その学校では
他人に変身することのできる薬を用いた
”変身実習”が行われていたー。
その内容とはー…?
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「ー今日、変身実習だったよな?」
友人の滝原 竜馬(たきはら りょうま)が、
ニヤニヤしながらそう言葉を口にするー。
「ーーーあぁー…そうだったなー」
ニヤニヤしている竜馬とは対照的に、
竜馬に話しかけられた男子生徒、
岡本 達哉(おかもと たつや)は、
あまり興味なさそうにそう返事をしたー。
「ーへへへへへー…今日の変身相手は誰かなぁ」
なおもニヤニヤと笑う竜馬ー。
「ーーーーホント好きだなー滝原ー」
ニヤニヤしている竜馬を見つめながら、呆れ顔でそう言葉を口にした
達哉は、自分の座席から立ち上がるー。
「ーへへーそりゃそうだろー
だって、自分以外の誰かの姿になれるとか、
興奮するに決まってるじゃんかー。」
竜馬は、興味なさそうな達哉に対してそう呟くと、
なおも嬉しそうな表情を浮かべる。
がー、振り返った達哉は
「そうかぁ?俺は面倒臭いだけどなー」と、
そう言葉を口にしながら、
そのまま廊下の方に向かって行くー。
「ーへへー相変わらずだなぁ」
竜馬も、友人の達哉が”変身実習に興味がない”ことは
これまでの付き合いで知っているー。
しかし、変身実習の授業がある1週間以上前から
毎回、ドキドキワクワクしながら楽しみにしている竜馬からすれば、
友人の達哉が、いつも変身実習を面倒臭そうにしている姿は
理解できない反応だったー。
”変身実習”ー
この世界では、当たり前のように行われている授業で、
目的としては、
色々な人の姿に変身して、実際にその状況を体験することによって、
”他人を思いやる気持ち”を育んだり、
自分とは違う年齢・性別ー、そういったあらゆる立場の”知識”を
身に着けることで、
20年ほど前から、開発された変身薬を用いた実習として
必修科目として、教育の場に導入された。
例えば、女子が男子に、
男子が女子にして、異性のことを学んだり、
高齢のおじいさんやおばあさんの姿に変身して、
”高齢の人の身体の衰え”を身を以て体験したり、
あるいは、病気で身体が不自由な人に変身して、
その辛さを体験することで、理解したりー、
色々な”変身実習”がその時によって行われていたー。
「ーーーへへへへへーいよいよ次だぜ」
2時間目の国語の授業が終わり、
3時間目と4時間目が”変身”の実習が行われる
”家庭科”だー。
変身実習は”家庭科”の授業の中に含まれていて、
調理実習などと同じく、毎回やるわけではなく
時々の頻度で行われるー。
間隔として大体、調理実習と同じぐらいの回数だろうかー。
そして、今日はその”変身実習”が行われる日だったのだー。
「頼む!今回こそ、女!女ー!」
家庭科室に移動しながら祈るようにしてそう言葉を口にする竜馬ー。
「ーーどっちでもいいだろ別にー…あぁ、面倒くせぇ…」
変身実習に興味のない達哉ー。
二人は、変身実習が行われる家庭科室に移動しながら
そんな会話を交わしているー。
「いやいや、どっちでも良くねぇよ!
前回、散々楽しみにしていたのに、ただのおっさんだったし!」
どうやら、1か月以上前に行われた前回の変身実習は
男が変身対象だったらしく、
女に変身したがっている竜馬からすれば、
”やったぜ!今日は変身実習だぜ!”という天国のような気持ちから、
一気に地獄に転落したような気分を味わったー。
そのため、今回こそは”女”に変身したいと、
そう息巻いているのだー。
「ーーーお前は女に変身したいとかないのかよ」
竜馬が、達哉に対してそう言い放つと、
達哉は少しだけ笑いながら、
「俺は変身実習を授業としてしか見てないからぁ
誰でもいいし、できれば面倒臭いから変身したくない」と、
そう言葉を口にしたー。
「ーはははは、ま、お前はイケメンだからなぁ」
竜馬が揶揄うようにして言うー。
達哉はどちらかと言うとイケメンな雰囲気の顔立ちで、
彼女もいるー。
だから、変身実習にも興味がないのだと、
竜馬はそんな風にも思っていたー。
「ーいやいや、別にイケメンとかそんなの関係ないだろ」
達哉が呆れ顔でそう返すと、
やがて、二人は家庭科室へと到着したー。
家庭科室に到着すると、
家庭科の教師である、向井(むかい)先生が、
既に変身実習の準備を終えて、
”変身薬”を、机の上に用意していたー。
「うほっ!変身薬!」
竜馬が嬉しそうに叫ぶと、
横にいた達哉は「おい、変態顔になってるぞ」と、
そうツッコミを入れるー。
「ーーーへへへへ 人類はみんな変態だって
誰かが言ってたぞ」
「一緒にするなー」
そんな会話をしながら竜馬と達哉は、
家庭科室での座席が少し離れているため、
それぞれの座席の方に向かって行くー。
「ー今日はどんな人に変身するのかなぁ~」
達哉が向かった座席の先には、
そんな言葉を口にしながら、少しワクワクした雰囲気の
幼馴染ー…久野 亜梨沙(ひさの ありさ)の姿があったー。
亜梨沙は、幼馴染なだけではなく、
先程、竜馬との会話に出ていた”彼女”でもあるー。
「ーーー…ははー…亜梨沙もなんだか楽しそうだなー…」
達哉がそんな言葉を口にすると、
亜梨沙は「だって、普段体験できないこと体験できるし!」と、
それだけ言うと、
「ーー達哉はー……まぁ…いつも通りだよねー?」と、
達哉の性格をよく知る彼女であるが故に、そんな言葉を口にするー。
「まぁなー」
達哉は少しだけ笑うと、
授業の始まりを知らせるチャイムが鳴りー、
授業が始まったー。
授業が始まると、向井先生は早速、
「ー今日は変身実習ですー。
普段とは違う姿に変身して、
その姿で過ごしてー、気付いたことを
レポートにいつも通り、まとめてもらいますー」と、
そう説明をすると、
「今日の”変身講師”の方もじきにお見えになるのでー」と、
家庭科室の外を見つめたー。
”変身講師”とは、変身実習を専門とした講師で、
変身実習の際だけ学校にやってきて、その授業を受け持ち、
さらには”生徒たちを自分の姿に変身させる”職業だー。
学校だけではなく、
他の場所でも”変身実習”が行われることがあって、
様々な場所での変身実習を受け持つのが”変身講師”ー。
”変身講師”としての資格を取得、変身講師としての登録を終えると、
後は、自分の都合にも応じて、変身講師の依頼を受けることができ、
学校での授業や、企業での変身研修ー、その他いろいろな仕事の依頼を受ける形で
仕事をしているー。
変身講師は、”他人に変身される職業”であるために、報酬は高いー。
自分の姿に変身した”他人”をたくさん見ることになるため、
場合によってはイヤな思いをすることもあるし、
変身したまま逃亡されるなどのリスクも懸念されるー。
それ故に、変身講師の報酬は高く、
精力的に仕事をしている変身講師だと年収もかなりのものだったー。
「ーー女…女…!頼む!」
竜馬がそう言葉を口にするー。
”変身実習”で生徒たちが変身することになる相手は”変身講師”の人だー。
先生や他の生徒ではないー。
変身講師が男であれば、今日の変身実習は”男”への変身であることを意味しー、
変身講師が女であれば、今日の変身実習は”女”への変身であることを意味するー。
前に、イケメンの変身講師が来た時には女子から
歓声が上がっていたし、
逆に、20代の若い女性変身講師が来た時には、男子が歓喜していたー。
そしてー、
今日はー
「おぉぉぉぉぉぉぉぉおお?」
家庭科室の中で、歓声を上げたのは、”男子”だったー。
「ーーーあ、女の人ー」
”変身実習”に興味のない達哉の彼女・亜梨沙がそう言葉を口にするー。
今日の変身講師として
家庭科室に入って来たのは、
昨年から、”変身講師”になったばかりの女性・早瀬 萌奈(はやせ もな)ー。
「ーうぉぉぉぉぉぉ!やったぜ!!!よっしゃあ!」
達哉の友人・竜馬はテンションMAXと言わんばかりの状態で、
喜びを露わにしているー
「えへへへへーー」
「うぉっ!?可愛くねー?」
「ー今日の変身実習は楽しくなりそうだなぁ」
男子の数名も、そんな言葉を口にしていて、
一部の女子から「ちょっと!」と、落ち着かせようとする声が
上がっているー
「ーーあははー…」
変身講師の萌奈は困惑した様子を少し見せながらも、
家庭科の教師・向井先生と簡単に挨拶を交わすー。
萌奈は、変身講師として色々な学校の変身実習に足を運んでいるため、
”こういう反応”をされるのには慣れているー。
穏やかな雰囲気の萌奈は、少しだけ苦笑いしながら
「わたしが今日、みんなの変身実習を担当する変身講師の
早瀬 萌奈ですー よろしくお願いします」と、
ぺこりと頭を下げるー。
男子の一部が盛り上がった様子で、自己紹介をしたり、
質問をしたりしている中、
「みんな好きだなぁ」と、呆れ顔で変身実習に興味のない達哉が呟くー。
「あははー…達哉は、女の人の方が嬉しいとか、ないのー?」
座席が同じ机の彼女・亜梨沙が言うとー、
「ーいや、俺はむしろ、男の方が楽だよー
だって、普段、慣れてるしさ」
と、達哉はそう返すー。
「でも、同性でも変身するとやっぱ、色々違くないー?」
亜梨沙がそう言葉を口にするー。
変身対象が同性でも、かなり違う部分はあるー。
それは、今までの変身実習でもよく理解しているー。
「それでも、やっぱ男なら男の方が楽だよー。
違う部分も多いけど、性別自体が違うともっと色々違うし」
達哉はあくまでも冷静だー。
「ーーふ~ん、でもあの人、可愛くないー?
少しぐらいドキドキするんじゃない?」
亜梨沙が揶揄うように小声で言うと、
「ーいやー、俺には亜梨沙がいるしー」と、
恥ずかしがる様子もなく、即答する達哉ー
「~~~も、もうー…そういうこと、平気で言うんだからー」
亜梨沙は少し照れ臭そうにしながら、
そこで会話を一旦やめると、
「ーそれでは、変身薬をそれぞれ順番に飲んでもらいます」と、
家庭科の向井先生が言い放ったー。
変身薬には”悪用できないような安全のための対策”が
多数施されていて、
その時の実習の対象以外には変身できないようになっているー。
今日は、変身講師である萌奈以外には変身することはできないよう、
事前にそう設定されているのだー。
「ーえへへへーじゃあ、早速」
達哉の友人・竜馬が嬉しそうに変身薬を飲むと、
「うぉぉぉぉ、この身体が変化していく感じー…たまらないぜー」と、
そう言葉を口にするー。
その言葉の途中から、声が女の声に変わって行く様子に、
周囲の男子が歓声を上げているー。
「ーうほっ…♡ えへへへー」
萌奈の姿になった竜馬がニヤニヤしながら自分の胸を早速触ると、
隣にいた、”同じく萌奈の姿になった”別の男子生徒が
「お前よく、本人の前で堂々とそんなことができるなぁ」と、
呆れ顔で言葉を口にするー。
「ーーーへへーでもほら、怒ってないしー!」
萌奈姿の竜馬が、萌奈本人の方を見ながら笑うー。
「ーーあははー…あまりはりきりすぎないようにねー」
萌奈は穏やかに笑いながらそう言葉を口にすると、
他の生徒たちも次々と”自分の姿”に変身していく様子を見つめるー。
”変身講師”は、自分の姿に多くの人が変身するため、
あまりやりたがらない人も多いー。
一方で、”自分の姿を一時的に貸す”ようなものであり、
リスクもあるためにその給料は高いー。
「ーーーわぁ~…すごいー…!手も綺麗だし…」
達哉の彼女・亜梨沙も萌奈の姿に変身して、
”大人のお姉さんって感じー”と、嬉しそうに
変身後の自分の姿を見つめるー。
一方の達哉も、萌奈に変身したものの
冷めた表情で「なんか、違和感があるよなやっぱりー」と、
そう言葉を口にするー。
変身実習はその時ごとに”テーマ”があって、
変身した状態でそれを学んでいくー。
例えば、高齢者の変身講師を呼んで、
”高齢して衰えた身体”を自分自身で体験して、
気遣いの心を学んだり、
身体の不自由な変身講師を呼んで、
その身体を実際に体験して、
異なる視点を学んだり、
その時その時によって、様々だー。
そして、今日は”保健体育”の教育的な意味もあって、
若い女性の講師が変身実習にやってきていたー。
全員が萌奈に変身し終えると、
向井先生は”いつも思うけどー、すごい光景ねー”と、
心の中でそう思いながらその様子を見つめるー。
ニヤニヤしている”萌奈”もいれば
戸惑っている”萌奈”もいるー。
そんな、クラスの生徒全員が”萌奈”に変身した状態で、
変身実習は幕を開けるのだったー。
②へ続く
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コメント
変身薬を使った実習が行われている世界…。
なんだか、全員が同じ姿になっているのを想像すると、
怖いですネ~笑
”どうやって見分けるの??”とかは、
②で描写があるので、明日のお楽しみデス~笑
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