異世界の占い師に憑依されてしまった彼女…。
そんな彼女を前に戸惑う彼氏…。
そしてー…
彼女がとんでもないことを言い始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーな、何してんのー?お姉ちゃんー」
妹の明日香が、困惑の表情を浮かべるー。
「ーえっ…あ、あはははー…」
姉・花楓のことを心配して、
花楓の部屋を見に来た明日香は、戸惑いの表情を浮かべていたー。
異世界の占い師・フレーチェに憑依されている花楓が、
部屋の鏡の前で胸を揉んでいたのだー
「ーーー…こ、こ、これはー
そ、そのー…」
顔を赤らめる花楓ー。
そんな”胸を揉んでいた花楓”の様子を見て、
「ーあんた、本当は”男”だったりする?」
表情を歪める明日香ー。
「ーーえっ!えぇ!?そ、それはないですー!
わたしはちゃんと女ですぅ!」
花楓がムキになって明日香をぽかぽかと叩いてくるー。
「ーーただ、わたし、胸があまり大きくなくて!
この子の方が大きいからつい、ドキドキしちゃって
触ってただけなんです!」
花楓のそんな言葉に、明日香は「あぁ…そうー」と、
ため息をついていると、
「ーお姉ちゃんの身体で、あまり変なことしないで」と、だけ
釘を刺すように呟くー。
「わ、わ、分かりましたー
ごめんなさいー」
花楓がペコリと頭を下げるー。
「ーーーその姿で敬語を使われると戸惑うなぁ」
今一度ため息をついて、自分の部屋に戻っていく明日香ー。
明日香は部屋に戻ると、勉強を始めるー。
姉・花楓と通う学校は違うものの、
明日香の学校もちょうど、試験が近付いている時期で、
そのための勉強をしている最中だったー。
「ーーーー」
隣の部屋からガサゴソと音がするー。
「ーーー…」
隣の部屋から、ガタガタと音がするー。
「~~~~~…」
明日香は、不愉快そうに表情を歪めるー。
”ってー…ひええええええええええええええええ!?!?”
隣の部屋から、花楓の悲鳴に似た声が聞こえるー。
「ーいい加減にーー」
明日香は、怒りの形相で、憑依されている花楓の部屋の
扉を開けると、花楓はガタガタと震えながら
明日香の方を見つめたー。
その手には、透明なスーパーボールが握られているー。
花楓と明日香が小さい頃に、お祭りなどで
集めたスーパーボールだ。
確かに、花楓の部屋にしまってあったような気がするー。
それを手にした花楓が震えながら言うー。
「ーーい、い、今、水晶玉で世界の運命を占ったんですけどー…」
花楓が涙目でそう言葉を口にすると、
明日香は「何で急に世界の運命なんか占うのさ…」と、
呆れ顔で呟くー。
が、花楓はそれを無視して
「そ、それより大変なんです!」と言葉を続けると、
涙目のまま、花楓は叫んだー
「あ、あと3日後にー世界が滅びるって、占いの結果がー!」
花楓の言葉に、明日香は「はぁ?」と、思わず変な声を出してしまうー。
「ーーた、ただの占いでしょ?そんなのアテにー」
明日香がそう言葉を口にすると、
花楓はさらに続けたー。
「ー今はわたしがやった占いは”魔導占い”と言って、
魔力を使って占っているので、当たるんです!
水晶玉と、魔力を掛け合わせて
未来の運命を感じ取ることができるんですー!
み、三日後に、世界は滅びますー」
花楓の言葉に、
明日香は大きくため息をつくと、
「それなら、問題ないよー」と、少しだけ笑うー。
そして、花楓の手からスーパーボールを取り上げると、
「あんたの世界にはないのかもだけど、
これ”水晶玉”じゃなくて”スーパーボール”だからー」と、
そう言葉を口にするー。
「本当に、魔導占いとかいうのがあったとしても、
これ水晶玉じゃなくて、スーパーボールだから、
あんたの占い、間違ってると思うから」
明日香がそう言うと、
花楓は不安そうな表情を浮かべたまま、
「す…すーぱーぼーる…?」と、首を傾げたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー。
彼氏の伸二は、花楓の家にやってくると、
妹の明日香から昨日の状況を聞き出したー。
「ー土日のうちに、何とかできればいいけどー」
伸二がそう言うと、
明日香は「昨日から世界が滅びるとかなんとか言い出しましたけど」と、
呆れ顔で、少し眠そうに言葉を口にするー。
「ーーえ…えぇ…?」
戸惑う伸二ー。
「ーお邪魔します…」と、頭を下げてから、
花楓の家の中に入ると、
そのまま明日香と共に花楓の部屋に向かったー。
すると、花楓は泣きながら、
「ー明後日、世界が滅んじゃいますぅ…」
と、落ち込んだ様子で言葉を口にしたー。
「ーーー…は、はははー」
伸二は苦笑いしながら、憑依されている花楓から話を聞くー。
それを聞き終えた伸二は、
花楓の妹・明日香と同じように”大丈夫。それはスーパーボールだから”と、
そう言葉を繰り返したー。
ようやく花楓が落ち着いてきたタイミングを見計らって、
伸二と明日香、花楓の三人は”花楓に憑依しているフレーチェ”を
元の世界に戻すための方法を考え始めるー。
すると、花楓が突然「あ!」と、言葉を口にしたー。
「ーー?」
伸二と明日香が花楓の方を見ると、
花楓は少し得意気な様子で、
「もしかしたら”転送の魔法”で、元の世界に戻れるかもしれません!」と、
そう言葉を口にするー。
フレーチェによれば、転送の魔法とは、対象者の姿を思い浮かべながら、
移動先を思い浮かべ、念じることでその場所にワープできるというもので、
花楓に憑依したフレーチェが”自分”を思い浮かべながら、
自分が元居た世界の光景を思い浮かべれば、元の世界に
戻れるかもしれない、と、そう言うのだー。
「ーへ~…じゃあ、早速やってみてー」
妹の明日香がそう呟くー。
がー、花楓は「そ、それがー」と、言葉を口にすると、
「水晶玉がないとー…できないんです」と、落ち込んだ様子を見せるー。
流石に、花楓の家にも、伸二の家にも水晶玉なんてないー。
「ーーーーーーーーじゃあ」
明日香は、そう呟くと、ふとスマホを手にするー。
そして、有名なあのネットショップの画面を開くと、
水晶玉を見つけて、それをポチポチと注文し始めるー
「い、いや…え…え、それ、アマゾ…ーーー」
伸二がそう言いかけると、
明日香は「水晶玉は水晶玉ですし、大丈夫だと思いませんー?」と、
伸二の方を見つめるー。
「ーーは…はは…ま、まぁ、試してみる価値はあるかー」
到着予定日は3日後ー。
水晶玉が到着次第、花楓に憑依しているフレーチェに、
”転送の魔法”とやらを使ってもらって、
元の世界にフレーチェを帰すー…。
そんな作戦を企てながら、伸二と、花楓の妹・明日香は
今日・土曜日と明日の日曜日、そして月曜日の間、
花楓をなんとか協力し合いながら見守ることにしたー。
そしてーー…
火曜日ー。
水晶玉が到着し、放課後になると
伸二は、花楓の家を再び訪れたー。
「ーーー」
水晶玉を前に、花楓は暗い表情だー。
「ーー………君は、元の世界に戻りたくないのかー?」
伸二が心配そうに尋ねるー。
「ーー物語の中の世界みたいな感じの世界なんて
面白そうじゃんー」
妹の明日香がそう呟くー。
しかし、花楓は首を横に振ったー。
「ーーこの世界の方が何倍も素敵ですよー。
皆さんは、わたしの世界のこと”ファンタジー”みたいって言いますけどー…
魔物はウロウロしてるし、いつ死ぬか分かりませんし、
娯楽も限られてますし、すぐ隣の国と常に争ってますしー、
そんな世界ですからー」
花楓は苦笑いすると、
伸二は「ーーあ、いや…なんか、ごめん」と言葉を口にするー。
その言葉に、花楓は「あ、いえ、謝らないでくださいー」と、だけ言うと、
「でも、わたしの世界にはわたしの大切な人もいますからー。
お父さんにお母さんー、それと、友達もー」と、そう呟くと、
届いた水晶玉を手に、”転送の魔法”を使い始めたー。
「ーありがとうございましたー
この、”花楓さん”って人にもお礼とー
あと…謝っておいてください」
花楓に憑依しているフレーチェは、そう言い放つと、
伸二と明日香の前で、光に包まれー、花楓の身体から抜けていくー。
「ーーー!!!」
伸二も、明日香も驚くー
花楓の身体から、占い師のような格好の優しそうな美少女が
姿を現すー。
霊体のように現れた”フレーチェ”は、そのまま微笑んで
消えていくーーー
”転送の魔法”が成功したようだー。
「ーーー」
気を失って、その場に倒れ込む花楓ー。
「花楓!」
「お姉ちゃん!」
伸二と明日香が花楓に駆け寄ったその時だったー
「ーーえっ!?」
突然、消えた”フレーチェ”が、また出現すると、
そのまま花楓の身体に吸い込まれていくー。
「ーーーぁっ…!?」
ビクッと震えて、花楓が目を覚ますー。
戸惑う伸二と明日香ー。
「ーーあ…あれ…確かに、”転送”されたはずなのにー…」
再び花楓の身体に入ってしまったフレーチェがそう呟くー。
「ーーえ…ど、どういうことー…?
ま、またお姉ちゃんの中にー?」
妹の明日香が表情を歪めるー。
「ーーど、どうして…?何か方法はないのかー?」
伸二が不安そうに言葉を口にすると、
花楓は表情を曇らせるー。
明日香が”ネットで買った水晶玉じゃやっぱダメなのー?”と、
小声で呟くと、
花楓に憑依しているフレーチェは「いえ…今、確かに転送は一度成功したのですが」と、
不安そうに呟いたー。
これまでも、元の世界で”転送の魔法”を何度か使ったことのある
フレーチェは、”確かに転送が始まった”感覚はあったのだと言うー。
が、それが途中で失敗して戻されたような、そんな感じなのだとー。
「ーー……」
困惑の表情を浮かべながら、花楓は
「ーー…で、でも、転送の魔法を使えば、元の世界には戻れなくても、
この身体は返すことができると思いますー」と、
もう一度魔法を使おうとするー。
”フレーチェ自身”を思い浮かべながら、
この家の別の部屋の思い浮かべるー。
そうすれば、花楓の中のフレーチェがその場所に転送されて、
憑依から抜け出すことができるー、ハズなのだと言う。
がー
「ーーあ…」
花楓が、困惑した表情を浮かべながら言葉を口にしたー。
「ま、魔力切れですー」
とー。
「ーえ?」
伸二が首を傾げるー。
花楓に憑依しているフレーチェは、戸惑いながら
「わたしたちの魔力には限度があって、連続で魔法を使える量には
限界がありますー。
魔力を使い果たしたら、しばらく魔力の回復を待たないといけません」と、
そう説明したー。
フレーチェの世界では、大気中に魔力が存在していて、
魔法を使わないでいれば、少しずつ”自動的に”魔力が回復していくらしいー。
しかしー
「ーーこの世界の大気中には魔力なんて、存在してないと思うけどー」
明日香がそう突っ込むと、
花楓に憑依しているフレーチェは、青ざめながら言ったー
「じ、じゃあ…も、もう魔法、使えませんー」
とー…
フレーチェがこの世界に来た時点では、元の世界で”魔力”を得ていた状態ー。
しかし、それを使い果たした今、伸二たちのいるこっちの世界には
”魔力”が存在しないため、回復が出来ないー
つまりー
「ーーわたし、この身体から出れなくなっちゃいましたー…」
花楓が苦笑いするー。
「ーーえぇっ!?」
「ーーそ、そんなー!?」
伸二と明日香が声を上げるー。
異世界の占い師・フレーチェは、花楓の身体から出ることが
出来なくなってしまったのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8年後ー
20代になっていた伸二と”花楓”は、結婚していたー。
「ーーまさか、こんなことになるなんて”こっち”に来た時は
思わなかったなぁ…」
花楓が苦笑いするー。
そんな花楓を見つめながら、伸二が「俺もだよー」と、呟くー。
花楓は伸二の言葉に少しだけ笑うと、
部屋の中に飾ってある”高校時代の花楓”の写真を見て、
申し訳なさそうに言葉を口にするー。
「ーー本当に、ごめんなさいー」
とー。
花楓に憑依してしまったフレーチェは、8年が経過しても、そのままー。
現在は”こっち”の世界で占い師として活動しながら、生活しているー。
「ーーー」
伸二も、寂しそうに花楓の写真を見つめるー。
流石に”こっちの世界”に来てから8年も経過した今、
当初のように信号無視したり、車に驚いたりはしなくなったけれど、
やはり今もどこか天然で、突然おかしな行動をするフレーチェを、
放っておくことはできず、伸二はこれからも彼女を支えていく決意をして、
今に至っているー。
花楓の身体を守り、そして中身のフレーチェも守るためにー。
現在は、それなりに幸せな日々を送っているー。
「それにしても、どうしてわたし、あの時
元の世界に戻れなかったんだろう…?」
不思議そうに呟く花楓ー。
伸二は、8年前のことを思い出すー。
”フレーチェ”が転送魔法を使った時のことー。
あれさえうまく行っていれば、フレーチェは元の世界に戻れて、
花楓も解放されるはずだったー。
がーーー
その答えはもう、分かりようがないー。
「ーははー…なんでなんだろうなー」
伸二はそう呟きながら、”花楓”のことを思い出しつつ、
寂しそうに、写真の方を見つめたー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8年前ー。
”「あ、あと3日後にー世界が滅びるって、占いの結果がー!」”
花楓に憑依したばかりのフレーチェが、そんな風に叫んだー。
結局ー
3日経過しても、世界は何も変わらなかったし、
伸二たちは、そんなことをすぐに忘れていたー。
しかしーーー
その占いは”間違って”いなかったー。
その3日後に”世界”は確かに滅んだー。
ただ、滅んだのは伸二たちがいる世界ではなく、
”フレーチェ”が元々いた世界だー。
フレーチェが暮らしていた国の隣国・魔導国家エルミラが、
世界を滅ぼすほどの威力を持つ大魔法を”帝国”に向けて放とうとした際に
その魔法が暴走ー、世界中に天変地異が起きて、
フレーチェの元いた世界はあっという間に滅んでしまったのだー。
”転送魔法”が、失敗したのはそのせいー。
フレーチェの”転送先”である”元いた世界”が既に滅んだあとだったため、
転送先が”ない”状態で、フレーチェの転送は失敗、
花楓の身体に戻されてしまったのだったー。
けれどー、
フレーチェや、伸二らがそれを知る由はないー。
”元いた世界が滅んでしまった”
それを知らないままでいられるのは、
彼女にとっては、幸せなことなのかもしれないー。
おわり
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コメント
彼女が憑依されたままになってしまうエンドでした~!
既に、物語内で8年も経過してしまったので、
正気を取り戻すことがあったとしても、
色々大変そうですネ~…!
お読み下さりありがとうございました~!
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