<入れ替わり>昔の妻と今の妻①~再会~

数年前に離婚し、
現在は新しい妻と幸せに暮らす男ー。

しかし、ある日ー
”元妻”と”妻”が入れ替わってしまうー

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「ーーははは、それは良かった」

会社から帰宅した20代後半の男・神山 卓(こうやま すぐる)は、
妻である香織(かおり)からの報告を受けて、
穏やかな笑みを浮かべていたー。

3歳になる息子、宗太(そうた)が、数日前から熱を出していたのだが、
その熱が無事に下がったらしく、その話を聞かされて
卓は心底安心していたー。

「ーー家にいられなくて、ごめんな」
卓が申し訳なさそうにそう言葉を口にすると、香織は「ううんー大丈夫」と
穏やかに微笑むー。

香織との出会いは仕事がきっかけだったー。
最初に知り合ったのは今から5年ほど前だっただろうかー。

穏やかな性格の持ち主で、とにかく優しい、という言葉が似合うー、
そんな感じの女性だー。

卓は、そんな香織と結婚してから4年ー。
こうして今も幸せな家庭を築き上げていたー

”今度こそ、自分自身も、愛する大切な人も幸せにする”
そんな風に、卓は強く決心してー
日々、家族のために働き、そして家でも積極的に子育てに参加していたー。

”今度こそ”

そう、卓はバツイチだー。

卓は20代中盤の頃に、一度”離婚”を経験しているー

その相手は幼馴染の朝倉 梨奈(あさくら りな)ー。

梨奈とは小さい頃からお互いのことをよく知っている間柄で、
高校時代からの交際を経て、大学卒業後に結婚したー。

がー、それは1年ちょっとしか持たなかったー。

理由は、梨奈の”異常なまでの束縛”ー。

結婚する前はそんな子じゃなかったのだが、
結婚してから梨奈はみるみるうちに豹変ー。

卓のことを徹底的に”管理”し始めて、
それはもう”異常な”生活だったー。

結婚してからちょうど1年を迎えた頃にー
「もう、限界だ」と、卓が吐き出し、
そして、離婚に至ったー。

梨奈は、思った以上に離婚をあっさりと受け入れてくれたー。

「ーわたしが、卓を苦しめていたなんて、気付かなかったー。
 本当に、ごめんー」

とー。

本当に”分かってくれた”のかは分からない。
だが、正直ホッとしたのも事実だー。

その後、香織と出会い、”再婚”
今度は子供も授かり、今に至るー。

離婚後は、何らかの手続きなどで、必要な時だけ
お互いに連絡する形で、特に接点はなくなったー。

梨奈からの報復なども特にはなくー、
”あれだけの酷い状況”が嘘のように、
離婚は穏便に済ませることが出来たー。

それもー
もう今では遠い昔。
今の妻である香織と結婚してから4年ー。
梨奈との離婚はその数年前ー。

梨奈には当然未練も何もないし、
今、卓にとって大切なのは、香織と、息子の宗太だけだー。

「ーーーあ、俺がやるよー」
帰宅後も香織のサポートを欠かさない卓ー。

家族三人ー
これからもずっと、幸せな生活が続くー、と、
そう信じて疑わなかったー。

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翌日ーー。

今日は土曜日ー。
家族三人で車で30分ほどのショッピングモールにやってきていたー。

車で30分ほどの位置にあり、
必要なものが何でも揃い、
その上、宗太が喜ぶような遊び場もあることから、
卓と香織の休日が合う時には、毎週土曜日にここに来ることが多かったー。

今日も、楽しそうに買い物をする三人ー。

楽しい時間はあっという間に過ぎていきー
買い物も一段落を迎えるー。

「ーあ、わたし、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
香織がトイレのほうを指さしながら、そう言うと
卓は「わかったー俺はここで宗太と待ってるよ」と、笑いながら
横でさっき買ってもらったお菓子を自慢している宗太の
頭を撫でるー。

トイレの方に向かっていく香織ー。

「ーーははは~よかったな~宗太」
宗太に向かってそう言いながら、香織が出て来るのを待つー

「ねぇパパ!パパ!!」
宗太は一つ一つ、買ってもらったお菓子の説明を
父親である卓にしているー。

別に説明されなくても分かっているのだが、
我が子のそんな振る舞いを微笑ましく見守りながら
卓は「すごいな~」などと、宗太の話を聞き、
コミュニケーションを取っているー。

だがー…
しばらくすると、卓は少し心配そうにトイレのほうを見つめたー。

妻の香織がなかなかトイレから出て来ないのだー。

「ーーー…?」
心配するも、女子トイレの中に入って様子を見に行くことなど、
出来ないし、待つしかない。

そう思いながら、宗太の方に再び視線を向けたその時だったー。

「ーーーーーーーえ」
女子トイレの方から、見覚えのある女が飛び出して来たー。

その女はー
もう5年以上前に別れたはずの元妻・梨奈だったー。

「ーーり…梨奈!?」
卓は思わず驚きの声をあげるー。

もちろんー、
梨奈はまだ存命だから、偶然鉢合わせしても別におかしくはないー。

だが、急な再会に卓は驚かずにはいられなかったー

「ひ、久しぶー…」
流石に無視するわけにもいかず、そう声を掛けようとすると、
梨奈が混乱した様子で叫んだー

「ーす、卓ー…わ、わたしー」
とー。

「ーーえ?」
卓は困惑するー
宗太は「パパ~!その人だれ~?」と、不思議そうにしているー。

がー、
そんな宗太の声が耳に入らなくなってしまうぐらいに、
梨奈が発した言葉は衝撃的な言葉だったー

「ーわ…わたし……か、香織なのー」
とー。

「ーーは…???え?ど、どういうー?」
卓が混乱しながら言うとー
続けて女子トイレの方から、
笑みを浮かべながら”香織”が出て来たー

「ーーーーーあ、あの人ー…
 あの人が、急にー!」

元妻・梨奈が混乱した様子で
トイレから出来て来た妻・香織を指さすー。

すると、香織は不気味な笑みを浮かべながらー
「ー”久しぶり”ー卓ー」と、言葉を口にしたー。

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元妻・梨奈と、妻・香織が”入れ替わってしまった”ー

梨奈になった香織の言葉は、あまりにも衝撃的だったー

「ーーおいおいおい…嘘だろ…?」

ショッピングモール内の”キッズスペース”がある場所に移動し、
息子の宗太を遊ばせながら、梨奈と香織ー二人から
事情を聴く卓ー。

聞けば、”たまたま”後からトイレにやってきた梨奈が、
トイレから出て来た香織と出合い頭にぶつかって
入れ替わってしまったのだと、香織になった梨奈が説明したー。

「ーーほ、本当かー?」
元妻の梨奈をあまり信用していない卓は、
今の妻である香織ー…、梨奈になった香織に確認する。

梨奈(香織)は不安そうな表情で
香織(梨奈)のほうをチラッとみると、静かに頷いたー。

「ーーーほ、本当に偶然なんだよな?」
卓が、香織になった梨奈に確認するー。

香織(梨奈)は、うんざりした表情で
「別れてから何年経ってると思うのー?
 偶然よー」と、卓に対して言い放ったー。

入れ替わりー…
まさか、そんなことが本当に起きてしまうなんてー。

しかも、よりによって”妻”と”元妻”が入れ替わってしまうなんてー
そんな偶然があるのだろうかー。

「ーーー」
卓は少しだけ躊躇ってから
「”偶然”俺たちと同じ時間帯にこのデパートにいて、
 ”偶然”香織と同じ時間帯にトイレに入って、
 ”偶然”香織とぶつかって入れ替わったー

 そういうことか?」
と、香織になった元妻・梨奈に確認するー

「そうよー」
香織(梨奈)はうんざりした様子で言うと、
「もしかして、わたしのこと、疑ってる?」と、
不満そうに言葉を口にしたー。

普段優しい香織の”不満そうな顔”に少し
戸惑いながらも
「ーーーお前にあんなことされりゃー、そう思っても当然だろ?」
と、梨奈の”夫”だった時代の地獄のような光景を思い浮かべながら
少し棘のある言い方をするー。

「ーーーーーー」
香織(梨奈)は悲しそうな表情を浮かべながらも
「ーーわたしが、”復讐”でもしにきたー…と、でも言いたいの?」と、
不快そうに言葉を口にしたー。

キッズスペースで遊ばせている息子の宗太を見つめながら、
元妻・梨奈の身体になった香織が心配そうに
「ーーどうしよう」と、言葉を口にするー

香織(梨奈)から”返事”を聞くこともできないまま、
卓は楽しそうに遊んでいる宗太のほうを見つめながら困惑するー

「あのぐらいの歳の子は”入れ替わり”なんて理解できないでしょうね」
香織(梨奈)が腕組みをしながら少し嫌味っぽく言うー。

「ーーーも、元に戻る方法はないのか?」
卓が二人に確認すると、
「偶然ぶつかっただけで、わたしが仕組んだわけじゃないから、
 元に戻る方法なんて、知るわけないでしょ?」と、
香織になった元妻・梨奈が皮肉っぽく言うー

「ーーーーー」
梨奈を疑いながらも、卓は”だったら、もう一度ぶつかれば
元に戻るんじゃないか?”と、小声で呟くー

「わたしも、それは思ったけれどー…」
梨奈(香織)が不安そうに呟くー

香織が中身の梨奈は、何となく”結婚する前の梨奈”のように見えるー。
結婚してから、梨奈はだんだんと束縛が強まっていき、
最終的には離婚に至ったー。

もしも”ずっと”梨奈がこのままだったならばー、と
時々思ってしまうー。

けれど、今はもう梨奈に未練は全くないし、
梨奈と香織、どっちとの未来を選ぶかと言われれば
それは、今の妻である香織との未来に決まっている。
他に、選択肢など存在しない。

「ーーここで試すわけにはいかないでしょ」
香織(梨奈)がうんざりした様子で言うー。

「ま、まぁ」
卓は周囲を見渡すー。
他の客もたくさんいるこの場所で、
女二人がわざとぶつかったりしていれば
”完全にヤバいやつら”だと思われるだろうー。

下手をすれば警察に通報されたり、
誰かにスマホで撮影されてネット上で晒されてしまうかもしれない。

だから、ここでそんなことはできないのは確かだー。

「ーママ~!ママ~!」
宗太が嬉しそうにキッズスペースに置かれていた
ブロックのようなものを持ってくるー

香織(梨奈)は
”元夫の、別の女との子供”である宗太に
少し睨むような表情を浮かべたものの、
すぐに「なぁに?どうしたの?」と、”ママ”のフリをしたー。

「ーーーー」
ホッとしながら卓はその様子を見つめるー。

流石に、梨奈もいきなり子供を罵倒したり、
そういうことまではしないようだと、少し安堵したのだー。

「ーーーー」
”だったら、一旦俺たちの家に来て、そこでゆっくり話すか?”と、
提案しようとした卓。

家の中なら”元に戻るため”に色々なことを試すこともできるー。

だが、喉から出かかったその言葉を、卓は口にしなかったー。

理由は簡単だー
それをすれば、”元妻の梨奈”に、今の自分たちの住所を
知られてしまうー。
住所を知られるわけにはいかない、と卓は思うー。

あの時の束縛は本当に地獄だったー。
梨奈なら、今の卓と香織の幸せを壊すようなこともやりかねないー。

そもそも、香織と入れ替わった、というこの状況でさえ
偶然とは思えないー。

偶然同じ日、同じ時間にデパートにいて、
香織と同じ時間にトイレに入りー、
偶然ぶつかって、しかも入れ替わるー

そんなこと、たまたま起きるはずがー

「ーじゃあ、わたしたちの家でー
 色々試してみるって言うのは、どうですか?」

「ー!?」
卓は、自分が考えていたことを、
元妻・梨奈の身体になった妻・香織が口にしたことに
少し驚きの表情を浮かべるー。

「ーーーえ」
卓のそんな表情を他所に、
梨奈(香織)は「だって…このままいるわけにもいかないしー」と
困り果てた表情を浮かべるー。

確かにそれはそうだがー
と、思いつつ、
その提案を香織(梨奈)が笑みを浮かべながら承諾するのを見て、
卓は戦慄したー

”香織は、梨奈の恐ろしさを知らないー”

それはそうだー。
卓が香織と出会ったのは、梨奈と離婚したあとなのだからー。

妻と元妻の入れ替わりー
その先に待ち受ける未来を、卓はまだ、知らなかったー。

②へ続く

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コメント

妻と元妻の入れ替わり…★
何だか不穏な気配がするのデス…!

明日以降もぜひ楽しんでくださいネ~☆
今日もありがとうございました~!

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