<皮>人生をやり直すチャンス①~釈放~

その世界では、容姿に恵まれずに
道を踏み外した者に
”恵まれた容姿”を持つ皮を与えて、釈放ー、
その人間の更生を促していたー。

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「ーーーー」
田宮 大輝(たみや だいき)は、
刑務所内で、所長から呼び出しを受けたー。

普段の”刑務所での生活”とは、違う動きに
大輝は”俺、何かしたかー?”と、困惑の表情を浮かべたー。

彼はー、30代後半の”服役囚”だー。
小さい頃から容姿に恵まれず、散々イジメを受けた末に
社会人になってからも、理不尽な理由で解雇され、
フリーターとして職を転々とした上に、
親の介護も重なり、自分自身も過労で倒れてしまったー。

それでも、何とか復活して、フリーターとして仕事をしつつ、
食いつないでいたものの、
バイト先の一つで、クレーマー客から「ー腐った顔のクズ野郎」などと
辛辣な言葉を投げかけられて逆上ー、
客をその場で殴りつけて、命を奪ってしまった罪で
服役していたー。

その彼が服役を始めてから数か月が経過した今日ー、
”所長”から呼び出されていたー。

「ーーお話とは、何でしょうかー…?」
大輝が不安そうな表情を浮かべながら、そう言葉を口にするー。

人の命を奪ってしまったものの、
本質的には真面目で、大人しい性格の彼は、
刑務所内でも、模範的な姿勢を繰り返しているー。

「ーーまぁ、そう緊張するなー
 座りたまえ」

年老いてはいるものの、鋭い目つきの所長ー…
峯(みね)が、そう言葉を口にすると、
緊張した様子で、大輝は促されるままにイスに着席したー。

部屋の中には、峯所長と、峯所長が座る椅子の横に、
側近らしき綺麗な女性が立っているー。

緊張した様子を浮かべる大輝ー。

すると、峯所長が口を開くー。

「君に、”人生をやり直すチャンス”を与えようー」
とー。

「そ、それは、どういう意味ですかー?」
大輝がそう聞き返すと、
「ー新しい人生を君に与えるということだよー」と、
峯所長はそう言葉を口にしたー。

ゴクリ、と唾を飲み込むー。
返事になっていないー。

その”新しい人生”とは何かを聞いたのに、
峯所長は周りくどい答えをしたー。

一体、何が目的なのだろうかー。

そう思っていると、峯所長は
「君の人生を、調べさせてもらったよー」と、そう言葉を口にして、
ゆっくりと部屋の中を歩き始めるー。

「君は、真面目に頑張って来たー。
 だが、容姿ー。そう、見た目に恵まれなかったー。
 学生時代も、社会人になってからも、見た目が原因でいじめを受けたそうだなー。

 そして、殺人の罪も、その見た目が原因だー。
 君の人生は、見た目に引っ張られているー。」

峯所長はそう言うと、
大輝は自虐的に笑うー。

「ーこの世は、しょせん、顔ですからー。
 いえー、それが全てではないとは分かってますー

 ただ、”一定の水準”を下回った人間には冷たいー。
 そういう世界ですからー」

諦めにも似た笑みを浮かべながら大輝が言うー。

「ーーそう。それがこの世の中だー
 綺麗事を言っても、それが現実ー」
峯所長はそう言うと、
「だがねー。もしも、君が”美貌”を手に入れられるとしたらー、
 どうかねー?」
と、そんな言葉を続けたー

「ーーーーーははー
 俺が美貌を手に入れるなんてことはあり得ませんよー。
 もう、学生の頃に俺は諦めましたー。
 容姿のことは、ねー」

大輝は自虐的にこれまでの人生を振り返りながら
そう言葉を口にすると、
「ーー君は”社会復帰プロジェクト”の審査に通ったー」
と、峯所長はそう言うと、
「例のものを持ってきたまえ」と、隣にいた側近らしき女性に
そう言葉を口にしたー。

「はいー」
女性はそう言葉を口にすると、奥の部屋から
何かを持ってきて、それを机の上に置いたー。

「ーーこ、これは何ですかー?」
大輝が戸惑いながら言葉を口にするー。

そこに置かれたのは、
”妙にリアルな”人間らしき姿が描かれた”着ぐるみ”のようなものだったー。

「ーー”皮”だよー」
峯所長は淡々と言葉を口にするー。

「ー公にはなっていない特殊な技術で、”人間”を皮にしたものでねー。
 それを”着る”ことで、君はその人間そのものになれるー。

 見たまえーー。
 皮になっていても分かるだろうー?
 ”美貌”の持ち主であることがー」

峯所長は、”美しい”と、そう言葉を口にしながら
”皮”を見つめると、
「これを着れば、長く君を苦しめて来た”容姿”という名の呪縛から
 君は解き放たれることができるー。
 美しい容姿を手に入れた君は、社会で輝き、活躍するだろうー」
と、酔いしれるようにして、説明を続けたー。

「ーーー…そ、それは、どういうー?」
大輝は、”所長の言っていることの意味”が分からず戸惑うー。

しかし、峯所長はそれ以上は口頭では説明しなかったー。

「ー説明するよりも、着て見た方が早いだろうー。
 着てみたまえ」

峯所長にそう言われた大輝は、ゴクリと”皮”を見つめるー。

「ーさぁ、どうぞー」
側近の女が、笑みを浮かべながら、”皮”を大樹に渡すー。

「ーーーーー」
戸惑いの表情を浮かべながらも、大輝は意を決して
手渡された”女”の着ぐるみのようなー、そんな皮を身に着けるー。

やがてー、その”皮”をほとんど着終えると、
「こ、これはーーえっ?」と、外も見えずに困惑するー。

「ーー安心したまえ。”閉じれば”その身体は君のものだー」
峯所長がそう言うと、側近の女が頷いてから、
大輝が身に着けている女の皮の背面にあるチャックを手に、
それをゆっくりと上げて、皮を完全に身につけさせたー

するとーー
突然、身体の感覚が変化していきー、
皮を着ている息苦しさが無くなりー、視界が回復するー。

さらには、”皮を着ている”ではなく、
”その人間そのもの”のような感触を覚えて、
大輝は驚いて「こ、これはー!?」と、そう声を発したー。

「ーーー!?!?!?!」
声を発すると同時に、さらに驚きの表情を浮かべる大輝ー。

それもそのはず、大輝の口から
”女の声”が出たのだー。

「ーーー…い、いったいどうなってー…?」
今までの自分の声とはまるで違う、綺麗な声でそう言葉を口にすると、
峯所長は、側近の女に鏡を用意させて、それを大樹の前に持って来たー。

「ーー里原 美姫(さとはら みき)ー
 それが、君の新しい名前であり、新しい身体だー」
峯所長がそう言い放つー。

鏡で自分の姿を見つめながら、美姫となった大輝は
「ーこ、これが、俺ーですか…?」と、
戸惑いながら自分の顔に手を触れるー。

鏡に映る、”自分とは全く縁がなかったであろう美人”が、
自分と同じ動きをしているのを見て、美姫は不思議そうな表情を浮かべるー。

すると、峯所長が笑みを浮かべながら言った

「これまでの人生、犯した罪、その後の態度ー
 それらを全て審査にかけて、
 君であれば”社会復帰”できるとー、そう判断したー

 今日から君は自由だー」

峯所長がそう言うと、
美姫となった大輝は戸惑いながら
「えっ…も、もう、釈放されるってことですかー?」と、
そう言葉を口にするー。

「ーあぁ。その通りだ。
 ただ、”タブー”がいくつかあってねー
 それだけは、守ってもらいたいー。

 その約束さえ守れば
 君は自由だし、その美しい身体でこの先の人生を
 楽しむことができる、ということだー」

峯所長がそう言うと、
美姫は少しだけ不安そうな表情を浮かべながら
「ー”タブー”とはー?」と、確認するー。

「ふむ。難しいことではないー。
 ”広めない” ”詮索しない” ”再犯しない”
 この3つだけ、守って貰えればいいー」

峯所長はそう言うと「簡単だろう?」と、笑みを浮かべるー。

”広めない”ー
この技術は特殊な技術で、世間一般には明かしていないー。
よって、この力のことを誰かに説明してはならないー
あくまでも、この先は”里原 美姫”として生きてもらうー。

”詮索しない”
技術や目的などの詮索はしないことー

”再犯しない”
再度罪を犯して刑務所に戻ってこないことー

その3つの”タブー”を説明する峯所長。

「ーーこれさえ守れば、君は自由を手にし、
 しかもその美貌を好きに使ってもらって構わないー。

 容姿のことで長年苦労してきた君だー。
 夢のような話じゃないかー」

峯所長がそう言うと、美姫となった大輝は
部屋に設置された鏡で自分の姿を見つめながら
嬉しそうに微笑むー。

「ーー…ーた、確かにーす、すごいー…
 夢みたいですー」
自分の”姿”だけではなく、”声”にも感動を覚えながら
目を輝かせてそう言葉を口にする美姫ー。

「ーで、でも、これって一体どうやってー…?
 さ、里原 美姫ってー?」

美姫が、峯所長を見つめながらそう言うと、
峯所長は鋭い目つきで美姫を見つめ返して、
言葉を口にしたー。

「ー”詮索”しないー」
とー。

「ーー!」
今、言われたばかりの3つの禁止事項を早速破りかけてしまったー。

そのことにハッとして、美姫は
「ーす、すみませんー大変失礼しました」と、
ぺこりと頭を下げると、
峯所長は「分かればいいー」と、笑顔を浮かべるー。

「ー広めて貰っては困るが、
 もちろんこれは”国”としてのプロジェクトだー。
 心配はいらないー。
 いち刑務所が、勝手に囚人を釈放などすれば
 すぐにばれるし、問題にならないということはー…
 …ちゃんと、正式に認可されているものだということは分かるだろう?

 ただー、この技術が世間の明るみに出れば、
 混乱が起きるし、他の服役囚たちも”どうしてアイツだけ”と
 なってしまうー。

 だから、不要な混乱を避けるために、
 詮索も、広めることもしてはならないー。

 ーー分かるね?」

峯所長がそう言うと、側近らしき女性も
「ーー”タブー”にはくれぐれも気を付けて下さい」と、
そう言葉を口にするー。

「ーー分かりましたー約束は守ります」
美姫になった大輝はそう言い放つと、
峯所長は「よろしい」と、満足そうに頷いてから、
「これで、君も今日から自由だ」と、そう言葉を口にするー。

「君は、人生をやり直す最大のチャンスを手に入れたー。
 身分証明書の類も、今、この者に用意させるー。
 君はそれを使って、自由に働いてもらって構わないー。

 そうそうー、仕事に困ったら
 私に連絡してきなさい。
 仕事を用意することもできるー。

 もちろん、自分で好きな仕事をしてもらっても構わないし、
 好きなようにしたまえー」

峯所長はそこまで言うと
説明を終えて、静かに椅子に座るー。

”美姫”となった大輝は、この日ー、自由を得たー。
一通り手続きを終えて”美姫”としての身分証明書を受け取り、
そのまま外に向かって歩き出すー。

「ーーーー…すごいー」
自分の綺麗な手を見つめながら微笑む美姫ー。

この日、大輝は自由を手に入れ、
そして、美貌を手に入れたー。

所長が用意してくれたアパートの一室にやってくると、
「ー俺はー…俺はもう、誰にも馬鹿にされないー」と、
嬉しそうに笑うー。

あまりの嬉しさに、その場で胸を揉み始めると、
その日は夢中になって”美姫”の身体を堪能したー。

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”社会復帰プロジェクト”

そう書かれた書類に目を通す峯所長ー。

「ーーそれだけ、切羽詰まっているということだなー」
峯所長がそう呟きながら
見つめている書類には、”2135”と、書かれていたー。

そう、今は2135年ー。
人口の現象が進み、この時代では社会のあらゆる機能の維持が
難しくなりつつあったー。

そこで、2100年頃から導入されたのが
”社会復帰プロジェクト”

秘密裏に開発された人を皮にする力で、
犯罪者の一部、病気でもう助からない人間、
自ら命を絶とうとしている人間のうち、
容姿に恵まれた人間を”回収”し、
それを、服役中の犯罪者ー、
主に容姿など、恵まれない人生を送った者で、
罪を犯すまでの人生、服役中の態度などを
総合的に考慮し、”審査”に通った者に対し、
”容姿に恵まれた皮”を提供し、社会復帰を促すー。

それにより、本来は刑務所にいるだけだったはずの人間を
”社会”に解き放ち、労働力を確保するー。

それが、2135年の秘密裏に行われている社会復帰プロジェクトー。

「ー”君”も、そうだったなー」
峯所長が側近の女性にそう言葉を口にするとー、
「ーもう、5年になりますー」と、”皮”を着てからの年数を口にするー。

「はは、いつも助かってるよ」
峯所長はそれだけ言うと、窓の外を見つめながら
静かに言葉を口にするー。

「ーさて、彼はどのように役に立ってくれるかなー」
釈放した”大輝”のことを思い出しながら、
そう言葉を口にした峯所長は、少しだけ不気味な笑みを浮かべたー。

②へ続く

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コメント

”皮”で、
人生をやり直すチャンス…★!

釈放された彼が、どんな風に過ごしていくのかは、
②以降のお楽しみデス~!!

今日もありがとうございました~~!

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