<憑依>気付かなきゃ、返さない③~兄と妹~(完)

憑依されて、まるで別人のように
何もかも変えられてしまった麻奈美…

そんな彼女に憑依している男は、
”お兄ちゃんが、気付くことができたら解放してあげる”と、
邪悪なゲームを挑んできた。

兄と対面する”変わり果てた”麻奈美ー。兄の反応は…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あ、はい…俺ですか?」
振り返って、麻奈美の姿を見た兄・雅人の言葉は
そんな言葉だったー。

”お、お兄ちゃん!わたし!わたしだよ!”
麻奈美の意識が、頭の中で叫ぶー。

しかし、今、麻奈美の身体の主導権は、
麻奈美に憑依している淡嶋陣によって支配されていて、
心の中で叫んだ言葉は、表に言語としては発されないー。

「ーーはいー、あのー…ちょっと道に迷ってしまってー」
麻奈美が甘い声を出しながら、そう言い放つと、
「ーーなるほどー」と、兄の雅人は穏やかに反応したー

”なるほど!じゃないってば!わたしだよ!”
麻奈美の意識が叫ぶー。

しかし、麻奈美の身体はスマホを手に、
「ーーこのお店を探してるんですけどー」と、
この駅の近くにあるスイーツ店の写真を見せたー。

昨日、適当に”声をかける口実”として
淡嶋陣が、麻奈美の意識にしつこくアドバイスを求め、
探しておいた店だー。

「ーあぁ、この店ですねー」
雅人は、そのお店を知っているか反応すると、
丁寧に道順を教え始めるー。

目の前にいる変わり果てた妹が、
自分の妹だと、全く気付いていない様子だー。

しかし、それも無理もないかもしれないー。

黒髪だった髪は、茶色にー、
髪型も変わっている上に、
いつもの落ち着いた服装ではなく、
足を見せ付けるかのような短いスカートを履いているー。

その上、マスクをしていて、目元もメイクをしていて、
耳にはイヤリングをしたり、
爪には可愛らしいネイルが施されていて、
さらに、麻奈美とは違う趣味の香水まで漂わせているー。
声の感じまで、いつものトーンとは違っているために、
気付けないのも、無理はないのだー。

丁寧に”麻奈美”が探しているお店を、
教え終えた雅人ー。

だが、麻奈美はクスッと笑うと、
「あの~…わたし、このあたり来たことなくて~…」と、
甘えるような声を出しながら、困ったような表情を浮かべるー。

”ちょうどバイト帰り”で時間的な余裕があるタイミングであることや、
雅人のお人好しぶりを、麻奈美とのやり取りなどから
把握していた陣は、”妹の身体”で甘えるような仕草をしながら
”雅人に案内してもらおう”と、企てるー

「ーーえっ… あ、じゃあ、良ければ俺がそこまで一緒に行きますよー」
少し顔を赤らめながら言う雅人ー。

雅人は特別、下心に溢れたような男子大学生ではないものの、
”こんなに可愛い子”を前にして、少し照れている様子だったー

”お、お兄ちゃん!わたしにそんな顔しないで!?”
心の中で、”お兄ちゃんのそんな顔見たくないんだけど!!!”と、叫ぶ麻奈美ー

けれど、麻奈美の身体は笑みを浮かべながら
「ありがとうございます~♡」と、雅人の手を掴んで一緒に歩き出すー。

「えっ!?えぇっ!?」
雅人は、いきなり声を掛けて来た可愛い子に手をつながれて
ドキドキしながら一緒に歩き出すー。

一瞬、雅人も”何か怪しいことに巻き込まれるんじゃ?”という警戒心を
抱いたものの、”まぁ、歩くのは人通りの多い場所だし、案内だけならー”と、
そのまま一緒に麻奈美と歩き続けるー。

一緒に歩いているのが、妹だとは夢にも思わずにー。

色々な雑談を交わす二人ー。
以外にも、麻奈美を乗っ取っている陣は、
麻奈美の身体で”女子大生っぽい話”を色々と口にしていて、
麻奈美の意識はそれを聞きながら驚いていたー。

それもそのはずー、
色々な身体を渡り歩いてきた陣にとっては、
今や女子大生のフリをするのも、女子高生のフリをするのも
お手の物なのだー。

「ーーえ~!大沼さんって優しいんですね~」
麻奈美が、”兄”のことを他人行儀でそんな風に言うー。

身体は兄と妹なのに、繰り広げられる異様な会話ー。

「ーーーはははー、でも妹からは
 よく”お人好しすぎる”って言われるけどー」

照れくさそうにそう言う雅人ー。

「へ~妹さんもいるんですね~!」
麻奈美がそう言いながら”お前の横にいるのがその妹だよ”と、
ニヤニヤと笑みを浮かべてー
”妹の身体なのに、妹だと認識されていないこと”に激しい快感を覚えるー。

そんな男の興奮が麻奈美の意識の方にも伝わってきて、
戸惑いながら”わたしここにいるし!!!!”と、兄の雅人にツッコミを入れるー。

そうこうしているうちに、目当てのお店に到着すると、
雅人は「あ、ここですー」と、店のほうを指さしたー。

麻奈美は「あ!ありがとうございます!」と、頭を下げると、
雅人は「じゃ、ごゆっくりー」と、そのまま頭を下げて
立ち去ろうとしたー。

兄の雅人は純粋に道案内をしただけで、
”あわよくば一緒に”とか、そういう下心はないー。

そのため、道案内を終えた雅人は、当然のようにそのまま立ち去ろうとしたー。

がーー

「あ、あの!お礼に、ご一緒にどうですか!?」
麻奈美が叫ぶー。

雅人が「へ?」と、全く予想していなかったかのように振り返ると、
「ーーほら、わたし、一人ですし、せっかくならご一緒にー。
 あ、わたし、ご馳走しますので!案内して貰ったお礼です!」と、
麻奈美はそんな言葉を口にしたー

雅人は戸惑いの表情を浮かべるー。

「ーーーーいやいやいや、いいよいいよそんな気にしなくてー」
雅人は苦笑いしながらそう答えるー。

”ーほっー…”
麻奈美の意識は少し安堵するー。

”お兄ちゃん”に気付いてもらいたいけれど、
確かに自分でも驚いてしまうぐらいに別人みたいな見た目に
なっているし、なかなか無理かもしれないー。

けど、それでも、この男が言うように、お兄ちゃんとそういうことをしてしまうー、
なんてことは絶対に避けたいー。

「ーーそう…ですかー」
麻奈美が心底残念そうに、わざと、涙ぐんでそう言葉を口にするー

”ちょっ!?”
麻奈美の意識はそんな様子を見て、イヤな予感を覚えるー。

目の前で泣かれたりしたら、困っているお人好しなお兄ちゃんは
相手が男だろうと、女だろうと、それを放置できいないことを
知っているからだー

「ーーーーじ、じゃあー、少しだけならー」
麻奈美が感じた”嫌な予感”は正しかったー。

雅人は、目の前にいる女が妹だと気付かないまま、
そう言うと、喜ぶ麻奈美を見て、やれやれ、という様子で
一緒に店に入っていくー。

「ーわたしたち、恋人同士みたいに見えちゃうかもですね!」
憑依された麻奈美が、ニコニコしながら言うー。

麻奈美に憑依している陣は”妹なのに恋人同士に見られる”という
この状況に興奮していたー。

「ーいやいやいや、道案内しただけだしー…」
雅人は戸惑うような表情を見せるー。

”帰りたい”と思っている顔だー。

「ーまぁまぁ、こうして出会えたのも運命かもしれませんし!」
麻奈美はそう言うと、店内で飲食のできるこのお店で、
メニューを見つめ始めるー。

美味しそうなケーキや、デザート類ー^

”ーーーー!!!”
麻奈美の意識は、あることに気付くー。

”もしかしたらー…”
そう思いながら”わたしにも運がまだ残っているのならー”と、祈るー。

兄の雅人が流石に”エッチなこと”をする段階まで進むとは限らないが、
麻奈美に憑依している淡嶋陣という男は、
これまでにも”女”の身体で男を誘惑したりもしてきたのだろうー。

お人好しの雅人が、万が一にも騙されてしまう可能性があるー。

「ーじゃ、わたしはこのフルーツケーキを」
麻奈美がそう注文すると、雅人は”あまり長居しないため”なのか、
コーヒーだけを注文したー。

「ーーー」
マスクを外す麻奈美ー。

「ーーー…」
雅人が、そんな麻奈美の顔を見つめるー

”お兄ちゃんー?”
麻奈美の意識は、少しだけ”お兄ちゃんが気付いてくれる”ことに期待して
言葉を心の中で口にするー。

流石に顔全体が見えて、”妹に似ているな…”ぐらいは
思っているのかもしれない。

少しだけ表情を歪めながら
「ーー…ーーあの、俺の知り合いだったりしないよね?」と、
雅人は困惑したまま言葉を口にしたー。

「ーえ~?ふふ、初対面ですよ~」
麻奈美がそう言うと、雅人は「そ、そうだよなーどこかで会ったような気がしたんだけど」
と、だけ言葉を口にしたー。

届いたフルーツケーキを食べながら
楽しそうに雑談する麻奈美ー

「ー(さて、この後はこのお兄ちゃんを何とかホテルに誘わないとなー)」
麻奈美に憑依している陣は、色仕掛けの方法を考えながら
そんなことを思っていると、
ある異変に気付いたー。

「ーー!」
麻奈美が表情を歪めるー

”ーーーーー”
麻奈美の意識がその様子を、心の中からじっと見つめるー。

「ーど、どうかしたのか?」
兄の雅人が困惑していると、
突然、麻奈美が激しく咳き込み、苦しそうにし始めたー。

「ー…だ、大丈夫ですー」
麻奈美に憑依している陣は、それだけ言うも、
また咳が激しく出て来て、さらには喉の奥に猛烈なかゆみのようなものを
感じ始めたー。

「ーーな…なんだ…?」
戸惑いながら表情を歪める麻奈美を見て、
兄の雅人は「だ、大丈夫ですかー?」と、再度確認するー。

「ーーーーっっ…」
感じたことのない苦しみに、表情を歪めている麻奈美ー。

だがー、そんな麻奈美を見て、
雅人は困惑の表情を浮かべながら、
麻奈美が今、食べたフルーツケーキを見つめたー。

”この光景”は、
何度か見たことがあるー。

そしてー、
”マスクを外した目の前にいる女の顔”と、
その光景を見比べながら、
雅人はハッとしたー

「ーー…まさか…麻奈美?」
雅人の困惑したような表情に、
麻奈美は咳き込みながら、驚きの表情を浮かべたー。

「ーーな…なんでー…」
麻奈美がそう聞き返すと、
雅人が答える前に、麻奈美の意識が答えたー

”桃ー”
とー。

「ー桃?」
麻奈美は苦しそうにしながら険しい表情を浮かべるー。

”わたし、桃は食べられないの。アレルギーで”
麻奈美の意識にそう言われた麻奈美は、
今、食べたフルーツケーキのほうを見つめるー。

桃らしきものが、そこには入っているー。

「ーーーく…」
まさか、そんな失敗を犯すとはー…

淡嶋陣が麻奈美の意識に、”お前の兄に道を尋ねる店、どこがいいかなぁ?”などと
しつこく聞いた時に”女子なら、スイーツのお店とかがいいよ”と、そっけなく
返事をされた結果、陣はこの店に兄を誘い込んだー。

が、それは、麻奈美のアレルギーを知らない陣が自滅する可能性に
麻奈美は賭けていたのだー。

苦しいけれど、自分の症状は死ぬほどではないー。
それも、よく理解している麻奈美の、捨て身の賭けー。

そして、麻奈美はそれに勝ったーー

「ーーえ…ま、麻奈美ー…なんで、そんな格好ー…?」
兄の雅人が困惑していると、
麻奈美は苦しそうにしながら、雅人を見つめー、
そして、麻奈美に憑依している淡嶋陣は、麻奈美の奥へと
引っ込んでいったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーそんなことがー」
身体の主導権を取り戻した麻奈美が、兄の雅人に事情を説明すると、
雅人は困惑した様子を浮かべながらも「もう、大丈夫なのかー?」と
確認してきたー

「ーうん…でも、まだわたしの中にはいるー」
麻奈美はそこまで言うと、
「ーーって、お兄ちゃん、憑依なんて、すんなり信じてくれるの?」と
逆に困惑しながら言葉を口にするー

「ーーん?あぁ、麻奈美は嘘つかないし、麻奈美が言うなら信じるよー。
 それに、麻奈美、意味もなくそんな格好しないだろ?」
雅人がそう言うと、麻奈美は恥ずかしそうに「は、早く元の雰囲気に戻りたいんだけどー」と
目を逸らしたー。

「ーーはははー。
 でーー?麻奈美の中にいるお前ー」
雅人が麻奈美に向かってそう言うと、
「約束したんなら、麻奈美から出てけよ。」と、敵意剥き出しで言うー。

「ーーーそうよ!早く出て行って」
麻奈美が自分の中にいる淡嶋陣に向かってそう叫ぶと、
淡島陣は答えたー

”もちろんー。俺の負けだ。約束は守るさ。
 負けた時のペナルティをちゃんと受けなきゃ、
 ゲームの意味はねぇからな”

陣はそう言うと、麻奈美の身体を再び乗っ取ったー。

”ーえっ!?ちょっ!?”
麻奈美の意識が叫ぶと、
麻奈美の身体で陣は笑うー。

「ーそんなに怒るなって。お前以外の身体に移動して、
 お前から出てくだけだー。
 安心しろ。別にお前の身体を傷つけて出てったりはしない」

麻奈美がそう言うと、前にいた雅人は
”妹が男口調で喋る様子”に、戸惑うー。

そして、次の瞬間ー

麻奈美が雅人にキスをしたー

”ーー!?!?!?!?!?!?!?”
麻奈美の意識が驚くと同時に、麻奈美は自分の中から
”淡嶋陣”が出て行くのを感じたー。

それと同時にーーー

「ーーへへへ…お前の兄貴の身体を頂いたぜー」
目の前にいるー…麻奈美にキスをされた兄・雅人が笑うー。

「ーえっ!?ちょ…ちょっと!お兄ちゃん!!?!?」
麻奈美が叫ぶと、
雅人は笑みを浮かべるー。

「ーへへ、お前と違って兄の方は意識がなくなっちまったみたいだなー
 まぁ、憑依されても意識が残ってたのはお前ぐらいだけど」
雅人はそう言うと、そのままその場から立ち去ろうとするー。

「えっ!?ちょっと待ってお兄ちゃん!

 ーお兄ちゃんの身体を返して!」

麻奈美がそう叫ぶと、
雅人は振り返って笑ったー。

「約束は守っただろー?
 お兄ちゃんが気付いたらお前の身体を返すー。
 俺はそう約束しただけだー」

雅人はそれだけ言うと、笑みを浮かべながら
言葉を続けたー

「ー俺は、憑依相手が女でも男でも、どっちでもイケるんだー。
 ーーしばらくはお前の兄に身体で楽しませてもらうぜー」

とー。

その言葉に、解放されたばかりの麻奈美は、
唖然とすることしかできなかったー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

お兄ちゃんのおかげで無事に解放はされましたが、
今度はお兄ちゃんが…な、エンドでした~☆!

ちなみに、①で憑依されていた麻奈美の友人の幸恵は
無事に意識を取り戻して、1日記憶が飛んでいることに
首を傾げながらも、大学に復帰しています~!

お読み下さりありがとうございました~!

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