<入れ替わり>子供たちには内緒にしよう①~夫婦~

ある日、突然入れ替わってしまった夫婦…。

しかし、”両親が入れ替わった”などということを言えば、
子供たちは混乱してしまうと判断した二人は、
”子供たちには内緒にする”決意をするー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーただいま~」
藤岡家の長女、麗奈(れいな)が帰宅するー。

麗奈は現在中学校に通っているー。
しっかり者な性格で、学校でも成績優秀の優等生ー。

母親の月江(つきえ)も、
”わたしが麗奈ぐらいの年齢のときは、遊んでばっかりいたのに”と、
娘の成長を、誇らしげに見守っているー。

「ーーって、正彦(まさひこ)!」
麗奈の成長を心の中で喜んでいた月江は、
ふと、玄関の方に向かっている長男…麗奈の弟の正彦のほうを見て、
声を上げるー

「宿題は!?この前も先生に怒られてたでしょ!?」
月江がそう言うと、
正彦はニヤニヤしながら「宿題は帰ってきたらやるし」と、
口答えするような口調で、そう言い返して来たー。

正彦は、姉の麗奈とは正反対の”問題児”だー。
やんちゃ過ぎて、学校でも何度も問題を起こしていて、
月江は頭を抱えているー。

麗奈は良い子に育ったのに、
正彦はどうしてこうなってしまったのかー。

そんな風に思うぐらいには、麗奈と差があるー。

とは言え、決して正彦のことを大事にしていないわけではなく、
麗奈と正彦、二人とも両親にとっては
とても大事な存在であることには違いないー。

「ーーー正彦、お母さんを困らせちゃダメだよ?」
姉の麗奈が、諭すように正彦に対して言葉を口にすると、
正彦は「べー!」と、声を上げて、
そのまま走り去っていくー。

「も~~~」
麗奈は頬を膨らませながら、正彦が立ち去って行った玄関のほうを見つめると
「ランドセルも放り投げっぱなしだし」と、ため息をつきながら、
正彦の代わりにランドセルを片付け始めたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーただいま」

夜ー。
父親である英二(えいじ)が帰宅するー。

英二と月江は、高校時代に知り合った二人で、
大学生の頃に結婚したー。

大学卒業後すぐに子供を授かったため、
中学生を持つ親としては比較的年齢も若く、
二人はまだ30代中盤ー。
結婚してから既に10年以上が経過しているものの、
二人の絆は昔も今も、変わらなかったー。

帰宅後の片づけをしながら、
英二は「いやぁ、参ったよー。今日も欠勤者が増えてさー」と、
会社の愚痴を口にするー。

「ーえぇ?また?英二は大丈夫?」
妻の月江が心配そうに言うと、
「俺は今のところ大丈夫だけどー」と、そんな言葉を口にするー。

最近、英二の職場ではインフルエンザが流行しているー。
毎年、ポツポツと、寒い時期にはインフルエンザが
英二の職場でも、ある程度流行してはいるものの、
今年は特にその人数が多く、人員不足に陥っているー。

そのせいで、今日も残業を頼まれ、それをこなして来たところだー。

「子供たちもいるから、できればもらいたくないけどなー」
英二がそう言うと、月江は「確かにそうねー」と、
既に寝静まった子供たちがいる2階の部屋のほうを見つめるー。

家族持ちにとって、”インフルエンザ”は持ち帰りたくないものの一つだ。
当然、自宅に持ち帰れば、家族にもその危険が及ぶー。

が、それでも”家族に移したくないから仕事を休みます”なんてことは
できないー。
英二に出来るのは、自分がインフルエンザにならないことを祈りつつー、
日々を過ごすことだけだー。

そしてーー
その3日後ー。
英二は”インフルエンザ”になってしまったー。

麗奈と正彦にインフルエンザが移らないようと気を付けながら、
二人とはなるべく違う場所で生活をするようにするー。

しかしー、その配慮も空しく妻の月江にもインフルエンザが移ってしまいー…
夫婦揃って熱にうなされる羽目になってしまったー…

がー…
普通のインフルエンザであれば、数日内には解熱して、
ほとんどの場合、死ぬことはない。

英二と月江も、数日後には解熱して
また元の生活に戻れるはずだったー

そう、これが”普通のインフルエンザ”で、あればー。

英二か、それとも月江かー、
どちらかは分からないー。
だが、どちらかに感染していたインフルエンザが、
何らかの反動で突然変異を起こしー…
”未知の現象”を引き起こしたーーーー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌朝ー

「ーーー…え……な、何で、俺が目の前にー?」
”月江”が意味不明な言葉を口走りながら、
横で寝ていた夫の英二を指差すー。

が、英二の方も”意味が分からない”という様子で
「え…わたし?」と、そんな言葉を口にしているー。

二人とも、しばらく呆然としながら相手のことを
見つめていたものの、やがて、月江の方が自分の頬を
触りながら言葉を口にしたー

「やばいなー…目の前に”俺がいる”幻覚が見えてるー…」

高熱でおかしくなるー
そんな話を聞いたことがあるー。
自分もついにそれになってしまったのかと、額を触る月江ー。

しかし、予想に反して昨日までのような高熱はなく、
むしろ熱は下がっているー。
この手触りからすると、熱はあっても37度ぐらいのはずだー。

「ーーー……げ、げ、幻覚じゃないと思うー」
目の前にいる”英二”が反応するー。

そんな”英二”の反応に、月江は戸惑いながら、
「ーーえ……も、もしかして月江か…?」と、不安そうに
そんな言葉を口にするー。

「ーう…うんーそっちは、”英二”だよね?」
英二がそう言い放つー。

月江は静かに頷くー。

一体、どういうことなのかー。
そんな風に思いながらも、
”月江になってしまった英二”は、
「つまり、俺と月江が入れ替わってしまったってことかー…?」と、
そう言葉を口にするー。

「ーそ、そうみたいねー…夢じゃないみたいだしー」
”英二になった月江”は、自分の頬を引っ張るような仕草をしながら、
困惑の表情を浮かべるー。

冷静に現状について話し合う二人ー。

そしてーー

「子供たちには、どうしようー?」
英二(月江)が心配そうにそんな言葉を口にするー

「ーそうだなー……」
月江(英二)は、考え込むような仕草をしながら、
英二(月江)のほうを見つめるー。

「ーーまさか、父親と母親が入れ替わったなんて急に言われても
 戸惑うだけだろうしー、
 すぐに元に戻れるかもしれないー。
 今は、言わないほうがいいだろうなー」

月江(英二)がそう言うと、
英二(月江)も「それもそうねー」と、言葉を口にするー。

お互いに”子供たちには入れ替わったことは内緒にしよう”と、
そう言葉を口にすると、
月江(英二)が、ふと表情を緩めて、笑いながら言葉を口にしたー。

「しかしー…目の前に”自分”がいるってのも、
 不思議な感覚だなー……
 自分の姿なんて、写真とか鏡でしか見れないのにー」

月江(英二)のそんな言葉に、
英二(月江)も、思わず笑うー。

「そうねー。なんだか変な気分ー。
 それに…わたしの声で、英二が喋ってるのも、不思議ー」

英二(月江)がそう言うと、
「ははは、それは確かにー」と、月江(英二)は笑ったー。

月江も、英二も、インフルエンザに感染してしまったということもあって、
仕事は今週いっぱいは休みになっているー。
その間に身体が戻ればいいが、もしも元に戻れなかった場合は
”仕事”のことも色々と考えなくてはならないー。

しかし、それはまだ数日先の話。
とりあえず、今はー…

”母・月江は、父・英二として”
”父・英二は、母・月江として”
二人の子供たちの前で振る舞う日々が始まったー。

インフルエンザ自体の調子は、かなり良くなったー。
今日はもう、体調の悪さをあまり感じないぐらいには回復しているー。
いや、入れ替わってそれどころではないだけかもしれないけれどー。

「ーーー…あ、あれ?お母さんが新聞読んでるなんて珍しいねー?」
早速、娘の麗奈が”異変”に気付くー。

インフルエンザの真っ最中ということもあり、
それを理由にして、なるべく子供たちと接触しないようにしつつも、
同じ家に住んでいる以上、全く接点を絶つことは難しいー。

「ーーーんっ… あ… えっ…!?」
月江(英二)が困惑した様子で言葉を失っているとー、

「ーははは、母さん、さっきスマホの充電切れちゃったから
 天気予報見るって言ってたぞー」
と、英二(月江)が、助け舟を出すー。

「そ、そうそう!天気予報!」
月江(英二)のそんな言葉に、
「ふ~ん…そっか」と、麗奈はそれ以上は突っ込まずに、
学校に向かう準備を続けるー。

「ーふ~…危なかったーありがとう」
月江(英二)が言うと、
英二(月江)は苦笑いしながら
「ーーあっさり気付かれるところだったねー」
と、そんな言葉を口にしたー。

姉の麗奈はしっかり者だー。
状況を説明すれば、もしかしたら理解はしてくれるかもしれないー。
ただ、しっかり者とは言え、麗奈もまだ中学生。
いきなり、”父親と母親が入れ替わりました”なんて言われて
”そうなんだ”で済ませられるとは思わないし、
やっぱり動揺するだろうー。

弟の正彦のほうは、さらに混乱すると思うー。

だからこそ、元に戻れるまでの間、
お互いのフリをするしかないー。

「ーーそれにしてもー
 髪が長いってなんか大変だなー…
 視界に入ってきたり、手に当たったりして、
 なんか妙に気になるー」

月江(英二)がそんな言葉を口にしながら、
今は”自分のもの”である髪を触ると、
「ーーーそ、そうかなー?わたしはいつも”そう”だから、
 あまり気にしたことなかったけどー」
と、英二(月江)は、髪を触るような仕草をして、
”あ、今は髪、短いんだった”というような素振りを見せるー。

「ーーさっきからそれ、結構やってるよなー」
月江(英二)が笑うと、
「ーつい、髪があるつもりになっちゃってー」と、
照れくさそうに笑う、英二(月江)ー

お互いに、そんなことを話しながら
元に戻る方法についても話し合うー。

「ーさっき、ネットで色々調べて見たけどー、
 やっぱ、”入れ替わり”のことを検索しても、
 全然情報出て来ないなー。

 出て来るのはほら…アニメとか映画とか
 そういうのばっかりでー」

月江(英二)が言うと、
「ーーそっかー…それもそうだよねー」と、
英二(月江)は戸惑いの表情を浮かべるー。

「まぁ、インフルエンザのせいかもしれないし、
 完全に治れば元に戻れるかもしれないしー…
 時間がある時には色々試してみようー」

英二(月江)は、そこまで言うと、
月江(英二)は静かに頷いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーいってきます」
娘の麗奈が一足先に学校に向かうー。

弟の正彦は、遅刻しそうになって
ドタバタしてる中、
「お母さん~!今日、学校でボンド使うんだった~!」
と、そんな言葉を口にするー。

「えっ!?ボンド?
 あ、そうだー ボンドならそこにー」

反射的に”英二”の身体になった月江が、
いつものように反応してしまうー

「あ……」

がー、”自分の口”から出た声が
夫の英二の声であることに気付き、
表情を歪める英二(月江)ー

”やっちゃった”というような表情を浮かべながら、
息子の正彦を見つめると、
正彦は「ーーえ…?」と、少し困惑した表情を浮かべるー。

「んーー?え、今”お父さん”って言わなかったかー?」
英二(月江)が咄嗟にそう言うと、
「お母さんだよ!」と、正彦はそう反論したー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ようやく、子供たちを見送ることが出来て、
昨日よりも体調自体は圧倒的によくなったとは言え、
まだまだインフルエンザが完全に回復したわけではない二人は
ため息をつくー。

「ーーふぅ…意外と、大変だなー」
月江(英二)が、ぐったりしながら、そう言い放つー。
そのぐったりした姿は、完全に男のように見えるー。

「ーそ、そうねー…違う誰かのフリをするって、大変ー」
英二(月江)がそんなことを言いながら
疲れた様子を浮かべると、
「ーとりあえず、元に戻るために色々試してみる?」と、
そんな言葉を口にしたー

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

夫婦が入れ替わってしまうお話デス~!

私の書く入れ替わりモノの中では、
入れ替わる二人の年齢が比較的高い作品ですネ~笑

続きはまた明日デス~!

コメント

  1. 匿名 より:

    最初の方に誤字です。

    ふと、玄関の方に向かっている長男…麗奈の妹の正彦のほうを見て、
    声を上げるー

    ↑弟の間違いですね。