”お前のいない人生なんて、考えられないー”
謎の男から手に入れた力で、
命を落とした妹の魂を、同じ大学に通う子に”憑依”させた兄ー。
しかしー…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーーーー」
ようやく泣き止んだ綾乃ー。
しかし、兄の豊とは口も利いてくれず、
気まずい状況が続いていたー。
頬を膨らませながら、
顔を背ける綾乃ー。
綾乃はそんな仕草をしないー。
”中身”は、本当に妹の恵美なのだと、
少しドキッとしながらも、
豊はようやく口を開いたー
「ーご…ごめんってばー
た、確かに水無月さんに許可を取らなかったのは
悪かったし、
恵美のことを勝手に、その子に憑依させたのも悪かったー
本当に、本当に、ごめんー」
豊がそう言うと、綾乃は”ふん”という様子でー、
「謝って済む問題じゃないし、謝る相手はわたしじゃないし」と、
顔を背けるー。
「ーーー…わ、分かってるよー
で、でも、もう元には戻せないし…そ、そのー」
豊がなおも震えながらそう言うと、
綾乃は涙目のまま振り返ったー
「ーこの人ー…水無月さんって人にも、人生があったんだよ?
お兄ちゃんみたいに、この人のこと大事にしてる人も
きっといたはずなんだよ?
お兄ちゃんと、わたしはそれを奪っちゃったんだよ?
分かってる?」
綾乃の言葉に、豊は返す言葉も思い浮かばずに、下を向くー。
「ーーーお兄ちゃんが、そんなことする人だとは思わなったー」
そんな言葉に、豊は強くショックを受けるー。
「ー俺はー…俺は恵美に会いたかったんだー
それだけなんだー」
豊が涙目でそう言うと、
綾乃は「わたしだって…わたしだってまだ死にたくなかったし、
お兄ちゃんとも、お母さんともお父さんとも、友達ともー
みんなとまだ一緒にいたかったー」と、言葉を口にするー。
「お兄ちゃんがわたしのことを考えてくれたってことは
分かってるー
でもー…お兄ちゃんのしてることは
”わたしを生き返らせるために、無関係の人を殺した”のと同じだよー?
お兄ちゃんが人殺しになって喜ぶ妹がいると思う?」
そんな風にー、諭すような言葉を口にする綾乃ー
「こ、こ、殺してなんかないー!水無月さんはー…その…」
豊がそう反論するー
「お兄ちゃんがしてることは、人殺しと同じだよ!!
だってー、水無月さんはもう、自分で何も分からないし
何もすることもできないんだよー?」
綾乃のそんな言葉に、
豊はもう、反論できずに「ーーそうだな…ー俺がバカだったー」と、
情けない姿を晒すー。
「ーーーー…」
綾乃は、そんな兄の姿を見つめながら、
「ーー…………水無月さんに、身体を返す方法はないの?」と、
悲しそうに言葉を口にするー
「ーわ、分からないー…
でも、そんなことしたらー…恵美はー」
豊がそう言うと、
綾乃は「わたしはもう死んだんだからー…誰も傷つけない方法が
あるなら、喜んで生き返るけどー…こんな方法は、絶対ダメ」と、
言葉を口にするー
「ーーー……嫌だー…」
豊は、子供のようにそんな言葉を口にすると、
「ー恵美のいない人生なんてー、イヤなんだ!」と、叫ぶー。
「ーー子供みたいなこと言わないでよ…!
とにかく、水無月さんに身体を返してあげなくちゃー」
そう言い放つ綾乃を前にー
「ーわ、分かったー。分かったよー」と、
豊は震えながら言葉を口にしたー。
けれどー
元に戻す方法は分からないー。
もう一度、あの”覆面の男”に何とかして会いー、
話を聞かなくてはならないー。
ひとまず豊は、綾乃に憑依した恵美に対して
今一度謝罪の言葉を口にすると、
今日はここで泊っていくようにお願いしたー。
これが、今度こそー、
妹と過ごす最後の1日になるかもしれないー。
それでもー
”水無月さん”の身体を勝手に奪うようなことは、確かに恵美の言う通りー、
人殺しと同じだー。
”恵美ー”
隣の部屋で寝静まった綾乃の姿にー、
恵美の姿を重ねながら、
「ーバカなお兄ちゃんで、ごめんなー」と、静かに呟くー。
「ーでも…俺にまた、大切なことを教えてくれてありがとうー」
そんな言葉を呟くと、豊は静かにため息をついたー
だがーーー
”一度憑依させた魂を、取り出す方法はないー”
ふいに、覆面の男の声がしたー
「なっ…そ、そんなー」
豊が悲痛な声を漏らすと、
”人間とは、愚かなモノだー。
後先考えずに力を行使に、そして後悔するー”と、
覆面の男は言葉を口にするー。
「ーーそ、そ、そこをなんとか!」
豊がそう声を漏らすと、
覆面の男は失笑するかのように笑ってから、
言葉を続けたー
”無理だー。自分のしたことの結果と、向き合うのだなー”
覆面の男は、それだけ言うとスッとそのまま姿を消したー。
「ーーそ、そんな……」
豊は、どうすることもできず、その場でただ、呆然とした表情を浮かべたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
目を覚ました綾乃…
妹の恵美に”事情”を説明するー
「元に戻したくても、もう無理なんだー。
ごめんー、本当にごめんー。
俺のことは人殺しと蔑んでくれても構わないー。
でもー、こうなった以上はー、”水無月さん”としてー」
豊がそこまで言うと、
綾乃は、また泣き出してしまうー。
こんなつらい思いを妹にさせてしまったー。
豊はそう思いながら、ただ、その姿を見つめることしかできなかったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”綾乃”になった妹・恵美と同居することはできなかったー。
兄・豊としては、綾乃が元々住んでいたアパートは
契約を解除して、豊の家で二人、暮らすことを提案したー。
その方が、恵美を守ってあげることができるし、
大学での出来事なども共有したり、色々近くで支えてあげることができたー。
もちろんー、豊の目的はそれ一つだけ。
”綾乃”にはそもそも興味がないし、”綾乃の身体”と一緒に暮らしたいという
思いは全くないー。
とにかく、恵美を近くで支えたいー。
その一心だったー。
しかし、綾乃になった恵美はそれを拒んだー
”今のお兄ちゃんと、一緒に居たくないー”
そんな風に、言われてしまったー。
ひとまず、二人で話し合い、恵美になった綾乃は、
”綾乃”として生活していくことになったー。
幸い、綾乃の実家を離れているし、どうにかなるだろうー、と。
綾乃は最後の最後まで反対していたー。
”それじゃ、水無月さんの家族とか、友達を騙し続けながら
生きていくことになっちゃう”
とー、そう言っていたー。
人に嘘をつくことが嫌いな恵美にとっては
”わたしは水無月綾乃”と嘘をつきながら生きていくことは、
許せなかったのだろうー。
けれどー、
”わたしは水無月綾乃じゃありません”なんて言えばー、
綾乃の家族も、友達もみんな戸惑うー。
綾乃になった恵美も憎しみを向けられることになり、
誰も、幸せにはならないー。
「ー全部、恵美のためなんだー」
豊はそう言いながら、なんとか綾乃を説得しー、
”綾乃のフリをして生きていく”ことに納得してもらったー。
最初ー、
”綾乃になった恵美”が、自ら命を絶つ可能性も心配したー。
恵美が”絶対、いつか水無月さんに身体を返しますからー”と、
鏡の前で一人で呟いているのを見てー、
その心配はなくなったー。
”綾乃の身体を傷つけるようなこと”を、恵美がする心配は
なくなったと言えるー。
綾乃の身体のまま”自殺”でもしてしまったらー、
もう、”2度と”身体を返すことはできないのだからー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
だがーーー
甘かったー
”ーもう、わたし、全部打ち明けるー
こんな生活、我慢できないー”
1週間も経たないうちに、綾乃からそんな連絡が入ったー
”みんなから、水無月さんって呼ばれるたびに、心が痛んでー、
もう耐えられないー”
とー。
豊は慌てて
「ー本当のことを言ったって誰も幸せにならない!」と、叫ぶー。
しかしー、綾乃は泣きながら言い放ったー。
”ーわたしのため、わたしのためってー…
お兄ちゃん、結局、この水無月さんのこと、何にも考えてないし、
わたしのことしか見てないー!
わたしたちー、”他人の人生”を奪ったんだよー?
それなのに、なんでそんな平気にしてられるの?”
綾乃のそんな言葉に、
豊はハッとするー
”俺はー…恵美に”他人の人生を奪った”という大変なモノを
背負わせてしまったー”
そんなことを、改めて実感するー
「と、とにかく…とにかく落ち着け!今からそっちに行くからー!」
豊がそう叫んで、慌てて綾乃の家に向かうー。
綾乃の家に飛び込んで、説得を始める豊ー。
だがーー
話を始めて少しした時だったー
綾乃が突然、表情を歪めて、頭を押さえ始めるー。
「ーーー恵美ー?」
説得をしていた豊が表情を曇らせるー。
「ーーーあ…頭がー…痛いー…」
綾乃は苦しそうにそう叫ぶと、その場で意識を失って
痙攣し始めたー。
「ーお、おい…!恵美!!恵美!!」
豊はパニックになって救急車を呼ぶとー、
苦しむ綾乃をー、妹の恵美を見つめながら呆然とした表情を浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーうぅぅ… ぅ… ぁ」
苦しそうにうめき声をあげている綾乃ー。
そんな姿を、呆然と見つめるー。
病院に搬送された綾乃はー、
”命”に別状はなかったものの、
意識が朦朧としている状態が続き、
常に苦しそうにしているー。
医師の診察によれば”原因不明”ー
綾乃の両親や友達が、心配そうにお見舞いに来ているものの、
綾乃は会話どころではないしー、
そもそも今の綾乃は、綾乃であって綾乃ではないー。
中身は、恵美なのだからー
「ーめ…恵美ー…」
豊は苦しそうな綾乃を見つめながら、
呆然とした表情を浮かべるー。
”これが、お前の望んだことだー”
ふと、覆面の男の声がしたー。
”ー憑依は確かに成功したー。
だが、憑依した側がそれを望んでいなければー
そうして、身体の拒否反応が起きるー”
覆面の男は、そう呟いたー。
綾乃を襲う症状は、
”憑依した側”の恵美が、それを望んでおらずー、
拒否の感情を示していることによるものー。
支配する側も、支配されている側も拒否反応を起こしたことで
ぶつかり合い、身体中が悲鳴を上げているー
そんな、状況なのだとー。
「ぅ… ぅ… いたい… ぅ… ぁ…」
苦しそうに痙攣しては、そううめき声をあげる綾乃ー。
思わず綾乃に駆け寄って、豊がその手を握ると、
「俺は…俺はこんなこと、望んでいない!」と、涙目で叫ぶー。
「ーーー俺はただ、恵美を助けたかっただけなんだー!
恵美のいない人生なんて考えられなかっただけなんだー」
豊がそう言うと、
覆面の男は、表情を変えずに、呟いたー。
口元は隠され、その表情の全貌は分からないー。
だが、その目つきは鋭くー、思ったよりも年齢を感じさせるような
雰囲気があるー。
「ーお前は、妹のことなど考えていないし、理解もできていないー
そして、水無月綾乃のことなど、眼中にない、と言った様子だな?
お前が考えているのはー
己の欲望ー”俺が妹に会いたい”それだけだー」
覆面の男の言葉に、豊は「違う!」と、叫ぶー。
「ーー違う?果たしてそうかなー?
他人の身体を勝手に奪うー。
そんなことをして、お前は妹が喜ぶとでも思ったのかー?
お前は妹を溺愛していたー。
ならば、お前はその性格をよく理解していたはずだー。」
覆面の男の言葉に、
豊は表情を歪めるー。
確かにー
確かに、分かっていたー
「新しい身体を手に入れたよ」
なんて言って、
恵美が「嬉しい!ありがとう!」なんて言う性格ではないことは、
分かっていたー。
それなのにー
「ーー分かっていたのに水無月綾乃に妹の魂を憑依させたのならばー
それはお前の自己満足に過ぎないー。
分かっていなかったのだとすればー
あまりにもお前は他人のことを見ていないー」
覆面の男のその言葉に、
豊は叫ぶー
「ふざけんな!だったら何で”憑依”の力なんて俺に渡した!」
とー。
「ーー別に、俺は”使え”とは言っていないー」
覆面の男はそれだけ言うと、苦しむ綾乃を見つめながら呟いたー。
「ー”お前のせい”で、
妹はもう一度、地獄のような苦しみを味わっていずれ死ぬー。
そして、水無月綾乃は、お前のせいで身体の自由を奪われたまま、死ぬー」
そんな言葉に、苦しむ綾乃を見て膝を折る豊ー。
「ーーー……水無月綾乃はー…
お前の妹の死を知り、何かと気にかけてくれるようになりー、
本来であれば、来年ーぐらいだったか?
お前の彼女になりー
そしてやがって結ばれる相手だったというのになー」
ボソッと呟く覆面の男ー
「ーーなに!?」
豊が泣きながらそう叫ぶとー、
「ーだが、その未来はもうないー」
と、呟きながら覆面の男は消えていくー。
「ーな、何なんだ!?くそっ!お前は、なんなんだー!」
豊が覆面の男を指差しながら叫ぶと、
覆面越しにも分かるように、男は少しだけ笑ったー。
「ー俺は”闇.net”のビショップー。
人間に力を与えー、人間の欲望を貪りー、人間は愚かだと
証明しー、我らが”キング”に裁量を委ねる者ー」
男の言葉の意味は分からないー。
だが、こいつが狂っていることは分かったー
「ー何が闇ネットだクソ野郎!
あんたはー、あんたは狂ってる!
妹を、水無月さんを苦しめたのは、俺じゃないー!
あんただ!」
豊が怒りの形相で指を指しながら言うとー、
覆面の男は、覆面越しに笑みを浮かべてー、
そのまま姿を消していったー。
「ーーーくそっー…」
豊は、苦しむ綾乃のほうを振り返ると、
今一度、その手を握ったー。
「ー俺はただー…恵美をーーーー…」
豊は、妹の名を呼びながら、
悔しそうに涙をこぼすー。
「ーー俺がバカだったー
許してくれー恵美… 水無月さんー」
豊は振り絞るようにそう言葉を口にすると、
いつまでも、いつまでも、その場で涙を流し続けたー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
最近は比較的平和なエンド(?)が多かったので、
今回は最悪のバッドエンドでした~…!
何か救いは……
無さそうですネ~…!
お読み下さりありがとうございました~!
コメント
何もかも、憑依の力を与えた相手のせいにするのは責任転嫁ですよね。
どう考えても使った方が悪いです。
もし恵美が自分勝手で最低な性格なら、憑依された綾乃以外にとってはハッピーエンドみたいな事になったのかもしれませんけどね。
コメントありがとうございます~!☆
お兄ちゃんは力に溺れて暴走してしまいましたネ~!
確かに妹の方が、他人の身体を奪えてラッキー★!な性格だったら
綾乃以外にはハッピーエンドになりますネ~笑