<憑依>命を捨てる彼女③~散らせはしないその命~(完)

自ら命を絶とうと目論む男。

そんな彼に運悪く憑依されてしまった彼女を
何とか救おうとする彼氏。

しかし、憑依された彼女の逃亡を許してしまいー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「くくくくくー…
やっと死ねるー」

”痴漢に追われている”と嘘の悲鳴を上げて
優斗の追跡を振り切った愛奈は
ニヤニヤと笑みを浮かべていたー

「ーーふふふ…今は元気なこの身体も
5分後には生命活動を停止していると考えると…
えへへー…興奮するなぁ」

愛奈は嬉しそうにニヤニヤと笑うー。

愛奈の身体は、憑依している男の意思に染まり、
”これから死ぬこと”に対して、本気で興奮していたー

「ーえへへ…身体もゾクゾクしてる」
愛奈はそう言うと、たどり着いた大通りを見つめるー。

「ーさ~て、車に轢かれて死ぬか!」
嬉しそうに言いながら、少し先にある建物を見つめる愛奈ー。

車に轢かれて死ぬかー
飛び降りて死ぬかー。

どっちにするかを迷い始める。

「ーうーん…”愛奈”ちゃんだったっけ?
君はどっちがいい?」

愛奈に憑依している男は、”愛奈”にそう確認するー。

「ーーーーー」
が、憑依されて完全に意識を奪われている愛奈に
返事をすることなどできないー。
いいや、そもそも愛奈に死ぬ気など微塵もない。

もしも今、愛奈に意識があるとすれば
全力で”そんなこと絶対にしないで!”と、
そう言葉を口にしただろうー。

愛奈は、次の土曜日に、彼氏の優斗と一緒に
遊園地に行くことを心底を楽しみにしていたー。
その楽しみさえ、憑依で踏みにじられて奪われてしまうー。

彼の人生は散々だったー。
愛奈に憑依している男の名は、大塚 武則(おおつか たけのり)ー。

小さい頃から、勉強に全力を注ぎ、
”将来、いい会社に就職して、親を楽させてあげたい”と、
ずっと、そう考えて来たー。

彼は、必死に勉強を続け、一流大学に入学し、
さらには大企業に就職することに成功したー。

大学時代には彼女もできてー、
彼ー、武則の人生は順調そのものだったー。

しかしーーーー
そこから、彼の転落が始まったー。

就職先の大企業で、陰険な性格の上司から
”成績優秀過ぎる武則”は、目を付けられてしまい、
その上司に身に覚えのない罪を着せられた挙句、懲戒解雇されてしまった。

”上司”は表向きは信頼される人物で、
自分がどんなに「そんなことはやっていません!」と主張しても
信じてもらうことさえできなかったー。

武則自身も精神的に病む中、更なる衝撃が
武則を襲うー。

武則の彼女が”浮気”している現場に偶然遭遇してしまったのだー。
しかも、浮気相手は武則の小さい頃からの幼馴染である親友だったー。

”本当にごめん。今度、ハンバーガー奢るから”

親友は悪びれることもなく、そう言ったー。
彼女の方は、逆ギレー。

信じていた彼女と、親友に裏切られて、
武則は人間不信に陥り、精神的に病んだー。

そしてーーー
引きこもりになったー。

仕事もせずに、引きこもる毎日ー。
上司からのパワハラと、彼女・親友の裏切りに
すっかり精神的に病んでしまった彼は、
引きこもりになってしまったのだー。

母親と口論することも多くなる毎日ー。

そんなある日、母親は
”全部わたしが悪いの”と、そう言葉を残してー、
”自殺”してしまったー。

震える武則ー。

父親は、”お前のせいだ!”と武則を罵倒して、
そのまま武則の前から姿を消したー。

一人になった武則ー
何もかも失った武則ー。

彼が考えたのは”死ぬこと”だったー。
小さい頃から必死に頑張り、努力し続け、名門大学に通い、
そして、一流企業に就職ー、
とにかく彼は真面目に頑張って来たー。

その結果がー
”陰険な上司に嫉妬されて、懲戒免職になり、
恋人と親友に裏切られて、母親は自殺ー”

そんな、最悪な結果だったー。

彼は、”もうこの世界に未練はない”と、そう思ったー。

全ての人間が”動く骨と皮と肉”にしか思えなくなった。
全ての情を失い、彼がたどり着いたのは”自殺”ー。

死ぬ前に手元にあるお金を全部使おうと、
散財し始める武則ー。

良いモノを食べまくりー、
欲しかったモノを買いまくりー、
遊べる限り遊んだー。

そんな中で手に入れたのが”憑依薬”だったー。
自分自身の身体を”霊”に強制的に変換させ、
他人への憑依を可能にする薬ー。

だがー、一度憑依すれば最後、
身体の乗り換えはできないし、その身体が死ねば
自分自身も死ぬ、という説明を見て、
武則は決意したー

”憑依薬を使って、誰かと一緒に死のう”
とー。

なんとなく、一人で死ぬのはイヤだったー。
それ以上に理由はないー。
一緒に死ぬのも誰でも良かったー。

”たまたま”この子ー…愛奈の身体を選んだだけだー

「ーーふふっ♡」
愛奈は嬉しそうに笑うと、
「これから死ぬことに興奮してるなんてー
わたしってば変態♡」と、
愛奈っぽくそう呟くと、
静かに、大通りの車道の方に向かって、
歩みを進め始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ふざけるなー…絶対に俺はー…
愛奈を死なせたりしない!」

優斗は、憑依された愛奈に騙されて
優斗を痴漢だと思い込んでしまった通行人たちから逃れ、
愛奈が向かった大通りに向かって必死に走っていたー。

小さい頃から知る間柄の愛奈ー。
愛奈との様々な思い出が脳裏に浮かぶー。

そして、その思い出はこれからも”増えていく”はずだったー。

”「あ、そういえば今度の土曜日だけど、帰りにここに寄らない?」”

ついさっきまでいつものように楽しそうにしていた
愛奈のことを思い出すー。

いきなり、知らない男に憑依されて
”自殺”させられるー。
そんな恐ろしいことあっていいはずがないー。

「ーーふざけるなふざけるなふざけるなー」

愛奈に憑依した、あまりにも身勝手な男に対して
激しい怒りを膨らませていく優斗は、
ようやくー、憑依された愛奈が逃げていった方向ー…
大通りにたどり着いたー

がーーー

「ーーーー!」
大通りにたどり着いた優斗が見た光景は、
絶望的な光景だったー

歩道橋に立つ愛奈が、優斗に気付いて笑みを浮かべるー。

愛奈は嬉しそうにその場で万歳をすると、
「わたし、死にまぁ~~す♡」と、優斗のいる場所にも
聞こえるぐらいに大声で叫んだー。

心底嬉しそうな顔ー。

「やめろーーーーーーーーーーーーー!!!」
優斗は、愛奈に聞こえるように大声で叫んだー。

歩道橋を乗り越えて、車道に転落しようとする愛奈が
止まる様子はないー。

愛奈に憑依している男に何を言っても無駄だー。
優斗は直感的にそう悟りー

「愛奈!!!目を覚ましてくれ!!!!」と、叫んだー。

”憑依”なんてされたことがないから、
どんな感じなのか、優斗には分からないー。
けれど、愛奈の意識は愛奈の身体の中にいるはずー。

愛奈本人の意識が、愛奈に憑依した男に打ち勝つことを願って、
そう叫んだー。

だがーーー

愛奈は笑いながらー、
そのまま歩道橋から転落ーーーー

信じられない”事故”が起きてしまったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数時間後ー

優斗は、呆然としていたー。

駆け付けた愛奈の両親や、愛奈の友人たちも集まる中ー、
優斗は、只々、全身から力が抜けていくのを感じたー

「ーーーー幸い、命に別状はありませんー。
あの状況で、奇跡と言えるでしょうー」

搬送先の病院で、愛奈の治療を行った医師が、
手術室から出てきて、そう言葉を言い放ったのだー

「ーーーー…」
優斗は、あまりの安堵感で、全身から力が抜けて、
その場にへなへなと座り込んでいたー。

てっきり、愛奈はもうー…と、
誰もがそう思っていたー。

けれどー
愛奈は大けがをしたものの、奇跡的に助かりー…
明日には意識を取り戻すだろう、とのことだったー。

「ーーよかった…本当によかったー」
愛奈の親がそんな言葉を口にしているー。

「ーでも、どうして自殺なんかー…?」
愛奈の友人がそんな不安を口にするー。

「ーーーーーー」
優斗は、そんな様子を見つめながら迷うー。

どうするべきかー、と。

しかし、その迷いはすぐに晴れたー。

”言うしかない”
優斗はそう思ったー。

”愛奈は、憑依されたんです”なんて言っても、
信じてもらえるかどうかは分からないー。

しかし、それでも”奴”は、意識を取り戻せば
また死のうとするに違いないー。
そう思いながら、優斗は意を決して、
「実は、愛奈はー…」と、そう言葉を口にしたー。

愛奈の両親ー、愛奈の友人を前に
優斗は今まで起きた出来事を包み隠さず話したー。

「ー信じてもらえないと思いますし、
俺も実際、まだ信じられないですけどー、
でも、愛奈が自殺する理由なんて何もないですし、
何より俺は目の前で見たんですー」

優斗が、そう言葉を口にすると、
愛奈の両親と、愛奈の親友は困惑しながらも、
やがて、愛奈の母親が口を開いたー

「でも、優斗くんが嘘をつくとは思えない」
とー。

「あぁ、そうだなー…」
愛奈の父親もそう言葉を口にしながら頷くー。

優斗と愛奈は小さい頃からの幼馴染。
当然、愛奈の両親も優斗のことを知っているー。

”日頃の行い”が良い方向に働きー…
優斗の言葉を、その場にいた人たちは信じてくれたー。

そしてーー
翌日ーー

「ーーー…優斗…わたしはー…?」
目を覚ました愛奈ー。
偶然、お見舞いに来ていた優斗を見て、そんな言葉を口にするー。

「ーま、愛奈ー!よかった…!」
無事に意識を取り戻した愛奈のほうを見て、
優斗は心底安堵した表情を浮かべると、
愛奈は不安そうに言葉を口にしたー。

「ーわたし…どうして病院にー?」

その言葉を聞いて、優斗は愛奈本人だと確信するとー、
「信じられないと思うけどー…」と、
これまでの事情を説明し始めたー。

愛奈は心底ショックを受けながらも、
その話をしっかり聞いてくれたー。

会話の中で”本当に愛奈本人なのか”を探ってみたものの、
”愛奈本人じゃないと答えられないこと”もしっかり答えていて、
優斗は、愛奈本人だと確信したー。

「ーーー……ごめんね…本当にありがとうー」
全てを説明し終えると、愛奈はそんな言葉を口にしながら、
感謝の言葉を口にしたー。

優斗は、愛奈の両親や親友と力を合わせて、
”愛奈に異変がないか”念のため、目を離さないようにしたもののー
結局、愛奈に憑依した男は、姿を現すことなく、
そのまま愛奈は無事に退院を迎えたのだったー。

「ーー優斗がいなかったら、わたし、死んでたかもしれないよねー」

大学帰りー。
愛奈が苦笑いしながら言うー。

「ーーはは…でも、こうして無事でよかったー」

優斗は思うー。
確かに、あの時、憑依されて首を吊ってた愛奈を助けなければ
今頃愛奈は死んでいただろうー。

”偶然”忘れ物をして、それを取りに帰ったことが、
結果的に愛奈の命を救ったー。

愛奈に憑依していた男は、愛奈の身体で車に跳ねられた際に
恐らく、完全に”死んだ”のだろうー。
あるいは、既に霊体のような状態になっていたのだとすれば、
愛奈の身体ごと”死んだ”気になって、成仏したのかもしれないー。

いずれにせよ、愛奈が無事で良かったー。

退院直後も”念のため”警戒していたものの、
1週間が無事に経過し、優斗は心の底から、安堵を感じていたー

「ーーあ、それで、遊園地の約束!
いつにしよっか?
わたしが入院してたから、行けなくなっちゃったし!」

すっかり元気になった愛奈が笑うー。

「ーーはは、そうだったなー
じゃあ、今度の土曜日にでも行くか!」

優斗がそう言うと、
愛奈は「やった~!」と、嬉しそうに笑うのだったー

 

「ーーおわり」

その日の夜ー
クスッと笑う愛奈ー。

「ーーふふー
入院してから退院してーー
警戒されてるだろうから、1週間待った甲斐があったよー」

笑みを浮かべる愛奈ー。

愛奈に憑依していた武則は、消えてなどいなかったー。
死に損ねたことを悟り、愛奈の中に潜み、
一時的に愛奈に身体の主導権を返していただけー。

警戒されないように、消えたフリをして、
退院後、1週間ー
周囲のやつらが警戒を解く頃合いまで待ったー。

そして今、愛奈はビルの屋上にいるー。

「ーーこれで、今度こそおわりー」
愛奈はニヤリと笑うと、
ビルの端っこに立って、嬉しそうに両手を広げたー

「今度は、わたし、ちゃ~んと死ぬからね♡」

クスッと笑いながら、愛奈は笑いながら
自ら、宙を舞うのだったー…

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

ハッピーエンドになるのかと思わせておいて、
最後に真逆の結末に転落する…
そんな結末のお話でした~!

こんな厄介な憑依人(?)には、
私も憑依されたくないですネ~…笑

お読み下さりありがとうございました~!

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