ある日、突然入れ替わってしまった夫婦…
子供たちの混乱を避けるために、
入れ替わりのことを”内緒”にすることを決めた二人は、
その状態で生活を続けていく…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーダメかぁ…」
月江(英二)がため息をつきながら言うと、
「ダメだったね…」と、英二(月江)も、戸惑いながら
そんな言葉を口にするー
娘の麗奈と息子の正彦が帰宅するまでの時間ー
二人は家のことを協力しながら済ませつつ、
”何とか元に戻ることはできないかどうか”を、
色々試していたー。
赤い糸を指に巻き付けて、元に戻るように念じてみたり、
お互いにぶつかってみたり、
キスをしてみたりー…
さらには、入れ替わった状態のまま、
身体を交わらせてみたりもしたものの、
結局、元に戻ることはできなかったー。
「ーーーー…」
そんな状況で、英二(月江)は少し興味深そうに、
今は自分の身体である、英二の身体を服の上から見つめているー。
「ーーーな、なんだよー…俺の身体をそんなに見てー」
月江(英二)がそう言うと、
「ーーえ…う、うんー。なんか、これ、不思議だなぁ…って」と、
英二のアソコを指差しながら言うー。
「ーい、いきなりなんだよー…」と、苦笑いする月江(英二)ー
「でもまぁ、確かに、女の人からしてみりゃ、不思議なのかー…」
月江(英二)が、そう言葉を付け加えると、
「うん!不思議!すっごく不思議!」
と、英二(月江)は、子供のように笑いながらそう言い放ったー。
「ーーーははは…
まぁー俺が胸に違和感を感じたり、
ーーその、さっき変な声が出ちゃったことに違和感を感じたり
するのと同じようなもんかー」
月江(英二)は、そう言い放つとー、
「今になって、学生の時みたくドキドキすることになるなんてなぁ」と、
付き合い始めたばかりのことを思い出しながら、
そんな言葉を口にしたー。
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数日後ー
インフルエンザ自体は、回復し、
体調は回復してきたー。
だが、ここに来て、問題が生じてきているー。
それはー、
”お互いの仕事”をどうするか、だー。
「ーわたしのパートは、最悪の場合、辞めちゃって
別のお店デパート始めたりすればいいと思うけどー」
英二(月江)が、複雑そうな表情でそんな言葉を口にするー。
「ーーーーー英二の仕事は辞めちゃうと、そう簡単には
同じ収入を得るのも難しいだろうしー」
英二(月江)は、不安そうにそう続けるー。
「ーーう~ん……」
月江(英二)は、考え込むー。
”職場”は、また家とは違うー。
家では、お互いのことを知り尽くしているため、
ボロが出ることはあっても、ここまで何とかお互いのフリをして
生活することができているー。
しかし、職場はお互い違うし、
”普段、相手がどんな振る舞いをしているのか”も分からないし、
仕事内容も分からないー。
そして、職場の人間に
”妻と入れ替わってしまって…”
”夫と入れ替わってしまって…”
なんて言うのは、まず通用しないー。
そのため、”相手のフリをして仕事を続けるか”
”仕事自体を変えるか”
それしか選択肢がないように思えるー。
「ーー…そういえばー」
月江(英二)は思い出したようにそう呟くと、
自分の鞄から、書類を取り出したー。
「ー実は、田本(たもと)先輩から、
誘われててさー」
そう言葉を口にする月江(英二)ー
「田本先輩って、あの同じ学部にいたー?」
英二(月江)がそう言うと、
月江(英二)は頷くー
”田本先輩”とは、二人の大学時代の先輩で、
当時、それなりに月江・英二、どちらとも親しかった相手だー。
「ーー田本先輩、起業して、それなりに成功してるみたいでさー、
ぜひ、俺にも会社に来てほしい、ってそう誘われてたんだー」
月江(英二)のそんな言葉に、
英二(月江)は”初めて聞いた”と、言うような表情を浮かべながら
「それで、どうするつもりだったの?」と確認するー
「いやー。月江と子供たちもいるし、
今の職場の方が”安定”はしてると思うからさー
断るつもりだったんだけどー…」
月江(英二)は、そこまで言うと、言葉を続けたー。
”英二の業種”に関係する知識は、大学で同じことを学んだ月江も持っているー。
そのため、知識的には、英二の代わりをすることは可能だー。
「ーー…もし、入れ替わったままなら、先輩の誘いに乗るのもアリかもって、
思ってさー。 給料は同じ分出すって言われてるしー」
月江(英二)が、そこまで言うと、
英二(月江)は少しだけ考えてから
「ーーでも、転職したあとにもし身体が戻っても、もう今の会社には
戻れないだろうから、もうちょっとの間、考えた方がいいかもねー」
と、そう言葉を口にした。
「あぁ、そうだなー…」
緊張した様子で、目の前のコップに手を伸ばすと、
そのままコップの中の水を飲み干して、
「しかし、まさかインフルエンザで入れ替わっちゃうなんてな…」と、
戸惑いの表情を浮かべたー。
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「ーーーーーー~~~~」
息子の正彦は、まだ”親”と一緒にお風呂に入っているー
「~~~~~」
が、月江になった英二にとって、この時間は
穏やかなものではなかったー
「~~~(正彦の前でドキドキしてるとか洒落にならないぞー)」
そんなことを思いながら、月江(英二)は、
月江の身体でお風呂に入っているというこの状況に
なるべくドキドキしないように、何度か深呼吸を繰り返すー。
「ーお母さん、熱ある?」
正彦が、そんな言葉を口にしながら、
月江(英二)のほうを見つめるー。
ドキドキしすぎて、顔が赤くなってしまっているようだー
「え… え… な、ないけどー!?」
月江(英二)が、裏返った声でそう返すとー、
正彦は「ふ~ん」と言いながら、
突然、”月江の胸”を触って来たー
「ーーひゃっ!?」
思わず変な声を出してしまう月江(英二)ー
息子が、母親の胸を揉むー。
そんな事態に、「こ、こ、こらっ!」と思わず声を上げると、
正彦はニヤニヤしながら、
「友達の坂東くんが、お姉ちゃんにこれ、よくやっててー」と、
そう言葉を口にするー
「ーーこ、こ、こういうことは、や、やっちゃだめなんだよ!」
月江のフリをしながら、正彦を叱りつける月江(英二)ー
「え~…でも、なんか気持ちイイ」
正彦はそう言いながら、アソコを勃起させているー。
「こ、こら~!ダメなものはダメなの!
いい?絶対ダメ」
月江(英二)が繰り返し、そう言い放つと、
やんちゃな正彦は「なんでダメなの?」と、
不思議そうに首を傾げるー
「ーーあ~~~…え~~~…えっと、
痛い… そう、痛いから!」
月江(英二)は慌てた様子でそう言い放つー。
余程乱暴にされない限り、別に痛くはないのだが、
英二に分からせるために、そんな表現を口にするー。
「ーーえ~?痛いの?」
不思議そうな正彦ー
「そう!痛いの!
だから、正彦がそういうことをしちゃうと、
相手を叩いてるのと同じなの!
だから、触っちゃだめ!わかった?」
月江(英二)が、そう言い放つと、
正彦は少し間を置いてから、
ようやく納得したのか「は~い…」と、
それ以上は、月江(英二)の胸を触って来ることはなかったー。
どうやら、”触られると痛い”という言葉が
息子の正彦にも、分かりやすく響いた様子だったー。
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「そういえばお父さんー」
娘の麗奈が、思い出したかのように言葉を口にするー
「ん?どうしたー?」
英二として、返事をする月江ー。
すると、麗奈が不思議そうに言葉を口にするー。
「ーー最近、お父さん、何だか疲れてないー?」
とー。
「ーーえ…えぇ?べ、別に、疲れてはないけどー」
英二(月江)が、そう言うと、
麗奈は少し疑い深い目で、英二(月江)のほうを見つめるー。
「ーーふ~ん…なんか最近ー…
”いつもと違う”気がしてー」
麗奈のそんな言葉に、ギクッとする英二(月江)ー
「は、はははー…そうか?べ、別に父さんはいつも通りだぞ~!」
英二(月江)が、そう言いながら、
元気だと示すような仕草をしてみせるー。
が、麗奈はやはり、”英二”に対して違和感を抱いているようだー。
「ーーーーな、なんか父さんに変なところ、あるか?」
英二(月江)は、心配になって逆にそんなことを聞いてしまうー。
すると麗奈は少しだけ笑いながら
「何がヘン…とは言えないんだけどー…
なんかこう…違和感を感じるようなー…
ほら、いつも食べているアイスの味が”なんか変わったような気がする”
みたいなー?
そんな感じー!言葉では言い表しにくいんだけどー」
と、そう答えたー
”ーーーー”
英二(月江)は”麗奈は感のいい子だからなぁ…”などと
心の中で思いながらも、
”どこ”がおかしい、と具体的に悟られているわけではないことに、
少しだけ安堵の表情を浮かべたー。
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二人の入れ替わりは、元に戻れない状況が続くー。
結局、”月江”は、二人で相談した上で、
元々月江がやっていたパートを辞めて、
別のお店でパートを始めたー。
元々、時給が上がっていたわけでもなく、
収入的には影響は出ないし、
職場と人間関係をリセットしたことで、
”月江の中身が、英二”の状態でも
1からの職場に入ることができたために、
特に戸惑うことなく、仕事が出来ているー。
「ーーうちの夫はね~、雑巾みたいなやつでね~」
パート先のおばさんたちが、夫の愚痴を口にしているー。
「ーあははは!それを言うなら、うちの人なんて
浴室のカビみたいな存在で~!」
夫の悪口で盛り上がるおばさんたちー
”おばさん怖ぇぇぇ…!”
月江(英二)はそんなことを思いながら
”月江も、こんな風に俺のこと言ってたらどうしようー!”
などと、心の中で思うー。
「ーー藤岡さんも既婚だったわよねー?
旦那さんは、どんな感じなのー?」
おばさんの一人が、そんな言葉を口にするー
「え… え… え~?」
月江(英二)は、少し混乱するー
こういう時に”わたしの夫はいい人です”みたいなことを言うと、
おばさんたちに睨まれそうな気がするー。
女の世界はよく分からないが、直感的になんだかそんな気がしたー。
かと言って、”自分”のことを
”わたしの夫はゴミみたいなやつでぇ~”みたいなことは
言いたくないし気が引けるー。
そもそも、もしもこのまま元に戻ることができなかったら、
いつか、月江が、”英二(月江)”として、このパート先の
おばさんたちと会うような機会が出来てしまった場合
月江がゴミ扱いされてしまうかもしれないー
「ーーー…わ、わ、わたしの夫はー、
え、えっとー、クロワッサンー?」
何故か咄嗟に思い浮かんだ言葉を口にすると、
おばさんたちは「何それ~」と、笑いながらも、
”悪い反応”を示すことはなかったー。
”ふぅ~…危ない危ない”
月江(英二)は、少しだけホッとしながら、
まだ慣れないスーパーのパートの仕事を今日も始めるのだったー。
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子供たちに何となく違和感を抱かれながらも、
次第に、子供たちもそんな言葉を口にしなくなっていくー。
特に姉の麗奈の方は、最初は結構違和感を抱いていた様子だったものの、
最近は特に何も言わなくなったー。
それもそのはずー、
”ちょっとした違和感”は、ずっと続けば”普通”になるー。
そういうことなのだろうー。
弟の正彦の方は、元からあまりそういうことには気づいていない様子だー。
結局ー、1か月以上経過しても元に戻れず、
”最悪、ずっと元に戻れない可能性”も、考慮ー、
”英二になった月江”は、転職を決断し、
大学時代の先輩・田本先輩の誘いに乗り、転職したー。
元々英二が勤務していた会社で、”月江が英二として働く”のは
流石に困難だー。
が、転職すれば、人間関係も1からになるし、なんとかなるー。
そんな生活が、さらに続き、
冬も終わりを迎えようとしていたある日ー
「ーー…熱が、あるみたいだなー…」
息子の正彦の熱を測り終えると、英二(月江)はそう言葉を口にしたー。
息子の正彦の発熱ー。
それが思わぬ事態を呼び起こすことになるとは、
二人はまだ、知らなかったー。
③へ続く
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コメント
次回が最終回デス~!☆
入れ替わった夫婦は無事に元に戻れるのかどうか、
それとも違う”何か”が起こってしまうのか、
ぜひ見届けて下さいネ~!
今日もありがとうございました~~!☆
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