女体化して、アイドルとしても活動を続ける
男子大学生。
しかし、”ファン”である親友の
不穏な行動が次第に目立つようになっていき…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーこれからも、頑張ってください」
ライブ終了後ー、
グッズを販売しているスペースにやってきて、
グッズを一つ、購入した”亮太の父親”はそんな言葉を口にしながら
女体化した亮太=愛梨に向かってそう呟いたー
”おいおいおいおいー親父ー…マジかよー”
”愛梨”として「ありがとうございます~!」と言いながらも、
そんなことを心の中で呟く亮太ー。
当然、亮太の父親は目の前にいる”愛梨”が
まさか自分自身の息子だとは夢にも思っていないだろうー。
そして当然、亮太自身も”俺、亮太なんだけど”などと言うつもりはないー
「ーー健康には気を付けてー」
亮太の父親がそう言うと、そのまま買ったグッズを手に
立ち去っていくー。
”愛梨”は、少しだけ表情を歪めながらも、
すぐに他のファンの対応を始めるー。
”親父にアイドル趣味があったなんて…思わなかったなぁ”
そんなことを思いながら、
いつものように帰宅しているその時だったー。
駅の近くの抜け道を歩いていると、
前に人影が姿を現したー。
「ーーーー…!」
”愛梨”は、その人影の正体に気付き、少し驚きの表情を浮かべるー。
女体化した亮太=愛梨の前に姿を現したのは
亮太の大学の親友・啓二だったー。
啓二には先日、
”愛梨”としても”そういうことをしないでほしい”と指摘したばかりだし、
大学では”亮太”として、一線を越えるな、と釘を刺したはずだー。
しかしー、
それでも啓二は自分自身にブレーキをかけることがー、
己自身に打ち勝つことができなかったのかもしれないー。
「ーー愛梨ちゃんーこんばんは」
啓二はそう呟きながら近づいてくるー。
「ーこんばんはー」
”愛梨”が表情を歪めるー。
「ーあ、あぁ、あの、怖がらせるつもりはないんですー
何もするつもりはないので、落ち着いて下さいー」
啓二が、この前”愛梨”に叱られたことを思い出して、だろうかー、
そんな言葉を口にすると、
「ーーアイドルとファンの立場ー。それは、俺も良く分かってるつもりです」
と、言葉を続けるー。
”愛梨”は、心のどこかで恐怖を感じながら
表情を曇らせるー
”ーおい高島ー、バカな真似はやめろー
今のお前がしてるのは、アイドルへのつき纏い行為だぞ!”
亮太はそんな風に思うー。
しかし、今の自分は”女体化”した状態ー。
啓二に”俺は亮太だぞ!”と言うことはできないしー、
仮に、啓二が暴力的な行動に出た場合ー…
”この身体”では、恐らく抵抗するのは難しいー。
「ーーーだから、俺、愛梨ちゃんに告白しますー」
啓二が言うー。
自分が愛梨に告白して、
愛梨と恋人同士になればアイドルとファンの関係ではなくなるー。
そうすれば、もう遠慮する必要はない、と啓二は笑いながら言ったー。
「ー愛梨ちゃんが俺のこと好きだと気付いてー、
こうするしかないって思ったんですー。
だから、俺と付き合ってください」
啓二のそんな言葉に、
愛梨は思わずため息をつくー。
「ーー高島さんー…お願いですから、そういう”勘違い”はやめてください」
”愛梨”として、亮太はそう言い放つー。
「高島さんは悪い人じゃないって知ってますー。
でも、そういうのは絶対にダメですー。
わたしが、高島さんのこと好きだっていつ、言いましたかー?
そうやって決めつけて、勝手に話を進めるのはー
絶対にダメですー。
そういうことされると、わたしも怖いんですからー。
お願いですから、分かって下さい」
”愛梨”が、そう言い放つと
啓二は呆然とした表情を浮かべているー。
「ー”わたし”のせいで道を踏み外さないで」
”愛梨”が真っすぐと啓二を見つめながらそう言い放つー。
本当は
”女体化してる俺なんかのためにそんなに夢中になっておかしなことをするな!”と
言いたい気持ちだったが、
今は女体化している状態である以上、これが限界だー。
亮太自身も、”正体を明かさずアイドル活動をしている”うしろめたさもありー、
自分が女体化してアイドルなんてやっているせいで、
親友の啓二をおかしな道に進ませてしまいそうになっている現状に、
強く心を痛めていたー。
だから、”頼むからそういうことはやめてくれ”
と、その一心だったー。
しかしー…
「ーーじ、自分の気持ちに嘘をつかないでください!」
啓二は顔を赤らめながら食い下がるー。
「ーーーお、俺のこと、好きなんですよね!?
だから、付き合ってください!」
啓二がそう言いながら、愛梨の手を掴むー。
”だめだこいつー。超えちゃいけないラインを越えようとしてるー”
そう思いながら、愛梨は「や…やめてください!」と、声を荒げるー。
だがー、
”周囲には気づかれないように”
控えめにー。
啓二が”俺のせい”で、犯罪者になってしまうことは避けたかったしー、
そもそも、騒ぎになれば自分の正体もバレるかもしれないー。
まぁ、啓二は”愛梨”が相手じゃなくてもいずれこうなるのかもしれないがー、
少なくとも”俺のせい”で、そうなってしまうことは、
避けたかったー。
「ーーーやめない!これは愛梨ちゃんのためなんですよ!」
啓二が叫ぶー
腕を振り払おうとする愛梨ー。
だがー、”啓二”の力の方が強いー。
壁に叩きつけられた愛梨は
「ちょ、ちょっと待って!」と、怯えた表情で声を上げるー。
それでも、啓二は止まりそうにないー。
”くそっー…!大馬鹿野郎ー”
そう思いながら、ポケットに隠し持っている”妹・莉々から貰った石”で、
仕方がなく招待を明かそうと、石を掴むー。
啓二には何て言われるだろうー?
もう、自分は”愛梨”として活動することはできないかもしれないー。
莉々の夢を代わりに、少しでも叶えてあげたい、という夢も
ここで終わりかも知れないー。
けれどー、それでも、啓二を止めるには
今、この場で元の姿ー
”亮太”の姿に戻って、啓二を叱りつけることしか
浮かばなかったー
「ーーーーーー」
愛梨は意を決して、石をぎゅっ、と握るー。
だがーーー
「ーーやめろ!!!」
背後から、別の男の声がして、啓二の腕を掴んだー
「ーー!!」
啓二が驚いて振り返るー。
「ーバカな真似は、やめなさい!」
そう叫んだのはー、女体化している亮太=愛梨の父親ー、
今日のミニライブに参加していた亮太の実の父親だったー。
「ーーー…!」
啓二が我に返ったかのような様子で
愛梨のほうを見て「ご、ごめんなさいー」と、頭を下げるー。
”愛梨”は、男に戻るのをギリギリのところでやめて、
啓二のほうを見つめるー。
「ーーーー見ろ。彼女、こんなに怖がってるじゃないか」
亮太の父親が啓二に言うー。
啓二は、”愛梨”の顔を見て、それに気づいたのか、
「俺… 俺… すみませんでした」と、その場で謝罪の言葉を口にしたー。
恋愛に縁がなく、
アイドルに夢中になって、
そうこうしているうちに、自分がおかしくなってしまった、
ということを正直に自白する啓二ー。
女体化している亮太は、自分でも”俺はそんなに怯えた顔をしてるのか?”と、
思いながらも、自分の手が小刻みに震えていることに気付きー、
少しだけため息をつくー。
「ーーー高島さんー。
2度と、こういうこと、しないって約束してくださいー。
わたしにも、他の子にもー。
わたしは、高島さんがわたしたちアイドルのせいで、
おかしな方向に走って欲しくないんですー」
”愛梨”がそう言い放つと、啓二は「ーーー本当に、すみませんでした」と、
今度こそ、自分の暴走を受け止め、
謝罪の言葉を心の底から口にしたー。
”相手が、俺でよかったなー”
女体化している亮太は、そんな気持ちになったー。
他のアイドルにこんなことをしていたら、啓二はもうおわりだー。
そういう意味ではー、
”自分のせいで”啓二をおかしな道に進ませてしまったと同時にー、
自分が女体化してこういうことをしていたおかげで
他のアイドルの子が被害に遭わず、啓二も手遅れになる前に、
ギリギリのところで、道を踏み外さずに済んだのかもしれないー。
「ーーーー」
愛梨が、亮太自身の父親のほうを見ると、
父親も、”君がそれでいいなら”という雰囲気で、
啓二のことを警察に通報することはしなかったー。
啓二は深々と頭を下げると、
そのまま気まずそうに立ち去って行ったー。
「ーーすみません。帰りの電車に乗ろうと駅に向かっていたら
さっきの男が、君のあとをついていくのが見えてー」
亮太の父親はそう言い放つと、
「ー今は物騒ですから、どうか気を付けて」とだけ言い放って、
そのまま立ち去ろうとするー。
「ーあ、あのー…ありがとうございました」
相手は”自分の父親”なのだがー、
今は女体化していて、父は”目の前にいるアイドルが息子自身”だとは
気付いていないし、
女体化して愛梨を名乗っている亮太も、わざわざそのことを
伝えるつもりはない。
実の親に”他人”としてお礼を言うなんて変な気持ちだな、と
そう思いながらお礼の言葉を言い終えると、
亮太の父親は立ち止まって少しだけ言葉を口にしたー。
「ーーアイドルになんて、今まで一度も興味を持ったことなんて
なかったんだけどねー」
父親はそんな風に言うと、
言葉を続けるー。
「ー変な話だけどー、死んだ娘に、愛梨さんー
あなたが似ていてー…
なんだか、応援してあげたい気持ちになったー
…あぁ、もちろん、さっきの男みたいに
変な方向に進むつもりは全くないしー、
娘と愛梨さんが別人なのはちゃんと理解してるー」
亮太の父親は、そんな言葉を口にするー。
そして、愛梨のほうを見ながら、亮太の父親は
少しだけ照れくさそうに笑うと、
「ははー…まぁ、いつまでも娘の死を乗り越えられない
哀れなおっさんなのかもしれないなー」
と、言葉を口にしてから
「これからも応援してます。頑張ってくださいー
どうか、お体には気を付けてー」
そう言い放ち、頭を下げ、立ち去っていくー。
「ーー親父ー」
父の背中を見つめながら、女体化した亮太・愛梨は呟くー。
確かに”女体化した自分”は、莉々にかなり似ているー。
莉々がくれた謎の石に、死んだ莉々の想いでも詰まっているのだろうかー。
それとも、単に兄妹だから女体化した姿は妹に似るだけなのかー、
それは、分からないー。
「ーー親父も、莉々のこと、辛いんだなー」
”愛梨”はそう呟くと、
少しだけ寂しそうな表情を浮かべてー
そのまま家に向かって歩き出したー。
父は、莉々が死んだ時も、”悲しんでいないように”見えたー。
淡々と、母を励まし、葬儀などの手続きを進める父に
不満を抱いたこともあったー
けれど、やっぱり父にとっても莉々の死はつらいものだったのだろうー。
それを表に出さないようにー、
息子と妻の支えになれるように、必死に自分の弱い部分を
隠してくれていたのかもしれないー。
そんなことを思いながら、
愛梨は寂しそうに夜空を見上げたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーお前の言う通りだったよー」
数日後ー
大学で啓二に会うと、啓二はそんな言葉を口にしたー。
「ん?」
亮太は、あえて”何も知らないフリ”をしながら
啓二のほうを見つめるー
「アイドルとファンは、あくまでもアイドルとファンー
その通りだったー。
これからは、俺もしっかりしなくちゃな」
啓二がそう言うと、
亮太は少しだけ安心した様子で笑いながら、
「ー何かあったのか?」と言葉を口にするー
「いいやー。でも、愛梨ちゃんが、ちゃんと教えてくれたからさー。
俺はファンで、愛梨ちゃんはアイドルー。
それを、踏み越えちゃ、いけないよな」
啓二の言葉に、亮太は穏やかな表情で頷くと、
「ーーちゃんと分かってくれて、その愛梨ちゃんって子も
喜んでるんじゃないかなー」
と、言葉を口にしたー。
これからもー、
亮太は、普段は大学生としてー
裏では女体化してアイドルとしてー、
そんな日々を続けていくー。
死んだ妹の分まで夢を叶えてー、
それでーー
その先はーーー
「ーーーーー」
”俺も、いつかは莉々の死を、乗り越えなくちゃなー”
そんな風に思いながら亮太は今日も帰宅すると、
石を握りしめて、女体化するのだったー
おわり
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コメント
穏やかなエンドの女体化モノでした~!☆
私の作品の中では
女体化モノは比較的バッド率が低いような…
(統計とかそういうのを取ったわけじゃないので
私の単なる感覚デス笑)
気がしますネ~笑
お読み下さりありがとうございました~~!☆!
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