<他者変身>1日1分だけ変身できる男

彼には”他人に変身できる力”があったー。

しかし、その力を使えるのは
”1日1分”だけー。

1日1分しか変身することのできない男の物語ー…。

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男子大学生の菊間 達樹(きくま たつき)には、
”他人に変身する力”があったー。

その力を手に入れたきっかけはーー
家族での海外旅行中に
怪しい老婆から貰った”飴”を舐めたことー。

それ以降ー、
”名前と顔の分かる人間”を、目を閉じて念じることで、
その人に変身することができるようになったのだー。

”他人に変身することが出来る力”ー。
使おうと思えば良いことにも使えるし、
その逆で、悪いことに使うこともできるー。

そんなー、
素晴らしい力であると同時に、恐ろしい力でもあるその力ー。

「ーーーへへへへへへーー」
今日も達樹は、その力を使いー、
同じ大学に通う、星奈(せいな)のことを思い浮かべながら、
その姿に変身していくー。

星奈は、同じ大学に通う”超・人気者”の女子大生ー。
とても可愛らしく、とても性格も良くー、
とにかく人気だー。

達樹も友達は多い方だが、
そんな達樹でもお近づきになれないぐらいに、
人気の星奈ー。

だがー、達樹はー
こうして”星奈”自身になることができるのだー

「ーーうふふふー」
星奈の姿になった達樹は、早速可愛らしい笑みを浮かべると、
「ーー達樹くんのこと、大好き♡」と、
甘い声を出して、鏡の前で微笑むー。

達樹には、姿見など必要なかったのだがー、
変身能力で楽しむために、こうして購入したー。

星奈の姿を嬉しそうに見つめながら
「俺も大好きだよー」と、一人二役で楽しむー。

さらには、鏡にキスをして、
”星奈とキスをしている気分”を味わうー。

「あぁ…たまんない…」
くちゅくちゅと音を立てながら気持ちよさそうに微笑む星奈ー。

不断の星奈なら、絶対にしないであろう行動ー、
絶対に浮かべないであろう表情ー、
絶対に言わないであろう言葉ー
そんな、”絶対にない”ことの数々を、変身能力があれば
実現させることが出来るー。

「ーーへへっ…へへへへー」

だがー、星奈が鏡にキスをしながら
笑みを浮かべたその時だったー。

突然、星奈の姿が、元の達樹の姿へと戻りー、
”鏡にキスをしている状態の達樹”という、そんな光景が広がるー

「ぶわっぷ!」
達樹は、”自分とキスをしている状況”になってしまい、
悲鳴に似た声を上げると、慌てて鏡から離れて表情を歪めるー。

そうー
達樹の”変身”能力は
”1日に1分”しか、その力を発揮することができないのだったー。

「ーーーはぁ、今日も終わりかー」
達樹はそう呟くと、ため息をつくー。

他人に変身できる力ー。
しかし、その効力は”1分”だけー。

便利な力ではあるが、
時間があまりにも短いー。

そのため、達樹はこの力を、基本的には家の中で
一人”楽しむため”だけに使っていてー、
外では極力使わないようにしていたー。

一度変身してしまうと”1分”の間、変身を解除することができないー。
つまり、”変身解除のタイミングは自分で決めることができない”ということだー。

例えば残り5秒の時点で声を掛けられたりしてしまったら
その人の目の前で”変身解除”することになってしまうー。

そうなってしまったら、終わりだー。

かと言って、変身してから50秒の時点で
”今は誰にも見られていないから解除しよう”と、思ってもできないー。

59秒でもなく、1分1秒でもなく、
1分0秒ー
そのタイミングに、必ず変身が解除されるのだー。

だからー、
こうして家の中で楽しむことしかできなかったー。

「ーへへへ…明日は美海(みみ)かなぁ~」
妹・美海の名前を呟きながら
達樹は一人ニヤニヤとすると、
明日は妹に変身しよう、と、そう心に決めるのだったー

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「ーーーあ、おはよ~!」

翌日ー

大学にやってきた達樹は、背後から
声を掛けられて振り返るー。

そこには、幼馴染の真桜(まお)の姿があったー

真桜は、大学生になってから急に派手になってー、
色々と遊び回っているー

高校時代までは”優等生”みたいな雰囲気だったのに、
今ではまるで別人のようだー。

がー、決して”目の前にいる真桜”が偽物なわけではなく、
真桜本人であることには間違いはない。

どんな派手な見た目になっても
”話”をすれば真桜は真桜だということは分かるし、
”真桜が変わった”理由も知っているー。

「ーーしかし、高校時代の真桜が見たら、びっくりするだろうなぁ~」
達樹がそう言うと、
真桜は「しないしないーこれが本当のわたしだし」と、おしゃれな真桜が笑うー

髪の一部を赤く染めたりして、かなり派手な雰囲気ー。

しかし、真桜は”かなり厳しい家庭”に育った子で、
今まで”ずっと”我慢していたのだと言うー。

高校卒業後、すぐに一人暮らしを始めて
”自由”を手に入れたのを機に”今まで楽しめなかったこと”を
全力で楽しむ日々を送っているー、
それが真桜の豹変の理由だー。

確かに、言われてみればそんな感じのことを
昔から時折口走っていたような気がするー。

何か悪いきっかけがあったー、と、いうことではなく、
これが真桜自身の”素”なのだろうー。

がーーー

「ーえへへへへへへ♡」
帰宅した達樹は、真桜の姿に変身して笑みを浮かべるー。

しかも、思い浮かべるのはいつも
”高校時代までの清楚な真桜”だー。

「ーやっぱ、わたしはこうじゃなくっちゃね!」
真桜のフリをして、真桜に変身した達樹は
嬉しそうにそんな言葉を口にするー。

別に”今の真桜”のことが嫌いなわけではないのだけれども、
どうしても、小さい頃からずっと真桜はこんな感じの
真面目な風貌だったために、達樹の中では
真桜と言えばやっぱり”清楚な幼馴染”なのだー。

「しかし、すごいよなー
 服まで、思い描いた通りに変身してくれるんだからー」

高校時代の制服姿の真桜に変身した達樹は
嬉しそうに制服姿の自分を見つめるー。

「ーーーーわたし、達樹のこと、だ~いすき♡」
そんな風に言いながら可愛らしくウィンクしたりして、
”最高の1分間”を楽しんでいくー。

最近の達樹は
”毎日、この1分間のために生きている”と、言っても
過言ではないー。

ニヤニヤしながら制服を見つめる真桜姿の達樹ー。

「しかし、女子ってこんな格好で高校生活三年間を過ごすんだからー
 なんつーか、俺からしたら信じられないよなー…
 コスプレ姿で三年間過ごすみたいなもんだしー」

そんなことを言いながら、真桜の姿のまま、
チラッと時計を見つめるー

あと10秒ー。
家の中だから変身解除のタイミングを心配する必要は全くないのだが、
それにしても”1分”は短いー。

”せめて、カップ麺食えるぐらいの時間がありゃなー…”
そんなことを思いながら、時間を迎えて”達樹”の姿に戻るー。

元に戻る時は、必ず元の自分の姿、
そして変身する前に”着ていた服”に戻るー。

前に一度、女子高生姿の真桜に変身した際にー
慌てて制服を脱いで”どうなるのか”試してみたことがあったー

別に真桜を見たかったわけではなくー、
”脱いだ制服がどうなるのか”と、言うことを
見て見たかったのだー。

もしも”変身した状態で”制服を脱いだら
”そのまま”なのであれば、
いくらでも洋服が手に入るー。

そんな、微かな下心を抱きながら、
それを試した達樹ー。

がー、結果は
”変身時に着ていた服”を脱いだところで、
”意味はない”ことを思い知らされたー。

服を脱いでも、1分が経過すると、
別の場所に置いた服も”ちゃんと消える”のだー。

つまり、今、真桜の姿で着ていたセーラー服も
1分が経過したことによって、消えたー。

「ーーーは~、やっぱ清楚な真桜は最高だなぁ」
達樹は、真桜の姿を存分に堪能し終えると、
満足した様子で静かにそう呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

大学での1日を終えた達樹は、
ちょうど近くを歩いていた真桜のほうを見て、
少しだけ昨日のことを思い出して、顔を赤らめるー。

「え?ど、どうしたの?顔赤くない?」
それを真桜に気付かれてしまい、
達樹は「い、いや、べ、別にー」と、慌てて顔を背けるー。

「え~?なんか気味悪い~」
笑いながら大学の正門から立ち去っていく真桜ー。

ーが、その時だったー

「ーーへへへ、可愛いじゃんー」
「ー俺たちと、遊ぼうぜー」

柄の悪い3人組が、突然真桜の前に姿を現すー。

「ーーな、なによあんたたち!」
真桜が困惑しながらそう言うと、
「へっへへー誰でもいいじゃねぇかー。
 いつもさぁ、俺たち、お前のこと可愛いと思って見てたんだよー」
と、不良三人組の一人が言うー。

この大学の生徒ではないー。
大学の外で待ち構えていたのだろうかー。

「ーーーちょ!やめてよ!」

そんなことを考えているうちに、男たちが真桜の腕を掴んでいるのが見えたー。

「ーーおい!やめろ!」
達樹は、後先考えずに咄嗟に動いたー。

真桜が「達樹!」と、声を上げると、同時に、
達樹は不良三人組から真桜を取り戻そうと突進するーーーー

がーー
達樹は別に力自慢ではないー。

あっけなく返り討ちに遭ってしまい、その場に倒れ込むー。

周囲の学生たちは、そんな様子を困惑しながら、
警察に通報しようとしたり、大学の職員に助けを求めに行ったり、
あるいはのんきにスマホで動画を撮影している者もいるー

”こー、このままじゃ、真桜が連れ去られるー”

達樹は、何か方法がないものかと、頭の中で考えるー

そしてーーーー

「ーーーーーーー!!!!」

達樹は、表情を歪めたー。

あるー
一つだけー。
ひとつだけ、真桜を助ける方法がーー。

けれどーーー
その方法を使えば…

達樹が色々なことを考え、迷っているその間にも、
真桜は男たちが用意した車に運び込まれそうになっているのが見えたー。

「ーーーーーくそっ!」
達樹はーー
自分が知ってる中で一番強そうな人間に変身したーーー

2メートルを超える巨漢のプロレスラーの姿にー

「ーー!?!?!?」
「なんだ!?!?」
「菊間!?!?」

達樹の姿が急に変わった瞬間を見た周囲が驚きの言葉を口にするー。

「ーーうっ…うおおおおおおおおおおお!!!」

それを無視して、達樹はプロレスラーの姿のまま、
不良三人組に向かって突進していくと、
その一人を全力で殴りつけたー

「ぐはっ!?」
嘘のように吹き飛びー、
その場に倒れ込む男ー。

”他人の姿”を勝手に借りて、外で暴れれば本人にも迷惑がかかるー。
だがー、このプロレスラーは1年前、既に暴行事件で”本物”が逮捕
されているため、その心配もないー。
だからこそ達樹は、この姿に変身したー

「て、てめぇ!」
残りの二人がまとめて襲い掛かって来るー。

だが、達樹は圧倒的なパワーでその二人を返り討ちにするとー、
その場に座り込んでー、
やがて、1分が経過したーー

「ーーーーはぁ…はぁ」
元の姿に戻る達樹ー

救出された真桜は、呆然と達樹のほうを見ているー。

「ーーーーー…はは」
達樹は苦笑いすると、
「無事で、よかったー」と、安堵の表情を浮かべるー。

だがー
周囲の目撃者たちはどよめき、
達樹を”化け物”扱いするものまでいたー

「ーーーーーー…」
呆然としている真桜を見て、達樹は少し悲しそうな表情を浮かべるも、
「ー真桜が無事なら、どう思われたって、いいさ」
と、言いながら静かに目を閉じるー。

不良たちは半殺し状態ー
死んではいないが、事件沙汰になるだろうー。

真桜を誘拐しようとしていたのはみんな見ているからー、
罪になるかどうかは知らないけれどー。

まぁ、でもいずれにせよーーー

「ーーーありがとうー」
真桜が、そんな言葉を口にしたー

「ーーーえ」
達樹が、驚いて目を開けると、
真桜は今一度「ありがとうー…怖かったー」と、
達樹の手を掴みながら目に涙を浮かべるー。

「ーーー」
達樹は、変身能力をみんなに見られてしまったし、
これから大変なことになるだろうな…と、
思いつつも、
真桜を助けることができたことに、
満足そうに微笑むのだったー

おわり

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コメント

1話完結の変身モノでした~!★

変身できる時間が1日1分だと、
かなり使い道も限られちゃいますネ~…!

お読み下さりありがとうございました~~!

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