幼馴染の男子に憑依されている女子大生ー
ふたりは、ひとつの身体を使い、
共同生活を続けていた。
しかし…
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「--あ、今日はボーイッシュスタイル!」
親友の和枝が笑いながら、お昼を食べている奈緒美に近づいてくるー
今日の奈緒美は、全体的にボーイッシュな感じー
ジーンズを履いていても、そのスタイルの良さは隠せない奈緒美を見て、
和枝は「奈緒美はどんな格好でも似あうなぁ~」と笑うー
「そ、そうかな~?」
奈緒美が照れ臭そうに笑う。
今の奈緒美は、淳史が支配しているー
奈緒美本人の意識は奥に引っ込んでいて、
中身は別人ー。
だが、淳史はもう、この数年、ずっと奈緒美の身体で
精神同居状態のためー
女子として振舞うことにも、流石に慣れていたー
「--奈緒美って、ポニーテールの日と
そうじゃない日があるけど、あれって気分?」
和枝が、飲み物を飲みながら言うー
「ん?あぁ~うん、そう、気分だね~」
奈緒美はカツ丼を食べながら、そう返事をするー
長い黒髪を下ろしているときは、
奈緒美が表に出ている日ー。
淳史からすると、長い黒髪がどうしても気になってしまうために
ポニーテールにして、少しでも邪魔にならないようにしているー。
淳史からしてみれば、ショートヘアーにしてほしい気分なのだが、
奈緒美はずっと小さいころから長い黒髪だったし、
お願いすれば恐らく奈緒美は、何の迷いもなく
ショートヘアーにしてしまうだろうから、
申し訳なくて、それはできなかった。
「ってか、ポニーテールの日は、よく食べるよね」
和枝が笑うー
奈緒美は思わず笑ってしまうー
「--和枝ってば、わたしのこと、よく観察してるんだね?」
とー。
確かに、ポニーテールの日はよく食べるー。
ポニーテールの日は、淳史が奈緒美の身体の主導権を
握っている日だからー
食欲も強いー。
”お腹が空いてても大丈夫なタイプ”である奈緒美と、
”食べないと気が済まないタイプ”の淳史の差だろうか。
「--明日は”もう一人の奈緒美”かな?」
和枝がふいに口にした。
「--え?」
奈緒美が、真顔になって、カツ丼を食べる手を止めるー
「わっ!?そんな怖い顔しないでよ!
勝手にそう思ってるだけ~!
なんかほら、時々性格まで違う気がするし~!」
和枝の言葉に、
奈緒美は「へ、変なこと言わないでよ~」と苦笑いしたー
昼食を終えて、和枝と別れるー
そんなにー
そんなに”別人”のように見えるのだろうかー。
自分は、奈緒美に迷惑をかけているのではないだろうかー
「--------…」
奈緒美が立ち止るー
ぼーっと、口を開いたままー
”---淳史?”
中にいる奈緒美の意識が、声をかけたー
「-------」
奈緒美が、口をぽかんと開けたまま立ち止っているー
”ちょっと?淳史!?”
奈緒美の意識が慌てた様子で叫ぶー
「---ん?あ、、、あぁ?」
奈緒美の主導権を握っている淳史が、慌てて返事をしたー
”ちょ、ちょっと、大丈夫?急にぼーっと立ち止まったりして”
奈緒美のその言葉に、
奈緒美になっている淳史は「あ、、う、、うん。大丈夫」と
返事をしたー
”調子が悪いなら、わたしが代わるから無理しないでね”
奈緒美の言葉に、
奈緒美になっている淳史は「わかった」と、返事をしたー
やっぱりー
奈緒美になっている淳史は表情を歪めるー
やっぱりー
おかしいー
自分がどんどん”消えていく”ような
そんな感じを覚えているー
おかしいー
「-----」
奈緒美になっている淳史は表情を曇らせて立ち止るー
もしも俺が消えたらー
奈緒美はー酷く悲しみ、落ち込むかもしれないー。
最悪の場合…
淳史には、分かっていたー
”自分を守って死んだ”淳史に対して
奈緒美は異常なまでに依存してしまっているー
申し訳ないという気持ちだろうかー
それとも、こうして精神同居状態になったからだろうか。
元々はそうではなかったー
だが、今の奈緒美は、淳史がいなくなったらー
壊れてしまうかもしれないー
そう思えるぐらいに、今の奈緒美はーー
「---奈緒美!」
背後から声がしたー
「--え?」
奈緒美が振り返るー
そこにはー
同じ大学に通う男子、正彦(まさひこ)がいたー
「--正彦」
奈緒美になっている淳史が、その名前を呼ぶー
正彦は、中学時代、奈緒美と一緒だった生徒で、
奈緒美に憑依している状態の淳史とも当時、
面識があるー。
当然”俺、淳史だよ、今、奈緒美の中にいるんだ”などと
伝えることはできていないが、
正彦は、優しく気配りの出来る存在で、
奈緒美とも親しくなっていたー。
とーー
いうよりも、淳史が奈緒美になっている日に、
積極的に親しくなっていった感じだー
”もしものことがあればー”
そう、思ってのことー
「--今度の講義の話だけどさ、
僕のコレ、どう思う?」
正彦が、何やら相談をしてくるー
奈緒美として、淳史は「どれどれ?」と
顔を近づけて、正彦が見せてきた資料を見つめるー
「----」
正彦と話しながら、淳史は思うー
正彦は、奈緒美のことが好きだー
そしてー奈緒美自身も正彦のことを
別に悪くは思っていないー
そう言えば、中学時代も、自分と正彦は
よく話していたし、その輪の中に奈緒美もいたー。
「--これで、いいんじゃないかな?」
奈緒美の身体で淳史がそう言うと、
正彦は「サンキュー!」と嬉しそうに立ち去って行ったー
”俺が消えたらー
その時はー”
奈緒美の姿のまま、淳史は思うー
いつまでも”死者である自分”に想いを馳せていてはいけないー。
淳史は、そう思っているー
自分がいることで、
まるで、”呪縛”のように、
奈緒美を縛り付けてしまっているー
奈緒美は、男子から告白された経験もあるが、
全て断っているー
その理由は決まって
”好きな人がいるので…”という理由だったー
その”好きな人”が誰なのかは、奈緒美は
教えてはくれない。
だがー
”分かってるでしょ?”と、いつも言っていることからー
淳史のことであるのは間違いないー。
淳史は、苦しんでいたー
奈緒美を、縛り付けてしまっている自分にー
そして、奈緒美をここまで依存させてしまったことにー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
帰宅すると、奈緒美が表に出て「お疲れ様~!」と呟く。
”・・・・・”
淳史は、悩んでいるー
自分が消えるかもしれないことをー。
消えることは、今更、怖くはない。
既に、自分は一度死んでいるしー
奈緒美の中に自分がいることに気づくまでは
”無”だったのだからー。
「---あれ?もしかして元気ない~?」
奈緒美はそう言いながら、ポニーテールにしていた髪を下ろして、
髪を整えているー。
”あ、いや…”
もしも自分が奈緒美に憑依するようなことがなければー
きっと、奈緒美は自分で立ち直っただろうー。
淳史が死んだことで、ふさぎ込んでいた奈緒美も
時間と共に立ち直って、ごく普通の高校生活、そして大学生活を
送っていたはずだ。
奈緒美は強いー
淳史の死から必ず立ち直ったはずー。
けれどー
自分が、こうして憑依状態にあることでー
それが変わってしまった。
もし、今、淳史が消えれば
奈緒美はーー
立ち直ることができないかもしれないー
”なぁ、奈緒美”
淳史が呟く。
「なに~?」
奈緒美がジュースを飲みながら、
自分の中にいる淳史に返事をするー
”正彦のこと、どう思う?”
淳史が聞く。
すると、奈緒美は笑った。
「どうって?友達だよ~!
いつも良くしてくれてるし」
奈緒美は当たり前のように答えたー。
”そうじゃなくて!その、男として”
淳史が言うと、
奈緒美は「へ?」と笑った。
「わたしには淳史がいるから、他の人を好きになることなんて
あり得ないし、淳史はわたしの命の恩人だもん!
わたしはずーっと、淳史のことが大好きなままだし、
淳史のために生きるから!心配しないで!」
笑う奈緒美ー
”それがー
心配なんだよー”
淳史は心の中でそう思ったー
そしてー
”なぁ、奈緒美…
俺と奈緒美は一緒にはなれない。身体は一つしかないんだ。
正彦を、とは言わない。
でも、俺のために気を遣う必要はないし、
俺のこと好き、って言い続けてたら、奈緒美はずっと一人のまま…”
「---え?ちょ、ちょっと待って、どうしてそう言うこと言うの?」
奈緒美が表情を歪めるー
”いや…その、、俺は、、奈緒美の中にいるだけだから、
そういう、恋愛とかはもうできないんだよ、
だから、正彦とか、他のーー”
「いやだ!!!!」
奈緒美が叫んだー
”奈緒美…”
淳史は戸惑う。
「どうしてそういうこと言うの??
わたしは淳史がいいの!!
淳史、わたしを助けてくれたでしょ!?
だから、恩返しするの!
淳史がいないと、いや!!!」
奈緒美の目からは涙がこぼれているー
”-----”
淳史は困惑したー
こんな状況でー
自分がもしも消えたらー
奈緒美は最悪、自ら命をー
”----ごめん”
淳史はそう呟きつつもー
”あること”を考え始めたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「-------」
好きな音楽を聴きながらー
奈緒美の身体で過ごすー。
ジャージ姿の奈緒美が鏡に映るー
「----」
好きな音楽を聴いていても、淳史の心は、晴れないー
日に日に、
”その日”が近づいているのが分かるー
”ねぇ淳史~!今度のお休み、映画見に行こうよ~”
嬉しそうに奈緒美が語り掛けて来るー
身体は、ひとつー
映画を一緒に見に行く、と言っても
周囲からみれば、一人ー。
「----…」
奈緒美になっている淳史は返事をしないー
険しい表情でソファーに座り、
足を開いた状態で、考え事をしているー。
”俺は、消えるー”
なぜ、奈緒美に憑依して、
こうして、精神が同居している状態になったのかは分からないー
自分は、あの時、奈緒美を守って、死んだー。
あれから数年間ー
ずっと奈緒美の中で生きてきたー
でもー
そんな奇跡ー
ずっとは続かないのかもしれない。
ずっと、奈緒美と一緒だと考えていたのが
そもそも”勘違い”だったのかもしれない。
急に奈緒美の中にいたー。
裏を返せばー
いつ、自分が消えてもおかしくない、
そういうことなのだろうー
そして、”俺は消える”-
最近、意識が急に薄れたり、
自分の存在が薄れたりすることがあるー
それは…
自分がもうじき、消えることを意識しているー
奈緒美の身体で淳史は、ここ数日、ずっと考えていたー
このままじゃ、奈緒美は淳史が消えたら
壊れてしまうかもしれないー
だったらー
「--くくくくく」
奈緒美の身体のまま、突然笑い出す淳史ー。
消えるのは、怖いー。
”どうしたの?急に笑い出して…”
奈緒美の意識が語り掛けて来るー
「ははははは…はははははははは!奈緒美!俺、決めたよ!」
奈緒美が今まで出したこともないような笑い声を出したー
”え?何を?”
奈緒美が不思議そうに言う。
「--この身体は、俺が貰う!」
奈緒美が嬉しそうに叫んだー。
これがー
淳史の決断ー
”え?ちょ?何言ってるの??淳史??”
「---うるさい!この身体は俺のものだ!」
奈緒美の身体の主導権を握ったまま、淳史はそう叫んだー
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・
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次回が最終回デス~!
今日もありがとうございました~!
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