<憑依>彼女の幻想を俺は追い続ける②~苦しみ~(完)

事故によって昏睡状態に陥ったままになってしまった彼女…

そんな彼女に憑依して
”一人二役”のような生活を送る彼氏ー。

いつの日か、彼女が意識を取り戻すことを信じてー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーねぇ、”お母さん”が大学に復帰した方がいいってー」
彼女の麻紀がそんな言葉を口にするー。

「ーーははは、まぁ、もう意識を取り戻して
 だいぶ時間も経ってるし、麻紀のお母さんが心配するのも当然だよー」
彼氏の”亮平”が言葉を口にするー

「でも、どうするのー?
 ”わたしたち”は、同時に大学には行けないよー?」
麻紀がそう確認すると、
亮平は少しだけ考える仕草をしてから言葉を続けたー

「ーー…それはーー…大丈夫ー俺に考えがあるからー」
亮平はそう言葉を口にするー。

麻紀は少しだけ不思議そうにしながら
「考えー…?」と、そう言葉を口にすると、
「あぁー。”麻紀”のために、俺は何でもするからー」と、
亮平は穏やかな口調で言葉を口にしたー

ーーーーそこにいるのはーー
”麻紀”ひとりだけー。

麻紀が”亮平”の言葉も口にしながら、
”ひとり”で会話をしているー。

麻紀の言葉を口にするときは手前のイスで、
亮平の言葉を口にするときは奥側のイスでー、
麻紀は”一人二役”で会話をしていたー。

「ーーーー」
麻紀に憑依した亮平は”こうしないと”いられない状態に
なってしまっていたー。

事故で、彼女の麻紀が昏睡状態に陥り、
それを受け入れられないあまり、
憑依薬にたどり着いてしまった亮平ー

麻紀に憑依して、
”動いている麻紀”を、
”色々な表情を見せてくれる麻紀”をー、
”色々な声を聞かせてくれる麻紀”をー、
見ているうちに、だんだんと亮平は
”本当に麻紀と一緒に生活しているかのような”
そんな錯覚を覚えるようになり、
最近では”一人二役”で、麻紀の身体で
ブツブツと話し続けることが当たり前になってしまっていたー。

麻紀から抜け出す亮平ー。

当然、亮平が抜け出すと
麻紀は昏睡状態に陥ったまま、何もしゃべることもないし、
何も自ら行動を起こすことはないー。

憑依から抜け出す瞬間に、微笑んでいたせいか、
笑みを浮かべたまま、意識を失っている麻紀ー。

「ーーー…麻紀ー…
 いつ、目を覚ましてくれるんだー…?」
亮平は悲しそうにそう呟くと、
昏睡状態に陥ったままの麻紀を今一度、
寂しそうな表情を浮かべながら見つめたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おいおい、マジかよー?」

数日後ー
亮平の親友の楠本 健太郎が
戸惑いの様子を見せながら、
そんな声をかけて来たー。

「ーもう、決めたことなんだー」
亮平はどこか穏やかな表情で笑うー。

「ーーいや、でもお前ー…大学を辞めるってー…?えー?」
健太郎はさらに戸惑いの表情を口にするー。

「ーーまだ、麻紀の体調が優れないこともあるし、
 俺が早めに働いて麻紀を支えてあげないとって思ってさー。
 麻紀が今まで通り、大学とバイトを両方やるのは体力的にもキツイと思うし
 無理をさせちゃいけないから」

亮平は”麻紀のために大学を辞める”と、そんな決断をしていたー。

実際にはー、
”亮平”と”麻紀”の両方が同時に大学に来ることは
今の状況では不可能であるために、
”麻紀”として大学に来るために、亮平が大学を辞めざるを
得なくなってしまったのだー。

”麻紀”の両親からも、麻紀が退院後に
大学に行っていないことをかなり心配されてしまったし、
そろそろ”麻紀”を大学に復帰させないといけないー。

だから、”亮平”は、”麻紀を支えるため”と理由付けをして
大学に退学届を提出したのだったー。

「ーーい、いいのかよーそれでー…?」
健太郎のその言葉、亮平は「ああー」と、そう頷くと、
「麻紀は近いうちに大学に復帰するから、何か困ってたら
 助けてやってくれよー?」と、それだけ言葉を口にして、
そのまま亮平は、健太郎に背を向けると
ゆっくりと歩き出したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

亮平はその後、大学を退学ー、
”麻紀”に憑依した状態で、大学は”麻紀”として通い、
”亮平”は表向きは麻紀のために家のことをしたり、
バイトをしたりして生活を支えていることにしていたー。

「ーーあ、亮平ー?
 うん、わたし!
 今から帰るねー」

大学帰りー。
”麻紀”がそんな言葉を口にするー。

しかし、麻紀の手に握られているスマホはー
”どことも”繋がっていないー。

小声で”麻紀、お疲れ様ー”と、そう言葉を囁く麻紀ー。

「ーありがと!
 あ、そうだー、帰りにスーパーによるけど、
 何か必要なものってある?」

麻紀に憑依している亮平は
”電話が繋がっていないのに”
家で待つ亮平に電話しているかのような仕草を続けるー。

”麻紀と一緒に生活している”
そんな風に思い込まないと、
寂しさのあまりー、悲しさのあまり、
頭がおかしくなってしまいそうだったー。

”どことも繋がっていない”スマホを手に
”通話を終える仕草”をしながら、顔を上げた麻紀ー。

すると、亮平の親友の健太郎がたまたま通りかかって
麻紀に言葉をかけたー。

「亮平は元気かー?」
心配そうに呟く健太郎ー。

「ーーー」
麻紀に憑依している亮平は、少しだけ健太郎には悪いことをしたな、と
思いつつも「ーうん!亮平は元気だよー」と、
麻紀としてそんな言葉を口にしたー。

それからも、
”麻紀”本人が意識を取り戻すことはなかったー。

麻紀の身体から抜ければ、麻紀は昏睡状態ー。
それは、変わらないー。

「ーーーー麻紀、おやすみー」
昏睡状態のままの麻紀を隣のベッドに寝かせて、
亮平もそのまま眠りにつくー。

そこにいるのは二人ー。
でも、心はひとつー。
”麻紀”は眠ったままで、
身体は二つあっても、そこには亮平しかいないー。

けれど、大好きだった彼女の麻紀が昏睡状態に
陥ってしまったことを受け入れられない亮平の
そんな日常はエスカレートしていくー。

麻紀に憑依したまま、
”亮平としている”つもりになって、
麻紀の身体で一人、お楽しみをするようになったー。

「今日は亮平に、気持ちいいことしてあげるねー…?」
麻紀に憑依している状態の亮平ー。

そこに亮平はいないのに、大人のおもちゃを
麻紀の身体で咥えながら
「亮平ーどう?気持ちイイ…?」と、嬉しそうに笑う麻紀ー。

そのまま、麻紀の身体で
「ーー麻紀ー…気持ちいいよー」と、嬉しそうに笑うと、
そのまま”一人二役でHなこと”をしていくー

そんな行為まで繰り返し、
”本当に麻紀と一緒に過ごしている”つもりになりながら、
麻紀の身体で大学に通い続けー、
ついには大学を卒業したー。

一般の事務職に就職ー、
麻紀として働きながら、家に帰れば
”麻紀といっしょの時間”を過ごす亮平ー。

そんな生活が続いていくー。

「ーーなぁ、そろそろ”結婚”しないのかー?」

そんなある日ー。
”亮平”は、自分の身体で親友の健太郎と久々に会って
話をしていたー。

大学を退学した後も、”亮平”は、麻紀に憑依していない状態で
度々健太郎に会い、遊んだり、話をしたりはしていたー。

そして、”麻紀”の大学卒業後も健太郎とは時々会っていて
その友情は健在だー。

「ー結婚かぁ…」
亮平は少し表情を歪めるー。

”結婚”は流石に難しいー。
結婚するとなれば”二人が同時にいないと”まずいし、
麻紀が昏睡状態のままである以上、それは出来ないー。

だから、”麻紀が社会人になって3年”が経過した今でも
二人は”同棲しているカップル”という状態だったー。

「ーーー麻紀ちゃんも、そろそろそういうこと、
 考え始めてるんじゃないのかー?」
健太郎がそう言うと、亮平は「ははー…まぁ、麻紀とも話し合ってみるよ」と
少し苦笑いしながら、そんな言葉を口にしたー。

「ーーー」
健太郎との久々の対面を終えて、
家に向かいながら亮平はため息を吐き出すー。

「この先、どうすりゃいいんだー…?
 麻紀とずっと一緒に暮らしているのに、結婚しないままーって言うのは
 周囲が色々言うだろうしー…」

亮平は表情を歪めるー。

しかし、”亮平として” ”麻紀として”
同時に行動することができない以上、
結婚するのは無理があるー。

互いの両親への挨拶はどう済ませるー?
まさかバラバラに行くわけにはいかないしーー

「ーーー…仕方ないー。麻紀に憑依して
 ”わたし、事実婚がいいの”って言ってー、
 俺もそれに賛成している風を装うしかー」

亮平はそんなことを思いながら
玄関のカギを開けて、家の中へと入るー。

がー、
その時だったー

「ーーーーえ…????」
亮平は驚いて思わず目を見開いたー。

何故ならーーー

家の中で、麻紀が”座って”いたからだー。

「ーーー…ま、麻紀ーーー…?」
呆然とする亮平ー。

「ーーーー……亮平ー…?」
麻紀は事情が分からない、と言った様子で
不思議そうな表情を浮かべるー。

麻紀はーーー
大学時代から、何年も眠り続けていた麻紀は、
この日、突然、意識を取り戻したのだー。

「ーーー…よ、よかったー…ほ、本当によかったー」
亮平は目に涙を浮かべながら麻紀に駆け寄ると、麻紀を抱きしめるー。

「り、亮平ー…こ、これは、どういうことー…?」
麻紀は戸惑いの表情を浮かべるー。

自分が事故に遭って、頭を打って昏睡状態だったことも
分かっていない様子だー。

一瞬の出来事だったようだから、
麻紀としては帰り道を歩いている途中に急に意識が途切れて
今、この場面なのかもしれないー。

”ーーって、俺、憑依のことどう説明すればー?”
亮平は戸惑うー。

戸惑った挙句、亮平は
”今まで普通にしてたけど、急に麻紀が意識を失った”という
作り話をしたー。

そして、事故に遭ったこと、そのあと意識を取り戻して
一緒に暮らしていることを説明ー

さらに、”事故後、意識を取り戻したあとの記憶を麻紀は失ってしまったみたいだ”
という”設定”で話を進めて、
憑依のことを隠したー。

”事故後、ずっと麻紀に憑依して一人二役をしていた”とは
流石に言えなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから、1週間が経過したー。

「ーーーーねぇ、わたしー…一回実家に戻ろうかなー…?」
麻紀がそう呟くー。

「ーーえ?」
亮平が少し戸惑いの表情を浮かべると、
麻紀は不安そうな表情で、
「ー事故後の記憶、全部失ってるし、このままじゃ亮平にも
 迷惑かけちゃうと思うからー」
と、そう呟くー。

「ーせっかく、色々支えてくれたと思うのに、
 覚えてなくてごめんねー。
 わたし、その”自転車に追突された事故”の後のこと、
 全く覚えてなくてー
 何年も眠ってたような感覚でー」

麻紀が悲しそうに呟くー。

「ーーはは……」
亮平は少しだけ笑うー。

まぁ、”本当はそう”なのだがー、
それからの数年間、憑依を繰り返していたとは言えないー。

あくまでも自転車に追突されて昏睡状態に陥ったあと、
一度意識を取り戻して、”そこから今までの記憶が何らかの原因で飛んだ”という
”こと”にしておかなくてはいけないー。

「ーー…大丈夫だよ、麻紀ー
 俺が支えるからー」
亮平がそう言うと、
麻紀は首を横に振ったー。

「ー亮平にばっかり迷惑はかけられないよー
 わたし、1回実家に戻ってまた記憶がハッキリしたらー」
麻紀がそこまで言うと、

突然、亮平が言葉を口にしたー。

「ーー…”うん、ありがとうー亮平”」
とー。

「ーーえ?」
麻紀が首を傾げるー。

亮平が自分で”うん、ありがとう亮平”と言ったのだー。

「ーーー…え……なに?」
麻紀が戸惑いながら言うと、
亮平は言ったー。

「ーー”うん、ありがとう亮平”だろー?」
とー。

「ーーーな…なに??? え???」
混乱する麻紀ー。

「ーーーよかったー、これからも俺と一緒に暮らそうー。

 ”うん!亮平がいてくれて本当によかった”

 あ、そうだー、お風呂は今日はどっちから入るー?

 ”今日はー亮平が先でいいよ”」

亮平が自分の口で、麻紀との”一人二役”を始めるー。

「ーーり、亮平ー…?」
麻紀は怯えた表情を浮かべるー。

すると、亮平は言ったー。
「ーーダメだー、ごめんー。俺はもうー」
とー。

そして、そのまま亮平は
”数年ぶりに意識を取り戻した大好きな彼女”に、
憑依してしまったー。

麻紀が好きだったのは、本当だー。
麻紀が意識を取り戻すことを願っていたのも、本当ー。

でもー…。
何年もずっと、昏睡状態の麻紀に憑依して、
自分と麻紀、一人二役を続けて来た亮平は、
”自分の思う通りに動かない麻紀”を前に、
耐えられなくなってしまったー

何年も一人二役を続けて、
”理想の麻紀”と暮らし続けた亮平はー
狂ってしまったーーー…。

もうーーーー
”俺が動かしている麻紀”じゃないと、満足できなくなってしまったー

「ーーえへへへー…わたし、これからは亮平と”ひとつ”になるねー…」
麻紀に再び憑依した亮平は笑うー。

この日以降ー、
亮平は、麻紀に憑依したまま生活を続けるようになりー、
麻紀を完全に乗っ取ってしまったのだったー。

”事故”がなければー、
”憑依薬”と出会わなければー、
きっと、亮平は狂わなかったー

でもー、
数年間も、”大好きな彼女”に憑依して一人二役を続けた彼はー

狂気に飲み込まれてしまったのだったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

せっかく、目を覚ましてくれたのに、
もう彼氏は狂ってしまっていて…

そんな結末でした~…☆!

きっと、事故が無ければ幸せに暮らすことが
できていたのかもしれませんネ~…!

お読み下さりありがとうございました~!☆

コメント

  1. TSマニア より:

    亮平が彼女のことが好き過ぎたのと彼女の事故と憑依薬と出会って狂ってしまいましたね(-_-;)汗

    亮平は麻紀として生きてくんですネ!★

    • 無名 より:

      感想ありがとうございます~~!★

      事故が無ければ、憑依薬と出会っていなければ…
      色々不運でしたネ~!★!