他人を皮にする力を手に入れた男ー。
男は、多数の人間を乗っ取り、廃棄しー
そして、世間に牙を向けていくー。
彼を、止めることはできるのかー
---------------—-
「--湯田和夫!」
刑事・達本 義明(たつもと よしあき)が、
”狼”こと、湯田和夫の自宅に突入したー。
しかしー
「---…!」
義明は表情を歪めるー
「これは…」
和夫の部屋には、”大量の脱ぎ捨てられた皮”が
設置されていたー
男女ー
老人ー
子供までー
ここ数日のうちに、行方不明届けが出された人間も
そこには何人か、転がっていたー
「くそっ!」
義明が怒りの形相で叫ぶー
「--こちらを!」
他の刑事が叫ぶー
義明がそちらに向かうとー
そこにはー
皮にされた裸体の女が、壁に画鋲で、3人ほど貼り付けられていたー
「---くっ」
義明は、吐き気を催すー。
凶悪犯罪はこれまでにも見たことはあるが
これほどまでに残忍なものは見たことがないー
しかもーー
義明は、壁に皮の状態で貼り付けられた女の口元に注目したー
1体目は「ば」、と発音している形に口が開いているー
2体目はよく分からない-
3体目は「か」
「---くそっ!」
義明は、その意味を理解して壁を叩いたー
”狼”からのメッセージ
”ばーか”
「--あ、生配信が始まりました!」
他の刑事が言う。
義明が慌ててそれを見るー
”あっははははははは!皆さん、ご機嫌いかがでしょうか?”
女の声ー
数日前と同じー
ヘルメットとラバースーツ姿の女ー
「この身体は、気に入りました。
スタイルも、声もいいー
お見せ出来ませんが、顔もー…
くっくくくくくくくく」
狼=和夫が笑うー。
「--さぁて、皆さん、最近、身の回りで
行方不明になった人はいませんか?
私は既に、皆さんに宣戦布告してから
数百人を皮にし、そして、人生を終わらせましたー
まだまだこんなものではありませんー。
これは、世間に対する宣戦布告ー
そう、あなたたち、全員です。
分かりますか?
あなたたち、全員ー。
私の復讐対象ですー
スマホを手に、ヘラヘラ笑いながら動画を見ている
そこのあなたもー
私がいずれ、皮にして、乗っ取って、身体を堪能してー
引き裂いて差し上げましょう」
そう言うと、狼に乗っ取られたヘルメットの女は
足を組んで笑ったー
「もしかしたらー
この身体も、あなたの知り合いかもしれませんね?
お母さん?恋人?友達??
くくくくくくくくくくく…」
挑発的に呟いて笑うと、和夫は動画で宣言したー
「---私を止めることは、誰にでもできないー
ねぇ?ーーー」
配信が終わるー
「------やばくね?こいつー?」
高校でその配信を見ていた男子高校生の信吾が言うー
「--やばくね…?っていうか…」
隆司が叫ぶー
「俺は、りんごちゃんが殺されたことがショックだよ!」
大声で叫ぶー
「--まだ言ってんのかよ!」
信吾があきれ顔で言うと、
「-早くこういう頭のおかしな野郎はどうにかしてほしいよなぁ~」と呟くー
「--りんごちゃんの仇討ち!」
隆司が大声で机をたたくー
「---っつかさ、真面目な話、人を皮にして乗っ取るとか、
なんかエロくね?」
笑いながら信吾が言うー
「--は?」
隆司が首をかしげると、
信吾は「だってさ~ほら、今の動画だって、女の身体で
配信してただろ~?声も身体も女になれるなんて、
エロエロだぜ!」と笑いながら口にしたー
「----」
隆司が苦笑いしながら、
女子たちを指さすー
「お前、女子からドン引きされてるぞ~?」
隆司が言うと、
信吾は周囲の女子たちの冷たい視線に気づいて、
目を逸らしたー
「と、と、、と、とにかく!元気だせってことだよ!」
信吾の言葉に、隆司はため息をついたー。
大好きだったアイドルの、りんごが死んでしまったー
そのことを、未だに引きずっているー。
「---今日の数学の授業は、俺が代わりにやるぞ」
5時間目の数学ー。
パンチパーマのジャージの男性教師が、そう言い放ったー
「え~~~~!?」
教室から、主に男子からのブーイングが聞こえるー
美人女教師・真愛美先生の授業を楽しみにー
いや、真愛美先生を見るのを楽しみにしている男子が一定数いるのだー
「はははははは!残念だったなぁ!真愛美先生じゃなくて!」
ジャージの教師がゲラゲラ笑う。
「--真愛美先生、どうかしたんですか?」
生徒会書記のクラスメイト・江子(えこ)が聞くと
先生は答えたー
「あ~~、、、真愛美先生はな~ちょっと…な」
歯切れの悪い返事ー。
隆司と信吾は「何かあったのかな?真愛美先生?」などと
小声で会話を交わすー
信吾は冗談っぽく「真愛美先生、美人だから
男でもできたんじゃないか?」と笑ったー
・・・・・・・・・・・・・・・・
「----たす……けて………」
少女が、身体をひくひく震わせているー
ラバースーツ姿の女が背後に立ってー
少女を今、まさに皮にしているー
「---たす………け……」
人が皮にされる瞬間は、実に美しいー
今まで生きてきた人生の全てを
一瞬にして、奪われるー
「--たすけてほしいですか?」
ラバースーツの女が、背後から小声でつぶやくー
「おねがい………たすけて…」
既に後頭部が開いている少女が
涙ながらに言うー
「あぁぁぁ…命乞いされる瞬間ー
ゾクゾクするー…
ゾクゾクしますよぉぉぉぉぉ!」
ラバースーツの女ー
”狼”こと、和夫に乗っ取られたままの女が、
興奮しきった声で言うー
そしてー
「-命乞いしてもーーーーー
人は、助けてくれないー
この世界は、冷たいから…
この世界は、冷たいからああああ!」
ラバースーツの女は、そう叫ぶと、
少女の身体に出てきたチャックを
一気に引き下げてー
少女を皮にしたー
「--ふん」
笑う彼女ー
ラバースーツの女が椅子に座るー。
この女も、”狼”に皮にされて、乗っ取られてしまった女だー。
だがー
”狼”は、この女が気に入ったのかー
この女の皮を着て、普段は行動するようになったー
「-----」
”狼”は、
”地獄”を思い出すー。
彼はー
サラリーマンだったー
真面目で成績優秀ー
大学卒業後にー
一流企業に就職ー
順調に仕事をこなしてきたー
だがー
彼は”被害者”になったー
通勤電車で、悪質な女に、
”わたし、触られてます”と、
和夫の写真つきで、ツイートされてしまったのだー
実際は、近くに立っていただけで、
触ってもないし、見てもいないー
その、ギャル女の”イタズラ”だったー
だが、そのツイートは炎上ー
湯田 和夫は徹底的に叩かれてー
そして、住所まで突き止められたー
警察の取り調べを受けることになりー
会社からは解雇されー
友人からも見捨てられたー
”私じゃありません!”
どんなに叫んでもー
世間は信じてくれなかったー
それだけじゃないー
和夫の実家にまで嫌がらせが始まったー
世間は、冷たいー
人間は、腐っているー
真実を知りもせずに、徹底的に叩くー。
助けを求めても、誰も助けてくれやしないー
徹底的にー叩き、そして、破壊するー
結果ーー
実家の妹と母親は、”度を越した嫌がらせ”によりー
自殺したー
父は、行方不明だー。
その後ー
ギャル女が「イタズラでした~!てへっ」とツイートしたことで、
世間は静まったー
数年前の話ー
ギャル女は、未だに普通に暮らしていてー
和夫は人生を破壊されたー
それなのに、誰も和夫に謝罪すらせずー
今や、「湯田 和夫」という名前すら
誰も覚えていないー
世間は腐っているー
そう、最初に攻撃してきたのは世間だー
「だからーー」
ラバースーツの女の姿のまま、和夫は呟いたー
「だから私は復讐する、世間にー
この腐った世界に宣戦布告するー
牙を喉元まで突き立てられたのならー
やられる前に、私が牙を喉に突き立て返しー
噛み砕いてやるー」
この女の身体は、いいー
何故ならこの女は、妹によく似ているからー
「---ふふ」
少しだけ笑うと、彼女は嬉しそうに、胸を揉み始めたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
最初はー
”狼”のことを真剣に考えている人間は少なかったー
あくまでもー
”頭のおかしな奴がいる”
そのぐらいの認識で、面白がって
動画を見ているだけの人間も多かったー
だが、半月も経過したころにはー
状況が一変していたー
”世間に牙を剥く狼”を名乗る湯本和夫は、
恐怖の象徴として、
世の中を震え上がらせていたー
”今日の皮コレクション”
狼の動画配信チャンネル”ウルフチャンネル”で、
和夫が、”皮にした人間たち”を着て
ポーズを決めたり、恥ずかしい格好をして
それを放送しているー
「--わたし、皮にされちゃいましたっ!えへっ♡」
カメラの前でピースする女はー
有名な若手スポーツ選手ー
有名人も、一般人も、無差別に皮にされていくー
今日も、何十人もの”皮にされた被害者”が紹介されー
そして、最後に皮の中から、ラバースーツ姿の女が出て来るー
銀行強盗がつけるような覆面をしていて、
その顔は見えないー
「---私のターゲットは、あなたたち、全員です。」
女が椅子に座って、クスクスと笑うー
「---今、動画を見ているあなたも、
いずれ、皮にしに行きますー。
くくく…無駄ですよ。
何をしてもー
”誰の身体”にも潜むことができる私を
止めることはできないー
よってたかって私を追い詰めた世間にー
私は復讐するー
この手でー
殺られる前に、殺るー。
当然のことでしょう?
あなたたちは、ライオンではないー
一匹一匹は力の弱い草食動物だー。
大勢で”狼”を取り囲んでー
強くなったつもりでいるだけの、愚か者ー
だが、どうです?
自分たちがよってたかって、イジメてきた存在がー
突然強くなって、自分たちが蹴散らされる側になった気分は…?
くくくくくく」
覆面の女が狂ったように、嬉しそうに笑うー
この女も皮にされた被害者だがー
彼は、”死んだ妹に似ていた”という理由で
この女の皮を愛用してー
その姿で行動しているー
「-------」
スマホで、その動画を見ていた隆司が
「りんごちゃんを、返せ」と、まだ呟いているー
「あははははははははは!」
動画内で女が笑うー
「-----」
ふと、隆司は首を傾げたー
なんだかー
この笑い声ー
聞いたことがあるー
そんな風に思ったー
翌日ー
数学の真愛美先生は、ここ数週間、ずっと不在だー。
今日も、代わりの数学の先生が、「残念だったなぁ!」と生徒たちに告げるー
男子を指さして
「真愛美先生のスカート見つめてたんだろぉ?
代わりに俺のケツでも見つめてやがれ!」と
笑う先生ー
「----」
隆司は、”どうして真愛美先生は最近、学校に来ないのだろう…”と
首をかしげるー
体調不良なのだろうか。
でも、先生に聞いても、先生たちは、答えようとしないー
「どうしたの?今日も暗いじゃない?」
授業が終わると、幼馴染の千穂が苦笑いしながら近づいてきたー
友人の信吾も近づいてくるー
「---…りんごちゃん」
ボソッと呟く隆司ー
”狼”に最初に皮にされて犠牲になったアイドル、りんごのことで、
半月以上経過した今でも、隆司は落ち込んでいたー
「---まだ言ってるの!?」
千穂が”さすがに呆れた”という様子で叫ぶー
「--おいおい、あんまり千穂ちゃんを嫉妬させるなよ~?」
信吾が笑いながら言うー
千穂は隆司のことが好きー
しかし、隆司は鈍感すぎて、全く気付いていないー
「--ん?」
隆司が首をかしげる。
「--と、とにかく!」
千穂が話を変えるー。
「-いつまでも落ち込まないの!!
そのアイドルは、もう戻ってこないんだから!」
「-そうそう。ま、残念なのは分かるけどよ」
「---はぁい…」
ぐったりした様子で不貞腐れる隆司ー
この時はまだー
彼らにとって”他人事”でしかなかったー
”テレビやネットで見る凶悪犯罪者”
まるで、別世界の出来事のようなー
遠い遠い対岸の火事であるようなー
そんな、感じだったー
しかしー
”狼の牙”は、
すぐそばに、近づきつつあったー
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・
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次回が最終回デス!
他人を皮にする力を手に入れてしまった凶悪犯罪者を
捕まえることは出来るのでしょうか~?
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