「お疲れ様!」
生徒会長の白井 聡美(しらい さとみ)が微笑む。
いかにも真面目そうな雰囲気。
けれども、明るく、誰からも慕われている美少女ー。
先生達からも、生徒たちからも愛される存在の彼女ー。
けれど…
彼女には”闇”があった。
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「お疲れ!」
増谷 尚人(ますたに なおと)君…。
私と同じクラスの男子で、生徒会副会長をしている男子生徒だ。
私のことをよく気遣ってくれているし、
何かと助けてくれるとても、信頼できる子だ。
「---今日もちょっと遅くなっちゃったね…」
私は、白井聡美。
まじめ…と自分で言うのも何だけど、
真面目なほうだと思う。
何でも頼りにされちゃって、ちょっと面倒なことも
あるけれど、
それはそれで、充実しているってことなのかな…。
「--いや、大丈夫だよ」
尚人くんが言う。
尚人くんは、たぶん私のことが好きなんだと思う。
”男の子”が、好きな子に対してアプローチを
かけるときの仕草が良く出ている。
私は、スカートを整えながら立ち上がり、
生徒会の話し合いで使っていた部屋の片づけをする。
「---文化祭も近いと、大変だよね…
実行委員の夜神くんは、何もしないし…」
私が愚痴を言うと、
尚人くんも、そうだよなぁ~と愚痴を言う。
尚人くんと居ると、心が温まるー。
私も…尚人君のことがすき・・・。
でも…
「---お疲れ様!また明日ね!」
私が手を振ると、尚人くんは手を挙げて
挨拶をして、校門から立ち去って行った。
「ふぅ…」
私は思わずため息をついた。
あなたの想いには気付いているのー。
けれどー。
けれど私はー。
私は満月を見上げながら思う。
ーー私はーーー
いや…”俺はー”
人と付き合う資格なんてないのだから…
この”からだ”は、
自分の体では無いのだからー。
俺はーー白井聡美なんかじゃないから…
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5年前…
俺は大学を中退して、
高校時代からつるんでいた不良仲間と一緒に
毎日荒れた生活を送っていた。
俺の本当の名前は津川 啓治(つがわ けいじ)
毎日毎日、バイクで爆走したり、
不良と喧嘩をしたり、荒れた日々を送っていたんだ…。
充実しているようで、充実していない日々。
心の奥底の渇きが、悲鳴をあげているー。
そんな時、俺たちはあるものに出会った。
「--すごくね?これ?」
不良仲間で、俺が率いていた不良グループのNo2、
森屋 純太(もりや じゅんた)が言う。
森屋が見せてきたのは、
”憑依薬”と言う人の体を乗っ取れる薬だった。
「--俺さぁ、最近この辺を通学している
小学生ぐらいの女の子とちょっと遊んでみたいんだよねぇ」
森屋の言葉に俺は言った。
「お前、そりゃ犯罪だぞ?」と。
だが、森屋は言う。
「その薬があれば、遊べるんじゃないかってな」
森屋の言葉に、俺もそう思った。
俺は、森屋と相談した結果、
俺がその女の子に憑依して、森屋と遊ぶことに決定した。
他の仲間二人もニヤニヤ笑っている。
オークションで出品されていたその薬を購入した俺は、
後日、届いたその憑依薬を使い、
その子を待った。
「うん、ばいばい!」
小学生高学年と思われるその子はー
とても可愛かった。
そしてーー
「ひっ……えっ…いやっ…」
俺は、容赦なく、その子に憑依した。
「くくくくくく…」
最初に可愛い声が口から出た時は衝撃的だった。
まだ、からだは未発達だったが、俺はランドセルを背負ったまま
アジトの廃工場に向かった。
そこで、俺は嬉々としてスカートをめくり、
森屋にからだを売り渡した。
女の子のからだに憑依して、勝手に…。
そして、俺たちは気づいた。
”元のからだ”が死んでいることに・・・。
「--ど、どういうことだよ!」
俺は女の声で叫ぶ。
そして、慌てて出品者の愛染という男に連絡した。
けれど、愛染は取り合わなかった。
それどころか「僕には憑依薬がある。これ以上、面倒を起こせば、
分かりますよね?」と脅してきやがった。
俺は、どうにもならず、諦めたのだった。
だが、森屋は冷静だった。
「慌てるなよ、津川!
そのからだで生きていけば…
ずっと、俺たちも、お前も遊びたい放題じゃねぇか!」
その言葉を聞いて、俺は笑みを浮かべた。
確かに、そうだ。
その日から俺は、
津川 啓治ではなく、
白井 聡美として生きていくことになったのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あれから5年ー
私は月明かりの下を歩きながら、
毎日下校後に向かう場所…
そう、俺たちの”アジト”に向かう。
ーー5年も女の子をやっていれば…
心も変わる。
もう、女の体を見ても、特に興奮するようなことは
無くなった。
だって、自分のからだなのだから…。
私の体は成長した・・・
とても女らしくなった。
とても美人になった。
もちろん、嬉しいし、可愛いとも思う。
おしゃれに気を遣ったりもする。
けれどー、それは
男としての下心ではなく、
純粋に女の子として、綺麗で居たいと言う渇望。
聡美が優等生だったと知って、
私は、そのまま優等生を演じる決意をした。
中学生になったばかりの頃は
優等生の顔を利用して、裏でいじめをしたりもしていた。
けど…。
優等生として振る舞ううちに、周囲から慕われ
先生からも褒められて…
高校に上がるころには、
それが心地よくなっていた。
それだけじゃない。
悪いことに対して、嫌悪感を抱くようになっていた。
ーー私は、いつもの倉庫についた。
「--よぉ!啓治…いや、聡美ちゃん」
No2の不良、森屋が言う。
やつはまだ、荒れ果てた生活のままだ。
「--遅かったじゃねぇか」
「--いろいろあるんだよ」
私・・・いや、俺はそう言うと、
倉庫内のイスに腰掛けて、タバコを手に取った。
「---ふぅ…」
俺が男言葉で話すのは、今やこいつらと会うこの時間だけ。
他のタイミングでは女の子を演じている。
いやー、逆か?
この時間に”男であった自分”を演じているのかもしれない。
「--見たいだろ?」
俺はそう言うと、スカートをめくりあげて、ほほ笑んだ。
足を妖艶に交差させ、森屋たちを喜ばせる。
「触らせろよ」
森屋が俺の…私の太ももを触る。
最初は気持ちよかった。
けれど、今は嫌悪さえ覚える。
「んあっ…♡」
森屋が胸を触り始める。
私は思わず、声を出してしまう。
「あっ…♡ あっ…♡ あっ…♡
森屋…やめ、、♡ やめろよ♡」
私の言葉に耳もかさず、森屋は私にキスをした。
「ーーくふふ、最高だぜ、
毎日こんなかわいい子でやりたい放題なんてよ」
森屋が落ち着いたのを見て、私は森屋を引きはがした。
「……」
”もう、終わりにしよう”
何度、そう言いたいと思った事か。
けれど、俺はこいつらのリーダーだ。
こいつらを悲しませることは…。
ふと気づくと、森屋が、スカートの中に
手を突っ込んでいた。
「さ、触らないで!」
思わずわたしは叫んでしまった。
「--っ、啓治ィ、つれないなぁ」
がっかりした様子で森屋がつぶやく。
「---悪い。でもよ、今は気分じゃないんだ」
私はそう言い、時計を見て
「そろそろ帰らないと」とつぶやく。
「--最近さぁ」
森屋が背後から声をかけてきた。
「---どんどん、ここにいる時間、短くなってねぇ?
お前、もしかして…」
森屋が金髪を輝かせながら言う。
私は振り向いた。
「何言ってんだよ。ちょっと忙しいだけだよ。
俺は、ここにいるときだけが、”自分”を
さらけだせる唯一の時間だよ。」
そう言って、微笑みかけると、
森屋も「だよな」と言って笑った。
そして、私は倉庫から出て、
自宅へと向かうのだった。
「-----」
私の目からは涙がこぼれていた。
どうしてだろう…。
私は…いや、俺は啓治だ。
優等生なんてバカバカしいと思っていた。
こんな女なんて、おもちゃぐらいにしか
考えていなかった。
でもーー
今は
森屋たちと居る時間が
”苦痛”で仕方がない。
私が、私でいられない唯一の時間ー。
「---5年も女の子やってりゃ…
そうなるさ…」
そう呟いて、月を私は見つめた…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日の夕方。
学校の屋上で一人、街並みを見つめながら
私は思うー。
また、憂鬱な時間がやってくる。 と。
私は、悪い女だー。
生徒会長としてもてはやされている裏で、
不良たちにからだを売り、
時に、盗みをしたこともある。
森屋たちの頼みだからだ。
けれど、学校も、友達も、
誰もわたしを疑ったりしない。
どんなことをしても…
夕日を見つめながら、私は思う。
”この地獄に、終わりはあるのかー”と。
愛染とかいう出品者の憑依薬は
一方通行だった。
もう、このからだから出ることも、
本来の聡美にからだを返すこともできない。
自分勝手なのはわかっているけれど、
私は、聡美として真面目に生きていきたい。
昔、酷いことをたくさんした。
暴力、脅し、犯罪行為まで。
でも、この子に憑依して5年間を過ごして分かった。
ーー真面目にやるっていうのも、悪くない。
「----白井さん?」
振り返ると、そこには副会長の尚人くんが居た。
「---あ、尚人くん…」
私は風でなびく髪を抑えながら、振り返った。
もう、女の子としての基本は全部マスターしている。
「---大丈夫か?」
尚人くんが言う。
「え?」
「--なんか最近、白井さん、思い詰めてるみたいな
雰囲気だからさ」
尚人くんには御見通しみたいだ。
ーー私は、中学時代からずっと尚人くんと一緒だった。
そして高2になってから、
私は尚人くんを異性として意識するようになった。
「---ふふ、ありがとう。大丈夫よ」
私が言うと、
尚人くんは呟いた。
「あまり、思い詰めるなよ…。
中学からの付き合いだし、何か悩みがあったら
力になるから」
私は、尚人くんの方を見て、
微笑んだ。
尚人くんに、もし助けを求めたらどうなるだろうー。
尚人くんはきっと、私を…。
でも…森屋たちの恐ろしさを私はよく知っている。
そしてー、
私の正体がばれたら、
きっと…尚人くんは…。
「--何で、泣いてるんだよ…」
尚人くんが私に触れた。
森屋とは違って、心地の良い感触。
「---え…ご、、ごめん…」
涙が止まらなかったー。
尚人くんの想いは分かっているけれど…
私には答えることができないー。
いや、その視覚がない。
「---泣くなよ」
尚人くんが私の肩に手を置いた。
「---うん、ごめん…
ごめんね…」
私が謝ると、尚人くんは笑った。
「---…話したくないなら、今は話さなくても大丈夫だから…。
俺に言えるようになったら言ってくれよ…
…相談…いつでも受けるから…。」
尚人くんはそう言うと、ほほ笑んで、屋上から降りて行った。
「ごめんね…」
私はそう呟くと、また森屋たちが待つ倉庫に向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「脱いでくれよ」
森屋が言う。
「--ちょ、、それはいくらなんでも」
私が否定の言葉を口にすると、森屋が言った。
「--啓治…お前、本物の女の子みてぇなこと言って
俺をシケさせんなよ。なっ。脱げよ」
森屋が私を睨む。
「・・・・・・・わ、分かったよ」
ブレザーを脱ぎ、その下のボタンを外していく。
「---うっほ!早く脱げ!」
森屋が服に手をかけて、
私の服を脱がせて、続けてスカートまで脱がせた。
恥ずかしい…
前は、喜んで森屋たちに見せていたのに…。
私は顔を赤らめる。
「うらぁ!」
森屋が私を押し倒す。
「…や…やめ…やめて!」
「いいねぇ!そそるねぇ!」
森屋は容赦なく、私の体を乱暴した。
「いやっ…もう充分だろ…!やめ…やめてぇ♡」
わたしは森屋の攻めに、快感を感じて
甘い声で叫んでしまう。
もういやだ…
もう、縁を切りたい…
たすけて…
私は、いつの間にか目から涙を流していた。
「--っと…おいおい、泣くなよ」
森屋が私から離れると、そう呟いた。
「い、、、いや…すまない…
で、、でも、女の子のからだってお前らが思ってる以上に…」
私が息を切らしながら言うと、
森屋は首を振った。
「--なぁ、この際だからはっきりさせておくけどよ」
森屋が私を睨む。
「ーーーお前、生徒会の餓鬼と
”いい感じ”みたいじゃねぇか」
森屋の言葉に私は凍りついた。
「そ、そんなわけ…」
私がそこまで言うと、森屋はわたしのアゴをつかんで
呟いた。
「--啓治ィ…
俺らを裏切らないでくれよぉ。
俺らの頼もしいリーダーなんだからよ…
あんまり、俺らをぞんざいに扱うと…
尚人とか言うあの餓鬼…」
パチン!
私は思わず、森屋をビンタした。
「--てめぇ、誰に向かって口利いてんだ!?あぁ?」
昔の威勢で私・・・いや、俺は叫んだ。
「--誰がNo1で誰がNo2か、忘れたわけじゃないよな?
俺は俺だ!バカにしやがって!
生徒会の餓鬼と俺が仲良く?
どういう目してんだテメェは?あぁ??」
聡美のからだで、俺は叫んだ。
「---す、すまなかったよ」
森屋はそう言うと、大人しくなった。
私はイラついた様子でそのまま倉庫を後にした。
尚人くんに手出しするなんて…絶対に許さない…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
倉庫から聡美が立ち去ったあと、
森屋は一人笑った。
「---ケッ…
女の子っぽくなりやがって…!
憑依しているクズ野郎のクセしてよ」
森屋は、他の二人に耳打ちして微笑む。
「尚人とか言う餓鬼に真実を教えてやるぜ…
なぁ、聡美ちゃんよ…」
森屋は邪悪な笑みを浮かべた…。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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こうなっちゃうと思いませんか?
続きは明日です!
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