人気アイドルと入れ替わってしまった男ー。
しかし、彼は元の彼女よりも完璧にアイドルとしてこなし、
勝ち誇った表情でこう言ったー。
”大丈夫 あなたは必要ないよ”
とー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーはぁ?
マジであり得ないー」
不満そうにそう言葉を口にするのはー、
人気アイドルの山咲 美音(やまさき みおん)ー
その見た目と、高い歌唱力、
演技力の高さから、多くのファンを抱えている
人気絶頂のアイドルだったー。
しかし、そんな彼女は小さい頃から
甘やかされて育ち、
また早い段階から人気アイドルとしての階段を駆け上がっていたために
とても”ワガママ”な性格の持ち主だったー。
今日も、マネージャーや周囲のスタッフに八つ当たりをする日々を送る美音ー。
「ーーーー」
そんな様子を、美音がよく出入りしているスタジオの
清掃スタッフとして働いていた男、西脇 大悟(にしわき だいご)は
苦々しく思っていたー。
”あの子、ホント、ワガママだよなぁ”
40代の独身男性である大悟ー。
どこか優しそうな雰囲気の、頼りになりそうなおじさん、と言う感じの風貌だー。
彼は真面目な性格で、仕事ぶりも優秀な男だったー
そんな彼がこのスタジオで清掃のパートをしているのにはとある理由があったー。
大学を卒業後、ずっと勤務してきた会社が
倒産したのだー。
その結果、職を失い、既に40代になっていた大悟は
そう簡単に転職することもできず、
清掃のパートをして、何とか食いつないでいたー。
最近は、あの人気アイドルの美音がこのスタジオに
よく出入りしていることもあって
度々美音のことを目にするようになりー、
美音の横暴な振る舞いをよく見かけるようになったー。
元々、ファンと揉めたり、
露骨に不機嫌な状態で会見に出て来たり、
週刊誌にも何度か記事が出たり、
そういったことも多い子であったものの、
売れっ子であるために、その都度、所属事務所が庇い、
いずれも大きな問題にならずに
今も絶大な人気を誇っているー。
”あ~あ…あの子の周囲で働いているスタッフさんー、
ホント、可哀想だよなー”
大悟はそんなことを思いつつ、自分の清掃の仕事に
集中しているフリをしながら、聞き耳だけ立てるー。
すると、
「あんたはクビよ!明日から来ないで!」
美音が、マネージャーらしき中年の女性に対して
そんな言葉を口にしたー。
「ーも、申し訳ありませんー
ですがー、わたしがいなければスケジュールの管理がー」
”クビ”を言い渡された
マネージャーらしき中年の女性が困惑した様子で、
美音に対してそう話しかけている。
「ーーそんなの誰だってできるから大丈夫ー。
あんたはもう必要ない」
美音はそれだけ言い放つと、
「ーーこ、今後は気を付けますからー」と、
マネージャーの女が美音に縋りつくー。
「ーーわたしの代わりはいないけど、
あんたの代わりなんていくらでもいるのー
分かったらさっさと消えて」
美音がそう言い放つとー、
マネージャーの女性はその場で泣き崩れてしまうー。
なおも、他のスタッフにキーキー何か文句を言いながら
立ち去っていく美音ー
その様子を見ていた大悟は、
困惑しながら、泣き崩れている”クビになった女性”に近付くと
「大丈夫ですかー?」と、
そう心配そうに声を掛けたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー。
”皆さんの支えがあってこそだと思ってますしー、
いつも感謝していますー”
仕事に向かう前ー、
たまたまテレビ出演していた美音が、
”周囲へのスタッフへの感謝”を、インタビューの最中に
口にしているのを見て、
大悟は思わず鼻で笑うー。
「ーー裏ではあんなに怒鳴り散らしてるんだから怖いよなぁ…
感謝も何もないしー」
大悟は、そう呟きながら
そろそろ今日も清掃のパートがあるために、
出かける準備を始めるー。
いつものようにスタジオにやってきて
階段の掃除をしていると、
やがて、美音がやってきたー。
階段の上で、何やらまたスタッフと言い争いをしているー。
「ーあんたみたいな無能ー、
初めて見たー。
この能無し!」
美音にそう言われて、気弱そうなおじさんが
「申し訳ありませんー」と、そう言葉を口にしているー。
「ーーホント、使えないー。
あんたみたいなの必要ないからー。
明日から来ないで」
美音はそれだけ言うと、そのまま階段を下り始めるー。
階段の途中のところで掃除をしていた大悟は
そんな美音の様子を見かねて
はじめて美音に直接声をかけたー。
「ーーあのー、あなたは山咲 美音さんですよねー?
テレビにも良く出ているー」
大悟がそう声を掛けると、
美音は”は?”と言わんばかりの表情で
露骨に不機嫌そうに
「はい?そうですけどー?」と、そう言葉を口にするー
滅茶苦茶不機嫌そうではあるものの、
それでも、滅茶苦茶可愛い雰囲気なのは、
なんだかちょっとだけ腹が立つような気もしながら、
大悟は続けるー。
「ーあなたがスタッフさんを怒鳴り散らしている姿を
よく見かけるものでー…
もうちょっと、周囲に気配りもした方がいいんじゃないかな~?
って、そう思いましてー」
大悟がやんわりと美音に指摘をするー。
がー
「ーーはぁ?大体アンタ誰よ?」
美音が不満そうに言うー。
大悟は、このスタジオのパートで清掃をしていると伝えると、
美音は大悟を鼻で笑ったー。
「ーーフリーターのおっさんがわたしに口出しするとか
あり得ないんだけどー?」
美音が半笑いでそう言葉を口にするー。
その言葉に大悟はムッとしながら、
「ほら、そういう態度ー、よくないですよー。」
と、そう指摘するー。
しかし、その言葉に美音はさらに腹を立てたのか
露骨に不快そうな表情を浮かべながら
大悟を睨みつけたー。
「ーーあんた、ここのパートって言ったよねー?
名前は何て言うのー?」
美音の言葉に、大悟は自分の名前を名乗るー。
すると、美音は言ったー。
「ふ~ん、西脇さんね。
あんたみたいのがいると空気悪くなるから、
ここのスタジオの人に言って
あんたをクビにしてもらうからー」
美音はそれだけ言うと、大悟を無視して
そのまま階段を下りようとするー。
「えっ!?」
大悟は思わず驚くー。
自分は、美音の部下ではないー。
美音とは直接的には関係などないし
”美音が利用しているスタジオのパート清掃員”だー。
美音とは雇用的に何の関係もないー。
その大悟をクビにすると言い放った美音に対して、
「ーあなたにクビにされる筋合いなんてありませんよー。
それにここの清掃スタッフは私とー」
と、そう言いかけるー。
だが、美音は笑ったー。
「ーー大丈夫 あんたなんて必要ないからー。」
とー。
「ーこのスタジオの人だって、わたしみたいな超人気アイドルが
来なくなったら困るわけー。
でも、あんたみたいなおっさんなんていくらでも補充できるの。
分かる?
誰にでもできるようなことを適当にやってるだけなんだから、
誰もあんたなんか必要としてないし、
いなくなっても誰も気付かないー」
美音はあざ笑うようにしてそう言うと、
「とにかく、アンタはクビ。わたしが利用するスタジオの空気を
悪くするとかー、公害と同じだからー」
と、そう言い放つと、今度こそそのまま階段を
下りて行こうとするー。
”公害”とまで吐き捨てられた大悟は、
あまりの失礼な態度にムッとしてー、
そして、このままクビにされては困ると言う思いから
「ちょっと待ってください!」と、その腕を掴んだー。
しかしーー
急に腕を掴んだことで、
腕を掴まれた美音が驚きの表情を浮かべながら振り返ると、
そのまま足を滑らせてしまうー。
「ー!!」
大悟が、咄嗟に転落しそうになった美音の腕を再度掴もうとするも、
そのまま二人は階段から転がり落ちてしまうー。
「ーーえっ!?ち、ちょっとー!?だ、大丈夫ですか!?」
階段の上で美音に怒られていた気弱そうなおじさんが
異変に気付いて、慌てて駆け下りて来るー。
がー、階段から転落した美音と大悟は
その場で意識を失っていたー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー!!!!」
スタジオ内の体調不良になった人が運び込まれる部屋で
目を覚ました大悟ー。
「ーーあ、よかったー…怪我はない?」
目を覚ますと同時に、そんな声が聞こえてきてー、
「ーーえ…あ、いや、私は大丈夫ですー」と、
大悟はすぐにそう声を発するー。
「それよりも、山崎さんはー…」
と、美音の身を案じる言葉を発する大悟ー。
が、そう言いながらも、
”えっ!?”と、心の中で異変に気付いていたー。
自分の声が”おかしい”ー
いや、”おかしい”で済まされるレベルではないー。
自分の口から、”男”の声ではなく
”女”の声が出ているー。
しかも、その”声”は、大悟が仕事中に
今まで何度も聞いたことがある声だったー
「ーー…ーえ…だ、大丈夫ー?
あ、あなたが美音でしょー?」
目の前で、心配している女性の言葉に、
大悟は「!!」と、自分の身体を見下ろすー。
「な…っ」
思わず、変な声を出してしまう大悟ー。
自分が、アイドルのような衣装を身に着けていたー。
しかもー、”女装”状態になっているわけでもなく、
自分の身体自体も”女性”のものになっていたー。
「ーー…え……ど、どうしたのー…?
き、記憶がハッキリしないとかー…?」
美音のスタッフか、マネージャーか、
それらしき雰囲気の女性が心底心配そうに言葉を口にするー。
「ーーあ…いや、うんー…だ、大丈夫ー
ね、寝起きと同じで、寝ぼけてる感じになっちゃってー」
自分が”山咲 美音”になってしまっていることを
察した大悟は、すぐに”美音”としてそんな言葉を口にすると、
美音を心配していた女性も、少し安堵の表情を浮かべたー。
「あ、そ、それで、私ー…じゃない、
も、もう一人、わたしと一緒に落っこちた人はー?」
美音(大悟)が”自分の身体”のことを心配して
そんな言葉を口にすると、
その女性は「あ、うんー。あの人も大きな怪我はないみたいだし、
すぐに意識は戻ると思うー」と、そう言葉を口にすると、
反対側のベッドを指差したー。
「ーーー!」
美音(大悟)が、女性の指さした方向を見つめると、
そこには意識がまだ戻っていない大悟自身の身体があったー。
”め、目の前に私の身体があるなんてー…
なんか変な気分だなー”
美音(大悟)は、心の中でそう思いつつ、
起き上がると、髪の感触や胸がある感覚、
色々なことに違和感やドキドキを感じながら、
眠っている自分の身体へと近づいたー。
「ーーーーー…(生きてはいるー)」
美音(大悟)はそう思いつつ、
表情を曇らせると、
”私がこの子になったということはー、
この子は、私にー?”と、
心の中で考えるー。
ただー、別の可能性もあるー。
大悟の身体は抜け殻になっていて、大悟が美音に入り込んでしまっているだけの
可能性も考えられるー。
”とりあえず…私の身体が目を覚ますかどうか、だなー”
美音(大悟)は、そう心の中で呟くー。
”大悟の身体”が目を覚ますか、
あるいは眠ったままなのかー。
それが分からないと、どういう状況なのか
美音(大悟)にも分からないー。
身体が入れ替わったのか、
あるいは大悟が美音に”憑依”してしまった状態なのかー。
それが分からないと、この先の対応も考えにくい。
そう思っていると、美音(大悟)に
美音のことを心配していた女性が声を掛けて来たー。
「あ、あのー、このあとの生放送、出れそう?」
とー。
「えっ!?」
美音(大悟)は、ドキッとするー。
そう、美音はこのあと、生放送の収録に出演する予定だったのだー。
「ーー…~~~~!」
美音(大悟)は困惑した様子で、大悟の身体を見つめるー。
が、大悟の身体が目覚める様子はなく、
仕方がなく、美音(大悟)は「え、えっとー、どんな番組だったっけー…?」と、
そう確認すると、相手の女性は困惑した様子を浮かべながらも、
トーク番組だと、そう説明したー。
ちょっとした宣伝のために出演するようだー
”仕方ないー。この子のためにも、なんとかするかー”
美音(大悟)はやれやれ、と思いつつも
そのまま美音の身体で生放送に出演する決意をして歩き始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーぅ…」
しばらくしてーーー
後から目を覚ました”大悟になってしまった美音”は、
自分の姿を鏡で見て
「な、な、な、なにこれ!?!?!?!?」と、そう声をあげたー…。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
入れ替わってしまった二人…★
今日は入れ替わるところまでが中心でした~!
明日からは入れ替わり後の本番ですネ~!!★!!
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