<憑依>彼女の幻想を俺は追い続ける①~悲しみ~

事故で寝たきりになってしまった彼女ー。

しかし、そんな事実を受け入れることができなかった彼は、
意識のない彼女に憑依しては、
未練がましい行動を繰り返していたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

突然のことだったー。

同じ大学に通っていた彼女の梅原 麻紀(うめはら まき)が
交通事故に巻き込まれて”寝たきり”の状態になってしまったー。

「ーーー…そんなー…麻紀ー…」
麻紀の彼氏、木山 亮平(きやま りょうへい)は、
そんな麻紀を前に、酷く悲しみ、落ち込んでいたー。

前日まで、体調に何の問題もなく、
ごく普通の人生を送っていたのにー、
麻紀は、突然寝たきりになってしまったー。

人間の命は、儚く、脆いものであると思い知らされたー。

前の日まで元気だったからと言って、
”明日も”元気であるとは限らないー。

それを、強く強く思い知らされたー。

交通事故の原因は、自転車の暴走ー。
暴走した自転車が麻紀に追突して、
麻紀はその際にガードレールに頭を強打ー

身体自体の怪我はほとんどなかったものの、
強く頭を打った影響で、命だけは助かったものの
昏睡状態が続いていたー。

担当医によれば、
”いつ目覚めるかは分からない”状態でー、
明日目を覚ますかもしれないし、このまま目を覚まさないかもしれないー。
とのことだったー。

「ーーーー麻紀ー」
そして、今日は麻紀が昏睡状態になってから半年ー。

当初ー、亮平もどこかで期待していたー。
明日になれば、明後日になれば、来週になれば…
目を覚ますのではないかと。

けれど、麻紀は目を覚まさないまま半年が経過してしまったー。

そして、昏睡状態のまま半年という長い月日が
流れてしまうと、
どうしても”もう目を覚まさないのではないか”と、
そんな気持ちになってきてしまうー。

亮平は酷く落ち込み、
やがて、”昏睡状態の人を目覚めさせる方法”を
ネットで調べたり、そんなことに没頭するようになってしまったー。

同じ大学に通う親友の楠本 健太郎(くすもと けんたろう)も、
”いつまでもそんな風に悩んでても、麻紀ちゃんも喜ばないぞ”と、
心配していたものの、
それでも、亮平は麻紀に対する想いを捨てることは出来ずに
麻紀を目覚めさせる方法を探して、探して、探し続けたー。

その結果ー。
出会ってしまった。

”憑依”
とー。

「ーーー…」
亮平自身も分かってはいたー。

”そんなことしても、それは麻紀ではない”
とー。

それどころかー、麻紀を余計に傷つけることになるかもしれない、
とー。

けれども、せずにはいられなかったー。

”昏睡状態の麻紀に憑依する”
という、禁断の行為をー。

望んだ結末ではないけれどー、
それでも、どうしても、
動いている麻紀を見たかったー…
また、麻紀の声を聞きたかったー。
また、麻紀の笑顔を見たかったー。

だからーー
麻紀に憑依してしまったー

「ーーーー…麻紀…」
麻紀に憑依して、”自分の手”になった麻紀の手を
見つめながらそう呟くー。

「ーーー…麻紀の、声だー…」
目から涙がこぼれるー。
麻紀本人が意識を取り戻したわけではないー。
麻紀本人が喋っているわけではないー。

けれどー、
麻紀の身体で発する、麻紀の声ー。

ずっとずっと聞きたかった麻紀の声が聞こえてー、
麻紀に憑依した亮平は麻紀の身体で涙をこぼしたー…。

「ーー…!!う、梅原さんー…!?」
偶然、巡回にやってきていた看護師が
”半年間昏睡状態だった麻紀”が突然意識を取り戻しているのを見て、
驚きの声を上げるー。

当然、周囲からすれば”麻紀が意識を取り戻したようにしか見えない”ー。
病院内はちょっとした騒ぎになり、
麻紀の両親も、麻紀が”半年ぶりに目覚めた”と、
とても喜ぶのだったー。

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それからはー、
それなりに”上手く”いったー。

麻紀が寝る時間になると、亮平は麻紀の身体から抜け出し、
少し離れた場所で実体化して、”亮平”としての生活を送るー。

それを繰り返したー。

最初は”憑依された刺激”で、麻紀本人が意識を取り戻すことも
期待したものの、
何度憑依を繰り返しても、やっぱり、亮平が麻紀の身体から
抜け出せば、麻紀は昏睡状態に戻り、
麻紀本人が意識を取り戻すことはなかったー。

亮平は麻紀に憑依して
”麻紀が意識を取り戻した”風を装い、
生活を続けていくー。

”麻紀のフリ”はするものの、
当然、100パーセントは上手くはいかない。
彼氏であったために”麻紀の普段の振る舞い”は
それなりに知ってはいる。
それでも、全部を知っているわけではないー。

けれど、その点は意外にも大きな問題にはならなかったー。

と、言うのも、”麻紀”は頭を強く打ち、
昏睡状態になっていたため、
”少し記憶が飛んでいる”状態でも周囲はおかしいとは思わず、
”亮平が麻紀に憑依して、麻紀のフリをしていても”
周囲は怪しまなかったー。

家族との会話がかみ合わなかったり、
お見舞いに来てくれた友達の前での振る舞いが
”元の麻紀”とは少し違っていても、
それらは全て”頭を打って半年間も眠っていたのだから”で、
済まされてしまったー。

そして、亮平は麻紀に憑依したまま、
麻紀として退院したー。

「ーーー結局…退院しちゃったなー」
麻紀の身体で寂しそうに呟く亮平ー。

「ーー亮くんー…ただいまー」
麻紀の身体でそう言葉を口にしてみるー

「ーーおかえり…麻紀ー」
麻紀の口で、”亮平”としての言葉も口にするー。

けれどーやっぱり、寂しかったー。
目に涙を浮かべながら
麻紀は複雑そうな表情を浮かべると、
そのまま首を横に振るー。

麻紀は一人暮らしー。
亮平も一人暮らしではあったものの、
”この先”、別々の家に暮らしている二人を
”一人で管理する”のは難しいー。

亮平は悩んだ末に、”麻紀に憑依した状態”のまま、
麻紀の両親に、
”彼氏である亮平の家で同居しようと考えている”ことを告げたー。

麻紀の両親は驚いていたものの、
麻紀の両親と亮平も面識があり、麻紀の両親から亮平は
気に入られていたこともあって、
最終的に、”また何があるか分からないし、亮平くんと一緒の方が安心かもね”
ということになって、亮平と麻紀は同居することになったー。

「ーーー……これから、よろしくねー」
麻紀として、そう呟きながら亮平の家に入る
”麻紀に憑依した亮平”ー。

亮平は”憑依”するときには身体ごと霊体になって
憑依しているために、今、この家には”麻紀”しかいないー。

「ーーー…」
鏡で”麻紀”の姿を見つめる麻紀に憑依した亮平ー。

麻紀の顔で微笑んでみるー。

「ーー…」
本当に”麻紀”が笑ってくれているような、
そんな”錯覚”をしてしまうー。

「ーーー麻紀ーーー…」
麻紀の身体で、麻紀を抱きしめてしまう亮平ー。

自分で自分を抱きしめながら、
嬉しそうに微笑むと、
亮平はやがて、麻紀の身体から抜け出して、
”麻紀、おかえりー”と、改めて言葉を口にするー。

亮平が憑依していなければ、
麻紀は”昏睡状態”のままー。
ソファーに寝転んでいる麻紀を見つめながら
亮平はまた目に涙を浮かべるとー、
「大丈夫ーいつか絶対ー…いつか絶対目を覚ましてくれるはずだからー」と、
まるで自分に言い聞かせるかのように言葉を口にしたー。

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「ーーいやぁ、麻紀ちゃんが無事でよかったよー」
亮平の親友・楠本 健太郎は安堵の表情を浮かべながら
そんな言葉を口にするー。

「ーーははー…ー」
苦笑いする亮平ー。

「けど、大学にはまだ来れないぐらいの体調なんだろ?」
健太郎のその言葉に、亮平は少し気まずそうに「まぁなー…」と
それだけ言葉を口にするー。

麻紀に憑依していれば”亮平”が、
麻紀に憑依していない状態の場合は”麻紀”が、
”人前に出ることのできない”状態だー。

麻紀に憑依している間、亮平の身体は霊体となって
麻紀の中にいるために”亮平の身体は存在しない”状態になっているし、
亮平が憑依していない間は、麻紀自身はまだ昏睡状態であるために
眠ったままの状態になっているー

”二人が同時に大学に来ることはできない”のだー。

「ーーー」
”この状況は、何とかしないとなー”

亮平は少しだけ表情を歪めるー。

麻紀の両親も”今のところ”は、麻紀は半年ぶりに意識を取り戻したばかりだし
娘が大学に復帰していない状態に、特に何も言って来ていないー。

”今はゆっくり休ませてあげた方がいい”
という意見は一致している。

しかし、ずっとこうしているわけにもいかないー。

「ーーー…けど、俺と麻紀が二人同時に大学に来ることはできないー」
亮平は、親友の健太郎と別れて一人になると
険しい表情を浮かべながら、心の中でそう言葉を口にするー。

二人同時に大学に来ることはできない以上、
何か手を打たなければいけないー。

「ーーー麻紀が意識を取り戻してくれれば、それが一番なんだけどなー」
亮平はそう言葉を口にすると、
対策を頭の中で考えながら、大学の外の景色を
険しい表情で見つめたー。

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帰宅後、再び”麻紀”に憑依した亮平は

「おかえり、亮平ー」
と、麻紀の身体でそう言葉を口にしたー。

「ーーただいまー」
麻紀の身体のまま、そう返事をする亮平ー。

傍から見れば、
麻紀が”おかえり”と、誰もいないのにそう言葉を口にして、
すぐに、麻紀が”ただいま”と一人二役をやっているような、
そんな状況だー。

とても異様な光景に見えるかもしれないー。

けれど、それでも亮平は、
こうしていることで、麻紀が本当に意識を取り戻したかのようなー、
麻紀と話が出来ているかのようなー、
そんな感覚を覚えながら、喜びを感じていたー。

そんな生活を続ける中ー、
いつしか麻紀に憑依した亮平は
”二人分”の食事を作るようになったー。

2つのイスを用意したテーブルの手前側の座席に座ると、
「どう?今日は亮平の好きなオムレツを作ってみたよ!」
と、麻紀が嬉しそうに笑うー。

もちろんー、奥側の座席には誰も座っていないー。

が、麻紀に憑依している亮平は、
麻紀の身体のまま、今度はテーブルの反対側の座席に移動すると、
「ははー嬉しいなぁ…美味しいよ、麻紀ー」と、
麻紀の身体のまま”意図的に低い声”を出して
そう返事をするー。

それだけ言うと、またテーブルの反対側の座席に移動して、
「ふふ、嬉しいー 亮平に喜んでもらってよかったー!」と、
そんな言葉を口にするー。

”一人二役”で、麻紀との食事を楽しんだ亮平は、
麻紀の身体から抜け出して、満足そうに微笑むー。

「ーーーー」
がー…
麻紀の身体から抜け出せば、
昏睡状態の麻紀の身体は”抜け殻”ー。

”現実”を思い知らされて途端に寂しそうな表情を浮かべる亮平ー。

「麻紀ー…」
意識不明の状態が続く麻紀の身体に呼び掛けるー。

勿論、返事などないー。

「ーー麻紀…麻紀ー…」
何度も呼びかけるー。
けれど、意識不明の状態が続く麻紀は意識を取り戻さないー。

何度呼びかけても、
何度呼びかけても、
麻紀は意識を取り戻すことはなかったー。

「ーーー」
亮平は、明日も大学があるため、
そのままシャワーを浴びようと浴室に向かうー。

「ーーー麻紀ー…」
ついさっきまで”幸せそうに”ご飯を食べていた亮平は、
シャワーを浴びながら、一人、涙をこぼし始めたー。

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「そろそろ、大学にも復帰した方がいいんじゃない?」
麻紀の母親が、そんなことを言い出したー。

”麻紀”に憑依して、麻紀として母親と会話をしていた亮平は
「う、うんー。でも、まだ記憶がハッキリしない部分もあってー」
と、そう言葉を口にするー。

けれど、既に亮平が麻紀に憑依してから数か月が経過ー、
退院してからもそれなりの時間が経過していて、
麻紀の母親は”記憶が戻るのを待っていたら、
いつまでも復帰できないんじゃない?”と、心配そうに言葉を口にしたー。

”それに、大体の記憶はあるみたいだしー、
 体調が戻ってるなら、そろそろー”

その言葉に、麻紀に憑依している亮平は不安を感じながらも
「うー、うん…わかったよーお母さんー」と、
そう言葉を口にしたー。

”亮平”と”麻紀”
2つをこなすには限界があるー。

麻紀に憑依している亮平は、麻紀の母親との電話を終えると
険しい表情を浮かべるのだったー

②へ続く

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コメント

新年2本目のお話デス~!!★

お正月は特に関係のないお話ですケド、
憑依を楽しんでくださいネ~!!★

私はちょっぴりお正月気分を味わいつつ、
お仕事もあるので、頑張ります~★笑

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