<憑依>裏切りの生徒会長③~決意と決別~(完)

聡美として生きた5年間。

何を得て、
何を失ったのか。

5年間の憑依生活は、
彼に、何をもたらしたのか…。

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強烈な電流が、聡美の体に流れていくー。

「ああああああああああっ!」
聡美が悲鳴を上げて、白目を剥いて、
その場に倒れる。

あまりの電流に体がピクピクと痙攣している。

「---へっ…へへへ…」
スタンガンで聡美を襲撃した森屋が笑う。

「---お前!」
尚人が森屋を睨むと、森屋は冷や汗を浮かべた。

聡美は痙攣を続けている。

自分たちが、拉致してきた都合上、
このままここにいるのも分が悪い。

「----…ずらかるぞ!」
森屋は、馬堀と和泉田にそう呼びかけると、
そのまま二人と共に走り去って行った。

痙攣が落ち着いた聡美の体を抱きかかえる尚人。

「---白井さん…」
尚人が悲しそうな声で呟くと、
聡美がうつろな目を開いた。

「---……」
聡美は、尚人の方を悲しそうな目で見つめる。

そして、手を伸ばして、尚人の頬を触ると、
呟いた。

「今までありがとう…。」

と。

「--おい、ふざけるなよ!
 文化祭の準備、俺にだけ押し付けるつもりかよ!」
尚人は涙を流しながら叫んだ。

「---ーー私は、”本物”じゃないから…」
聡美の体から生気が失われていく。

「--そんなことどうでもいいんだよ!
 白井さんは白井さんだろ…!」

尚人がそう言うと、
聡美は「うん…そうだったね…」とつぶやいて、
そのまま力なくぐったりとしてしまう。

「---白井さん!くそっ!」
尚人は、慌てて救急車を呼んだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

救急車の車内。
心肺停止状態の聡美が救急隊員によって
懸命に処置されていた。

聡美はーー
夢を見た。

あたり一面真っ白な世界…。

そこを歩くのは、小学6年生の可愛らしい子ー。

憑依されて全てを奪われたまま時計の止まった
白井聡美 本人だった。

そこに、”今”の聡美がやってくる。

5年前の自分と、
今の自分。

二人は、幻想の中、向かい合う。

「---お姉ちゃん…だれ…?」
小学生の聡美が尋ねる。

「---…5年後の私・・・
 なんて、言っても信じてもらえないよね」
高校生の聡美が言うと、
小学生の聡美が首をかしげた。

「私・・・
 自分の欲望のために、あなたのからだの奪ったの。
 あなたは一瞬のことだったから、
 わけもわからないまま、眠りについたと思うけど…
 もう、あれから5年が経ったの」

悲しそうな表情で、高校生の聡美は言う。

「---…5年…?
 わ、私が…?」

小学生の聡美は、自分の記憶を探る。
ーーもうすぐ冬休み…
いつものような日の帰り道…。

そこで、自分の記憶は途切れていた。

「----」
小学生の聡美が目から涙をこぼして
泣き始めてしまう。

「---…ごめんなさい。
 私のせいで、あなたの貴重な5年間を…」
高校生の聡美は悲しそうにその様子を見つめる。

”白かった”世界がーー
だんだんと黒ずんでいく。

高校生の聡美はそれに気づくと、
自虐的にほほ笑む。

「---人助けなんて、初めてかな…」

そう呟くと、
小学生の聡美の方に近づき、
優しく頭を撫でた。

涙で顔を濡らしながら、高校生となった
自分の姿を見る聡美。

「---これからは、自分の人生を生きて…」

高校生の聡美は、そう言うと、
黒く染まり始めた世界を見つめる。

そしてーー、
胸のあたりから白い光を取り出すと、
それを小学生の姿の聡美に優しく放り込んだ。

「----お姉ちゃん…?」
小学生の聡美が首をかしげた。

「--わたしの5年間…。
 ううん、あなたの5年間…。
 ”記憶”でしか返せないけど…
 あなたに返すね」

高校生の聡美はそう言ってほほ笑む。

小学生の聡美の中に
”憑依されていた間の5年間”の記憶が
流れ込んだー。

酷いーーー
そうも思った

けれど…
憑依している人の想いも知ることができた。

この人は、とても自分の体を大事にしてくれていた。
そしてーこの数年間、過去の自分と今の自分の間で
とても、とても苦しんだ。

最初は軽い気持ちで女を楽しもうとして憑依したこの人は、
だんだんと考えを変えて行った…。
そして…。

聡美は、憑依されていた5年間のことを
全て理解したー。

気づけば、小学生の姿だった自分が
高校生の姿になっている。

失われた5年がー
やっと戻ってきた。

「---」
聡美は目の前に居たはずのもう一人の自分を見る。

その姿はーー
男の姿に変わっていた。

憑依していた不良…
津川 啓治の姿に。

「---あなたは、どうなるの?」
聡美が尋ねた。

啓治は背を向けたまま言った。

「--最後に、少しぐらい罪滅ぼししようかなって… な」

そう言うと、啓治は、黒い光の方に走って行った。

啓治には分っていた。
森屋のスタンガンで、この子は生死をさまよっている。

ならーー
自分が犠牲になって
この子を助けてあげなくてはならない、と。

「----…ひとつだけ」
啓治が黒い光につつみこまれながら呟いた。

「----え…」
聡美が唖然として、返事をする。

「尚人くん……
 あいつのこと……頼むな…」

そう言うと、啓治は光に包まれて消えて行った…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”さようならーー
 これからも”私”のことをお願いね”

聡美の声が聞こえた。

「---白井さん…?」
尚人は呟いた。

聡美が病室で意識を取り戻したという報告を
聞いて駆け付けた尚人。

けれど、今のは…。

病室に入ると、
聡美がほほ笑んだ。

「---尚人くん…」

その微笑みはいつも聡美だった。
けれどーー
少し、いつもとは違った。

「---白井さん…良かった」
尚人が聡美の手を握ると、聡美は微笑んだ。

尚人はその聡美の表情を見て悟った。

「---そうか…
 逝っちゃったんだな……」

尚人は悲しそうに窓の外を見て
呟いた。

ーーありがとう  と。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

しばらくして、聡美は無事に退院した。

風の噂で聞いた話だが、
森屋と、その仲間の不良たちは、あのあと、別の場所で
暴行事件を起こして逮捕されたのだとか。

自業自得だ。

「---文化祭、結局お任せしちゃったね」
聡美が申し訳なさそうに悪戯っぽく笑う。

「いいよ。白井さんだって大変だったんだし」
尚人が笑う。

尚人には分っていた。
聡美は、本来の聡美に戻った。
小学生時代に憑依されたという聡美に。

確かに聡美は聡美ー。
けれど、少しだけ子供っぽくなったような
そんな気がする。

けれど、尚人はそのことを口には
出さなかった。

「---どーしたの!?」
聡美が後ろから大声で呼びかけてきた。

「うわっ!」
尚人が、上の空の状態から現実に引き戻されて
驚きの声をあげた。

「---えへへ!びっくりしたでしょ?」
聡美が笑う。

尚人も苦笑いする。

すると、聡美が突然悲しそうな表情をして言った。

「--わたしのこと…嫌い?」
聡美の言葉に尚人が戸惑う。

「---尚人くんは、もう気づいているよね?
 わたし……尚人くんとずっと一緒にいた
 わたしじゃない…

 わたしの中に居たあの人は…
 もう、居なくなっちゃったの…」

悲しそうに言う聡美。

「記憶は、全部、貰ったから、
 ちゃんと尚人くんのこともわかるし
 勉強もできるし、今までの自分のことも分かる…

 でも…
 やっぱり…いやだよね」

尚人は「白井さん…」とつぶやいて
聡美の話の続きを聞く。

「--ごめんね…
 できるだけ、同じでいようとはしてるんだけど、
 やっぱり…違う人間だから…
 うん、同じにはなれない」

聡美がそう言い終えると、
「あ、ごめんね、変な話して」
と言って、生徒会室を片づけ始めた。

「---好きだよ」
尚人は呟いた。

聡美が振り返る。

「--あの時言っただろ?
 俺にとって白井さんは白井さんだって」

尚人が笑うと、
聡美も、驚いたような表情をして微笑んだ。

「---…そっか…。ありがとう」

そう言うと、聡美は微笑んで生徒会室から
立ち去って行った。

一人残された尚人は窓の外を見つめた。

そして、優しく囁いた。

「---俺、彼女のこと大事にするから…。
 心配しないで見ていてくれよ…」

”名前も分らない”その人に対して
尚人は悲しそうに言葉を投げかけたー。

おわり

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コメント

小説とは全く関係のないコメントですが…

首が痛いデス!!!!!!!

コメント

  1. 匿名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    このサイトでは割りと珍しいホワイトな終わり方…こういったのもいいですねえ

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > このサイトでは割りと珍しいホワイトな終わり方…こういったのもいいですねえ

    ありがとうございます^^
    ホワイトは…確かに珍しいかもしれませんね!(汗)