<他者変身>逃亡者の悪意①~お嬢様~

数々の罪を犯して逃亡中の女ー。

追いつめられた彼女は
裏社会組織から手に入れた”あるもの”を使って
他人を自分の姿に変身させて、
逃亡を図っていくー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

”どうしてこんなことになったのー?”

彼女ー、
花坂 美鈴(はなさか みすず)は、
険しい表情を浮かべながら、
そんな言葉を口にしていたー。

”良い家のお嬢様”として生まれた美鈴ー。

両親からも大切にされて、
自分自身、容姿にも恵まれて、
頭の回転も速くて、何でもできたー。

でもー……
美鈴は歪んでしまったー。

両親があまりにも美鈴のことを大事にするあまり、
両親も無自覚なまま、美鈴のことを”強く”束縛する結果に
なってしまっていたー。

裕福で、自分自身も恵まれているけれど、
自由のない人生ー。

やがて、美鈴はそんな家庭から逃れるためだろうかー。
それとも、日頃から色々なことを”抑えつけられている”
ストレスからだろうかー。

高校生になったころから、男遊びを繰り返すようになり、
やがて、自分自身の美貌を”悪用”することを覚えて、
男を騙して、金品を巻き上げるようなことをし始めたー。

そんなことを繰り返しているうちに、
夜の街で騙した男がー、
”銀狼(ぎんろう)”と呼ばれる荒れくれ者が集まる集団の一員で
あることを知りー、
”俺を騙すとは、やるじゃねぇかー”と気に入られたことで、
その男と組んで、美鈴は悪事を働くようになったー。

お嬢様育ちで自由がなかった美鈴にとっては刺激的で、
本当に楽しい日々だったー。

”悪いこと”だとは分かりつつも、その道に
進んでしまったのはー、
両親の歪んだ過保護な育て方が、
原因の一つであったのかもしれないー。

けれども、もう後戻りはできなかった。
美鈴はー、裏社会にも通じる組織”銀狼”の男、
芹沢 冬也(せりざわ とうや)と男女の関係になって、
悪事の限りを尽くしたー。

しかし、それもずっとは続かなかったー。

”娘が銀狼の男と組んで、悪事を働いている”と聞いた
父・勘之助(かんのすけ)は激怒ー。

美鈴を呼び出して、激しく叱責を始めたー。

「ーーーお前をそんな娘に育てた覚えなんてない!」
勘之助がそう叫ぶと、
母親の和子(かずこ)も、”汚らわしいもの”を見るような目でー、
まるで”汚物”を見るような目で美鈴を見つめたー。

「ーーー……もう2度と、うちから外には出るな」
勘之助はそれだけ言葉を口にすると、
美鈴は、青ざめながら勘之助を見つめたー。

”また”
あの地獄のような日々が始まるー
また、自由のない日々が始まってしまうー。

そう思った時には、身体が自然と動いていたー。

”彼氏”となった銀狼の冬也から受け取っていた
サバイバルナイフを手にすると、
美鈴は声を上げて、勘之助に襲い掛かったー。

「悪魔っ!」
母親の和子がそう叫んだのが聞こえたー。

その言葉に、美鈴は夢中になって周囲の人々を襲ったー。

母の和子も、使用人も、
何人もの命を奪った美鈴は、
その場で笑うと、
そのまま自分の家から姿を消したー。

こうして、”良い家のお嬢様”であった美鈴は
自分の美貌で数々の詐欺行為を働いた挙句、
自分の両親を含む多くの人間の命を奪い、
そして、姿を消したのだったー。

”どうしてこんなことになったの?”と
その時のことを頭の中で回想しながら
歯軋りをする美鈴。

けれども、もう後戻りをすることはできないー。
そして、捕まることもできないー。

”良いところのお嬢様”として
全く自由がないに等しい生活を送って来た美鈴にとって
”自由を失う”ということは何よりも恐ろしくー、
そして”恐怖”だったー。

警察に捕まるわけにはいかないー。

美鈴はそう思いつつ、逃亡を続けていたー。

がーーー

「ーー美鈴ー」

「ーー!!」

美鈴が夜の裏路地に身を潜めていると、
そこに”銀狼”の一員で、美鈴の彼氏でもある冬也が
姿を現したー。

黒い上着に、サングラスをかけた状態の冬也は
周囲を見渡しながら美鈴に近付いてくると、
「ーーー大丈夫かー?」と、美鈴の身を案じる言葉を口にしたー。

「ーー…冬也ー…いっしょに逃げよ…?」
美鈴がそう言葉を口にするも、冬也は「すまねぇ」と、
それだけ呟きながら、
「”銀狼”の仕事もあるし、二人で逃げてれば必ず足がつく」と、
そう言葉を口にすると、
「落ち着くまで、身を隠せー。落ち着いたら俺がお前を迎えに行く」と、
美鈴に対してそう言い放つー。

美鈴はうっとりとした表情を浮かべながら
「本当に?」と、そう言葉を口にすると、
「ー決まってるだろ。俺が愛してるのはお前だけだ」と、
そう言い放ってから、冬也は何かを取り出したー。

「ーーこれを使え」
冬也がそう言うと、”銃”のようなものを美鈴に渡すー。

「ーーえ…」
美鈴は”銃で人を殺せってこと?”と、困惑した表情を浮かべるも、
冬也は「ーーククー、それじゃ、さらに罪が増えちまう」と、
そう言葉を口にしてから
「それは人を殺す道具じゃない」と、そう言葉を続けるー。

「ーそれは”変身銃”ー
 俺たちがある組織の協力を受けて密かに開発中の秘密兵器だ」

冬也のその言葉に、美鈴は「変身…銃?」と、そう言葉を口にするー

「そうー。
 水鉄砲のようなものなんだがー、
 人間の”体液”ー
 唾液でも、なんでもいいー
 それを水代わりに込めて、放つことで
 その姿に変身することができるって代物だー」

冬也はそう言うと、
「ー誰でもいい。誰かの”体液”を手に入れて、
 それを自分に撃てば、お前はその姿から他の人間の姿に変身することができるー。
 そうすりゃ、警察から逃げきることなんて余裕だろ?」と、
変身銃の使い方を説明しながら、
美鈴の方を見つめるー。

美鈴は表情を曇らせたまま
「どうやって、他人の”体液”を手に入れればいいのー?」と、
そう言葉を口にするー。

「ー唾液でも、尿でも、何でもいいー。」
冬也はそう言いながら、
「ー美鈴ー。今まで散々使って来た”美貌”があるだろ?
 それを使えば、手に入れられるはずだー」と、
何とか、自分の身体を使ってでも、他人の体液を手に入れて
それを変身銃に装填、
自分に向かって撃って変身しろ、と、冬也はそう言葉を口にしたー。

美鈴は受け取った”変身銃”を握りしめながら
少しの間、躊躇するような表情を浮かべていたものの、
「うん、分かったー」と、そう言葉を口にする。

冬也は静かに頷くと、
そのまま立ち去って行こうとするー。

そんな冬也に向かって「冬也ー…!」と、美鈴は
そう声を掛けると、
「ーー冬也ー…いつ会える?」と、そう言葉を口にするー。

すると、冬也は鞄から”スマホ”を取り出すと
それを美鈴に渡したー。

「必ず連絡する。
 それまで、変身銃を使って上手く逃げろ」

そう言葉を口にすると、冬也は静かに美鈴を抱きしめてから
「愛してる」と、そう言葉を口にしてキスをする。

美鈴は「わたしもー」と、そう言葉を返すと、
冬也は少しだけ笑みを浮かべてから
周囲を見渡して、裏路地の外に飛び出して行ったー。

「ーーーー」
”変身銃”を見つめる美鈴ー。

美鈴もまた、その場から離れて夜の闇に紛れて
逃亡を始めるのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後ー

美鈴は困惑の表情を浮かべながら
何とか逃亡を続けていたー。

昔から、父・勘之助らによって
自由を縛られていた美鈴は、
よく両親の目を盗んで遊びに行ったりしていて、
喜ぶべきことなのだろうかー。
その”経験”が、今の逃亡生活の役に立っているー。

しかし、あれから数日ー
美鈴はまだ”美鈴自身”の姿のままだったー。

冬也から受け取った変身銃自体は信用はしているー。

ただ、美鈴には”どうしても変身銃を使いたくない”理由があったー。

それはーー…
”他の人の姿になるなんてー わたしはこんなに可愛いのにー”

という、そんな思いだったー。

美鈴はお嬢様育ちである故か、
恵まれた美貌を持つ故か、
自分の美貌に対しては絶対の自信があるー。

特に、家の方針に反発して、
自分の美貌を使って男を騙すようになってからは
尚更その自信がついたー。

どんな男でも、簡単に自分の美貌と振る舞いがあれば
引っ掛かるー。

そんな風に思った彼女は、ますますその自信を
強めて行ったー。

だからこそー…”変身銃”を使うことができなかったー。

一度変身銃を使ってしまったら
”元に戻れるのか”も、自分ではよく分からなかったし、
仮に逃げ切ることができても、変身したまま
生きなくてはいけないとなると、
美鈴には耐えられないー。

「冬也ー……」
大好きな冬也のことを思い出しながら、
冬也から受け取ったスマホを見つめるー。

まだ、冬也からの連絡はないー。

その時だったー。

「ーーん?あれ?あいつ、指名手配されてる女じゃね?」
金髪のチャラい若者がそう言葉を口にしながら
美鈴の方を見つめるー。

「ーー!」
美鈴がビクッとしてその男の方を見ると、
金髪の男の仲間も、「マジだ!」と、そう叫びながら
美鈴の方に向かってくるー。

「ーーー!!!」
美鈴は慌てて路地裏に逃げ込むー。

しかし、その二人組の男は”美鈴ちゃ~ん!出ておいで~!”などと
ふざけた口調で路地内を探し回るー

”イヤだー…
 また、自由を失うのは嫌だー”

美鈴は変身銃を握りしめながら震えるー。

冬也に言われた通り”変身したい相手の体液”が
必要であるものの、まだそれを入手しておらず、
変身銃を使うことはできないー。

しかし、路地裏の一角の行き止まりに隠れている美鈴が
見つかるのは時間の問題ー

”どうしたらー…?どうしたらー…”
パニックに陥る美鈴ー

がーー…
変身銃を見つめていた美鈴は咄嗟に”あること”を思いついたー。

「ーーー」
プライドを捨てて変身銃を手にすると、
”液体”を装填する箇所に、自分の唾液を必死に吐き始めるー。

そしてーー

近付いて来た男たちに、”変身銃”を放つ美鈴ー。

「ーーー!?」
「ーーうわっ!?」

変身銃を撃ち込まれた二人が、
みるみるうちに”美鈴”の姿に変身していくー。

「ーうぉっ!?な、なんだこれ!?」
「ーマ、マジでー!?!?」

二人組の男が、”美鈴”の姿に変身してしまい、
戸惑いの表情を浮かべるー。

その隙に美鈴は、美鈴に変身してしまった
二人組の男を強行突破して、その場を走り抜けるー。

「ーあっ!待て!」
美鈴の声でそう叫ぶ金髪の男ー。

がー、
やがて、大声で美鈴を追いかけて来た二人組の男はー
別の通行人に”逃亡中の女がいる”と通報されてしまいー、
駆け付けて来た警察官に取り押さえられたー。

「ーお、おいっー……く、くそっ!」
”美鈴の姿に変身してしまった仲間”が警察に捕まるのを見て、
金髪の男だった美鈴は、そう舌打ちをすると、
”この姿だと誤解されて捕まる”と、そう理解して
慌てて物陰に身を隠すと、
そのまま走り去っていったー。

「ーおいっ!くそっ!違う!俺はこの女じゃねぇ!!!」
金髪男の仲間の茶髪の男は、
美鈴の姿でそう叫ぶも、
警察官は「お前が花坂 美鈴だってことは分かってるんだー大人しく来い」と
そう言葉を口にして、美鈴に変身してしまった茶髪の男を
連行していくー。

「ーーーーー」
その様子を物陰から見つめていた本物の美鈴は
軽く息を吐き出すと、
「ーすごいー」と、変身銃を見つめるー。

彼氏である銀狼の一員・芹沢 冬也から言われた使い方とは違う
使い方にはなってしまったけれど、
”こんな使い方もできる”と、新たな発見をした美鈴は
笑みを浮かべながら、立ち上がるー。

「ーこれがあれば、わたしー…」
美鈴は”逃げ切れる”と、そう確信すると、
変身銃の弾丸を装填する箇所に唾液を入れ始めるー。

その姿は、とてもお金持ちのお嬢様とは思えぬ姿ー。

けれど、美鈴は逃げきるためにプライドを捨ててそうすると、
そのままゆっくりと夜の闇の中へと消えていくのだったー。

②へ続く

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コメント

”自分が変身する”のではなくて、
”他人を変身させる”ことで逃げ切りを目指すお話ですネ~!!

どんな風になってしまうのかは、次回以降のお楽しみデス~!!

今日もありがとうございました~!☆!

続けて②をみる!

「逃亡者の悪意」目次

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