<憑依>お前のいない人生なんて考えられない①~妹~

小さい頃から病弱だった妹が、命を落としてしまったー。

しかし、妹を溺愛していた兄は、
その現実を受け入れることが出来ず、
”他人の身体”で、妹を復活させるという凶行に及んだー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー最後まで迷惑かけて、ごめんねー」

すっかり衰弱した様子の妹、
森永 恵美(もりなが めぐみ)が、悲しそうにそう呟くー。

その囁く声は、とても弱弱しく、
今にも消えてしまいそうー
そんな感じの声だったー。

「ーー恵美ー最後なんで言うなよー。
 絶対、絶対に大丈夫だから」

兄で大学生の豊(ゆたか)が、そう呟くと、
恵美は目から涙をこぼしながら「ありがとうー」と、
小さく、言葉を吐き出したー。

妹の恵美は昔から病弱だったー。

けれどー、
何度も何度も、病気になったり、体調を崩しながらも
高校に入学する頃には、体調もある程度回復してー、
このまま安定するー…そんな兆しさえ見えていたー。

しかしー、
運命は無情だったー。

高2の冬ー、恵美は再び体調を崩しがちになり、
みるみる体調が悪化ー、
小さい頃からの持病の一つも急激に悪化してー
それから半年ー、現在に至っているー。

大学生の豊は今は、実家を離れ、一人暮らしをしているものの、
毎日のように、入院中の妹のもとを、こうして訪れていたー。

「ーーー……!」
恵美の心拍数に急激な変化が表れ始めて、
機器が音を立て始めるー。

今まで、ドラマでしか見たことのないような”アレ”が
音を立てているー

「せ、先生!誰か!」
豊が慌てた様子でそう叫ぶー。

しかしー、恵美は助からなかったー。
既に”いつ死んでもおかしくない”、そんな状況だったのは事実だー。

それでもー、その最後はこんなにも呆気ないものなのかとー、
豊は大きくため息をつきながら、
うなだれることしかできなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

冷たくなった妹・恵美の亡骸の前で、
涙を流し続ける兄の豊ー。

豊は、小さい頃から妹のことをとても可愛がってきたー。
恵美が病弱なこともあってか、その愛情はより強くなったー。

「ーー俺…恵美のいない人生なんて、考えられないよー」
泣きながらそう呟く豊ー。

両親も、失意のどん底にいるがー、
兄である豊のショックはそれ以上に大きく、強いものだったー。

「ーーーーーーーー」
両親が一度、色々な手続きや連絡のために、
死んだ恵美のいる部屋から外に出ていくー。

「ーーー恵美ーーーー」

豊が悔しそうにー、
そして悲しそうに言葉を口にするー。

その時だったーーーー

”死者の魂は、まだその器の中にあるー”

「ーー!?!?!?」
驚いて豊が振り返ると、そこには謎の覆面の男が立っていたー

”お前が望むのならー…
 その魂を取り出す力を与えようー”

覆面の男の言葉に、豊は呆然としながらも
静かに、その男の言葉の続きを聞き始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーそういえば、水無月(みなづき)さんって
 実家暮らしだったっけ?」

数日後ー
豊が、同じ大学に通う水無月 綾乃(みなづき あやの)に
対してそんな言葉を口にするー

「ううんー去年、実家を出たから今は一人だけどー」
綾乃はそう答えながら「え?なんで?」と、苦笑いするー。

「ーあ、いやー…
 今度、学園祭の後にみんなで集まろうって話があってー、
 でも、実家暮らしの子が多いと
 あんまり遅い時間は良くないだろ?」

豊のそんな言葉に、綾乃は「あ~…まぁ、それもそうね」と、頷くー。

綾乃は、中学時代に同じ中学に通っていた子で、
大学で再会、お互いに”他の子”は知らない子ばかりだったために
何となく意気投合して、今でもこうしてお互いに”よく話す異性”として、
仲良くしているー。

とは言え、彼女・彼氏の関係にはなく、
豊自身は妹の恵美のことしか見ていないしー、
綾乃自身は、豊のことをどう思っているのか、あまり読み取れない、
そんな感じだったー。

「ーでも、わたしは実家暮らしじゃないから、別にある程度
 遅くても大丈夫だよー
 次の日はお休みだし」

綾乃がそんなことを口にしながら笑うと、
豊は「そっかー。”よかった”」と、呟いたー。

”ーーー恵美の新しい身体はー…水無月さんに決めたよー”

豊は、内心でそう囁くー。

数日前ー
”覆面の男”から貰った力で、豊は”妹の遺体から、妹の魂”を取り出したー。

これを、”他人”に憑依させることでー…
恵美は、”蘇る”のだというー。

水無月 綾乃はー、
髪型や雰囲気、体格が、”どことなく妹の恵美に似ている”ー

もちろん、顔は違うが、”雰囲気的”な部分は似ていてー、
豊から見ても”妹の次に”かわいいー。

恵美の新しい身体としては申し分ないー。

何人か”候補”を考えていたがー、
綾乃こそ、恵美の身体にふさわしいー。

「ーー…あ、そうだ、それと、来週のーー
 え~っと、この日、予定空いてる?」

綾乃が思い出したかのようにそんな言葉を口にするとー、
何やら、とあるイベントに行きたいけれど、
一人で行くのは何となく寂しいから良ければ一緒にー、
という誘いだったー。

一瞬”え?”と、首を傾げる豊ー。
何となく、好意的なものを一瞬期待しそうになるー。

しかし、綾乃は人当たりは良いけれどー、
”距離間が少しバグっている感じ”の子でー、
相手のことを”本当はどう思っているのか”つかみにくいところがあるー。

”一緒にイベントに行こう”と誘われても、
その相手に好意があるとは限らないー、というのは
もちろん誰でも言えることだが、
綾乃の場合は”さらに”その傾向が強い、そんな子だったー

「ははー…予定なら、空いてるよー」
そう言いながらも豊は、
”ーー水無月さんは、恵美になるんだから、関係ないけどなー”
と、心の中で呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー。

豊は、綾乃に対し”学園祭のことで、大事な相談がー”と、
綾乃を呼び出していたー。

妹・恵美の魂を憑依させると言ってもー、
流石に人前で堂々とやるわけにはいかないー。

周囲に見られれば後々色々と面倒なことになるし、
新しい身体を手に入れた恵美も、生活しにくくなるだろうー。

そこでー、
豊は、人目につかない場所で、綾乃に対し”妹の魂”を憑依させることにしたー。

大学での1日が終わりー、
人目につかない場所に綾乃を呼び寄せた豊は、
「水無月さんー」と、笑みを浮かべたー。

「ーそれで、話って?」
いつものように、綾乃が微笑みながらやってくるー。

豊は、ゾクゾクと身体を震わせていたー。
”愛する妹”に、また会えるー。
そう思っただけで、興奮が止まらないー。

本当は、全てが終わるまで我慢するつもりだったー。

けれどー、
もう、我慢できないー

「ーふふふ…はは… はははは…やっと、やっとだ!」
豊が笑いをこらえきれずに、狂気的な笑みを浮かべるー。

「ーえ?」
綾乃は、そんな豊を前に困惑した表情を浮かべながら
「ど…どうしたの?」と、不安そうに聞いてくるー。

豊は、鞄の中から取り出した”妹の魂”を手に微笑んだー

「ー俺の妹ーーこの間、死んじゃったんだー
 だから、水無月さんの身体ー…貰うよ」

それだけ言うと、綾乃の返事を聞くこともなく、
豊は、妹・恵美の魂を綾乃に向かって投げつけたー。

「ーーひっ!?!?!?」
恵美の魂が直撃し、それが綾乃に吸い込まれていくー

ふらふらと数歩歩いた綾乃は、近くの壁に手をついて
苦しそうに息を吐き出すー

「はぁ… はぁ… はぁ… な…なに…これ…」
綾乃は苦しそうにそう呟くと、
豊のほうを見て、声を発したー

「ーーど… どういう…こーーー…」

しかしー、その言葉は最後まで続かず、
その場で気を失う綾乃ー。

「ーー恵美!」
豊は、そう叫んだー。

もう、”気を失った綾乃”のことなど眼中になかったー。
豊にとって、今この瞬間から、綾乃は恵美なのだー。

「ー恵美!恵美!」
豊が何度もそう名前を呼ぶとー、
やがてー、綾乃は目を覚ましたー

「ーーーーーえ…」
寝起きかのような目つきで、綾乃が戸惑いの表情を浮かべるー

「ーーーー」
豊のほうを見つめると、綾乃は少し間をおいてから
言葉を口にしたー

「ーーーお兄ちゃん…?」
とー。

「ーーーやった…!」
豊は、笑みを浮かべるー

綾乃が豊のことを”お兄ちゃん”などと呼ぶはずはないー

これは、つまりー

「やった!!やったぞ!!やった!!やった!!
 やったああああああああああああああ!!!」
狂ったようにガッツポーズしながら絶叫する豊ー

綾乃は困惑しながら
「お…お兄ちゃん…わ、わたし…死んだー…よね?」と、
困惑の表情を浮かべながら、やがて”声”が自分の声と違うことに気付くー

「ーー話はあとだー
 とりあえずー…俺の家に行こう」
豊がそう言うと、綾乃に憑依した恵美は
”何が起きているのか理解できないまま”
そのまま豊について、豊の家まで移動したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーえ……じ、じゃあ、ここは天国とかじゃなくてー…?」

豊の自宅に移動し、豊から説明を受けた綾乃…に、憑依した恵美は
驚きの表情を浮かべていたー。

「ーーそう!ここは天国じゃなくて
 正真正銘、恵美が今まで生きていた世界だよ!
 あの世なんかじゃないー

 それに、もう他人の身体から、恵美は病気とか
 そういうことに苦しんだりしなくてもいいんだ!」

豊はそこまで言うと”いやぁ、本当に、本当によかったー”と、
嬉しそうに言葉を口にしながら
「今日はお祝いの準備もできてるからー
 ほら、死ぬ間際体調悪くて、ほとんど何も食べられなかっただろ?」と
冷蔵庫の方に向かっていくー

今日は”新しい恵美”の誕生日としてケーキを用意してあるのだー

しかしーー

「ーーお兄ちゃんー…
 ”この人”は、誰なの?」
綾乃は、鏡を見つめながらそう呟いたー

「ーーえ?あ、あぁ、同じ大学の子でー…
 中学時代一緒だった子ー」

豊はそう言いながら、冷蔵庫を開けてケーキを取り出そうとすると、
綾乃は鏡を見つめながら呟いたー

「ーーこの人ー……わたしに身体くれるって、そう言ってたの?」

綾乃が表情を歪めながら言うー。

「ーーえ… あ~… それは気にしなくても大丈夫」
豊が笑いながらケーキを机の上に置くー

「ーーえ…まさか、勝手に”こんなこと”したんじゃないよね?」
綾乃が不安そうに、豊のほうを見つめるー

「ーーえ……だ、だから心配しなくて大丈夫だってー
 その子、一人暮らしだしー、
 大学での生活は俺がサポートすーー

「ーそんなこと聞いてない!」
綾乃が悲しそうな表情を浮かべながら、豊の言葉を遮るー。

「ーこの人…この身体の持ち主の人は今どうなってるの?」
綾乃のそんな言葉に、豊は
「ーだ、大丈夫だってー…心の奥底に追いやられて目覚めることは
 ないって、あの人が言ってたからー」と、
覆面の男に言われた言葉を伝えるー。

「ーーーこの人は、”そうなる”ことを分かった上で、
 わたしを受け入れてくれたの?」
綾乃の言葉に、豊は「そ…それはー…」と、戸惑うー。

「ーだ、大丈夫だよー心配するなってー。
 水無月さんはもう何も分からないんだからー」

豊が困惑しながら、やっとの思いでそう言い返すと、
綾乃は驚いた様子で、言葉を口にしたー

「ーお、お兄ちゃんーまさか…この人に何も言ってないのー?
 勝手にこんなことしたのー?」

震える綾乃ー。

「ーーち、違うんだー
 恵美ー
 俺はただーーー恵美を助けたくてー
 ただー…ただ!」

豊が慌てた様子で言うと、
綾乃は動揺した様子で豊のほうを見つめるー

「こ、こんなのダメだよー…!」
とー、そう言いながらー。

「ーお兄ちゃん、自分が何をしたのか分かってる?
 これじゃ…この人の命を奪ってるのと同じだよ!?

 お兄ちゃんの気持ちは嬉しいけどー
 でも、わたし、人の身体を盗んでまで生き返りたいなんて思わない!」

綾乃が目に涙を浮かべながら言うー。

豊はおろおろした様子で「ーめ、恵美ー…落ち着いて」と、
震えながら言葉を吐き出すー

恵美は喜んでくれるー
そう、思ってたのにー

「ーーーお父さんとお母さんに、こんなこと報告できるの!?」
綾乃が泣きながら言うー。

「ーーそ、それはー……そのー」
言葉に詰まってうなだれてしまう豊ー。

その場で泣き崩れてしまった綾乃がー
綾乃になった恵美が、一人悲しそうに泣き続けているのを見て、
豊はどうしていいか分からなくなってしまいー、
その場に立ち尽くすことしかできなかったー…

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

死んだ妹を他人の身体で勝手に生き返らせてしまったお兄ちゃん…!

大変なことになりそうですネ~!

続きはまた明日デス~!!

コメント

タイトルとURLをコピーしました