夜。
家族豹変の真実を知ろうと、
父はこっそり家へと帰宅した。
2階から響き渡る不気味な物音。
その部屋に向かった父の勲が目にしたものはー?
そして、家族豹変の”狂気の真相”とはー?
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勲は、いつも子供たちに話していた。
”自分の思うがままに生きろー”と。
それが父の口癖だった。
将来の夢の話になると、勲は決まって
娘の紅葉や息子の正之にこう話していた。
父や母の目を気にする必要はない、と。
自分のなりたいものをめざし、
自分の選んだ道を進めーと。
将来の夢を両親が縛るべきではない。
そう考えた父・勲の思いやり。
それが
”自分のおもうがままに生きろ”だった
その、父の想いはー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数時間前
高校の校門脇で、
紅葉の父親・勲から色々問い詰められた、男子生徒・律夫は
溜め息をついた。
最近は、紅葉の様子がおかしい。
いつも明るく元気で優しい紅葉が好きだったのに、
最近は脅迫まがいの言葉まで投げかけてきて、
律夫に行為を求めるようになった。
”家族を滅茶苦茶にする”
そう、脅された律夫は、紅葉に求められるままに
紅葉の欲望を満たすため、行為に及んでいた。
「今のはー?」
背後から、紅葉の親友・花楓が姿を現した。
律夫は
「うん…紅葉ちゃんの親だよ」
と呟く。
「ふぅん…」
花楓は不快そうにそう呟いた。
花楓はーー
律夫のことが好きだった。
だが、最近、豹変した紅葉に、律夫は好き勝手されている。
花楓は、それが我慢ならなかった。
「--お父さんも、紅葉ちゃんが豹変した理由、
分からず困ってたみたいだよ」
律夫が言う。
紅葉が自分から退学届を出してからもう1か月近くなる。
どうして、紅葉はそんなに変わってしまったのだろう。
「…僕、紅葉ちゃんの家に行って、彼女のお父さんも
交えて一回しっかり話し合ってみるよ」
律夫が決意のまなざしで花楓を見る。
「---え?本気で言ってんの?
紅葉ちゃんの家に行くって…?」
花楓が訪ねると、
律夫はうなずいた。
その様子に花楓はため息をついて、
少しだけ笑う。
「分かった…私も紅葉ちゃんが変わっちゃった理由、
知りたいし…一緒に行こう」
花楓が言うと、
律夫が「え?どうして、花楓ちゃんまで?」とうろたえる。
だが、花楓は持ち前の気の強さで強引に、
紅葉の居る井川家へと向かった。
到着した二人は、
呼び出し音を押す。
すると、母親らしき人物が出てきた。
かなり妖艶な格好をしている母親を見て、
律夫は違和感を覚える。
快く招き入れてくれた母親。
律夫と花楓は2階に案内されて
紅葉の部屋に入る。
そこにはーー
”大人のおもちゃ”で一人身悶える
紅葉の姿があった。
「--ちょ、何やってんの!?」
花楓が叫ぶ。
その時ーーーー
背後から”不気味な球体”が花楓の体に
入り込んだ。
「---?」
律夫は突然口を閉ざした花楓に違和感を感じる。
そしてーーーーー
”花楓”は豹変した。
部屋に投げ込まれた鉄パイプを手に、
不気味な笑みを浮かべる花楓。
「---え、ちょ?花楓ちゃ…」
律夫が口を開きかけた時にはーー
もう、手遅れだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして、現在ー。
笑い続ける花楓。
その足元には、変わり果てた姿の律夫ー。
血塗られて笑い続ける花楓は
まさに悪魔のように見えた。
そのわきには、退屈そうな表情で、
様子を冷たい表情で見ている紅葉の姿があった。
「---遅くなるって…言ったよね?」
背後から声がしたー。
勲は驚いて振り返るー。
そこにはーーーー
少女ーーー
いや…”男の娘”になった
息子・正之の姿があった。
「正之ー?」
勲がドキッとして声を出した。
不気味に暗い部屋。
紅葉の机のスタンドしか照明はついておらず、
気味の悪い暗さになっていた。
「急に帰ってくるなんて、ダメじゃん!おとうさん」
正之がほほ笑む。
その仕草や声は、まさに少女そのものー。
「---…わ、わけが分からない。
どういうことなんだ」
勲が言うと、
正之がほほ笑んだ。
「--お父さん、
お姉ちゃんの彼氏に
余計なこと聞きに行ったでしょ?」
正之が言う。
確かに、勲は、娘・紅葉の彼氏である
律夫が、娘たち豹変の元凶だと思い
高校を尋ねた。
だが、今ここに転がっている律夫は
一体…?
ついさっきまで元気だったはず。
「---お父さんのせいで、律夫って子、
お姉ちゃん…紅葉の異変を心配して
家まで訪ねて来ちゃったんだよ」
正之が言う。
勲は、律夫に娘の豹変について問いただした後、
疲れた体をいやすため近くのコーヒーショップで
少し一息ついた。
その間に先に、律夫たちが家を訪ねて来たということか。
「--変に気にされると困るんだよね」
正之が言う。
「だからーーーーー
”二人”には消えてもらっちゃったー」
「二人―?」
勲がその言葉に、悪寒を感じて振り返ると、
そこにはー白目の状態で痙攣している花楓の姿があった。
娘の紅葉が花楓に何か「液体」を無理やり飲ませたようだ。
間もなく、花楓は動かなくなった。
紅葉が笑う
「お父さんが、余計なことするからだよー」
ミニスカート姿の紅葉の歪んだ笑みに
勲は恐怖を感じる。
「お…お前ら…どうしたんだ…
いったい…何なんだこれは???
お前ら…何をしたか、、分かってるのか!」
勲がどなると、
紅葉が首を横に傾けながら微笑んだ
「邪魔者を消しちゃった♪えへ!」
無邪気に笑う紅葉。
「---お前・・・」
勲の理解の範疇を超えている。
意味が分からない。
何なんだこれは…。
「---おい!お前ら!
誰に何をされた!?
お前ら、普通じゃない!!
いったい何があったんだ!!」
勲が叫ぶと、部屋に妻の芳子が入ってきた。
タバコを吸いながら笑う芳子。
「みっともない…
そんなにうろたえて…。
そんな子たち、どうにでもなるわ。
あなたが邪魔しなければね」
タバコの煙を勲に向かって吹きかける芳子。
非喫煙者だった芳子とは思えない。
「---芳子…」
勲が芳子を悔しそうな顔で睨みつける。
「見てよ、父さん…」
正之が口を開いた。
その手には”白く濁った不気味な球体”が握られていた。
「父さんは知らなかったかもしれないけどさ…
僕さ…ずっと”憑依”に興味があったんだよね」
正之が本来の口調で言う。
「--正之?」
勲は他の二人から視線を逸らし、息子の正之の方を見る。
「--毎日のように部屋で隠れて
女の子が憑依される作品を読んだり、見たりしていた。
すっごい興奮したよ!特に、
知ってる女の子が変わっていくサマを間近で見ている
男の方に興奮した!」
正之が狂った笑みを浮かべながら言う。
「--僕さぁ…憑依と女装に興味があったんだよねぇ。。
隠れて結構女装もしてた。
憑依系の作品ももう、何千個と読んだよ。
そして次第に僕は思い始めた。
”姉さん”が憑依されるところを見てみたいーってね」
正之の言葉を
勲は真剣な表情で聞いている。
紅葉の方を振り向くと、紅葉は壁際で足を片方、壁につけた状態で
腕を組んで微笑んでいる。
「---僕はその夢をかなえた。
”憑依されて変わっていく”姉さんを間近で見ることが出来たんだよ!」
「憑依、だと?」
勲が尋ね返すと、
正之は、姉・紅葉の机の上にあったノートパソコンのスイッチを入れて
画面を指さした。
「このサイト…」
そこには、正之が今、手に持っている「白い球体」が写っていた。
”憑依球” 1個5万円。
「僕さ、バイトでお金をためて、それを4個買ったんだ。
1個は、姉さん用。1個は、母さん用、
そして1個は非常用。さっき花楓ちゃんに使ったやつ」
「--これを使ってさぁ…姉さんと母さん、花楓ちゃん、 3人を豹変させたんだよ」
勲はその言葉に正之を睨んだ。
「お前が、、紅葉と芳子を!?」
怒りを露わにする勲。
正之は否定せずに不気味に笑うだけだった。
サイトを見ると
そこには
”憑依された知り合いが変わっていく様を間近で見たいあなたにー”
と書かれていた。
憑依球。
注文時に人格や思想を自分であれこれ設定して注文後、三日ほどで届く
白く濁った不気味な球体。
それを憑依させられた人間は「設定」通りに豹変する。
”身近の人間が憑依されて変わっていく様子を見るのが好き”という
限られた性癖にこたえるために作られた悪魔の産物ー。
「--このサイトで売られている憑依球。
これを対象の人に投げつけて、憑依させると、
徐々に”設定”した内容にしたがって、憑依された子は
変わっていくんだー」
正之が画面を見せる。
憑依球の注文画面。
”オーダーメイド”と書かれており、
その下にはあらゆる設定画面が表示されている。
性格の特徴
性癖
希望する人格・趣味
元の記憶を残すかどうか。
浸食の速さ
ありとあらゆる内容を設定できるようになっていた。
「このサイトでさ…好きなように設定して、
オーダーメイドした憑依球を、”豹変させたい”人間に
投げつければ、憑依完了だよ。
僕はさ…自分で憑依するんじゃなくて、
間近で変わっていく姉さんと母さんが見たかったんだ。
憑依系の作品の醍醐味ってさー、
憑依された子を間近で見る男の方だと思うんだよね」
ペラペラと理想を語る正之。
「姉さんには
”あふれ出る性欲が抑えられない”
”性欲以外のことには無関心”
”心を許した相手以外には反抗的”
”心を許した相手には絶対服従”
”自分の美貌には絶対の自信がある”
”じわじわと時間をかけて浸食”
って設定して注文した「憑依球」を憑依させたんだ」
勲はうろたえながらその言葉を聞く。
「徐々に代わっていって…
徐々にエッチな女になってく姉さん…
最高だったよ…はぁぁぁぁ・・・」
可愛らしい姿の正之が、顔を赤らめて言う。
「うふふ・・・喜んでもらえてうれしい♪」
紅葉が笑う。
「さっきの花楓ちゃんには
”井川家以外の近くの人間をとにかく壊す”
”とにかく笑う” ”影響は速攻で”
って内容で注文した憑依球を憑依させたんだ。
いざというときのために注文しておいたんだよ」
勲が亡骸になった花楓の方を見る。
「---そして母さんにはさぁ…」
正之が、妻の芳子に憑依させた
「憑依球」の内容を語り始めた。
その間に勲は紅葉の方に近づいて
肩をつかんだ。
「おい!紅葉!
しっかりしろ!自分を取り戻せ!」
勲は紅葉に呼びかけた。
「うっさいなぁ、離してよ!」
紅葉が叫ぶ。
勲はそれでも引かなかったー。
「--紅葉!いいのかそんなんで!!!
自分を取り戻せ!!紅葉!」
勲は紅葉の肩をつかみながら必死に叫ぶ。
けれどー
「うっせぇんだよ!」
紅葉がそう叫んで、父親を突き飛ばした。
突き飛ばされた勲は、紅葉を見上げる。
「---も、、、紅葉…」
勲が悲しそうに言うと、
紅葉は自分の胸を揉みながら笑う。
「---私ねぇ、私、、
自分の中からあふれ出る性欲を抑えられなくなっちゃったの!
とにかく、とにかくエッチしてたいの♡
ホラ、見てよ!私の足、こんなに綺麗♡」
紅葉はそう叫ぶと、
自分の服を破り捨てて胸を露出させた。
「うひひ…私の胸…きれい・・・♡」
うっとりとした様子で一人エッチを始める紅葉。
「やめろ!これ以上、自分の体をーーー」
「---無駄だよ」
正之が笑う。
パソコンの画面を指さす正之。
その画面を勲は見る。
そこにはーーー
”憑依球”に憑依された人間は
”元には戻りません”
ご利用の際はご注意ください
と書かれていた。
「な…」
勲は絶望してその場に膝を折る。
背後で紅葉の喘ぐ声が聞こえる。
「---父さん言ったよね?
”自分の思うがままに生きろ”ってー。
これが僕の思うがままだよ。
父さんの教え、僕はちゃんと守った!」
叫ぶようにして言う正之を
勲は殴り倒した。
「バカ野郎!」
壁に叩きつけられる正之。
だが、正之は笑っていた。
「”女装”も”憑依”も手に入れた。
今や姉さんと母さんは僕のいいなり。
母さんは、生活費を稼ぐために風俗で、
姉さんはメイドカフェでバイトしている。
僕はさぁ、この家の王になったんだよ!」
唇から血を流しながら笑う正之。
勲はただその姿を黙って睨みつける。
「これが僕の理想とする”家族”のカタチだよ、父さん。
”ひとりはひとりのために みんなはひとりのために”
その一人っていうのはー僕の事だよ。
うふふふふふ…」
少女の姿をした正之が笑う。
「完璧な女装を手に入れー
憑依された家族を間近で楽しんで
お金にも困らない!
これが理想の家族だよ 父さん!
姉さんの人生とか母さんの人生とか
そんなの関係ない!
”僕が思うがままに生きるため”に
二人には変わってもらったんだよ!
あはははははは!」
笑う正之に
鬼のような形相で殴りかかろうとした勲
しかしーー
「だぁめぇ…♡」
興奮しきって、甘い声を出しながら紅葉が背後から勲を掴んだ。
「あなた、駄目じゃない。
可愛い息子を殴ろうとするなんて」
妻の芳子の勲をつかむ。
「やめろ!離せ!
お前たちは、あの変な球体に憑依されて
操られているんだぞ!!!」
勲がじたばたしながら叫ぶ。
「--うふふ・・・でもお父さん、
思うがままに生きろって言ったよね?
わたし、今、思うがままに生きてるよ」
液体まみれになった紅葉が笑う。
「”みんなはひとりのために”
次は父さんの番だよ」
目の前の少女ー、
正之が笑う。
「---やめろ!離せ!」
勲は必死に暴れた。
正之が”最後の1個の憑依球”を持っている。
「4個買ったうちの一つは、
父さんに憑依させるための憑依球だよ。
”家族のために働く優しいお父さん”
”仕事一筋”
”家族を何よりも愛している”
”でも、家には帰りたくない”
”自分は底辺の生活で、お金は全て家族に仕送り”
そう設定した憑依球だ。
凄いよねぇ、あのサイト。
どんな注文しても三日後には、その内容に設定された
憑依球が届くんだから!」
正之は笑う。
そしてーー
「父さんに、この憑依球を憑依させるよ…」
直後、部屋にー
勲の悲鳴が響き渡った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1週間後。
勲は玄関先に立っていた。
ショートパンツ姿の紅葉と、
網タイツ姿でタバコを手にしている妻の芳子。
そして”男の娘”になった正之が笑っている。
「じゃ、行ってくるよー」
勲は今日から単身赴任だ。
会社に無理やり希望して、
再び海外の方に行くことになった。
「---もう、帰ってこないからな。」
笑顔で勲は言う。
紅葉と芳子も笑いながら
「がんばって、おとうさん」とエールを送る。
勲は嬉しそうに頷いた。
家族のため。
これから自分は一生働き続ける。
収入のほぼすべてを、家族のために送り、
自分は下水でも舐めながら生きていくつもりだ。
全ては家族の為に。
これからの一生を永久に単身赴任で過ごそうと思う。
「じゃ、行ってきます」
勲は微笑んだ。
誇らしげに、家から立ち去っていく勲。
憑依球に憑依された勲は、
その憑依球に設定された思想通りに行動することに
何の違和感も感じなかった。
紅葉と芳子が家の中に戻る。
正之は父の背中を見つめながら呟いた。
「いってらっしゃい 父さん。
”永遠の単身赴任に”ーーー」
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
本人たちは幸せを感じているようですから…
ハッピーエ…いえ、、なんでもありません。
ちなみに、花楓と律夫の件に関しては
別に手配していたとあるモノを使って、
上手くもみ消したようです。
(書くと長くなるのでこの部分は省略しました)
ご覧いただきありがとうございました!
…最後の展開には個人的に
少し心が痛みました(--)
コメント
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まさかの展開に驚きました。
でもお母さんが風俗で働いてるのに、お姉ちゃんがメイドカフェってずいぶん可愛いバイト先で微笑ましかったです。
JKリフレとかでも良かったんでは…笑
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> まさかの展開に驚きました。
> でもお母さんが風俗で働いてるのに、お姉ちゃんがメイドカフェってずいぶん可愛いバイト先で微笑ましかったです。
> JKリフレとかでも良かったんでは…笑
ありがとうございます!
たぶん、正之君の趣味ではないかと思います(他人事 笑)
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まさかの展開!?
予想外だった……
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> まさかの展開!?
> 予想外だった……
永遠の単身赴任に出発です!(鬼)