、淳史がそう呟くと、
”別に…淳史に気を遣って、彼氏を作らないわけじゃないから…
 わたしがこうしたいから、こうしてるだけ…
 淳史の方こそ、気にしないで”と、
奈緒美の意識が呟いたー

「--さて……そろそろお風呂かな」
奈緒美が呟いて立ち上がるー

”今日は、どうする?”
奈緒美の意識が呟く。

「-う~ん、また奈緒美の身体を興奮させちゃうと
 アレだから、パスパス」

奈緒美の身体で淳史がそう呟くと、
”も~、いい加減、わたしの身体に慣れなさいよ~”と
奈緒美の意識が苦笑いしながら”交代”したー。

「一人暮らしなのに、洋服は二人分なんて」
奈緒美が苦笑いしながらシャツとトランクスを脱いで
そのままシャワーを浴び始めるー

綺麗な黒髪を洗いながらー
奈緒美は”あの日”のことを思い出したー

・・・・・・・・・・・・・・

それはー
高校2年生の時の冬ー

冬川 奈緒美と、浜澤 淳史は、
小学生の頃からずっと一緒の仲良しな幼馴染だった。
そんな二人は、高校生になったころから
お互いを”異性”として意識し始めた-
小さいころは、そんな感情を全く抱いたことがなかったため、
二人は最初、とても戸惑い、素直になれなかったー

けれど、最終的には高校2年生の春に、
恋人として付き合い始めて
幼馴染から、彼氏・彼女の関係に進展したー

順調に、二人は仲良く、楽しい高校生活を満喫したー

だがー
高校2年生の冬ー
それは、起きたー。

「------…!」
クリスマスの日にデートをしている最中ー

突然、車が二人の歩いている歩道に
突っ込んできたのだったー。

彼氏の淳史が、先にそれに気づいた。

ちょうど、目の前の建物のガラスに車が反射してー
淳史が、奈緒美より先に、それに気づいたのだった。

車は、奈緒美の方に突進してきていたー

ほんの数秒、あるかないかー
その一瞬の時間で、淳史がとっさに取った行動は、
奈緒美を守ることー

結果ーー

淳史に突き飛ばされた奈緒美は、助かりー
淳史はその車に追突されてしまったー。

「--そんな…死なないで… お願い…死なないで…」
奈緒美は、ボロボロになった淳史に呼びかけたー

「--ずっと、、ずっとそばにいるから……泣かないで…」
淳史は苦しそうに、それだけ呟いたー。

それが、淳史の最後の言葉ー
救急車が到着したころには、既に淳史の意識は無くなっていて、
彼は、そのまま息を引き取ってしまったー。

悲しみに暮れる奈緒美ー
そんなある日、
突然、”声”が聞こえた…

”あのさ…”

「え?」
奈緒美は驚いて周囲を見渡す。

”あ、、、あの…お、、俺だよ!淳史だよ!”
その声に、奈緒美は「え??ゆ、幽霊!?!?」と尻餅をついて、
怯えたー

”ご、、ご、、ごめん!ゆ、、幽霊かもだけど、、 
 で、でも、俺だよ!淳史!
 な、何にもしないから、落ち着いて!”

淳史の必死の言葉に、
奈緒美は、「あ、、淳史、って証拠は!?」と
とっさに叫んだー

”は、、は、、初デートの日に
 寝坊して、奈緒美に怒られた!”

”中学生時代の修学旅行の時に迷子になって、
 先生にー”

淳史は、自分の恥ずかしい過去や
自分しか知らないことを必死に叫んだー

「ほ、本当に淳史…
 って、どこにいるの?」

奈緒美が少し落ち着いて、部屋の周囲を見渡すー

”そ、、、それがさ…
 2週間前ぐらいから、ずっと奈緒美の中に…”

「---えええええええええええええ!?!?!?」
奈緒美は叫んだー

”自分の中に、死んだはずの淳史がいるー”

驚かずには、いられなかった。

”ご、ごめん…
 でもさ、俺も急なことで、戸惑っちゃって…”

淳史は、気付いた時には”奈緒美の中”にいた、と
説明したー
奈緒美を驚かせてしまうから、と、この2週間程度
ずっと奈緒美の中で何も言わずに
息をひそめていたのだと言うー。

淳史は、
ドキドキしていたー

”出てって!”
”エッチ”
”きもい”

そういうことを言われると思ったからだー

だがーー

「---あえてよかった…!」
奈緒美は嬉しそうにそう言ってくれたー

自分の身体の中に、他人がいるー
そんな状況をも、奈緒美は
受け入れてくれたのだったー

”すぐに出ていくから”
”なんとか消える方法探すから”

淳史は、奈緒美にそう説明したー

でもー
奈緒美は首を横に振ったー

「出て行かなくていいし、消えなくていいから!
 淳史、もう身体はないんだから!」

そして、奈緒美は提案したー

「--わたしの身体で良ければ、
 ずっといてもいいよー」

とー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

お風呂から上がり、
普通の女子っぽい服装で、
部屋に戻って来る奈緒美ー

あの時から、ずっと、淳史といっしょー

奈緒美は、淳史が自分の中にいるこの状況をー
苦しいとは全く思っていなかったー

淳史は、自分の命の恩人。
あの時、淳史が自分を助けてくれなかったら、
死んでいたのは、自分ー。

そう考えるたびに、奈緒美は辛くなるー
淳史に対して、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになるー。

こうしてー
淳史と一緒にいられる状況を
奈緒美は、心の支えにしていた。

”大事な彼氏が、自分を庇って
 目の前で無残な姿になって死んだ”

そんな現実は、奈緒美の心に深く傷をつけた。
しばらく、奈緒美はふさぎ込み続けていた。
けれどー
淳史がやってきてから、奈緒美は変わったー
淳史が死ぬ前と同じように元気になり、
大学でも楽しく日常生活を送っているー。

裏を返せばー

奈緒美は、今、自分の中に存在する
淳史に”依存”しているー。

淳史がいなければー
奈緒美はー

「--ねぇねぇ淳史~!来月、淳史の誕生日だったよね~?」
奈緒美は、大学に入学してからは
一人暮らしをしているー

高校時代は、親の目もあるから、淳史に色々不便な思いを
させてしまった。
淳史が、奈緒美の身体で淳史として過ごせるように、
奈緒美は一人暮らしの道を選んだ。

”ん?あぁ、そうだな…”
淳史が返事をするー。

「誕生日プレゼント、何にしよっかな~?
 あ、そうだ、淳史!誕生日プレゼント用意してるときは
 眠っててよね?」

奈緒美が言うー
”表”に出ていない状態でも、
奈緒美がそうであるように、淳史の意識はある。
まるで、映画を見ているかのようなー
そんな感じで相手が見ているものを
そのまま感じることができるー

”------”
淳史は、嬉しそうに話をしている奈緒美を
奈緒美の脳内で見つめながらー

心が締め付けられるような気持ちになったー

来月の誕生日ー

”-----”
淳史は思うー

最近ーーー

”自分が薄れている”
そう、感じることがあるー

そして、その感じは、どんどん強くなっていくー

何らかのきっかけで、死んだ自分が
奈緒美に憑依して、
奈緒美の中にいるー。

でもー
最近は、それが”薄れている”気がするー

自分が、消えてしまうようなー

「ねぇ!淳史~!?聞いてる!?」
奈緒美が声を上げる。

奈緒美の言葉にハッと現実に引き戻される淳史ー。

「---も~!ぼーっとしてたでしょ?」
奈緒美の言葉に、
淳史は”ご、ごめん、ちょっと考え事を”と
奈緒美の中で苦笑いしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

”今日は、淳史の番”

「---あぁ」
奈緒美の身体を支配した淳史がうなずくー

大学にも、交互に行っているー
”隠そう”と思っていること以外の記憶は共有できるから、
不便なことはないし、
相手が困っていれば、内側から語り掛けることもできるから、問題はないー

「大学は、さすがに男装じゃ無理だからな」
奈緒美になった淳史が苦笑いして、
ちょっとボーイッシュな格好で、メイクを整えて
家を出るー

淳史が表に出ている日は、ズボンメインのボーイッシュな格好、
奈緒美が表に出ている日は、スカートメインのおしゃれな格好が多いー。

友達もそれには気づいているが、
まさか、奈緒美に淳史が憑依していてーー
などとは、思っていないー

「-----」
大学に向かいながら、奈緒美になった淳史は思うー

”もしもーー

 もしも、
 俺が消えてしまったらー

 奈緒美はーー

 俺は、どうすればいいー?”

そんな風に思いながらー
淳史は不安な気持ちを抱くのだったー

②へ続く

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コメント

精神同居(?)な状態の憑依モノですネ~!
お互い合意の上で、一つの身体を二人で使っています~!

続きはまた明日デス!

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