<入れ替わり>戸惑いの表情を見せてほしい③~対峙~(完)

人々を入れ替えて、
戸惑いの表情を見ては
それを楽しむ男ー。

彼の行きつく先はー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー先輩ー」

最近、この辺りで多発している
”謎の入れ替わり”ー。

それを先輩刑事の愛と共に捜査している
後輩の刑事・喜多 幸也は、
心配そうに、別のビルから、
鶴田 宗平と、先輩刑事の愛が対峙する様子を
見つめていたー。

特殊な双眼鏡で、かなり遠くのビルから
宗平の様子を見つめている幸也ー。

「先輩ー気を付けて下さい」
改めて、通信でそう言葉を伝える幸也ー。

もしも、宗平が”入れ替わり”に関与している人間ー、
あるいは入れ替わりの”元凶”であれば、
何をしてくるか分からないー。

そう思いながら、幸也は双眼鏡を手に、
宗平と愛が対峙しているビルの様子を
再び、険しい表情で見つめ始めたー。

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「仕方ないですねー
 知ってることを話してあげましょうー」

入れ替わりを楽しむ男・宗平は、
女性刑事の愛に問い詰められてそう言葉を口にしたー。

「ー”入れ替わり”は確かに起きていますー。
 街の人たちが騒いでいる通りです」
宗平はそう言葉を口にすると、
愛は表情を歪めるー。

「まぁでも、”入れ替わり”を信じて
 馬鹿正直に調べる刑事さんがいるとは思いませんでしたよ」
宗平はそう言いながら、屋上の端の方まで歩いていくー。

”ー入れ替わっちゃったんです!なんて騒ぐやつらが多少いても
 普通は誰も信じねぇからなー”
宗平は心の中でそう思いながら、チラッと背後にいる愛のことを
確認するー。

”ま、刑事の中にもこの女みたいな物好きがいるってことだなー”
宗平はそう思いつつ、屋上の端にたどり着くと
笑みを浮かべながら下を見下ろすー。

「ーー待ちなさいー。飛び降りて逃げるつもりー?」
愛がそう言葉を口にするー。

宗平は、少しだけ笑みを浮かべると、
「ーー入れ替わりの話、聞きたいんでしょう?」と、
馬鹿にしたような口調で言うと、
こっちに来るように手招きしてみせたー。

その上で、言葉を続けるー。

愛は警戒しながら、宗平と距離を取りつつ、
屋上の端までやってくると、
宗平は、もう一つ持っていた双眼鏡を取り出して
それを愛に投げつけたー。

「ー見ててくださいよ」
宗平がそう言うと、人差し指を人差し指で、
下を歩く女子大生らしき子と、少し離れた場所を歩く
サラリーマンのおじさんを指差したー。

するとーー

「ーー!?!?」
愛は驚いた表情を浮かべながら下の様子をそのまま見つめるー。

女子大生がニヤニヤしながら、自分のニオイを嗅ぎ始めて
うっとりとした表情を浮かべー、
その隣にいた友達らしき子が戸惑いながら「えっ!?えっ!?」と、
混乱しているのが見えるー。

一方、サラリーマンのおじさんは「何これ!?何なの!?」と
泣きそうになりながら声をあげているのが見えるー。

「ーーー…すごいでしょう?
 これが、入れ替わりですー」

宗平はニヤリと笑みを浮かべながら、愛の方を見つめるー。
愛は宗平の方を睨みつけると、
「あなたがー…”入れ替わり”の元凶ー?」と、そう言葉を口にするー。

「ーははは、元凶だなんて人聞きの悪いー。
 俺はただ、入れ替わった人の戸惑う様子を見て
 楽しんでいるだけですよー。
 ”チェンジ・ウォッチング”をねー」

笑みを浮かべながらそう言い放つ宗平ー。

警察官である愛が近くにいても、
まるで物怖じする様子は見られないー。

「ーーー全部ー…全部、あなたのせいなのねー…」
愛は表情を歪めるー。

愛の妹・由美は、
かつて、この宗平の”入れ替わり遊び”に巻き込まれて
入れ替わった相手に好き放題された挙句、
今でも精神的に病んでしまっているー。

妹の由美が”入れ替わり”に巻き込まれて、
初めて入れ替わりのことを信じ、
本気で捜査を始めた愛は、
ようやくたどり着いたその犯人を前に、
激しい怒りを燃やしていたー。

「ーーはははははー
 そんな怖い顔しないでくださいよ刑事さんー
  
 綺麗な顔が台無しですよー」

揶揄う口調の宗平ー。

「ーー黙りなさい」
鋭い口調で、怒りを露わにする愛。

”ねぇ、なんなの!?わたしの身体を返してよ!”

”うへへへへーたまんねぇぜー”

屋上の下から、そんな声が聞こえて来るー。
入れ替わったサラリーマンのおじさんと女子大生が
まだ言い合いをしているようだー。

「ーーへへー」
双眼鏡でその様子を見つめる宗平ー。

しばらくすると、宗平は
愛の方を見て、言葉を口にしたー。

「俺は人間観察をしているだけですよー。
 入れ替わった人々の観察をー、ね。

 この屋上は別に立ち入り禁止じゃないし、
 俺はただ、人々を入れ替えて観察しているだけですー

 何か”違法な行為”してますか?」

宗平がそう言葉を口にしているー。

「ーーー…な、何をー」
愛が表情を歪めると、宗平は笑うー。

「ー入れ替わり罪…
 そんなもの、この世にはありませんよね?
 
 それでも、俺を逮捕しますか?
 確たる証拠もないと言うのにー」

その言葉に、愛は
「でも、入れ替わりで傷ついている人もいるー」と、
そう言い放つー。

それでも、宗平は笑ったー。

「ーあぁー…まぁ、それはそうですねー」
宗平はそう言いつつ、双眼鏡で、
泣き叫ぶおじさんと、女子大生の身体で好き放題始めてしまった
中身がおじさんの女子大生を見つめるー。

「ーー…でも、それは入れ替わったやつが悪いだけー。
 俺は別に何もしてませんよー?」

宗平はニヤリと笑うー。

今、女子大生と入れ替わって、
あの女子大生を傷つけているのは、
彼女と入れ替わったサラリーマンのおじさんであり、
自分は悪くない、とそう言いたげな宗平ー。

「ーふざけないでー。」
愛はそう言うと、銃を取り出すー。

「ーーへへー善良な市民に銃を向けるんですか?」
宗平が笑うー。

「どこが善良な市民よー?
 黙りなさい」
愛の言葉に、宗平は笑みを浮かべながら下を見つめるー。

「ーーじゃあー」
そう言葉を口にすると、車道の車と、通行人の子供を指差して、
そのままその身体を入れ替えるー。

「ー!?」
愛が表情を歪めるー。

その直後ー…車の運転手と子供の入れ替わりによって、
状況も分からず、運転の仕方も分からない
運転手(子供)が、暴走ー、壁にぶつかり、
事故を起こしてしまうー。

悲鳴が上がる眼下の大通りー。

ニヤリと笑う宗平ー。

「ーーな…なんてことをー」
呆然とする愛ー。
恐らく、けが人も出ているー。

そんな状況を屋上から見つめながら
宗平に向かって銃を再び向けるー。

「ーー”勝手に事故っただけ”ですよー。
 他人同士を入れ替わることを禁じる法律なんて、ありませんからー
 今の事故も、俺を罪に問うことはできないー」

宗平がそう言うと、
愛は怒りの形相で宗平に銃を押し付けるー。

「ーははは!はははははー
 俺を殺してどうするつもりです?
 俺を殺したらー、”今入れ替わっている”
 運転手と子供は元に戻れなくなりますよ?」

宗平がそう言うと、愛は銃を握る手を弱めるー。

「ーーそれでも、いいんですかねー?」
宗平はニヤニヤしながらそう言い放つと、
愛は怒りの形相で、「なら、あんたを逮捕するー」と、
そう言葉を口にするー。

「ーへへーだから、俺を逮捕しても無駄ですよー。
 入れ替わりの証明なんてできないし、
 仮にこの会話を録音しててもー、
 この国に”入れ替わり”を仕掛けた人間を裁く法律なんて
 ないでしょうー?

 それとも、無理矢理なんか、罪状を当てはめて逮捕しますか?」

宗平の馬鹿にするような口調に腹を立てる愛ー。

「ーあんたは…!わたしの妹の人生を滅茶苦茶にした!
 妹は、あんたに身体を入れ替えられて
 入れ替わった相手の男に、外で好き放題されて、
 精神的に病んで、今も入院してるの!

 全部ー、全部、あんたのせいよ!」

愛がそう叫ぶと、
宗平は「あぁー、なるほどー俺のチェンジウォッチングのせいで、
妹さんはー」と、少しだけ表情を曇らせたー。

そしてーーー

「ご愁傷様ですー」
馬鹿にするような口調で言う宗平ー。

愛はブチギレて、そのまま宗平に銃を向けようとするー。

しかしー、
感情任せに動こうとした愛の隙をついて、銃を
蹴り飛ばすと、
宗平はそのまま愛を振りほどいて、屋上の端っこに再び駆け寄るー。

「ーー待ちなさい!!」
愛がそう叫ぶー。

が、宗平はニヤッと笑うと、
「安心して下さいよー。俺はもう死にますから」と、
そう言い放つー。

”やっぱり、飛び下りて逃げるつもりだー”
愛は、そう思って、慌てて宗平の方に駆け寄ろうとするー。

しかしー、宗平はそのまま屋上の端に背を向けて、
ゆっくりと倒れていくと、
その瞬間ーーー

”自分”と、”愛”を、
人差し指で指さしたー。

「ー!?」
愛が驚くと同時に、宗平の身体が落下を始めるー。

”えっー!?”
次の瞬間、愛は落下していたー。

宗平の身体でー…

「ーーー!?!?!?!?!?」
宗平と入れ替わってしまった愛は、状況をまるで飲み込めないまま、
宗平の身体で地面に激突ーー
そのまま、即死してしまったー。

「ーーあ~~~~あ」
屋上からその様子を見ていた愛(宗平)はニヤリと笑うー。

「ーー俺の入れ替わりー…
 ”次の組み合わせ”を入れ替えると元に戻っちゃうけどー、
 ”片方”が死んでると、もう戻らないんだよなー」

愛(宗平)はそう呟きながら、ゆっくりと歩き出すー。

「あんたの身体、貰ったぜー刑事さんー」
愛(宗平)はそう呟くと、
自分の綺麗な手を見つめるー

”力”は俺の魂に宿っているー。
だから、新しい身体でも、引き続き入れ替わりの力を使えるー。

愛(宗平)は自分の手をうっとりとした表情で撫でまわすー。

”先輩ー!”
後輩の刑事・幸也からの無線に気付いた
愛(宗平)は、少し笑みを浮かべてから、
「ーあいつーー…自分から飛び降りてー」と、
そう言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーへへへへっ…へへへへへへへっ」
自分の胸をスーツの上から揉みながら
邪悪な笑みを浮かべる愛(宗平)ー

ペロペロと自分の綺麗な指を舐め回すと、
「今日から”これ”が俺の身体だぁ…」と、
ニヤニヤと笑うー。

これからは”この身体”でチェンジウォッチングを楽しむー。

それだけではないー。
あの後輩の純粋そうな男刑事を揶揄って
楽しむのも面白いかもしれないー。

そんなことを思いつつ、愛(宗平)は
隠れ家に飾ってある1枚の写真を見つめるー。

宗平ではない、男の写真ー。

「ーーーーへへへー
 ”女”になるのは今回が初めてだなー」
愛(宗平)は笑みを浮かべるー。

彼はーー
”鶴野 宗平”ではないー。

鶴野宗平もまた、”愛”と同じように
かつて身体を奪われた人物ー。

チェンジウォッチングを楽しむ彼はー、
いつも、追いつめられると、
自分の身体を捨てて、他人の身体を奪い、
逃亡しているー。

”入れ替わり後”に、元に戻るまでの間に
もう片方の身体が死ねば、入れ替わりは解除されなくなる。

そうして、他人の身体を奪っているのだー。

「ークククー
 そうだー
 こいつの妹、入院中って言ってたなー」

愛(宗平)は不気味な笑みを浮かべると、
そんな言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後ー。

愛(宗平)は、とある建物の屋上にいたー。

屋上から下を双眼鏡で見つめながら
笑みを浮かべるー。

自分が”女”になろうと関係ないー。
入れ替わった人々の戸惑いの表情を見つめながら
楽しむ遊びは、
今までも、これからもやめるつもりはないー。

「ククー」
愛(宗平)は双眼鏡を手に、
ターゲットを探すー。

そしてまた、面白そうな組み合わせを見つめると、
今までの自分の手とは違い、
綺麗な手で、その人物たちを指差すー。

「えっ!?なんだ!?」
「わ…わたしが目の前にー!?」

入れ替わった二人が狼狽えているのが見えるー。

そんな様子を見つめながら、愛(宗平)は
にやりと笑うと、双眼鏡を手に
興奮した様子でペロリと唇を舐めながら囁いたー。

「ー戸惑う様子を見せてくれー」
とー。

おわり

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コメント

最終回でした~!☆

この先も、彼(彼女??)は
入れ替わりを観察する日々を続けそうですネ~!

お読み下さりありがとうございました~!

コメント

  1. 匿名 より:

    あ〜あ。後輩から気をつけるように注意されてたのに、バカみたいに正面から対面するから、ひどいことに。

    最初から問答無用で銃殺してればどうにかなったかもしれませんけど。まあ、その場合、愛は犯罪者として逮捕されていたでしょうね。

    この話は、以前のお前でヨシ!に似て非なる物ですよね。犯人が他人の入れ替わり後の反応を楽しむことを目当てにしてることや、自分自身の入れ替わりをメインにはしてませんし。

    死んでない限り、次に入れ替わるとその前の入れ替わりが解除されるなら、基本的にそこまで滅茶苦茶にはなりにくそうですよね。

    大抵は短時間ですぐ戻れるでしょうし。ただ、不運にも片方が事故などで死んで戻れなくなった不運な被害者も少なくはなさそうですが。

    • 無名 より:

      感想ありがとうございます~~!☆

      確かに「ヨシ!」のお話と似た感じですネ~!
      (私もちょっぴり意識しました~!☆)

      今回は1組までしか基本は入れ替わらないので、
      ヨシ!の話よりは、まだマシ(?)なのかもしれませんネ~!

      彼を止めるには…二人がかりで即座に拘束すれば
      何とかなったかもしれませんネ~…!