豹変した婚約者ー
彼は、戸惑うー
彼女にいったい、何があったのかー
---------------------
アニメキャラ・ゆーたんの格好をした紗友里が、
鏡の前でポーズを決めているー
「-ゆーたん だよっ♡」
アニメ声で呟く紗友里ー。
紗友里は普段そんな声ではないが
無理やり変な声を出さされているー
「--はぁぁぁ…♡」
興奮しきった表情で、自分の太ももを触る紗友里ー
「ゆーたん…ゆーたん…ゆーたん…♡」
涎を垂らしながら笑うー
紗友里の部屋は、見る影もなくぐちゃぐちゃで、
元々紗友里が集めていた小物類や
光物の類は、邪魔そうに、部屋の端っこに
放り投げられているー
アニメグッズに囲まれて、幸せそうな紗友里ー
紗友里は、壁に貼られた尾崎さんの写真を
見つめながらー
「大好き だいすき だいすき」と
何度も呟いていくー
まるで、自らに刻み込むかのように、
尾崎さんに対する”愛”を呟いていくー
夢中になりすぎて、紗友里はトイレに行くのも
忘れて、その場で失禁してしまうー
それでもへらへらと笑いながらー
紗友里は、うっとりとした表情で
胸を触りだすー
そこに、文康の知る紗友里の姿は、
もう、どこにもなかった…。
・・・・・・・・・・・・・・・
「---えーー…っと?つまり?」
親友の卓夫は、文康から
紗友里の豹変の話を聞いて、戸惑っていた。
「---言った通りだよ。
ほんとにこれって、マリッジブルーなのか?」
不安そうに呟く文康ー
「--ん~~~…」
卓夫が腕を組みながらペットボトルのコーラを
口にすると、文康の方を見たー
「---そんなマリッジブルーは聞いたことねぇな…」
急にアニメ好きになったりー
急に浮気したりー
まるで別人のようになってしまったりー
アニメについて語る紗友里の姿は、
自分の好きなものについて語りだして
止まらなくなっているオタクそのものだったー
「--元々、アニメ好きだったってことは?」
卓夫が言う。
「--いや…少なくとも今までそんな素振りは」
文康が暗い表情で答えるー
「--だいたい、その尾崎さん?とやらのこと
好きって言ったんだろ?
その尾崎さんとやらが、何か関係あるんじゃないのか?」
卓夫の言葉はもっともだー。
紗友里の部屋から出た直後、
尾崎さんとは会っているー
だがー
”急に告白された”と言っていたー
尾崎さんの反応と紗友里の言動を見るにー
まるでー
”誰かが紗友里を操って、尾崎さんに告白させた”
ようにも思えるー
「-----そんなやつと結婚するぐらいなら、
まだ、俺と結婚してくれたほうがいいのにな!」
卓夫が笑うー
「--それもだめだ」
文康が真顔で返事をすると
卓夫は「わりぃ、冗談言ってる場合じゃなかったな」と苦笑いしながら頭を掻いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
紗友里の両親の元に向かう文康ー
紗友里の豹変を伝えるかどうか迷ったが、
あれからさらに1週間が経過しても
紗友里に変化はなかったー。
アパート前に行ったが、不在で、
しかも、アニメのコスプレイベントに向かった、と
近所の住人が教えてくれたー
予定通り結婚式は難しいかもしれないー
「---」
紗友里の両親に伝えると、母親も父親も戸惑った様子だった。
「--きみが」
父親の方が口を開いた。
「きみが、紗友里を苦しめてたんじゃないのか!?」
「ちょっと、あなた!」
紗友里の父が声を荒げるー
紗友里の父親は娘である紗友里を溺愛していたー
結婚の許可を貰うのも、かなり大変だったが
ようやく認めてくれていた、という経緯があるー。
だがー
今回、紗友里の豹変を伝え、
予定通りいかないかもしれないと伝えたことで
紗友里の父は再び文康を敵視し始めた。
「---紗友里は、何かに苦しんでいたんじゃないのか!?」
紗友里の父が叫ぶー
「それは…」
文康は戸惑うー
紗友里が何かに悩んでいる様子はなかったー
紗友里が何かに苦しんでいる様子もなかったー
いやー
自分が、紗友里の苦悩に気づいてあげられなかった
だけなのかもしれないー
色々な思いが、文康の中に湧き上がってくるー
どうすればーー
「--紗友里は…」
文康が口を開いたその時ー
文康のスマホが鳴るー
「--あ、すみません」
文康は頭を下げて、一度部屋から退出すると、
電話に出たー
”文康!ぜ、、全部!全部わかったぞ!
早くこっちにーーーー、月野さんの家にーーー
ブチッ”」
ーー!?!?
親友の卓夫からの電話だったー
「…卓夫!?!?」
叫ぶ文康ー
だがー返事はない
”全部わかった”
”早く、月野さんの家にー”
月野さんとは、
紗友里のことだー
紗友里の家で、何かー?
「--すみません。ちょっと紗友里の方で
トラブルがー
一度失礼します」
文康は、紗友里の両親に頭を下げると、
そのまま紗友里の家に向かって走ったー
何があったんだー?
紗友里ー
卓夫ーーー!?
慌てて走る文康ー
これまでの人生で一番の速さで走ったかもしれないー
息切れすら忘れながら、
紗友里の部屋をノックするー。
「-ははは!来た来た!」
部屋の中から紗友里の声がするー
「--入れよ!」
紗友里の乱暴な口調ー
いったい、
いったい、なんなんだ!?
文康は、そう思いながら
部屋に飛び込むー
するとーー
部屋の中には、
ゆーたんの格好をして笑う紗友里と、
倒れた卓夫の姿があったー
「--さ、、紗友里!?卓夫!?」
文康が叫ぶー
卓夫は死んでいるー?
「--ふふ、生きてるよ」
紗友里が呟くー
そして、立ち上がると、
左手で胸を揉みながら卓夫を足で転がすー
「--こいつ、わたしの家の前でわたしのこと
探ってたの」
紗友里が笑いながら言うー
紗友里は、人のことを”こいつ”なんて言わないー
文康は倒れた卓夫の方を見るー
文康が卓夫に紗友里のことを相談したからー
卓夫は、紗友里のことを探っていたのだろうー
「---で…見られちゃったんだよ」
紗友里がクスクス笑うー
「”僕”がこの女にキスして憑依するところをなぁぁぁぁ」
紗友里が大笑いしながら叫ぶー
「なにっ!?」
文康が戸惑っているとー
紗友里が口を開いたー
そしてーー
紗友里の口から煙のようなものが出てきてー
そのまま、紗友里は、「あ…」とうめき声をあげて
その場に崩れ落ちたー
「--紗友里!」
紗友里に駆け寄る文康ー
煙のような物体はー
隣人・尾崎の姿に変わったー
「おまえは…!」
文康が叫ぶ。
「--尾崎!!!」
とー。
「うっへへへ!紗友里ちゃんは、
僕の大好きなアニメキャラにそっくりなんだよ!
ゆーたんになぁぁぁ」
尾崎さんが大声で叫ぶー
「--ふ…ふざけ…
ひ、、、憑依ってなんなんだ!」
文康が叫ぶー。
「--憑依薬」
尾崎さんは笑ったー
「--他人を乗っ取って意のままに支配できる
夢のような薬さ」
尾崎さんの言葉に
”そんなもの、あるわけが”と叫ぼうとする文康。
しかしー
今ーー
紗友里の口から尾崎が出てきたのは間違いないー
紗友里の豹変の理由も、
乗っ取られていたとしたら、説明がつくー
「---う…」
卓夫が目を覚ますー
「--文康!」
卓夫が文康の方を見て叫ぶー
「--卓夫!大丈夫か!」
文康の言葉に、卓夫は頷くー
卓夫は気絶させられていただけー。
そして、紗友里も目を覚ますー
「う…」
「紗友里!」
文康が紗友里の方に駆け寄るー
駆け寄りながらもー
文康はひとつ”違和感”を感じていたー
それはー
豹変した紗友里の部屋に以前、来た時ー
部屋から出た直後、尾崎さんとは廊下で
鉢合わせしているー
アパートの廊下で尾崎さんと話をしている最中も
紗友里は部屋の中で笑っていたー
あの時の紗友里はー
”尾崎さんには憑依されていない”はずだー。
「---へへ」
尾崎さんが笑うー
「気安く触らないで」
紗友里が、文康の手をはたいたー
「紗友里…?」
戸惑う文康ー
尾崎さんに憑依されていないはずなのにー
紗友里は、尾崎さんの方に近づいていくー
そして、大好きな人を見る目で、尾崎さんを見つめたー
紗友里を抱きしめる尾崎さんーー
「---さ、、さゆり…」
文康は言葉を失うー
”憑依”されてないはずなのにーーー
尾崎さんは、今、紗友里の身体から抜けてるはずなのにー
「--僕色にカスタマイズしたんだよぉ」
尾崎さんが笑うー
「憑依してる間はね、そいつの頭を使って
いろいろ考えるんだー」
尾崎さんが、自分の頭を指で触りながら笑うー。
「ーーど、、どういうことだ…!ふざけるな!」
文康が叫ぶ。
「テメェ…月野さんに何をしたんだ!」
卓夫も叫ぶー
「--えっへへへへ…」
尾崎さんが紗友里を抱きしめるー
紗友里は恍惚の表情を浮かべるー。
「---あぁぁ…♡♡♡」
尾崎さんに抱きしめられて♡だらけになっている
雰囲気だー。
「--僕が、、ゆーたんに憑依して…はぁはぁ…」
紗友里のことをアニメキャラの名前で呼ぶ尾崎さんー
「僕のこと好きって呟き続けたんだぁ…♡
そしたら、ほら、ゆーたんは、僕のものになったんだよぉ」
尾崎さんは、紗友里に憑依して、
紗友里に「好き」だと刻み込んだー
結果ー
紗友里そのものの人格が塗りつぶされて、
紗友里は変わってしまったー
文康が、アパートに来た時には既に、
紗友里は、尾崎さん色に染められていたー
だから、憑依されていない状態でも
紗友里はおかしな態度を取っていたのだったー
「--えへへへへ…ゆーたんは僕のものだ!」
尾崎さんが叫ぶー
「-えへへ…♡ ゆーたん、尾崎さんのものだもん♡」
紗友里が言うー
「--そ、、そんな…」
紗友里の思考そのものが変えられてしまったー
つまり、もう、元にーー
いやー
「紗友里を元に戻せェ!」
文康が、尾崎さんの胸倉を掴むー
紗友里の思考を染めたなら
もう一度、紗友里の思考を戻すことだってー
「きゃああああああああああああ!」
紗友里がわざとらしく悲鳴を上げるー
「-!?」
文康が驚くー
「いいのかな~?ゆーたんが、”襲われたんですぅ”って
叫んだら、どっちが悪者になるのかな~~~???
振られた元婚約者が、襲ってきた!って
ことになっちゃうんじゃないかなぁ~???」
尾崎さんがそう言っている間に、紗友里はアパートの窓を
開けて「きゃああああああああああああ!」とわざとらしく
悲鳴を上げるー
「--おい!」
卓夫は、まずいと感じたのか文康に向かって叫ぶー
文康は放心状態で抜け殻のようになってしまっているー
そんな文康を、卓夫は掴んで、
そのまま手を引っ張るー
紗友里のアパートから”撤退”するふたりー
「はははははは!ゆーたんは僕のものだ!
ははははははは!」
笑う尾崎さん
「うん!わたし、尾崎さんと結婚する~♡
子供もいっぱい作ろうね!」
嬉しそうな紗友里ー
彼らはーー
ほどなくして”結婚”したー
・・・・・・・・・・・・・・・
放心状態の文康ー
卓夫は、そんな文康を慰めたー
あれから2か月ー
文康は、未だ立ち直ることができていないー
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
”奪われる苦しみ”
それを、君も、味わっただろうー?
これは、復讐ー
父である、俺から、娘を奪った貴様に、
俺と同じ苦しみを味合わせるための、復讐ー。
だから俺は、裏社会で憑依薬を手に入れて、
紗友里の隣人のオタク野郎に渡したー
全てはー
俺から娘を奪った、婚約者に復讐するためー
そしてー
俺より、男を選んだ娘に復讐するためー
奪われる苦しみを、文康に味合わせー
父を裏切った罰を、娘に味合わせるー
これが、
俺のー
父としての復讐だー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
婚約者は奪われてしまいました~汗
お読み下さりありがとうございました!!
コメント
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これは沙友里の父親の頭かなりおかしいですな。あと、文康への復讐にはなってるけど、沙友里への罰にははたしてなってるんだろうかと疑問に思いますね。
歪められた形とはいえ相思相愛なら以外と沙友里は普通に幸せなのでは?
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コメントありがとうございます~!
紗友里本人は、確かに今は幸せを感じてますネ~笑
でも、お父さんは自己満足してるみたいです!笑