<MC>表情を操る男

彼には”他人の表情”だけを操る力があったー。

他人の身体を自由に操ったり、
意思を完全に支配するようなことまではできないものの、
限定的な”操る”力で、彼は人々を困惑させていたー。

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湯沢 明弘(ゆざわ あきひろ)ー
彼は、他人の表情を操る力を持っていたー。

何故、そんな力を使うことができるのかは、
自分でも分からないー。

しかし、相手を念じながら見つめることで
”その表情”を操ることができるのだー。

以前、妹の美優(みゆ)と喧嘩して、
美優の”罠”で自分だけが悪者扱いされた際に、
”何ニヤニヤしてんだよ”と、心の中で強い不満を感じながら
美優を怒りの形相で睨みつけていたところ、
美優も同じ表情をしたことで、その力に気付いたのだー。

相手に対して念じながら自分が特定の表情を浮かべることで、
その相手にも”同じ表情”をさせることができるー。

そんな力に、彼は気づいたのだー。

「ーーーーーー」
高校の教室にやってきた明弘は、
最近、いつも教室でイチャイチャしているカップルの方を
さりげなく見つめるー。

”あいつらー、いつもイチャイチャしててムカつくよなー”
そう思った明弘は、ふと、そのカップルの”彼女”の方を
見つめると、そのまま怒りの形相を浮かべたー。

「ーえ~、でも、それってさ~」
何も気づかずに、彼氏と会話を続けるクラスメイトの女子ー。

がー、その彼氏が、彼女の睨むような怒った顔に気付いて、
「えっー…あ、ご、ごめんー」と、慌てて言葉を口にするー。

彼女はーー…
明弘の力によって、表情を操られて無意識のうちに
怒りの形相を浮かべていたのだー。

「ーーえっ…ご、ごめんって何がー?」
しかし、表情を操られている本人に、その自覚はなく
彼氏が突然謝罪を始めたことに戸惑いの言葉を口にするー。

がーーその顔はさっきよりもさらに怒りに満ちていて、
皺が寄ってしまいそうなほどに彼女は怒りの形相で
彼氏を見ているー。

「ーーご、ごめんってばー…」
戸惑う彼氏ー。

そんな様子を見つめながら明弘は笑みを浮かべると、
彼女の方を見つめながら、さらに怒り狂ったような表情を浮かべるー。

「ね…ねぇ、急にどうしたのー?
 わたし、何も謝られるようなこと、されてないけどー?」
戸惑う彼女ー。
しかし、そんな言葉とはまるで違う、
ブチギレな表情を浮かべている彼女を前に、
彼氏は必死に謝り続けるー。

”へへへー馬鹿な奴らー”
明弘はそう思いつつ、さらに彼氏の方を見つめると、
”相手を馬鹿にするような表情”を浮かべるー。

「ごめんってばー」
彼女の怒りの形相を前に、戸惑う彼氏ー。

が、明弘によって、彼女に続いて表情を操られてしまった彼は
彼女を馬鹿にするような表情を浮かべながら
「ーー本当にごめんー」と、そう言葉を口にするー。

その結果ー、
彼女の方は、自分が表情を操られて怒りの表情を浮かべていたことも知らずに、
さっきから”意味不明な謝罪を続ける”彼氏が、変顔をしたことで
”揶揄われている”と思ったのか、
「ちょっと?どういうことー?何なのー?」と、今度は
本当に不快そうな表情を”自分の意思”で浮かべるー。

「ーーえっ…だ、だから、ごめんってばー」
彼氏はそう言いながらも、明弘のターゲットにされて、
変顔をしながら、言葉を続けるー。

本人に自覚がないからか、本人は本気で謝っているつもりだー。

やがて、不穏な空気になって、二人はそのまま自分の座席に戻るー。
そんな様子を見つめながら明弘はニヤッと笑うと、
”ホントは、アニメとかみたいに身体ごと操ることができればいいんだけどなー”と、
そう思いつつも”まァ、表情を操れるだけでも色々使い道はあるからなぁ”と、
そんなことを心の中で呟くー。

昼休みになると、明弘は
クラスメイトの璃々(りり)という子を遠くから見つめるー。

璃々は、明弘が一方的に片思いしている女子でー、
大人しい雰囲気の子だー。
いつも、ほとんど表情を変えずに、物静かな雰囲気を
醸し出しているー。

しかしー、そんな子が相手であってもー、
明弘はその表情を操ることができるー。

遠目から、怒った表情や、悲しそうな表情を浮かべつつ、
璃々の方を見つめると、
璃々も、明弘と同じ表情を浮かべるー。

璃々の怒った顔ー、
璃々の悲しそうな顔ー、
璃々の邪悪な笑顔ー、
璃々の下心丸出しの顔ー。

色々な顔を見ることができて、
明弘は満足そうに笑みを浮かべるー。

”へへへーあんな顔もできるんだなー”
ゾクゾクしながら、ニヤニヤしていると、
璃々もその表情を浮かべてしまい、
”おっといけないいけないー”と、
念じるのをやめて、そのまま前を向くー。

この力があれば、できることは限られていても
色々な応用ができるー。

さっきのカップルはまだ、仲直りできていない様子を見せているしー、
好きな子の色々な感情を見ることだってできるー。

色々と”使い道”があるこの力に、
明弘は日々感謝をしていたー。

それにーーー

5時間目の授業が始まり、英語の先生がやって来るー。

英語の先生はいつもネチネチと嫌味を言ったりしてくるタイプの
女性教師で、明弘はあまり好きではなかったー。

そんな先生に対しても”力”を使う明弘ー。

先生に”変顔”をさせて、生徒たちを笑わせるー。

先生に”慈愛に満ちた微笑み”を浮かべさせて、
生徒たちを困惑させるー。

生徒たちの反応を見て、英語の先生自身も
「ちょっとー…?どうかした?」と、戸惑っているー。

が、今度は急に無表情にさせると、
生徒たちはその様子に、更なる戸惑いを見せるー。

”へへーいい気味だぜ”
明弘は内心でそんな風に思いつつ授業を受けていくと、
今日も満足そうに学校での1日を終えたー。

そして、帰宅した明弘は
妹の美優と目が遭ったー。

美優と明弘の関係は、正直”悪い”ー
美優が不満そうな表情を浮かべると、
明弘は「”変顔”させられたくなかったら、悪口は言うなよ?」と、
ニヤニヤしながら言うー。

美優は、明弘の”力”を知っているー。

別にバラすつもりはなかったのだが、
最初に”美優”と喧嘩した際にその力に気付いたこともあって、
まだ自分自身も未熟だったために、その場で言ってしまったのだー。

そのため、美優だけは、兄・明弘の力を知っているー。
と、言っても両親はそんなこと信じていないしー、
美優本人が”わたしの兄は、人の表情を操ることができるの!”なんて
周囲に言いふらしたところで、誰も信じないだろうし
無駄なことだー。

「ーーーやめてよーわたしに変顔させないでー」
美優が不満そうにしながらも、変顔をさせられることを
恐れてか、それだけ言うと足早に立ち去っていくー。

「へへー…やっぱ”この力”は最高だー」
ニヤニヤとする明弘ー。
この力がもしもなければ、今頃は妹の美優に
ただ一方的に嫌われて、どうすることもできずに
その状態で過ごすしかなかっただろうー。

しかし、この力があれば”お前に変顔をさせてやるぞ”と、
そう脅すことによって、相手との”交渉”のカードにできるのだー。

明弘は”何でこんな力があるのかは分からないけどー”と、思いつつも
最高の力を授かったことに、喜びを覚えるのだったー。

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その後も、”力”を使って
気に入らない相手がいれば、変顔をさせたり、
好きな子には色々な表情をさせたりしながら、
自分の欲求を満たしたー。

結局、好きだった璃々とは付き合うことができないままに
高校を卒業することにはなったけれど、
色々な表情を見ることができたし、
どうせ、告白したところで結果は失敗に終わることは
彼自身、目に見えていたために
最後まで告白することはなく、高校生活を終えたー。

そして、大学生になってからも、
その力を使い、気に入らないやつには恥をかかせて、
好きな子には、その力を使って
”普段は見せてくれないであろう表情”をさせて、
愉悦に浸る日々を送っていたー。

「へへへへーあの教授の顔、最高だったなー」
明弘の友人が笑みを浮かべながら言うー。

明弘は笑いながら「はははー、だよなー」と
そんな言葉を口にするー。

いつも学生を見下したような態度を取っている教授に
”表情を操る力”を使って、
講義中に変顔の数々をさせたのだー。

その結果、普段の態度からは一転して
顔を真っ赤にして、何やら喚いていたー。

あの顔は忘れられないー。

「ーまるで何かに操られているようだったよな~へへ」
明弘の友達は笑いながら、そんな冗談めいた言葉を口にするー。

その言葉に少しだけギクッとしながらも、
「はははー表情を操るなんてこと、できるわけないだろー」と、
明弘はそう言葉を返すー。

「ーーははは だよなー」

そうー
誰も明弘が”相手の表情を操っている”なんて思わないー。

相手の表情を操るためには、
”相手にさせたい表情を浮かべながら”
対象の相手を見つめる必要があるー。

ただー
明弘は自分が相手を操っていることを
カモフラージュするために、マスクをしていることがほとんどで、
そのため、”表情を操られている”相手が明弘のことを見たとしても、
明弘が”変な顔”をしているとまではなかなか気付けないのだー。

「ーーーへへへー
 小さな力だけど、使い道は無限大だぜー」
明弘はそう呟くと、ふと、大学内でも1、2を争う美人だと
言われている女子が、友達と話しているのを見て
ニヤッと笑うー。

遠くからその子を見つめつつ、急に怒った表情や、
人を馬鹿にするような表情を浮かべてみせるー。

すると、その子も、友達の前で急に
怒ったような表情を浮かべたり、
人を馬鹿にするような表情を浮かべてー、
周囲を驚かせるー。

「ーーへへへ」
笑みを浮かべる明弘ー。

明弘はこの”力”で、自分の人生に少しだけ彩を添えたりー、
少しだけ他の人を傷つけたりしながら、
欲望の日々を送っていくー。

やがて、大学を卒業ー。
就職活動では、他の就活生の面接の際に
”表情を操る力”を使って、面接でライバルを蹴落としたー。

さらには、就職後もライバルに変顔をさせたりー、
その力で相手の弱みを握ったりー、
社会人になってからも、その力で好きな相手の
表情を意のままに変えて楽しんだりー、
そんな使い方も繰り返したー。

欲望のためなら、何でもするー。

これまでもー、
そして、これからもー。

そうしていくうちに、明弘は
いつしか40代になったー。

妹の美優もいつしか結婚して、
兄の明弘とは疎遠になりー、
明弘は未だに独身であったものの、
”表情を操る力”を使って、それなりに楽しい人生を送っていたー。

だがーー
彼は”成長”しなかったー。

身体は成長してー、
既に老化が始まって、すっかり”おじさん”になったものの、
精神年齢は、まるで変わっていなかったー。

子供の頃のままー。

元々の彼の性格だろうかー。
それとも、人にはない力を持っているが故に、
精神的な成長をすることができなかったのだろうかー。

それは、分からないー。

40代になった明弘は、今日も
女子高生の方を見つめながら、
”表情”を操って楽しんでいたー。

友達と楽しそうに話をしている子に怒った顔をさせて、
”喧嘩”を発生させるー。

物静かな可愛らしい子に”変顔”をさせて楽しむー

しかしーー

「ーー!?」
明弘が背後から肩を叩かれて振り返ると、
そこには警察官の姿があったー。

「ーー君、以前からここで高校生たちを
 見つめているようだがー、何をしているんだ?」

「ーーえっ、いや、あのー」
明弘は表情を歪めるー。

「ーーた、ただJKを見つめていただけでー」
明弘は困ったような表情で、まるで言い訳になっていない
そんな言葉を口にすると、
警察官は呆然としながら、「話は署で聞こうか」と、そう言葉を口にするー。

”若い頃よりも、中年のおじさんになった自分が
 こういうことをしていたら、不審者と誤解されやすい”

そんなことにも、明弘は気づくことが出来ずに、
”うちの生徒をいつも見ている怪しい男がいる”と、
高校側に通報され、警察にマークされてしまっていたのだー。

「ーーーお、俺はただー、可愛い子を見ていただけなのに!」
意味不明なことを叫ぶ明弘ー。

人の表情を操ることができる男・明弘は
この後、警察署でもその力を使い、警察官に力がバレてしまうのだったー。

おわり

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コメント

”表情だけを”操ることができる男のお話でした~!★

随分前に思いついたのですが、なかなか書くには至らなかったので、
1話分、スケジュールが空いたこともあって、
書いてみました~!★

たまには変則的なお話も…★!

お読み下さりありがとうございました~!★

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