”容姿”に恵まれずに苦しみ続けて来た男ー。
罪を犯した彼は、”恵まれた容姿”を得た上で
釈放されたー。
新たな人生をスタートさせた彼に待ち受けている
新たな日常とはー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
釈放された大輝は、
”里原 美姫”と名乗り、
刑務所の峯所長が手配してくれたアパートで
暮らし始めたー。
もちろん”引っ越し”するのも自由とのことだったものの、
”住所なし”の状況で、いきなり釈放されても困るだろうー?とのことで、
峯所長は”社会復帰プロジェクト”で釈放される囚人たちには
必ず”家”を手配するようにしていたー。
「ーーーーふぅー昨日は遊びすぎたなー」
乱れ切った格好の美姫が、眠そうに起き上がると、
「シャワーを浴びるかー」と、そう言葉を口にしながら、
シャワーを浴び始めるー。
長い髪に、自分の身体ではあり得なかった胸にー、
そして何よりも、自分とは全く縁がなかった
美人女性の身体を手に入れた現状に、
美姫はシャワーを浴びている最中もずっとゾクゾクしたままだったー。
がー、さすがに夜も朝もHなことをしまくっているわけにはいかないー。
「ーさて、とー。家賃は最初の1ヵ月だけは、
負担してくれるみたいだけど、
その後に備えて、俺も働かないとなー」
そう思いつつ、下着姿のまま美姫が求人情報をネットで確認しようとした
その時だったー。
♪~~~
インターホンが鳴り、下着姿のままであることに「やべっ!」と、
小声で言葉を口にしながら慌てて服を着ると
「ーーはいー」と、そう言葉を口にしたー。
インターホン越しに見えたのは、
眼鏡をかけた大人しそうに見える風貌の女性ー。
大学生かー、社会人になりたてか、そのぐらいの年齢に見えるー。
”あー急にすみませんー。
昨日、引っ越して来た方ですよねー?
わたし、隣の部屋に住んでいる笠島(かさじま)と申しますー”
そんな言葉に、美姫は「ど、どうもー…」と、そう言葉を口にしながら、
”えっ?もしかして昨日の夜、喘いでたの聞こえたとかー?”と、
文句を言われるのではないかと、そんな不安を覚えるー。
しかしー、
隣人を名乗る笠島 麗(かさじま うらら)は、
穏やかな口調で、
”あ、あの、別に変な意味じゃなくて、ご挨拶をーと思ってー”と、
そんな言葉を口にしたー。
”引っ越して来た俺から挨拶するならともかく、
元々住んでた住人があいさつしに来るなんてー”と、
そう苦笑いしながらも、
玄関の方に向かい、顔を合わせるー。
別に、近所の人間と関わりたくない、とか
そういう拘りはないし、
そもそもーー”こんな可愛い子”が相手なら
近所付き合いするのも悪くない、と、そう思いながら
美姫は玄関先から顔を出すー。
「ーーあ、はじめましてー。
わたし、隣の部屋に住む笠島 麗ですー。」
そう言葉を口にしながら、麗は改めて自己紹介をするー。
美姫も「ーー俺ー、あ、いえー、わたしは里原 美姫ですー」と、
そう自己紹介すると、麗は「里原さんですねー」と、そう言葉を口にしながら
穏やかに笑うー。
少し雑談を交わすと、麗は自分自身が、大学生だと説明した上で
「里原さんも、大学生ですかー?」と、そう言葉を口にするー。
「ーーえ…あ~いや、もう若くはないですし、わたしは~」
と、美姫としてそう言いかけると、麗が少し不思議そうな表情を浮かべたー。
「ー?」
美姫も一瞬、表情を曇らせたものの、
すぐに”やべっ…俺、今、”若い”んだー”と、
心の中でそう呟くと、
すぐに「あ、あのー…身体じゃなくて、精神的におばあちゃんになりかけてるんでー」と、
慌ててそう誤魔化したー。
「ーあはは…わたしより若々しく見えますけどー?」
隣人の麗はそう言いながら、苦笑いすると、
それ以上は何も聞いてこなかったー
”いけないいけないー
俺は39だけど、この”皮”は、22だって、所長が言ってたしなー”
改めて、心の中でそう呟く大輝ー。
大輝は39歳であるものの、所長から提供された”里原 美姫”は22歳ー。
自分の年齢のつもりで会話をすると、
どうしても会話がかみ合わなくなるー。
これから先も、色々な人と話をする機会があるだろうから、
気を付けないといけないー。
その後も、お互いに雑談を交わして、ひとまず会話を終えると、
玄関の扉を閉めた美姫は「えへへー」と、笑みを浮かべていたー
「俺が、あんな可愛い子と話ができるなんてーへへー」
美姫は、ついついニヤニヤとしながら、
家の中で下品な笑みを浮かべるー。
容姿に恵まれなかった大輝はー、今まで
麗のような可愛い子とまともに会話が成立したことがなかったー。
大抵の場合”キモい”と思われるかー、
あるいは相手にされないかのどちらかで、
こんな風に仲良く、楽しく話ができるなんて経験は
今までなかったのだー。
もちろん世界中を探せば、大輝の容姿でも
場合によっては仲良くなれる人間はいるはずー。
けれど、大輝は、そういう人とは出会えなかったし、
容姿に恵まれないと、”親しい異性”と出会える確率は、
下がってしまうー。
とー、少なくとも大輝はそう思っていたー。
それが、今はーー
「ーーあ~~…可愛い子と普通に話ができるなんて、夢みたいだー」
美姫は心底嬉しそうにそう呟くー。
そんな、夢みたいな新たな人生を手に入れたのだー。
それを、手放すわけにはいかないー。
「ーーーってー今は俺も”可愛い子”なんだったー」
美姫になった大輝はそう言葉を口にしながら
鏡を見つめると、今一度、嬉しそうに笑みを浮かべたー。
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結局、美姫は”コンビニ”でバイトをすることになったー。
一応”学歴”は、峯所長から聞かされてはいるものの、
高卒が最終学歴で、”何もしていない22歳”の状態から
いきなり正社員就職を目指すのは、ハードルが高かったため、
コンビニでバイトをしながらー、と、美姫は考えたー。
メイドカフェのバイト募集も見つけて、
しばらく悩んでしまったものの、
流石に”まだ”その勇気が持てなかったー。
もう少し”女”になった自分に慣れないと
ドキドキして頭がおかしくなってしまいそうだったー。
”2135年”の現在では
今では”バイト”も人手不足のところが多く、
特に美姫のような”可愛い子”であれば
あっという間に採用されるー。
問題なく、コンビニのバイトに採用されると、
そこの店長も、先輩バイトもみんな美姫に優しくしてくれたー
”はぁー…男もそうなんだろうけど、見た目がいいって
やっぱ得なんだなー
少なくとも、俺みたいな見た目のやつよりはー”
美姫は、そんなことを思いつつ、
中身は”元々は真面目な性格の大輝”ー。
峯所長らが”審査に通った”と判断しただけあって、
美姫の身体を得て、社会復帰を順調に果たしていくー。
社会全体で”人の力”、数自体が足りていない世の中においては、
本来なら刑務所にいるだけだったはずのこういう人材が
社会に出ることはプラスになるー。
それが、社会復帰のシステムだー。
刑務所内でも作業はするー。
けれど、外にいればそれ以上の仕事をする人間も出て来るだろうし、
モノを買ったり、サービスを利用したり、社会は回るー。
刑務所に置いておくよりも税金もかからないし、
こうして、”どのみち自分の人生を送ることができないはずだった人間”を皮にして、
”どのみち刑務所に当面いるはずだった人間”のうち、
美貌を与えれば社会復帰できるであろう人間を解き放つー。
そんな、刑務所の社会復帰システムと
他にも、刑務所以外のところで複数行われている”似たようなシステム”で、
人の数が激減したこの社会は、辛うじて回っていたー。
美姫になった大輝も、
しっかりとコンビニで働き、峯所長らの”期待通り”の動きを見せていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーえ~~?そうなんですか~?」
美姫になってから1ヵ月近くが経過したー。
隣人の女子大生・麗は、何かと親切にしてくれて、
今では休日が合えば、一緒に買い物に行くぐらいの間柄になっていたー。
「ーうんー…あまりー…そのおしゃれとは縁がなかったからー
あまり洋服とかに詳しくなくてー」
美姫が、申し訳なさそうに言うー。
今日は、隣人の麗と一緒に、”服”を選びに来ていたー。
自分でも色々買ったりはしたものの、
元々男で、恋人はおろか異性の友達もおらず、
自分自身もおしゃれに興味がなかった彼からすれば、
”何も分からない”状態だったー。
勿論、”皮”のことも、自分が元男であることも言わずに、
”どんな服を選んだらいいか分からなくて”と、いうようなことを
麗と話している際に少し相談してみたところ、
”じゃあ、今度わたしと一緒に見に行きましょうよ!”と、
そう言われて、今日、こうして一緒に買い物にやってきていたー。
「ーあ!里原さん!これなんかどうですかー?」
「あ!これもかわいい!」
「ーーこれも似合うかも~?」
一人で盛り上がっている麗ー。
一方の美姫は、恥ずかしそうにソワソワした様子を見せているー。
美姫になってから1ヵ月が経過しても、
まだ”自分とは別世界”ーーおしゃれな服や可愛い服の数々が
自分とは縁のないものに見えてしまうー。
せっかく美姫になったのに、
せっかく美貌を手に入れたのに、
今でも落ち着いた服や、控えめの服しか着ることができていないー。
”まぁ、40年近くも”俺”だったわけだしー、
1ヵ月ちょっとじゃ、なかなか気持ちも変わらねぇかー”
大輝は、そう思いながら、美姫になった自分の後頭部に少しだけ手を触れるー。
しかし”皮”とは一体何なのだろうかー。
自分自身、”美姫”の身体を完全に支配していて、
”着ぐるみのような状態の美姫”を着ているという実感はないー。
「ーー里原さん?大丈夫ですかー?」
ふと、隣人の麗の声がしたー
「ーあぁ、はいー大丈夫ー。ごめんねー。」
ちょっと考え事をしてて、と、苦笑いする美姫ー。
そんな美姫に対して、麗は
「これとか、どうですか~?」と、
とても可愛らしい服を指差しながら、嬉しそうに微笑んだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー”彼”の様子はどうかね?」
刑務所の峯所長がそう言葉を口にすると、
側近の女性は「はいー。現在、オールクリーンです。問題ありません」と、
そう言葉を口にするー。
「なら結構ー。」
満足そうに頷く峯所長ー。
大体、10人に1人~2人ーー。
”人を皮にする力”を使い、釈放した人間のうち、
”タブー”を破る人間の割合だー。
”タブー”を破った人間はーーー
「ーー彼が、そうでないことを祈るよー。」
峯所長はそう言葉を口にすると、不気味な笑みを浮かべるー。
”君達のことは、ちゃんと管理しているからねー”
峯所長は心の中でそう呟くと、静かにモニターの方に視線を移したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ありがとうございました~!」
今日もコンビニで働く美姫ー。
美姫になってから、自分が前よりも明るくなったー
そんな、気がするー。
店長からも、先輩からも気に入られて、
可愛がられているー。
”へへー今の俺はやっぱ、可愛いんだなー”
先日、隣人の麗との買い物で、
可愛い服もいっぱい買うことができたー。
今日も、帰ったら、
色々ファッションショーを楽しもうかと、
そんなことを考えながら仕事を続けるー。
がー
その時だったー
「ーーいらっしゃいまーー」
美姫がコンビニに入って来た”客”に対して
そう言葉を口にしかけて、言葉を止めたー。
「ーーーーー…!」
美姫が険しい表情を浮かべるー。
コンビニに入って来たスーツ姿の客ー。
それはーー
”理不尽な理由で解雇”された会社時代の上司の男だったー。
元から、大輝の容姿を馬鹿にするようなことばっかり言っていて、
最後には自分のミスを大輝に全部押し付けて、
大輝を懲戒解雇に追い込んだ男だー。
宇野 武昭(うの たけあき)ー
忘れもしない、その男の姿を見て、美姫はみるみるうちに
憎しみの表情を浮かべるー。
「ーどうしたのー?」
そんな、怖い顔をしている美姫に気付いて、
先輩の店員がそう言葉を口にすると、
美姫は咄嗟に笑顔を振りまいて
「い、いえーなんでもありませんー」と、そう言葉を口にするー。
”大輝の人生の転落”
そのうちの一角を担った人物との思わぬ再会を前に、
美姫を乗っ取った大輝は、再び怒りを燃やし始めるのだったー。
③へ続く
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コメント
今日は花粉ダメージを
受けているのデス…★!
皆様は大丈夫ですか~?★
明日の最終回もぜひ楽しんでくださいネ~~!!
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