<憑依>復讐の元妻①~復讐者~

夫に浮気された挙句、
捨てられてしまった女ー。

失意のどん底にいた彼女は
”復讐者”と呼ばれる憑依人の存在を知りー、
自分の身体を復讐者に貸してしまうー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ー和美(かずみ)本当に大丈夫ー?」

最近、”離婚”したばかりの
島崎 和美(しまざき かずみ)のほうを見つめながら
その友人の杉本 小夜(すぎもと さよ)が、心配そうに言葉を口にするー

「ー大丈夫 大丈夫!
 わたしも最初から”この人と結婚して失敗したかな~”って思ってたし」
和美がそんな言葉を言いながら、元気そうに振舞ってみせるー。

だがー…
和美とは小さい頃からの付き合いの小夜は知っていたー。

どんなに落ち込んでいても、和美は周囲に心配をかけまいとして
いつも”明るく”振る舞うのだー。

そしてー、
”和美のことをよく知っている小夜”からすれば
すぐにそれは見抜くことができるー。

”和美が落ち込んでいる時は、いつもよりも「妙に明るく」なる”からだー。

落ち込みの度合いが激しければ激しいほど、
妙に明るくなるー。
そんな彼女の性格をよく知っているからこそ、
小夜はとても心配していたー。

「ー雄平(ゆうへい)が浮気してたって分かってむしろせいせいしたぐらい!
 これでわたしもまた独身だから、自由な時間も増えたし、
 あ~これからなにしよっかな~
 なんでも自由にできるってやっぱ、最高だよね!ふふふ」

ハイテンションにそう言い放つ和美ー。

小夜は「和美…」と、悲しそうにそう呟くと
「無理、しないでね?」と、心配そうに言葉を投げかけるー。

「ぜ~んぜん!無理なんてしてないしてない!」
和美はそれだけ言うと、美味しそうに机に運ばれてきたスイーツを
口にし始めるー。

和美はー
先週、夫の雄平と離婚したばかりー。

雄平が浮気をしていたことが発覚し、
それを問い詰めたところ、雄平は開き直り、
捨てられてしまったのだー。

雄平とは学生時代からの付き合いで、
和美の親友の小夜も、彼のことは良く知っていたー。

特に和美は、雄平のことが本当に大好きで、
強く信頼していたため、
”浮気された挙句開き直られて、さらには人間を否定されるようなことまで言われた”
という結婚生活の”衝撃的な結末”は、
和美にとって大きな心の傷になったに違いないー。

高校時代ー、
失恋した時にも、
和美は一度、笑いながら「死んじゃおっかな」などと言っていたこともあったため、
小夜は心の底から、和美の今の精神状態を心配していたー。

結局、高校時代の失恋の際には、
小夜が「そんなこと言わないで!」と必死に説得したところ、
和美は「冗談だってば~!」と笑っていたものの、
後から”あの時、ホントにわたし、危ない状態だったし、言葉をかけてくれてありがとう”
なんて、本当に感謝されたことがあり、
それ故に、今の和美のことも心配していたー。

「ーーー…落ち込みすぎちゃダメだからね?」
小夜が釘を刺すようにして言うと、
和美も、何のことを言われているのか悟った様子で
「死んだりはしないよー。大丈夫」と、穏やかに言葉を口にしたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”復讐”

”復讐”

”復讐”
”復讐”
”復讐”

そんな言葉を死んだ目で何度も検索する和美ー。

浮気されて、
開き直られて、
罵倒されて、
あまりに酷い仕打ちー。

和美は、連日”復讐”のことばかり考えていたー。

復讐、とは言っても
相手の命を奪ったりするつもりはないし、
”元夫”の雄平にそこまでする価値もないー。

だが、些細な仕返しはしたい。
このまま浮気相手の女とあの裏切者が
幸せになるのだけは許せないー。

和美はそう思いながら
死んだ目でネットで情報を集めていくー。

友人の小夜の前で見せていた明るい振る舞いは
全部、偽りー。

離婚してから、ずっと和美は、
プライベートでは一度も笑ったことがないし、
ずっと無表情だー。

大切な人の裏切りに、心が死んでいたー。

そしてー
そんな状態の和美が”あるもの”と出会ってしまったー

それがー
”復讐者”だったー。

”あなたの代わりに、あなたの復讐を成し遂げます”

そんな文章を見て、和美は無表情のまま、
その説明を食い入るように見つめ始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー今日は、残業もないからいつも通り帰って来れるよ」

それから1カ月近くが経過したー。
和美の元夫だった男、雄平が笑いながら
そんな言葉を口にするー。

和美と離婚した雄平は、
浮気相手であった大学時代の同級生・梓(あずさ)と
一緒に暮らしていたー。

「うん!待ってる!」
とても可愛らしい雰囲気の梓ー。

元々、雄平の浮気が始まった理由も、
この梓が、”悩みごとの相談”と称して
雄平に連絡を取ったことで、
”妻がいる”と知りながら、梓が積極的に
アプローチを仕掛けたり、色仕掛けをしたことで、
雄平もその気になってしまい、
結果的に、雄平と和美は別れることになったー。

もちろん、梓の誘惑に乗る方も乗る方だし、
浮気がバレた際に開き直って和美を罵倒するような
雄平の人間性には、大きな問題があるものの、
浮気のそもそもの始まりー、
”きっかけを作った”のはー
妻がいると知っていながらアクションを最初に起こしたのは、
梓の方だったー。

”大学時代から”梓は雄平のことを狙っていたー。
しかし、大学自体から雄平は和美と付き合っていたために
その時は踏み込むことができなかったー。

が、大学を卒業し、雄平の彼女である和美と
直接会う機会がなくなったことで、
”雄平とこっそり会いやすくなった”立場を利用ー、
こうして雄平を”わたしのもの”に、梓はしたのだー。

「♪~」
ご機嫌そうに家の掃除を始めようとする梓ー。

しかし、その時だったー

♪~
来客を知らせる家のインターホンが鳴るー。

雄平が出て行ったすぐ後だったため、
一瞬、雄平が忘れ物をしたのかと思い、
インターホンのモニターで来客を確認するとー
そこにはー…

「えっ…」
笑顔だった梓は途端に表情を変えたー。

モニターに映っている
玄関の前に立っている人物には
よく見覚えがあるー。

そう、雄平の”元妻”となった和美だー。

「し、島崎さんが何でここにー…?」
インターホンの応答ボタンを押す前に、
梓は一人でそう呟くも、
すぐに深呼吸して、
愛想のよい雰囲気の声を出しながら
「ーあれ?島崎さん?久しぶり~!」と、
インターホン越しに声をかけたー。

”ふふー、そうだねー。久しぶり”
和美がそう答えるー。

だがー、梓はすぐに違和感を感じ取ったー。

和美の雰囲気が
なんだか、大学時代を知る梓からすれば
全然違うように見えるのだー。

”ちょっと、お話したいと思って”
和美の言葉に、梓は
「雄平くんのこと?」と、すぐに反応するー。

元妻の和美は、当然、
浮気相手が梓だと知っているー。
その梓の元に”話をしに来た”となれば
当然、その関係のことだろうー。

”うん。そのことー。
 あぁ、でも、勘違いしないでー
 別にわたしはもう雄平には未練はないの。
 ただ、雄平から預かったものが、わたしの手元に残ったままだったから
 それを返すついでに、少し立ち寄っただけー”

和美のそんな言葉に、
梓は表情を歪めるー。

”元夫の浮気相手に復讐する”
そんなことは、よくある話だー。

和美も、そうなのではないか、と不安になるー。

梓は「わざわざありがとう。でもわたし、今、ちょっと
色々やることがあるから、雄平くんの荷物はそこに置いておいてもらえる?」
と、和美にそう返事をするー。

するとー、和美は笑いながら
”ーあ、忙しかったんだねーごめんね”
と、”雄平の荷物”を見えるように手に持つと、
”じゃあ、ドアの前に置いておくから、よろしくね”とだけ言って
後は軽く挨拶をして、そのまま立ち去って行ったー

「ふ~~~…」
梓はため息をつくー。

一瞬、和美が”復讐”でもしに来たのかと思って
ヒヤッとしたー。

だが、本当に荷物を置きに来ただけの様子だったー。

”驚かさないでよ…”
そんなことを思いながら、梓がもう一度インターホンで
外の様子を確認する。

和美の姿はもうないし、立ち去っていく音も聞こえたー。

安堵のため息を吐きだしながら、梓は
ゆっくりと玄関の扉を開けて、
周囲に和美の姿がないことを確認するー。

そして、雄平の荷物として置かれた物の中身も確認しようとするー。

中に危険物でも入っていたら、家の中に回収するわけにはいかない。
そう思って念のため袋の中を確認しようとしたー。

その時だったー。

玄関の外からは死角になっている物陰に
隠れていた和美が突然姿を現し、梓をそのまま押して、
一緒に家の中に入って来るー

「ひっ!?な、な、何なの!?」
家の中に押し飛ばされた梓が悲鳴に似た声を上げると、
和美はにやりと笑みを浮かべたー

「ー復讐しにきたんだよー」
とー。

「ーふ、ふ、復讐ー!?」
梓は、”やっぱりわたしの嫌な予感は間違ってなかった”と
思いながらも、恐怖を覚えて和美のほうを見つめるー。

「ーそうー
 復讐ー…」

和美はそう言うと、
ペンダントから禍々しい雰囲気の黒い霧のようなものを
発しながらー、
梓の方に近付いて来たー

「ーククククー
 復讐だー
 この女が、お前への復讐を望んでいるー」

和美の声と”知らない男のような声”が二重になって、
一瞬聞こえたー。

「えっ…」
梓が驚きながら、和美のほうを見つめるー。

「ーーククククー…
 お前を滅茶苦茶にしてやるー」

もう、和美の声は元通りだったー。

だが、とても正気とは思えない雰囲気に
梓は逃げ出そうとするー。

がー、和美が容赦なくその手を掴むと、
梓を壁に叩きつけて
そのまま狂った目つきで梓にキスをし始めたー

「ーー”夫”と、どんなことしてるのか、
 わたしの身体にも味合わせて欲しいな…♡」

ニヤニヤしながら、言い放つ和美ー。

振り払おうとする梓ー。

けれどー、
和美は梓に容赦なくビンタを食らわせて
そのまま梓を床に押し倒すと、
悲鳴を上げる梓に、
無理矢理キスをして、そのまま梓の服を引きちぎり始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーただいま~!」
何も知らない和美の元夫・雄平が帰宅するー。

「ーーー…!?!?!?!?」
すぐに、雄平は家の中が滅茶苦茶になっていることに気付くー。

そしてー、
部屋の奥には、乱れた姿のまま
震えながら怯えるようにして蹲っている梓の姿があったー。

「あ、あ、梓!?」
雄平が思わず叫びながら梓に駆け寄るー。

「な、な、なにがあったんだ!?」
雄平が梓にそう確認すると、
梓はガクガク震えながら、目に涙を浮かべながら
雄平のほうを見つめるー。

「ーだ、誰にやられたんだ!?ご、強盗かー?」
雄平は”梓の様子”から、男が犯人だと決めつけて
そう言い放つも、梓はすぐにそれを否定したー。

「し、島崎さんー…」
とー。

「ーーか、か、和美に!?」
雄平は戸惑いの声を発するー。

もちろん、”元妻”の和美との別れ方が”良い別れ方”ではなかったことは
自分でも自覚はしているー。
恨まれる可能性も、当然あるー。

しかし、和美の性格から、
こんなことをするなんて、信じられないー。

「う、嘘だろー…?」
雄平が梓に対して思わずそう言葉を口にすると、
梓は震えながら
「島崎さんー…何か…変だったー…」
と、やっとの思いで言葉を口にしたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ふふふふふふふふふー」

夜ー
部屋を真っ暗にしたまま、和美が自分の家で
動画を見ながら笑みを浮かべているー

”どうかね?
 これが君の夫を奪った女の悲鳴だー”

男ー…
”復讐者”の異名を持つ憑依人の声が脳に響き渡るー。

身体の主導権は、一度和美に戻されたもののー
復讐者はまだ和美の中にいてー、
復讐者が和美の中にいる影響で、
和美の性格や人格にも大きな影響が出ている状態ー

「ーー最高…♡ 本当に最高…!」
歪んだ和美が、笑みを浮かべながらそう叫ぶー。

見ているのはー
”さっき、梓を襲った時に、憑依された和美自身が撮影した映像”だー。

”クククーそうか、そうかー。
 では、これからももっと苛烈な復讐をお前に見せてやるとしようー”

復讐者がそう言うと、
和美は梓が悲鳴を上げる映像を見つめながら
興奮した様子で狂った笑い声を上げたー。

②へ続く

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コメント

復讐を考えるあまり、
危険な”復讐者”と名乗る憑依人に身体を貸してしまった
元妻のお話デス~!

なんだか大変なことになりそうですネ~!☆

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憑依<復讐の元妻>

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