聡美として生きた5年間。
何を得て、
何を失ったのか。
5年間の憑依生活は、
彼に、何をもたらしたのか…。
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強烈な電流が、聡美の体に流れていくー。
「ああああああああああっ!」
聡美が悲鳴を上げて、白目を剥いて、
その場に倒れる。
あまりの電流に体がピクピクと痙攣している。
「---へっ…へへへ…」
スタンガンで聡美を襲撃した森屋が笑う。
「---お前!」
尚人が森屋を睨むと、森屋は冷や汗を浮かべた。
聡美は痙攣を続けている。
自分たちが、拉致してきた都合上、
このままここにいるのも分が悪い。
「----…ずらかるぞ!」
森屋は、馬堀と和泉田にそう呼びかけると、
そのまま二人と共に走り去って行った。
痙攣が落ち着いた聡美の体を抱きかかえる尚人。
「---白井さん…」
尚人が悲しそうな声で呟くと、
聡美がうつろな目を開いた。
「---……」
聡美は、尚人の方を悲しそうな目で見つめる。
そして、手を伸ばして、尚人の頬を触ると、
呟いた。
「今までありがとう…。」
と。
「--おい、ふざけるなよ!
文化祭の準備、俺にだけ押し付けるつもりかよ!」
尚人は涙を流しながら叫んだ。
「---ーー私は、”本物”じゃないから…」
聡美の体から生気が失われていく。
「--そんなことどうでもいいんだよ!
白井さんは白井さんだろ…!」
尚人がそう言うと、
聡美は「うん…そうだったね…」とつぶやいて、
そのまま力なくぐったりとしてしまう。
「---白井さん!くそっ!」
尚人は、慌てて救急車を呼んだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
救急車の車内。
心肺停止状態の聡美が救急隊員によって
懸命に処置されていた。
聡美はーー
夢を見た。
あたり一面真っ白な世界…。
そこを歩くのは、小学6年生の可愛らしい子ー。
憑依されて全てを奪われたまま時計の止まった
白井聡美 本人だった。
そこに、”今”の聡美がやってくる。
5年前の自分と、
今の自分。
二人は、幻想の中、向かい合う。
「---お姉ちゃん…だれ…?」
小学生の聡美が尋ねる。
「---…5年後の私・・・
なんて、言っても信じてもらえないよね」
高校生の聡美が言うと、
小学生の聡美が首をかしげた。
「私・・・
自分の欲望のために、あなたのからだの奪ったの。
あなたは一瞬のことだったから、
わけもわからないまま、眠りについたと思うけど…
もう、あれから5年が経ったの」
悲しそうな表情で、高校生の聡美は言う。
「---…5年…?
わ、私が…?」
小学生の聡美は、自分の記憶を探る。
ーーもうすぐ冬休み…
いつものような日の帰り道…。
そこで、自分の記憶は途切れていた。
「----」
小学生の聡美が目から涙をこぼして
泣き始めてしまう。
「---…ごめんなさい。
私のせいで、あなたの貴重な5年間を…」
高校生の聡美は悲しそうにその様子を見つめる。
”白かった”世界がーー
だんだんと黒ずんでいく。
高校生の聡美はそれに気づくと、
自虐的にほほ笑む。
「---人助けなんて、初めてかな…」
そう呟くと、
小学生の聡美の方に近づき、
優しく頭を撫でた。
涙で顔を濡らしながら、高校生となった
自分の姿を見る聡美。
「---これからは、自分の人生を生きて…」
高校生の聡美は、そう言うと、
黒く染まり始めた世界を見つめる。
そしてーー、
胸のあたりから白い光を取り出すと、
それを小学生の姿の聡美に優しく放り込んだ。
「----お姉ちゃん…?」
小学生の聡美が首をかしげた。
「--わたしの5年間…。
ううん、あなたの5年間…。
”記憶”でしか返せないけど…
あなたに返すね」
高校生の聡美はそう言ってほほ笑む。
小学生の聡美の中に
”憑依されていた間の5年間”の記憶が
流れ込んだー。
酷いーーー
そうも思った
けれど…
憑依している人の想いも知ることができた。
この人は、とても自分の体を大事にしてくれていた。
そしてーこの数年間、過去の自分と今の自分の間で
とても、とても苦しんだ。
最初は軽い気持ちで女を楽しもうとして憑依したこの人は、
だんだんと考えを変えて行った…。
そして…。
聡美は、憑依されていた5年間のことを
全て理解したー。
気づけば、小学生の姿だった自分が
高校生の姿になっている。
失われた5年がー
やっと戻ってきた。
「---」
聡美は目の前に居たはずのもう一人の自分を見る。
その姿はーー
男の姿に変わっていた。
憑依していた不良…
津川 啓治の姿に。
「---あなたは、どうなるの?」
聡美が尋ねた。
啓治は背を向けたまま言った。
「--最後に、少しぐらい罪滅ぼししようかなって… な」
そう言うと、啓治は、黒い光の方に走って行った。
啓治には分っていた。
森屋のスタンガンで、この子は生死をさまよっている。
ならーー
自分が犠牲になって
この子を助けてあげなくてはならない、と。
「----…ひとつだけ」
啓治が黒い光につつみこまれながら呟いた。
「----え…」
聡美が唖然として、返事をする。
「尚人くん……
あいつのこと……頼むな…」
そう言うと、啓治は光に包まれて消えて行った…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”さようならーー
これからも”私”のことをお願いね”
聡美の声が聞こえた。
「---白井さん…?」
尚人は呟いた。
聡美が病室で意識を取り戻したという報告を
聞いて駆け付けた尚人。
けれど、今のは…。
病室に入ると、
聡美がほほ笑んだ。
「---尚人くん…」
その微笑みはいつも聡美だった。
けれどーー
少し、いつもとは違った。
「---白井さん…良かった」
尚人が聡美の手を握ると、聡美は微笑んだ。
尚人はその聡美の表情を見て悟った。
「---そうか…
逝っちゃったんだな……」
尚人は悲しそうに窓の外を見て
呟いた。
ーーありがとう と。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらくして、聡美は無事に退院した。
風の噂で聞いた話だが、
森屋と、その仲間の不良たちは、あのあと、別の場所で
暴行事件を起こして逮捕されたのだとか。
自業自得だ。
「---文化祭、結局お任せしちゃったね」
聡美が申し訳なさそうに悪戯っぽく笑う。
「いいよ。白井さんだって大変だったんだし」
尚人が笑う。
尚人には分っていた。
聡美は、本来の聡美に戻った。
小学生時代に憑依されたという聡美に。
確かに聡美は聡美ー。
けれど、少しだけ子供っぽくなったような
そんな気がする。
けれど、尚人はそのことを口には
出さなかった。
「---どーしたの!?」
聡美が後ろから大声で呼びかけてきた。
「うわっ!」
尚人が、上の空の状態から現実に引き戻されて
驚きの声をあげた。
「---えへへ!びっくりしたでしょ?」
聡美が笑う。
尚人も苦笑いする。
すると、聡美が突然悲しそうな表情をして言った。
「--わたしのこと…嫌い?」
聡美の言葉に尚人が戸惑う。
「---尚人くんは、もう気づいているよね?
わたし……尚人くんとずっと一緒にいた
わたしじゃない…
わたしの中に居たあの人は…
もう、居なくなっちゃったの…」
悲しそうに言う聡美。
「記憶は、全部、貰ったから、
ちゃんと尚人くんのこともわかるし
勉強もできるし、今までの自分のことも分かる…
でも…
やっぱり…いやだよね」
尚人は「白井さん…」とつぶやいて
聡美の話の続きを聞く。
「--ごめんね…
できるだけ、同じでいようとはしてるんだけど、
やっぱり…違う人間だから…
うん、同じにはなれない」
聡美がそう言い終えると、
「あ、ごめんね、変な話して」
と言って、生徒会室を片づけ始めた。
「---好きだよ」
尚人は呟いた。
聡美が振り返る。
「--あの時言っただろ?
俺にとって白井さんは白井さんだって」
尚人が笑うと、
聡美も、驚いたような表情をして微笑んだ。
「---…そっか…。ありがとう」
そう言うと、聡美は微笑んで生徒会室から
立ち去って行った。
一人残された尚人は窓の外を見つめた。
そして、優しく囁いた。
「---俺、彼女のこと大事にするから…。
心配しないで見ていてくれよ…」
”名前も分らない”その人に対して
尚人は悲しそうに言葉を投げかけたー。
おわり
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コメント
小説とは全く関係のないコメントですが…
首が痛いデス!!!!!!!
コメント
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このサイトでは割りと珍しいホワイトな終わり方…こういったのもいいですねえ
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> このサイトでは割りと珍しいホワイトな終わり方…こういったのもいいですねえ
ありがとうございます^^
ホワイトは…確かに珍しいかもしれませんね!(汗)