表では普通の男子大学生として大学に通いながら、
裏では”女になることができる力”で女体化して
アイドルとして活動している男ー。
ある日、親友が自分のファンだと知ってしまった彼はー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーみんな~!今日もありがと~!
今日は短い時間だけど、楽しんでいってね~!」
今日も、女体化した状態で、
いかにもアイドルな衣装を身に纏い、
かわいいを振りまく女体化した亮太=愛梨。
とは言っても、無理してそう振る舞っているわけではなく、
女体化している時の自分は、
心の底から、そう振る舞うことが出来るー。
全ては”夢”を叶えるためー。
「ーーーー♪~~~」
”愛梨”の定番曲を歌いながら、ファンを盛り上げていくー。
自分自身の口から、こんな可愛い声が出ているなんてー、
と、最初の頃は驚いたけれどー、
今はこれも自然になったー。
”俺”の声もー、
”わたし”の声もー、
今ではすっかり自分の声ー。
最初は女体化している間に、喋るだけで
”他の人の声で喋っている”と、いうような
そんな感覚だったけれど、今は違うー。
「ーー♪~~ ♪~~」
愛梨が狭いステージ上で、歌いながらファンたちのほうを見つめているとー
「ーま、間に合ったぁ…」
ぜぇぜぇと息を切らしながら、ライブ会場に駆け付けたファンを見て、
愛梨は少しだけ表情を歪めたー。
”おいおいおいー”
そうー、親友の啓二がまた、愛梨のイベントに駆け付けたのだー。
目をキラキラ輝かせながら、
”愛梨”を応援する啓二ー
”そんな顔で俺を見るなよー”
愛梨は、そう思いながらも、”アイドル”としての振る舞いは崩さず、
ファンたちのために歌い続けるー。
”そんな顔されたらー
俺ー、もっと罪悪感が強まっちゃうだろー…?”
愛梨はそんな風に思うー。
亮太が女体化してアイドルとして活動しているのには色々と理由があるー。
もちろん、一つは”お金”も理由ではあるー。
一人暮らしをしている亮太には、生活費が必要だー。
そのため、こうしてアイドルとして活動して得た収入を
生活費に充てているのは事実だー。
しかし、”愛梨”は全国デビューしているようなアイドルではなく、
あくまでローカルなアイドルー。
収入はそんなに高くないし、
正直、時給のいいバイトをしていた方が
お金を稼ぐ、という面においては効率も良いー。
それでも”愛梨”にはこうしないといけない理由があったー。
「ー今日も、最高でした!」
ミニライブ後に、啓二がそんな言葉を口にするー。
「ーう、うん!ありがと!」
愛梨としてそう返事をすると、啓二は
「これからも、ずっと応援してます!」と、嬉しそうに言うー。
一瞬、
”わたしよりも、自分の人生を優先して”みたいなことを言いそうになったー。
だがー
”アイドル・愛梨”はそんなことは言わないー。
女体化している自分と、本来の自分は切り分けて考えなくてはいけないー。
”啓二”を遠ざけるのであればー
それは”愛梨”のするべきことではないー。
”亮太”がするべきことだー。
そう思い直して「ーありがとう!わたしも頑張るね!」と、
笑顔で言い放って、他のファンたちとも会話を交わすー。
「本当に、いい子だなぁ…」
啓二はそんな風に笑いながら、そう呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからも、亮太は啓二に対して
「あんまりアイドルに熱中しすぎるなよ」と言い放ったり、
「彼女いないだろ?誰か紹介してやろうか?」と言い放ったり、
「ーこのゲーム、面白いぞ?」と紹介したりして、
とにかく”愛梨”から引き離そうとしたー。
しかし、あまり強く”あの子に近寄るな”みたいなことは言えないし、
”嘘”をついて、愛梨の悪評を流したりすれば、
啓二がそれを本当の話だと誤解して、ネットに書き込んだりして、
それで愛梨の評判が世間的に落ちてしまっても困るー。
そんな風に思いながら、どうすることもできない日々は続いたー。
しかしー、
それも、だんだんと”予想外”の方向に進み始めたー。
「ーえへへ…愛梨ちゃんー!こんばんは!」
ライブを終えて、帰宅中の”愛梨”の前に
啓二が姿を現したのだー。
啓二は”体格がいい”ー。
普段、特別そのことを意識したことはなかったしー、
”亮太”が、普段の自分であれば、啓二に何かされそうになっても
自分の身を守ること自体は、それほど難しいことではないー。
しかしー、今の自分ー
女体化した状態の華奢な自分では、
そうはいかないー。
「ーーー(…そっかー、こういう恐怖心と女の子は隣り合わせなんだなー)」
”愛梨”は、そう思いながら
啓二を見つめるー。
イベント後の帰宅中のアイドルの前に姿を現すなど、
”度を超えている”と、愛梨は思ったー。
「ーーーこ、こんばんはー」
少し引き気味で、愛梨が言うと、
「ーぐ、偶然ですねー。ははは」と、啓二は笑ったー。
そのまま、雑談を交わすー。
啓二は、一駅先に住んでいるはずで、この辺で”偶然”ということは
あり得ないー。
愛梨を待ち伏せしていたのだー。
「ーーーーー…(おい、一線を超えるなよー?)」
亮太は、知っているー。
啓二は悪いやつではないー。
しかし、異性との接点が薄くー、そういう距離感があまり分かっていないと
感じる部分が時々ありー、
恐らく、相手がアイドルとは言え、”はじめて”一人の女性にここまで
夢中になったのだろうと思うー。
それ故に、暴走しかけているのかもしれないー
「ーーあ、あの!」
愛梨がそう声を上げると、啓二は少し驚いた様子を見せるー。
「ー高島さんは、いつも本当にわたしのこと、応援してくれて
とっても感謝しているんですけど、
こんな風に、急に待ち伏せみたいなことをするのはー
やっぱり、よくないと思うんです」
愛梨の言葉に、啓二は「い、いやー、お、俺はー」と、戸惑うー。
「ーアイドルとファン、その関係を間違えないでくださいー。
わたしからのお願いですー」
愛梨がそう言うと、啓二は戸惑いの表情を浮かべながらー、
「ー…す、すみませんでしたー。確かに俺ー…
こ、怖がらせるつもりはなかったんですけどー…
い、家に帰らず、この辺でウロウロしていれば、愛梨ちゃんに会えるかとー」と、
申し訳なさそうに言葉を口にしたー。
「いいえー…分かってくれれば全然いいんです」
愛梨として、亮太は微笑むー。
啓二は気まずそうにしながら
「こ、これからも頑張ってください」と、それだけ言うと、
そのまま頭を下げて立ち去って行ったー。
「ーーーー」
愛梨は、そんな啓二の後ろ姿を見つめながら、
”お前がのめり込みすぎたアイドルが、俺で良かったよー”と、
静かにそう呟いたー
もしも、他の子だったらー、
このままブレーキが効かずに暴走していたかもしれないー。
そうなれば、普段、どんなに良いやつであろうと、
罪は罪だし、それは償わなくてはならないー。
そんなことにならなくて、本当によかったー。
”愛梨”の姿のまま、啓二は帰宅すると、
”妹”の莉々から貰った”不思議な石”を握りしめながら
元の姿に戻るー。
”お兄ちゃんーーー…
わたしー……”
莉々の言葉を思い出すー。
”わたしー…アイドルになれるかなー…?”
そんな、”最後”の言葉を思い出すー。
病で命を落とした莉々ー。
彼女の夢は”アイドル”になることだったー。
そして、最後に、
莉々はそう言ったのだー。
”もう、無理”
それは、明らかだったー。
だって、目の前にいる莉々は、もう、あと数日持つかどうか、
そんな状況だったのだからー。
それでもー
「ーあぁ、なれる。なれるさー。
莉々は、誰よりも可愛いからなー」
亮太は、そう伝えたー。
莉々は目から涙を流しながらー、
小さい頃からお守りとして持っていたその”石”を、
亮太に手渡したー
”お兄ちゃん、ありがとうー”
莉々は、最後にそう言ったー。
その日を最後に、莉々は意識を取り戻さぬまま、
3日後にこの世を去ったー。
失意のうちに、莉々がくれた石を握りしめー、
莉々のことを考えていたあその時ー、
亮太は”女体化”したー。
莉々とよく似た姿にー。
女体化した時は、心底驚いたー。
けれどー、そんな自分の姿を見た時に、
亮太は思ったー
莉々が果たせなかった夢を俺が果たさなくてはいけないー…
とー。
莉々に渡された石で、莉々のような姿に女体化したー。
それはー、
”莉々に夢を託されたのだ”と、そう解釈したー。
もちろん、違うかもしれないー。
けれどー、亮太は、初めて女体化したその日をきっかけに、
妹の死から立ち直り、今、こうして生きているー。
「ー愛梨って名前も、莉々をイメージして考えた名前だからなー」
そう呟きながら亮太は寂しそうに、
「ーー莉々だったら、もっとうまく、アイドルとして活躍できたんだろうなぁ…」
と、莉々の写真を見つめながら、そう呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー。
「ーーえへへへへ」
親友の啓二が、ニヤニヤしているのを見かけて、
亮太は「何笑ってんだよ」と、不思議そうに声を掛けるー。
まさか、昨日”愛梨”として叱ったからおかしくなってしまったのだろうかー。
そう思っていると、
啓二は「ーいや、昨日さ、例の愛梨ちゃんに怒られちゃってさー」と、
言葉を口にするー。
「ー怒られた?」
”それは俺だ”と、思いながらも、他人のフリをして首を傾げると、
昨日の出来事を啓二は素直に説明したー。
嘘はついていないー。
亮太自身が愛梨なのだから、嘘をついていればすぐに分かるー。
「ーーー(まぁ…よく考えれば嘘をついているのは俺のほうかー)」
女体化して、愛梨として活動していること自体が”嘘”と言えば嘘だー。
そんなことにちょっとした罪悪感を感じながらも、
話を続けるー。
すると、啓二が言葉を口にしたー。
「へへー…愛梨ちゃん、俺のこと”高島さん”って呼んでくれたー…
まさか、ファンの名前のことを覚えてくれてたなんてー」
「ーー!!」
亮太は少し表情を歪めるー。
確かに、常連のファンの名前は憶えているー。
だが、名乗らない人も当然多いし、
ファンの名前を全て把握しているかと言われれば
決してそうではない。
そんなアイドルはそもそもなかなかいないだろうー。
が、昨日はつい、名前を呼んでしまったー。
女体化している間は、自分の中でも別人のように振る舞いを
使い分けているから”高島”と呼び捨てにすることはなかったものの
”高島さん”と苗字を読んでしまったー。
「ーーえへへへ…愛梨ちゃんー、俺のこと好きなのかも?」
啓二が笑いながら言うー。
「おいー。高島。
いい加減にしておけよ?
あまりのめり込みすぎるのはよくないって」
亮太がそう言うと、啓二は「いやぁ…でも、愛梨ちゃん、俺のことー」と、
笑いながら言うー。
「んなわけねぇだろ!?目を覚ませって!」
亮太が声を荒げるー。
このままだと”コイツは超えてはならないラインを越えかねない”
そうなればー、
俺が親友を犯罪者にしてしまう可能性もある、と、
亮太はそう考えて、必死にそれを止めようとする。
「いいか?アイドルは”仕事”だ。アイドルの子たちにとって
プライベートじゃない。
アイドルとファンは、あくまでもアイドルとファン。
友達でも家族でも恋人でもない。
なぁ、高島。分かるだろ?」
亮太がそう言うと、
啓二は「でも、アイドルと結婚するファンもいるし」と、不貞腐れた様子で呟くー。
そのまま、話は平行線をたどり、最後には
「女に興味のないお前には分からねぇよ」と、そのまま啓二は
立ち去って行ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日の夜ー。
いつものように女体化して”愛梨”として、
ミニライブを開いているとー、
愛梨は表情を歪めたー
「ーーーー!!!!!!!!!」
”愛梨ちゃん”と嬉しそうに叫ぶファンの男ー。
その男を見て、
愛梨は表情を歪めたー
”お、お、お、お、親父!?!?!?!?!?!?!?!?!?
どうしてここに!?!?!?!?!?!?!?!?”
実家の父親が嬉しそうに”愛梨”を応援しているー。
相手が女体化した息子だとは知らずにー。
女体化した亮太=愛梨は、流石に動揺しながらも、
周囲に悟られないようにいつもの笑顔を振りまきつつー
”なんで親父がここにいるんだよ!!”と、内心でツッコミを入れたー
③へ続く
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次回が最終回デス~!
親友の問題だけではなく、父親まで…☆
どんなことになってしまうのかは、また明日デス~!
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