人を洗脳する力を使い、
”嫌われる”ことを望む男ー。
何故、彼はそのような行動に出たのかー。
その真相とはー…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー。
「ーーアイツのこと思い出すだけでイライラしちゃうー」
芳樹の”元カノ”・恵麻が不満そうにそう言葉を口にするー。
「ーホントに大丈夫?何があったのー?」
恵麻の友達からも”仲良し”に映っていた
恵麻の彼氏・芳樹ー。
その芳樹に”俺を嫌え”と、洗脳されて、
芳樹のことを嫌悪するようになった恵麻を前に、
恵麻の友達は、戸惑いを露わにしていたー。
「ー何がってー…」
恵麻は表情を歪めるー。
”ーーーーー……”
”どうして”芳樹のことを嫌いになったのかー。
それを思い出そうとしても、理由が恵麻自身にも分からないー。
芳樹のことを考えていると、只々イライラするし、
嫌悪感が心の底から湧き上がってくるー。
しかしー…
”どうして?”と聞かれると、答えられないー。
「ーー…あんなに仲良かったのに!
なんか酷いことでもされたの?」
友達の言葉に、恵麻は困惑するー。
「ーーー……」
”仲良しだったこと”は、覚えているー。
芳樹が恵麻を洗脳した際に、
”俺との思い出を忘れろ”とでも命令していれば違ったかもしれないー。
しかしー、
ただ”君は俺のことが嫌いだ”と洗脳しただけである以上ー、
恵麻の”これまでの記憶”は失われていないー。
「ーーー……わ、分からない」
恵麻が表情を歪めるー。
「わ、分からないって、どういうことー?」
友達も困惑するー。
”あんなに仲良しだったのに”
理由が分からないけど嫌いになったー、と、でも言うのだろうかー。
事情を知らない友達からすれば
それこそ”意味不明”な状況でしかなかったー。
「ーーー……と、とにかく!アイツのことはもういいから!」
恵麻が自分の中の戸惑いを振り払うようにそう言葉を口にすると、
恵麻の友達は、戸惑ったような表情を浮かべながらも、
それ以上、しつこく聞くようなことはしなかったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「急に実家に帰って来てー珍しいわね」
芳樹の母親がそんな言葉を口にするー。
「ーはは、たまにはいいかなって思って」
芳樹がそう言葉を口にすると、
妹の涼香は笑いながら
「お兄ちゃん、わたしに会えなくて寂しいんでしょ?」と、
揶揄うように言葉を口にしたー。
「はははー、それもあるかなぁ~」
冗談めいた口調で、そう返す芳樹ー。
実家を出てから、芳樹が実家に帰るタイミングは
基本的に”夏休み”や”年末年始”など、
そういうタイミングが中心ー。
今日のように、特にそういうタイミングではない
”ふつうの日”に帰って来るのは珍しいことだったー。
家族で楽しいひと時を過ごす芳樹ー。
晩御飯を終えて、ひと息ついた芳樹は、
穏やかな笑みを浮かべたー。
”楽しかったー。本当にー”
そう思いながら、立ち上がった芳樹は
「母さん」と、声をかけるー。
「ん?どうしたのー?」
振り返った母親の方を見て、
芳樹は”人を洗脳するコンタクトレンズ”を使うと、
”息子とは絶縁状態で、口も聞きたくない状態”だと、
そう言葉を口にしたー。
少し咳き込みながら、芳樹は母親から「早く出ていきなさい!」と
罵倒されると、「少し待っててー。じきに出ていくからー」と、
そう言葉を口にしながら、
2階に上るー。
そしてー…妹の涼香の部屋をノックしたー。
「ー俺、そろそろ帰るよ」
涼香に対してそう言い放つ芳樹ー。
涼香は不思議そうにしながら、
試験勉強だろうかー。
勉強していた手を止めると、
「え?泊まっていけばいいのに~」と、そう言葉を口にするー。
「ーはは、そうしたいんだけどさー」
芳樹はそう言いながら、涼香の方を見つめるー。
「ーーー…涼香、これからも頑張れよー。
俺、応援してるからー」
芳樹がそう言い放つと、
涼香は「えぇ?なにそれ」と、思わず笑いだすー。
「なんか、遺言みたいで怖いんだけどー」
冗談っぽく笑う涼香ー。
芳樹も「はははー」と笑うと、
涙を堪えながらー…
”人を洗脳するコンタクトレンズ”の力を使い、
自分の目を赤く光らせたー。
涼香に対して、
”兄”に対する嫌悪や憎しみを刻み付けていくー。
”洗脳”が終わった頃には、
涼香は、ついさっきまで兄に向けていた笑顔を
その表情から消してー、
兄・芳樹を睨みつけていたー。
「ーわたしの部屋に入ってくんな!キモいんだよ!」
涼香にそう叫ばれて、芳樹は悲しそうにー、
けれども”これでいいんだー”と自分に言い聞かせながら
家から飛び出すー。
家の側に身をひそめながら、
何度か咳き込む芳樹ー。
やがてー、父親が帰宅するのを確認すると、
玄関先で声をかけて父親も洗脳ー。
やはり、自分のことを嫌うように仕向けたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
帰宅した芳樹ー。
”これで、いいんだー”
そう言葉を口にするー。
そんな芳樹の元に”バイト先の店長”から連絡が入るー。
先日、退職したばかりのバイト先だー。
”明日、退院できるそうだー”
バイト先の店長はそう言ったー。
芳樹のバイト先の先輩ー。
とある”怪我”で入院していたその先輩が、
明日、退院するようだー。
「よかったー」
芳樹がそう言葉を口にすると、
店長は”あまり自分を責めるなよ?”と、そう言葉を口にするー。
「ーーありがとうございますー。
でも、先輩が”襲われた”のは俺のせいですからー」
芳樹はそう言うと、
「ー店長も、もう俺と連絡を取るのはやめた方がいいですー」と、
悲しそうに咳き込みながら言葉を口にすると、
そのまま店長と少しだけ言葉を交わしてから電話を切ったー。
「ーーーーーーーーーーー」
芳樹は、目に涙を浮かべるー。
”そうだー。これでいいー”
とー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その後も、芳樹は恵麻と大学で遭遇しては口論しー、
親友だった勲と遭遇しては口論ー
苦しい日々を送ったー。
そして、その数日後ー…
「ーーーーーー」
大学から帰宅している最中の芳樹は気配を感じて立ち止まったー。
「ーーーーーよぉ」
その背後にいたのは、ガラの悪い男ー。
「ーーーーー…」
芳樹は返事をせずに振り返ると、
そこにはーーー
”クレーマー”の姿があったー。
今月のはじめー…
芳樹は、バイト先の飲食店でガラの悪い4人組のクレーマーに遭遇したー。
店に難癖をつけ、周囲の客にも迷惑をかける行為に及んでいた4人組だー。
そのクレーマーたちを注意して、退店させた芳樹ー。
だが、そのうちの一人が去り際に言ったのだー。
「テメェー。覚えてろよー」
とー。
飲食店で働いていれば、客が捨て台詞を残していくことなど、
それなりに日常茶飯事だー。
その時は、芳樹も気にしていなかったー。
しかしー…
その1週間後、芳樹と親しかったバイト先の先輩が、
階段から突き落とされて大けがをして、入院することになってしまったー。
そして、芳樹の元に
メッセージが届いたー。
”ーーお前の大切な奴を、毎週一人ずつ、奪ってやるー”
そんなメッセージがー。
それを見た芳樹は、激しく動揺したー。
すぐに芳樹は”俺に大切な人なんていないー”と、
メッセージを返信したものの、
このままでは、彼女の恵麻や、親友の勲、家族にも危険が及ぶと、
芳樹はそう感じ取ったー。
その結果ーー
芳樹は
恵麻や勲、家族と距離を置こうとしたのだー。
”巻き込まない”ためにー。
が、”俺を嫌ってくれ”なんて言って、そう簡単に相手が納得するはずもなく、
悩んでいた最中、芳樹は”人を洗脳するコンタクトレンズ”と出会い、
恵麻を、勲を、家族を洗脳して
自分との距離を取るように仕向けたー。
彼女も親友も家族もー
大切な絆をみんな失ってしまうー。
でも、それでも大事な人たちに無事でいて欲しかったー。
「ーーお前ー、
”ぼっち”だったんだなー?可哀想にー」
クレーマーの男は笑いながら言うー。
「ー俺に大切な人はいないって言っただろうが」
芳樹がそう言うと、
「ーーみたいだな」と、クレーマーの男は笑ったー。
どうやら、芳樹が”洗脳”で彼女や親友、家族を遠ざけたのが
成功したようだー。
この数日も、”わざと”洗脳した恵麻と話をして口論したりしたのはー
クレーマーたちがどこかで自分のことを見ているはずだと、
そう思ったからだー。
”洗脳”は仮に見られていても、
遠くからでは、何をしているのかまでは分からないはずだし、
実際に、この男は、恵麻や勲のことは”芳樹の大事な人”だとは
認識しなかったようだー。
「ーーーで、俺をどうするつもりだー?」
芳樹は不満そうに言うー。
「ーークククー
お前の大切な奴らを痛めつけて、お前が苦しむ様を見ようと
思ってたけどー、仕方ねぇ」
クレーマー男がそう言うと、
「ーーお前を痛めつけるだけで勘弁してやる」と、そう言葉を付け加えたー。
「ーー…バイトの店員にそんなにムキになって、
お前らに何の得があるんだよー」
純粋な疑問だったー。
けれどー、このクレーマーとその仲間の3人は
実際に芳樹のバイト先の先輩を大けがさせたー。
だからこそ、恵麻や勲、家族を”洗脳”してまで
芳樹は遠ざけたのだー。
「ーーうるせぇ!一度俺らをコケにしたやつは、
死ぬまで後悔させてやるんだ!」
クレーマー男がそう叫ぶと、他の3人の仲間も物陰から
ぞろぞろと姿を現したー。
少し咳き込みながら、
”はぁ、やっぱクレーマーの考えは理解できないな”
と、芳樹は”これ以上話しても無駄だな”と、そう判断するー。
もしかしたら殺されるかもしれないー。
芳樹はそう思いつつも、
”恵麻も、勲も、涼香も巻き込まれる心配はなくなったからー
それでいっかー”と、
少しだけ寂しそうに笑みを浮かべたー。
4人に廃墟のような場所に連行される芳樹ー。
だがーー
ふと、”あること”を思いついたー
「ーーー…!」
芳樹は目を見開くと、
「ーー…やってみよう」と、そう言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「へへへへへー
俺らをコケにするからこうなるんだぜー」
「おいっ!もうヤバいって!
コイツ、死んでる!」
「ーー…大丈夫、この辺に人なんて来ねぇよ」
「と、とにかくもう行こうぜー」
4人組はー
そう言葉を口にすると、
そのまま倒れ込んだ芳樹を残して
慌てて立ち去って行ったー。
「ーへへ…アイツの最期のツラ、最高だったなー」
4人組のクレーマーはそう言葉を口にすると、
そのまま夜の闇へと姿を消したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー」
数日後ー。
芳樹はーー
大学にいたー。
4人組のクレーマーは、芳樹を”殺した”と言っていたもののー、
芳樹は、普通に大学にやってきていたー。
”ーー最初から、ああすれば良かったのかもなー”
芳樹はーー
”クレーマーたちを洗脳”したのだー。
”俺は死んだ”
とー、そう思い込ませたー。
その結果、クレーマーたちは”芳樹を殺した”と思い込み、
そのまま立ち去って行ったー。
もう、芳樹に関わることはないだろうー。
思いつくのが遅かったー。
最初から、クレーマーたちを洗脳してしまえば良かったのかもしれないー。
「いやー…でも、それじゃ
クレーマーたちが俺の前に姿を現す前にみんなが狙われたかもしれないしー
みんなを先に遠ざけたのも正解だったかもなー」
芳樹はそう思いながら、少しだけ咳き込むー。
風邪もだいぶ治って来たしー…
そう思いつつ、芳樹は少しだけ寂しそうに笑うー。
”洗脳”は一度きりー。
同じ人間を何度も繰り返し洗脳することはできないー
だから、もうーー…
彼女の恵麻とも、親友の勲とも、家族とも
”元通り”になることはーーー
「ーーー!」
大学にやってきた芳樹の前に、彼女だった恵麻が
姿を現すー。
「ーー」
自分自身で”俺を嫌う”ように恵麻を洗脳した芳樹は
恵麻と関わらないように、そのまま通り過ぎようとするー。
がーーー
「ーわたしに何をしたの?」
恵麻がそう言葉を口にしたー
「え?」
芳樹が振り返ると、
恵麻は言ったー。
「ーあんたのことームカつくし、ウザいけどー
でもーー
わたし、あんたのことホントに好きだったー
急に嫌いになった原因が
何度何度何度考えてもー、分からないのー
ーーーーーー」
恵麻が寂しそうにそう言葉を口にすると、
芳樹の方を見つめたー。
「ーー何でわたしは、アンタを嫌いになったのー?
教えてー」
恵麻の言葉に、芳樹は表情を歪めるー。
「ーーー…教えなさいよー…」
目に涙を浮かべる恵麻ー。
芳樹がただ、”俺を嫌え”と洗脳しただけではー、
恵麻の、芳樹に対する強い想いを完全に消すことなど
できなかったのだー。
「ーーー……」
芳樹は目を逸らしながら、息を吐き出すと
「ーーー…わかったー…全部、説明するー」と、
そう言葉を口にしたー。
クレーマーたちに再度襲われる心配は恐らくもうないー。
芳樹に対する想いなど存在しないクレーマーたちは
”芳樹を殺した”と思い込んで、もう関わることはないだろうー。
全てを聞かされた恵麻は、
表情を歪めるとー、
芳樹の方を睨みつけながら言ったー。
「ーーーー………許せないー」
とー。
「ーーー…分かってるー…
でも、みんながあんな奴らに襲われたりするのを、見たくなかったー
理由を説明すればみんなを怖がらせるだけだと思ったからー
だからー」
芳樹が悲しそうにそう言うと、
恵麻は、芳樹の方を見つめながら言ったー。
「ーーーーーだったらーーー
わたしを洗脳した責任を取ってー、
わたしがまた、あんたのこと好きになるまでー
わたしから逃げずに付き合って」
恵麻は芳樹の方を睨みつけながら
そう言葉を口にするー。
「恵麻ーーー…」
芳樹は表情を歪めるー。
洗脳された恵麻は、今は芳樹のことを嫌いで嫌いで仕方がない状態のはずだー。
けれどー
もしかしたら、いつかはーー
「ーーーーーー…分かったよー」
芳樹がそう言葉を口にすると、
恵麻は少しだけ笑いながら、「ーーなんかうざっ」と、呟くー。
もしかしたら、いつかー
恵麻とも、勲とも、家族とも、絆を取り戻すことができるかもしれないー。
そんな、わずかな希望を抱きながら
芳樹は恵麻の方を見て、「じゃあーまた、よろしくー」と、
そう言葉を口にしたー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
特殊な洗脳の使い方をするお話でした~!
ずっと書くかどうか迷っていたお話の一つでしたが
今回、こうして表に出ることができました~!★!
(話の内容だけ浮かんでいて
実際にはまだ書いていない作品が結構あります~笑)
お読み下さりありがとうございました~!★
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