<TSF>停電が招く悲劇③~変身・入れ替わり~(完)

TSFな夢の数々を実現した近未来ー。

しかし、いずれの技術も”電気”を使っていたために
世界規模の大停電が起きたことで、
悲劇が起きてしまうー…。

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犯罪組織の幹部・尾関が主催した食事会に
参加した尾関と親しい女・綾ー。

しかし、ここにいる”綾”は偽物ー。

「ーーえ~!ほんとに~?
 取引ってそんな場所でするの~?」
綾が驚いた表情を浮かべながらそう言葉を口にすると、
犯罪組織幹部・尾関は笑いながら頷いたー。

「驚くだろ?
 サツの目を欺くためには、俺たちは二重、三重にも
 色々策を講じるってことさ」

尾関は、綾を前に得意気な表情を浮かべながらそう語るー。

”ーーそうかそうかー…そんな場所で取引してやがったんだなー”
綾に”変身”している捜査官・唐沢はそう心の中で思いながら
笑みを浮かべるー。

キラキラとしたまるでキャバクラで働いているかのような
自分の格好に、少し戸惑いを感じながらも、
”こういう格好しながら毎日働くのって、なんか俺には想像できないな”と、
綾に変身している捜査官・唐沢は心の中でそう呟くー。

唐沢捜査官は”変身を用いた捜査”のエキスパートで、
変身対象のことを、短時間で徹底的に調べ上げて
完全にその相手になりすますことができるー。

細かい仕草のひとつひとつまで、短期で暗記することができるため、
通常、”変身による捜査”は、変身対象が男性であれば男性捜査官、
女性であれば女性捜査官が担当することが多いものの、
彼の場合は、変身対象が男女どちらであった場合でも、
捜査を任されることが多いほどのエキスパートだー。

「ーあ、わたし、一旦お手洗いに」
”情報”を聞き出すことに成功した綾に変身している唐沢捜査官は、
そう言葉を口にして、立ち上がったー。

がー、その時だったー。

宇宙からの未知の物質が原因の”大停電”が発生したー。

「ーーー…!?!?!?!?!?」
室内の照明が一斉に消えるー。

「なんだー!?」
犯罪組織幹部の尾関が叫ぶー。

それと同時に、「えっ!?なにっ!?」と、
綾に変身している唐沢捜査官が”綾”のフリをしながら叫ぶも、
”男の声”が出て表情を歪めるー。

「えっー…」

そうー
”変身システム”の大停電により、シャットダウンされてしまいー、
綾に変身していた唐沢捜査官は”元の姿”に戻ってしまったー。

まるで”女装したおっさん”のような状態にー。

「ーーー!?」
すぐに部下が、”火”で周囲を照らしたことにより、
尾関は、変身が解除されてしまった唐沢捜査官の姿を目視で確認するー。

「ーーな…何だお前はー!?」
尾関が叫ぶー。

唐沢捜査官は「く、くそっ!!」と、女装状態のまま
その場から逃げ出そうとするー。

しかしー

「ーーおい!そいつを逃がすな!殺せ!」
そう叫んだ犯罪組織幹部の尾関ー。

部下たちが銃を手に、逃げようとする唐沢捜査官を銃撃するー。

その場に倒れ込む唐沢捜査官ー

「な…なぜー…」
”変身”で潜入捜査を行う捜査官・唐沢は
この日ー、あまりにも不運な停電によって、
殉職してしまったのだったー。

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「ーーでは、お互いの同意書の確認をさせていただきますー」

そう言葉を口にする男ー。

この世界ではー、
”お互いの同意があれば”
身体を入れ替えることができるというシステムが
採用されていたー。

開発された”入れ替わりカプセル”にお互いが入ることによって、
お互いの精神を入れ替えて、”入れ替わり”を実現するー。
そんな技術の完成後、
法律でルール作りが行われて、
互いに同意、さらに審査を受けた結果、入れ替わりが認められれば
公的に入れ替わりを行うことができるようになったのだー。

憑依同様、悪用されないようにしっかりとルール化
された上での導入だー。

”憑依専門店”とは異なり、娯楽の一時的なものではなく
入れ替わりは、”お互いに同意した上で、この先ずっと入れ替わって生きていく”という
この世界では結婚と同じぐらいの重みを持つもので、
”一度入れ替わったけれど、また元に戻ること”は、
離婚と同じような扱いを受けていたー。

そんな中、今日は結婚1年目の夫婦がやってきていたー。

「辻村 裕美香(つじむら ゆみか)さんと、
 辻村 貞夫(つじむら さだお)さんですねー

 手続きは既に審査の際に完了しておりますので、
 準備が出来たら、そのカプセルの中に、
 それぞれお入り下さいー」

担当の男がそう言葉を口にしながら、
装置に繋がれた2つのカプセルを指差すー。

これに入ることにより、
互いの精神を入れ替えることができるー。

「ーーすごいー…」
裕美香が、その装置を見つめながら感心した様子で言うと、
貞夫も「僕たち、本当に入れ替われるんだねー」と、
穏やかな表情で言葉を口にしたー。

「ふふーやっとだねー」
裕美香は嬉しそうに笑うー。

二人とも、小さい頃からの幼馴染で、
貞夫はどちらかと言うと、女子が好むようなことが好きで、
裕美香の方は、逆にスポーツが大好きな活発な子だったー。

お互いによく、”生まれて来る性別、間違えちゃった感じがする”などと
冗談も言い合っていたぐらいだー。

そんな二人が、時を経て、恋人同士となり、
結婚も視野に入れ始めた頃から、
二人はある約束をしていたー。

それは、結婚したらお互いに身体を交換しよう、という約束ー。
既にお互いの両親の同意も得ていて、
裕美香は貞夫に、
貞夫は裕美香になる、と、二人はそう決めていたー。

「ーー裕美香になったら、いっぱいおしゃれしてみたいなぁ…
 僕の身体じゃ、なかなかするにも限界があったしー、
 女子みたいなおしゃれをしようとすると、
 僕だと女装になっちゃうからー…」

貞夫が苦笑いしながら言うー。

ようやく、小さい頃からしてみたかった
”女子”としての普通のおしゃれを楽しめるー。

できれば、学生時代に経験したかったけれど、
入れ替わりを利用できる色々な条件や審査のことも考慮して、
大学を卒業して結婚するまで待つことになってしまったー。

「ーわたしはやっぱ、貞夫の身体でまずは色々な運動
 してみたいかなぁ
 小さい頃の夢はもう叶わないけどさ」

裕美香は笑いながら言うー。

裕美香は、小さい頃スポーツ選手を目指していたー。
が、そのスポーツはプロの世界は
圧倒的に男子が有利なスポーツで、
女子がプロになったとしても、
その”先”の生活を考えると収入面や持続性を考えて
裕美香は高校生になる頃にその道を諦めたー。

当時は何度も「男に生まれたかったー」と、
そう口にしていたこともあったー。

今はもう、すっかり割り切ってはいるものの、
やっぱり、裕美香は男になりたい、という気持ちが強く、
こうして夫になった貞夫と入れ替わる決意をしたー。

「ーーじゃあ、中に入ろう
 僕はこっちでー」
貞夫が2つあるカプセルのうち、一つを指差すと、
裕美香は「じゃあわたしはこっちー」と、もう一方の
カプセルの方を指差したー。

「ー自分の身体とのお別れ、済ませたー?」
貞夫がそう言うと、
裕美香は「え?あははーう~ん……お別れって言ってもね~」と、
することがなさそうに笑うー。

貞夫も笑いながら、
「僕もすることないやー」と、そう言うと、
そのままカプセルの中へと入って行ったー。

「ーーでは、入れ替わりを開始します」
担当の職員がスイッチを押すー。

そしてー、
”入れ替わり”が始まるー。

カプセルから”二人の精神”が
吸収されるー。

そしてー、
装置の中に吸収された二人の意識が、
そのまま相手の身体の方に”注入”されるかのように
反対側のカプセルにもう一人の身体の方に流れ込み始めるー。

「ーー」
担当の職員は、”いつものように”その様子を見つめるー。

彼はこの入れ替わりの業務をいつも担当しているため、
初めのころは、新鮮味があったものの、
今はすっかり”流れで作業”するようになっているー。

”そろそろ半分か~”
担当の職員は、心の中でそんなことを思いつつ、
カプセルの光を見つめるー。

”それにしても、入れ替わりを希望する人って結構多いんだなぁ…
 僕は別にしたいとは思わないけど”

心の中でそう思いつつも、このあとの手続きに必要な書類を準備しつつ、
入れ替わりが終わるのを待つー。

がー、その時だったー

”大停電”が起きたー。

「ーえっ!?」
担当の職員は、思わず声を上げると、
真っ暗になった部屋で、周囲を見渡すー。

当然、この設備にも非常電源が用意されていて、
落雷など、普段から起きる可能性が0ではない停電に
備えてはいるー。
入れ替わりが”途中”で止まれば当然予期せぬ事態が
起きてしまうからだー。

しかし、宇宙からの未知の物質が原因であったために、
単純に送電が止まるだけではなく、
通常の停電であれば使えるはずの非常電源や
バッテリーの類まで停止してしまったー。

そのため、通常の停電であれば
すぐに復旧するはずの入れ替わり装置も復旧せず、
完全に停止してしまったー

「えっ…えぇっ!?ど、どうしてー!?」
担当の職員が声を上げるー。

なんとかして再起動を試みるも、当然、
電気が使えない状態ではどうすることもできないー。

「ーー緊急事態だー」
担当の職員はそう呟くと、部屋の外にいる別の職員を呼びに行くー。

しかし、各部署とも大混乱していて、
どうすることもできないままー、
やがて、”宇宙からの未知の物質”が地球を完全に通過し終えたことで
その影響は無くなり、20分で世界規模の大停電は解消されたー。

しかしーー
入れ替わりの装置は、途中で20分も停止したことにより、エラーを起こし、
入れ替わり率55%の状態で停止した状態となってしまっていたー。

「ーーくそっー再開できない」
担当の職員がそう言うと、
別の職員が「カプセル内の酸素がなくなりそうだー」と、
そう言葉を口にするー。

このままでは裕美香と貞夫の二人が死んでしまうー。

「ーーー…やむを得ないー強制排出するしかないー」
担当の職員がそう言葉を口にすると、
緊急時のためのボタンを押して、
そのまま二人が入っていたカプセルを開いたー。

「ーーー!」
裕美香が目を覚ますー。

すぐに、貞夫の方も目を覚ますと、
二人とも、相手の方を見つめたー。

「ーーあ……ぼくー」
”裕美香”が言うー。

「ーあ…わたし…!」
”貞夫”もそう言葉を口にするー。

「ーー二人とも、問題は無さそうですかー?」
さっきまで狼狽えていた担当の職員は、
接客モードに切り替えて、早速そう言葉を口にするー。

すると、裕美香(貞夫)は「入れ替わったー…」と、そう言葉を口にし、
貞夫(裕美香)も「はいー…問題なさそうです」と、そう言葉を口にしたー。

”よかったー”

担当の職員は、入れ替わり率55%で停止してしまったものの、
二人は無事に入れ替わった様子であることにホッとして、
そのまま手続きを始めたー。

手続きを終えて、帰宅する二人ー。

がーー

帰宅すると、裕美香(貞夫)も、貞夫(裕美香)も、
イスに座ったまま、ぼーっと、感情を感じさせない様子で
会話を始めたー。

「ーふぁ~~…ねむ…」
入れ替わったのに喜ぶ様子も見せずに、
無表情のままそう呟く裕美香(貞夫)ー

貞夫(裕美香)も「入れ替わっても、特に何も感じないねー」と、
感情を感じさせない口調でそう言うと、
そのまま面倒臭そうに座ったままあくびをしたー。

入れ替わり率55%で止まってしまった二人はー、
人間らしい感情を失い、何事にも無気力になってしまったー。
そして、それが”治る”ことは2度となかったー…。

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大停電は終わったー。

が、世界各地ではあらゆる被害が出て、
その対応に追われていたー。

”憑依”を楽しんでいた者たちは、
元の身体に戻れなくなり、それぞれ憑依先の身体で生活することになり、
憑依専門店で働いていて、憑依されていた人たちは
そのまま永遠に身体を奪われることになってしまったー。

”女体化”手術をちょうど受けていた彼は
”半分女体化”状態のまま生きることになり、
やがて、精神的に病んでしまったー。

”人を皮にする”手袋で少女を乗っ取り、笑みを浮かべていた彼は
車に跳ねられて死亡ー、

”変身”で、潜入捜査を行っていた捜査官もまた、
大停電のせいで命を落としたー。

そして、入れ替わりで幸せな未来に向かうはずだった二人は
今も無気力のまま生活を続けていて
お互いに仕事もやめてしまったー。
完全に破滅するのは、時間の問題だー。

停電が起こした悲劇ー。
それは、多くの人の人生を変えてしまったのだったー

おわり

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コメント

TSFなお楽しみの数々が
もしも停電で被害を受けたら…?を
描いたお話でした~!☆

どの人もみんな、運が悪かったのデス……

お読み下さりありがとうございました~!☆!

PR
TSF<停電が招く悲劇>

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