<憑依>憑依闘技場②~姉妹の絆~(完)

”憑依”で奪った身体で
戦いを繰り広げる”憑依闘技場”

まるで、道具のように身体を使うその闘技場で、
姉を救うために、戦いに身を投じる子がいたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
鎖分銅を手に、世紀末のような荒れ果てた格好をしている女が
襲い掛かって来るー。

姉・久美を救うため、
”憑依されているフリ”をして、憑依闘技場に忍び込むことに
成功した女子高生・咲月は、
今や”拷問女王”の異名を持つ姉・久美と直接対決の機会を作り、
なんとか久美を助け出すため、
憑依闘技場での戦いに身を投じていたー。

”3連勝”した相手以外とは、戦わないのだという姉の久美ー。

咲月は、意を決して”3連勝”をするために、
憑依闘技場での最初の対決を行っている最中だったー。

「ーへへへへへ…大人しい女だって、ここまで荒れ狂う感じに
 できるんだぜぇ」

ゲラゲラ笑いながら、そう言い放つ対戦相手の女・恵麻(えま)ー。
闘技場のスクリーンで使われている顔写真は、
憑依される前のものなのか、本当に奥手そうな顔写真が使われているー。

が、今の恵麻は赤色混じりの金髪に、ジャラジャラと装飾品をぶら下げー、
もはや全く面影の無い子になってしまっているー。

”この子に罪はないけどー、わたしはお姉ちゃんを救うって決めたのー
 どんな手を使ってでもー”

咲月は、心の中でそう呟くと、”剣”を手にするー。

咲月は剣道部所属ー。
部活内でもエース級の実力を持っているー。
それが、こんな形で役に立つなんて、悲しいことだけれどもー、
”お姉ちゃん”を救うためにはー…

「ーークククーでも、肝心の実力は大したことないみたいだなー?」
咲月は”憑依されている女”を演じながら、対戦相手の恵麻に言うと、
恵麻は簡単に挑発に乗って、鎖分銅を手に襲い掛かって来たー。

”ごめんなさいー”

咲月以外は、全員”憑依されて乗っ取られている”子ー。
けれどー、咲月は、心を鬼にして、襲い掛かって来た恵麻を剣で斬りつけたー

「がっ…」
その場に倒れ込む恵麻ー。

「いってええええええ!」と、悲鳴を上げていた恵麻ー。
しかし、すぐに憑依していた男が苦痛に耐えきれずに
恵麻の身体から離脱ー。

正気を取り戻した恵麻は、何が何だか分からないまま、
泣きながら「痛い…助けて」を繰り返すー。

「ーーーーー」
咲月は、今すぐにでも駆け寄って助けてあげたいと思ったー

でもー
”今のわたしは憑依されてるのー…そんなことしちゃだめ”と、
自分に言い聞かせるー。

”憑依された女”を演じ続けなければ、
”お姉ちゃん”には近寄れないー。

やがて、意識を失った恵麻は運び出されるー。

「ーーーーー」
VIPの観客席では、姉の久美がまるで女王のように
足を組みながら、咲月の勝利を見つめているー。

”お姉ちゃんー…絶対、助けるからね”
咲月はそう思いながら、闘技場を後にすると、
その翌日に、試合を2試合登録したー。

”1秒でも早くお姉ちゃんを救いたい”
そんな想いがどんどん強まっていくー

咲月は、明日に備えて憑依闘技場の一角にある
”宿泊用の部屋”で、眠りにつくのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”なるほどー”

”マザー”と呼ばれるこの闘技場を支配する女がそう呟くー。

「ーーこの身体が少し反応しましてねー
 それで気付いたんですー。
 どうやら、あの咲月という女、この女の妹のようでー」
”拷問女王”の異名を持つ久美が、
”マザー”に、そう相談していたー。

咲月の試合を見ていた久美は、身体がわずかに反応したことに気付き、
違和感を覚えて咲月の素性を調べたー。
そして、今自分が乗っ取っている久美と、咲月が姉妹であることを知ったー

”その妹とやらには、銀狼の笹川が憑依しているようだなー”
マザーの声が奥から響き渡るー。

「ーはい。まぁ、姉妹同士になっても、
 この身体が正気を取り戻すことは万が一にもないでしょうー」
久美はそう言うと、不気味な笑みを浮かべるー

「それに、妹を拷問するのも、楽しそうじゃないですかー」

とー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ーーー

「ぐっ…くそがあああああああああああ!」

2戦目の相手は、
”憑依されたおばさん”の聡子ー。
先日、男子高校生の肇との試合では、肇を返り討ちにして、
現在2連勝中だー。

しかし、咲月の剣技の前に追い込まれて、
ヤケクソ、と言わんばかりの単調な攻撃を繰り返していたー。

”ごめんなさいー”
咲月は、乗っ取られた見知らぬおばさんに対してそう謝ると、
聡子に斬撃を加えて、倒れ込んだ聡子を見て、
”笑み”を浮かべたー

”憑依されている女”としての演技だー。

「ーー俺の勝ちだぜ」
咲月はそう言うと、”午後”に予定されている次の試合の
対戦相手をスクリーンで確認したー。

”血に飢えた令嬢”の異名を持つ麗奈(れいな)という女が
対戦相手だー。
どこかのお金持ちのお嬢様が憑依された状態で、
お嬢様らしさ全開の髪型・服装で、戦うのだと聞いているー。

”あんな格好じゃ、動きにくそうだし、簡単に勝てそうねー”
咲月は内心でそんなことを思うと、
次の試合に備えて控室へと戻って行ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーは?」

同時刻ー
受付では、受付の男が変な声を上げていたー。

目の前に立っているのは、ギャルのような女ー。

「ーー何度も言わせるな。銀狼の笹川だ」
ギャルがそう言うと、
「ーえ?いや、笹川さんー、先日から既にここに来てるじゃないですかー」
と、受付がそう言い放つー

「あん?」
首を傾げるギャルー。

”咲月”はここに潜り込むために、
憑依闘技場に登録していながら、もう半年以上、憑依闘技場を利用していない
笹川という男の名前を名乗ったー。

が、最悪のタイミングで、その笹川が、ここにやってきてしまったー

「久しぶりに殺し合いを楽しもうと思ったのに、
 そりゃどういうことだ?」
ギャルに憑依している笹川が不満そうにそう言うと、
受付の男は「か、確認しますー」と、慌てた様子で言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

午後になり、”咲月の3連勝”を賭けた試合が始まるー。

「次の試合は、快進撃を続ける剣術女子高生・咲月とーー」
MCの声が会場に響き渡るー。

「ーー血に飢えた令嬢・麗奈ー!」

自信に満ち溢れた笑みを浮かべながら、
咲月を見つめる麗奈ー。

この麗奈に勝てば、”お姉ちゃん”と対決することができるー。

咲月が戦闘準備に入ったその時だったー

「ーーな、なんだお前は!?」
麗奈が急に声を荒げるー。

試合が行われる金網のゲートが閉まる前に、
突然、ギャルのような女が乱入してきたのだー。

容赦なく、小さなナイフを首筋に突き立てるギャルー

「ーーが…!?」
対戦相手の麗奈は、試合開始前に乱入してきたギャルに
抹殺されて倒れ込むー。

”おぉ~っと、これはどういうことだ~!?”
MCが叫んでいるー。

すると、会場内に”マザー”の声が響き渡ったー

”この試合は特別マッチー。
 咲月ちゃんー、あなた、どうやら”憑依”されていないようねー?”

マザーのそんな言葉に、咲月は表情を歪めるー。

「ーーな、何を言ってやがる!俺は銀狼の笹川だぞ!」
咲月は慌てて”憑依されているフリ”をしてそう叫ぶとー、
乱入してきたギャルが笑ったー

「ーー残念ー。俺が本物の笹川だー。
 俺の名前を勝手に名乗って闘技場に入り込んだようだがーー
 随分、舐めた真似してくれるじゃねぇか」
ギャルの言葉に、咲月は驚きの表情を浮かべるー

”そんなー…半年も出入りしてなかったのに、
 何でこのタイミングで本物が来るのよ!”

咲月はそう思いながらも、
仕方がなく正体を明かすー

「そうよ!わたしは憑依されてないー!
 わたしは、お姉ちゃんを助けるために、ここに来たの!」

咲月がそう叫ぶと、VIP席から試合を見つめていた姉・久美が
邪悪な笑みを浮かべるー。

「ーークク…残念だがー
 お前はここで死ぬー」

”本物の笹川”に憑依されているギャルはそう言うと、
コートのような服を広げて笑みを浮かべたー

その中には大量のナイフー。

「ースローイングナイフの魔術師と呼ばれた俺の力、見せてやるぜー」
ギャルはそう言うと、恐るべき速さでナイフを咲月に向かって投げ始めたー。

そんな戦いの様子を見つめながら咲月の姉・久美は
邪悪な笑みを浮かべるー。

「マザー…笹川は恐らく負けるでしょうから、
 そうしたらあの女と試合をしてもいいでしょうか?」

久美が”マザー”が映る端末に向かってそう囁くと、

”構わんー”
と、マザーの声が返ってくるー。

「ー姉妹に対する最高の拷問を思いついたのでー
 ククククー」

”拷問女王”の異名を持つ久美は、そう呟くと
不気味な笑い声をあげたー。

「ーーーがっ…」
スローイングナイフを剣で跳ね返されて、
それが首筋に直撃してしまった”笹川に憑依されているギャル”は
苦しそうな表情を浮かべながら、その場に倒れ込むー。

「ーーわたしの勝ちよー」
ギャルの身体から、煙ー…笹川の霊体が抜け出していくと、
それを見ていた久美がVIP席から降りて来て、咲月に向かって笑みを浮かべたー

「ーお姉ちゃんー…」
咲月は表情を歪めるー。

「ーふふ…久しぶり、って言えばいいのかなー?」
姉の久美はニヤニヤしながらそう囁くと、
「ー3連勝したみたいだしー、勝負してあげるー」と、
余裕の笑みを浮かべたー。

「ーーーー…お姉ちゃん、待っててー…
 今、助けるからー」

咲月はそう呟きながらも、
”どうすればお姉ちゃんを助けることができるのか”
頭をフル回転させながら考えていたー。

お姉ちゃんのことを、殺すわけにはいかないー。

他の憑依被害者を身体ごと葬っておいて、
自分勝手な考えだとは、咲月自身も思うー。

けれど、どんなことを言われようとも、お姉ちゃんだけは助けたいー
そのために、心を鬼にして、ここまで来たのだー。

”さぁ、試合開始だ!”
MCが叫ぶと同時に、金網に囲まれたリングの扉が閉まるー。

「ーお姉ちゃん、行くよー」
咲月が剣を手に、まだ具体的な行動を示さない姉・久美のほうを見つめるー。

がー…
その時だったー

姉の久美が突然、うめき声を上げてその場に倒れ込むと、
その身体から、煙のようなものが飛び出したー

「ーーえっ…!?」
咲月は動きを止めて、倒れ込んだ姉・久美を見つめるー

「お姉ちゃんーしっかり!?」

姉の久美を解放してくれたのだろうかー。
一瞬、そんな希望も抱くー。

が、そんなはずはないー。
すぐに久美は、未だに闘技場の金網リングの中を
彷徨う不気味な煙状のものを見つめたー。

「何のつもり!?」
咲月が叫ぶー。

だが、身体から抜け出した状態の霊体は
言葉は聞こえていても、会話する手段がないため
返事はないー。

”ククククー…こういうつもりさー”

男はそう心の中で呟くと、自分の霊体を
姉の久美ではなく、妹の咲月の方めがけて突進させたー。

「ーー!?!?!?!?!?」

咲月は咄嗟に剣を振るも、煙相手では意味がなくー

「ーーひっ!?」
身体をビクンと震わせて、その場に剣を落としたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー…ぇ……」
姉の久美が意識を取り戻すー。

そこは、見知らぬ闘技場のような場所ー

「ーーーえ………わ、わたしはー…?」
久美は、寝起きのような様子で
状況を理解できないでいると、
「ーーお姉ちゃんー」と、妹の咲月の声がしたー。

剣を手に、不気味な笑みを浮かべる咲月ー。

「ーーさ、咲月ー…?
 わ、わたしー…大学から帰る途中でー…それで…」
久美が混乱しながらそう呟くと、
咲月はそれを無視して、観客に向かって叫んだー

「ーさぁ、これから”2代目拷問女王”のわたしが、
 お姉ちゃんにた~っぷり拷問しちゃいま~す!」

咲月が、観客を盛り上げるようにそう言うと、
裏社会で生きる観客たちが大きな歓声を上げるー

「ーーさ…咲月…? ご…拷問ってー?」
久美が怯えながら言うと、
咲月はニヤリと笑いながら答えたー

「ーーーふふふふふふふー
 わたしがお姉ちゃんを”拷問”するのー
 
 大丈夫ー、殺しはしないからーね?」

お姉ちゃんを助けるために憑依闘技場にやってきた妹・咲月は、
今、そのお姉ちゃんを傷つける、最悪の存在に
変わり果ててしまったのだったー

おわり

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コメント

恐ろしい闘技場を描いたお話でした~!

2話構成にしましたが、
3話構成でもよかったような、そんな気もしますが、
ひとまず当初の予定通り書き切りました!★

お読み下さりありがとうございます~~!!

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憑依<憑依闘技場>

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