<憑依>復讐の元妻②~憎しみ~

元夫への憎しみのあまり、
”復讐者”の異名を持つ憑依人に身体を貸した
元妻ー。

彼女の憎しみは増幅されていくー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”元夫のことを許せない。そうだろうー?”

”復讐者”の声が脳に響き渡るー。

「ーーーーーうん…許せないー」
和美がギリッと歯ぎしりをしながら呟くー

「許せないー
 許せないー許せないー許せないー」

ペンダントから禍々しい黒い霧のようなものが
噴き出しー、
和美の目が憎しみに染まっていくー

”クククククー
 そうだー君には俺がついているー。
 復讐心にその身を委ねたまえー”

「ーーふふふふふふふ…
 あなたのおかげで、わたし、今とってもいい気分ー…!
 雄平のことで悩んでたのがバカみたいー

 そうよー
 復讐してメッチャクチャにしてやればいいのー
 あいつらの人生、徹底的に潰してやるのー…
 くくくくくー」

和美が、表情を歪めながら笑うー。

”そうだー。それでいいー
 もっと強めるのだー”復讐心”をー”

復讐者がそう呟くと、和美は嬉しそうに頷き、
邪悪な笑みを浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”復讐者”の異名を持つ憑依人ー。

彼は
”他人の復讐の代行”を謳って暗躍しているー。

”復讐した相手がいるけど、自分ではそれができない”
という人の身体を借りて
”その人の代わりに復讐を果たす”というのが、
”復讐者”の売り文句だー。

依頼があると、”復讐者”は、
その依頼人に中東のとある地域でのみ採掘できる特殊な輝く石で
作ったペンダントを送りつけて、
それをその身に着けさせるー。

”復讐者”の憑依は、そのペンダントを通じて行われるー。

別に、
”復讐者”自身は、そのまま他人に憑依することもできるのだが、
”禁断の洞窟”で採掘されるその石を使ったペンダントを介して、
相手に憑依することで、
”憑依された側”の憎しみや怒りを増幅させることができる上に、
ペンダントの方に、自分の霊体を一時的に退避させることで、
憑依された人間に身体の主導権を戻し、
心の中からその本人と会話することもできるのだー。

数多くの罪人が生きたまま埋められて
そのまま死んだことで、怨念が巣くっていると言われている
禁断の洞窟ー。
あの場所から採掘された石で作ったペンダントと、憑依を
組み合わせることで、憑依されている人間自身にも
強い影響を与えることができるー。

今回の、和美もそうー。
”復讐者”は最初、
言葉巧みに”ちょっとした復讐をする”と、依頼者に伝えるー。

和美自身も、最初は
元夫の雄平や、浮気相手の梓に
”二人の仲を引き裂いてやりたい”だとか
”ちょっと驚かせてやりたい”だとか、
そういう復讐を望んでいたー。

しかし、復讐者に言葉巧みに騙され、
ペンダントを身に着け、憑依されてしまった今ー、
和美自身の復讐心も、大幅に増幅されていたー。

今の和美は、
”あの二人を破滅させてやりたい”と、心の底から思っているー。

何ならー、命さえ奪ってしまいたいー、ともー。

”次は元夫への復讐だー準備はいいか?”
復讐者の言葉に、和美は頷くー。

”ークク、ではまた、俺に身体を委ねるのだー”
復讐者のその言葉に、和美は何のためらいもなく目を瞑ると
びくっと震えてから笑みを浮かべたー

「ククククー…さぁ復讐の時間だー」
また、完全に支配された和美は不気味な笑みを浮かべながら
静かに立ち上がったー。

・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーークククク…
 で、どうしますか?」

翌日ー
和美は、”元夫”の実家にいたー。

元夫・雄平の両親ー
和美からすれば義理の母と義理の父だった二人は、
とても、良くしてくれたし、
とても、良い人たちだったー。

だからこそ、和美は雄平に怒りを感じながらも
なかなか具体的な行動を起こすことはできなかったし、
躊躇っている一面もあったー。

しかし、復讐者に支配された和美には
そんなことはお構いなしだったー。

「ーー和美ちゃんー…本当に、本当にごめんなさいー」
元夫・雄平の母親である茂子(しげこ)が泣きながら言うー。

義母は、病気で体調を崩していて、
和美も会うたびにそのことを心配していたー。

が、今の和美にはそんなことも関係ないー。

「ー謝るってもらうだけじゃ、わたしの怒りは収まらないのー。
 雄平の会社に、友達に、
 離婚された時のLINEのやり取りとか、そういうものを全部出して
 破滅させてやってもいいんですよ?」

和美が邪悪な笑みを浮かべるー。

復讐者に依頼する前から、和美が持っていた
”雄平の辛辣なメッセージの数々”を、雄平の職場や友人、
あらゆる場所に流して、雄平を破滅させると脅す和美ー

実際に効果があるのかは分からないがー、
少なくとも、今の世の中では、下手をすれば大炎上して、
雄平の人生が壊れる可能性もあるのは確かだー。

「ーーわたしは、徹底的にアイツを叩き潰しますよ」
和美がクスッと笑うー。

「ーか、和美ちゃんー…!」
義父も困惑したように言うー。

「ーーあなたたちも含めて、雄平の周りにいる人間は
 全員、破滅させてやるんですー
 ククククー」

和美はそう言いながら、雄平の両親を見つめるー。

「ーーーまぁ、”お金”くれるなら、考えてあげてもいいですけど?」
和美のそんな言葉に、
雄平の母親である茂子は泣きながら謝罪を繰り返すー。

やがてー、
精神的に参ってしまったのか、体調不良で倒れ込んでしまう茂子ー。
義父の義春(よしはる)が、「茂子!」と、叫びながら心配そうに
茂子を抱え起こすー。

「ーー和美ちゃんー…
 息子のしたことは謝るー
 なんでもするからー…だから、復讐なんてやめてくれ」
義春の言葉に、
和美は冷たい口調で「また来ます」と、だけ言い放ち、
そのままその場を後にするー

「ークククククー」
家を出た和美は笑うー。

別に、お金が欲しいわけじゃないー。
こうして、”元夫の両親”を追いつめて、
雄平を精神的に痛めつけるのが目的だー。

”元妻が親のところに行っている”という話は
いずれ必ず雄平の耳にも入るはずなのだからー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

憑依された和美の復讐は続いたー。

雄平の母親は、何度も和美から責められて
病状が悪化、入院してしまったー。
雄平の父親も、それが原因で仕事も手につかず、
会社を辞めてしまった様子だったー。

さらには、雄平の浮気相手である梓の職場に
浮気の証拠を送りつけて、梓を職場で孤立させたー。

梓の友人にも次々と接触し、
梓をも追い詰めていくー。

がーー
そんな状況を見かねた和美の友人である
小夜が、和美を呼び出したー

「ねぇ…和美ー…
 やりすぎだよー」

小夜が、不安そうに呟くー。

小夜は、”和美の味方”だー。
離婚後も和美のことを心配してきたー。

しかし、最近の和美の苛烈な行動に、
小夜は戸惑い、和美を心配して、
和美を呼び出したのだー。

「ーーやりすぎ?何が?」
和美が笑うー。

今の和美は”正気”に戻っていてー、
”復讐者”に身体を乗っ取られている状態ではないー。

だが、ペンダントを通じて
憎しみや怒りが増幅されてー、
和美自身も、嬉々として元夫を追い込んでいるー。

「ーーも、もちろん和美の気持ちは分かるよ!
 でも…そんなことして、何になるの?
 向こうの御両親まで追い詰めてー…」

小夜がそう言い放つと、和美は思わず笑いだしたー。

「ーーだって、許せないんだもんー!」
とー。

「ーーか、和美ー…」
小夜は思わず、言葉を詰まらせるー。

小夜の笑い方に、あまりにも”狂気”が込められていたからだー。

「ーー和美が怒るのは理解できるし、
 怒って当然だと思うー。

 でも、あんまりやりすぎるのはよくないよー
 1回冷静になって!」

小夜がなおも食い下がると、
和美の表情から笑顔が消えたー。

「小夜も、邪魔するの?」
怒りの籠った声ー。

「か、和美…?」
小夜は、和美の様子がおかしいことに不安を抱くー。

「ーー邪魔するなら、小夜のことも許さないー」
そう言いながら、小夜を睨みつける和美の目はー
憎悪に染まっていたー。

「ーー!」
小夜はふと、和美が身に着けているペンダントから
一瞬、黒い煙のようなものが少しだけ出たことに気付くー。

すぐに目をこすって再度確認するとー、
もう、黒い煙は見えなかったものの、
今、”確かに”何かが見えた気がするー…

「ーーー……と、とにかく和美ー…
 あまりやりすぎちゃダメー。
 和美は昔から一人で抱え込む癖があるからー、
 わたし、心配してるのー」

小夜が、和美を刺激しないようにそう言葉を口にするー

けれど、”今の和美”に、小夜のそんな言葉が
届くはずもなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「頼むー…
 もう、これ以上はやめてくれー
 本当に、本当に俺が悪かったー」

元夫の雄平がそう言い放つー。

雄平は憔悴しきった様子で、
離婚を突き付けられた時のような”強気な雰囲気”は
もはや完全に失われているー。

「ーーーククククー」
和美は、笑みを浮かべていたー。

”復讐者”に支配されているのではないー。
自分の、意思でー。

”憎い”
”憎い”
”憎い”
”憎い”
”憎い”

和美の中の恨みが、ペンダントを通じて
さらに増幅されていくー

”クククー…いいぞー…
 もっともっと、復讐心を燃やせー”

和美に憑依している復讐者が、和美が憎しみに支配されている様子を
”和美の中”から見つめながら笑みを浮かべるー

それに少し影響されたのか、
和美もニヤァ、と邪悪な笑みを浮かべると、
土下座している雄平の手を踏みにじったー。

「ーー許さないー
 あんたのことも、あの泥棒女のこともー
 もっともっともっと、徹底的に追い詰めてやるからー!」

和美がそう言い放つと、雄平は「や…やめてくれ…!本当に、これ以上はー!」と、
半泣きの状態で嘆願するー。

「ーー浮気したあんたが、悪いんでしょ!」
和美は、そう言い放つと冷たい口調で呟いたー

「ー破滅させてやるー」
とー。

「ーーーー~~~…」
雄平は言葉を失いながら、和美のほうを見るー

「か、和美ー…ど、どうしちゃったんだー…?」
困惑しながら言葉を吐き出す雄平ー。

「どうしたって?」
クスっと笑う和美ー。

「ただ落ち込むだけだったわたしに、
 このペンダントが力をくれたのー」

得意気な笑みを浮かべながら
ペンダントを手にする和美ー。

「これが、わたしに勇気を与えてくれるー」
目を見開いて、笑みを浮かべる和美はー
正気を失っているようにも見えたー。

「か…か…和美ー…」
雄平は呆然とするー。

正直なところ、雄平はこの後に及んでも
和美の身よりも、自分のことを心配していたが、
とにかく、何とか和美に許してもらおうと必死だったー。

「ーーーあんたも、あの泥棒女も、あんたの親も、全員破滅させてやる!
 徹底的に!」

ペンダントから黒い霧が噴き出すー。

「ーか、和美…か、母さんのこと、あれだけ大切にしてくれたのにー」
呆然とする雄平ー。

確かに和美は、雄平の母である茂子ととても仲良しだったー。
いくら離婚したとは言え、ここまでー?、と雄平は思うー。

「ーあんなババア知らないー
 もっともっと苦しめばいいのー」

ニヤリと笑う和美ー。

それを見て、雄平は無意識のうちに
こんな言葉を吐き出していたー。

「ほ…ほんとうに…かずみ…なのか?」
とー。

「ーーーー何言ってるの?わたしは、わたしに決まってるでしょ?
笑う和美ー。

「く…くそ…!
 大人しくしてりゃ、調子に乗りやがって!」
追いつめられた雄平は、謝っても和美が全く引く様子を見せないことに
逆ギレして、和美の腕を乱暴に掴んだー。

だがー、
その時だったーーー

「ーー調子に乗っているのは、お前だー」
和美の口調が、突然変わるー。

「えっ…」
雄平が怯えながら和美のほうを見つめると、
和美は乱暴に雄平を壁に叩きつけてー。
ものすごい勢いで脚を壁に叩きつけて来たー。

脚で壁ドンされた状態になった雄平は悲鳴を上げるー。

「ーお前は”この女”から逃げられないー
 ”復讐者”になったこの女からはー」

完全に”復讐者”に乗っ取られた和美が笑うー。

「ーー…こ、この女ー…?な、なにを言ってー?」
雄平はやっとの思いでそう言葉を絞り出すとー、
「ーー…ふ、ふざけるな…!こ、これ以上、何かしてくるなら
 警察に相談するからな!」と、捨て台詞を残しー、
そのまま和美の家から飛び出したー。

一人残された和美は、不気味な笑みを浮かべるー。

「ーーはぁぁ…この女の身体に憎しみが満ちていくのが分かるー
 実にーー心地よいー」

そう呟くと、復讐者は和美の身体を乗っ取ったまま、
一人、その身体で快楽を味わい始めたー。

③へ続く

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コメント

次回が最終回デス~!

復讐の果てに、
何が待っているのか…
それは明日のお楽しみデス~!☆

今日もお読み下さりありがとうございました~!

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憑依<復讐の元妻>

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