<入れ替わり>昔の妻と今の妻③~未来~(完)

元妻と現妻の入れ替わりー。

今の妻の身体になった元妻と子供も含め、
4人での奇妙な共同生活の中、
”二人を元に戻す方法”を模索するもー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・

来たー。

わたしは、笑みを浮かべたー。

もうすぐ、その身体はわたしのものになるー。

彼女は、笑みを浮かべながら相手を見つめるー。

”何か良い手段はないかどうかー”
ずっと、欲しい物を手に入れるための方法を探していたー。

そして、手に入れたー。
それが、”入れ替わり薬”ー。

ーーそんな、きょとんとした顔でわたしを見つめてー。

大丈夫ー
”すぐに”終わるからー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー……」

入れ替わった時のことを思い出しながら、
卓の現在の妻である香織の姿を鏡で見つめながら
香織(梨奈)は少しだけ自虐的に笑うー。

”あとどのぐらい”なのだろうかー。
そんな風に思いながら、今日も香織の身体での
生活を続けるー。

「ーー」
まだ、”この身体”には慣れないー。

相手が同じ女であったとしても、
”自分の身体”と”他人の身体”は違うー。

体格も全く同じではないし、
手の形状や、指の長さー、そう言った細かい部分も違うー。

髪型も違うー
目の見え方も、視力が全く同じと言うわけではないから、違うー。
音の聞こえ方にも違和感があるし、
当然、自分の口から出る声も違うー。

胸の大きさも違うし、
足の感じも違うー。

味覚も、快感の感じ方もー、何もかもが、違うー。

「ーーーーー」
鏡で”香織”の姿を見つめながら
元妻・梨奈は再び自虐的に笑うー。

「もう一度聞くー。本当に、何もしてないんだな?」
この前言われた、卓のそんな言葉が脳裏に響き渡るー。

「ふんー」
香織(梨奈)は、不愉快そうにそう呟くと、
「ママ~!」と、部屋にやってきた卓と香織の子ー、宗太を見て
笑顔を作ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーこのまま、元に戻れないのかなー?」
梨奈(香織)が不安そうに呟くー

「そんなことないさー。
 元に戻る方法を調べてれば、きっとー。

 それとー…そういう状況をちゃんと診察してくれそうな
 病院も探してるからー」

少しでも、妻の香織を安心させようと
そんな言葉を口にする卓ー。

だが、現状”解決策”が見つかっていないのも事実だったー。

入れ替わりについてネットで検索しても、
創作の中での入れ替わりについての記述しか見られないー。
この前から、ずっとそうだー。

”二人の状況を見てくれる病院”についても、なかなか見つかりそうにはないー。
何件か実際に電話をかけて相談してみたが、
失笑されたり、精神科を紹介されたりして、
”ちゃんと入れ替わりとして見てくれる”病院は今のところ
見つかっていないー。

卓は頭を抱えるー。

ずっとこのままでいるわけにはいかないー。
どんなに性格の良くない元妻とは言え、梨奈にも自分の生活があるー。

いつまでも”ここにいてくれ”ということは出来ないー。
幸い、香織になった梨奈はほとんどが在宅ワークのため、
今のところ仕事には支障は出ていないもののー、
限界はあるだろう。

そして、いつまでも家を留守にし続けるわけにはいかないー。

かと言って、梨奈になった香織を梨奈の家の方に向かわせることも出来ないー
”妻を追い出して、元妻と一緒に暮らす”というような状況に
なってしまうし、
梨奈からすれば地獄のような状況だろうー。

無論、そんなことは卓にとっても耐えられないー。

「あぁ、くそ…」
早く解決しないとー…
そんな焦りばかりが膨らんでいくー。

けれど、どうすることもできずー…
時間ばかりが過ぎていくー。

香織と梨奈は、幸いなことに二人で喧嘩するようなことはなく、
香織の方が控えめな性格故か、
衝突することなく、二人で色々相談しながら、
生活をしているー。

香織になった梨奈も、”宗太のママ”として
ほとんど違和感のない振る舞いができるようになっているし、
お互いにかなり、情報交換をしているようだー。

「ーーーーねぇ」

ふと、香織(梨奈)から呼び止められるー。

二人が入れ替わってからもうすぐ1か月ー。

未だに”香織”の姿で中身は”元妻の梨奈”という状況に
なれることは出来ないー。

「ーーー……なんだよ」
卓がそう言うと、
香織(梨奈)は「まだわたしを疑ってる?」と、
不満そうに呟いたー。

「ーーー……正直に言えば、疑ってるー。
 理由はこの前話した通りだよ」

卓はため息をつきながらそう言うー。

「ーーーーーー」
香織(梨奈)は不満そうな表情を浮かべながらも、
「ーーまぁ、疑いたいなら、それでいいけど」
と、言葉を口にするー。

「たしかに、わたしは卓に酷いことをたくさんしたー。
 今思えば、酷い束縛だったー。」

香織(梨奈)は反省の弁を口にするー。

「ーーーー」
卓はそんな香織(梨奈)を真っすぐ見つめるー。

「ーーでも、わたしは卓から離婚を告げられた時に
 自分がいかに酷いことをしてたか、
 よく分かったのー。

 大事なものを失って、初めて気づいたー」

香織(梨奈)はそう言い放つー。

”本当に酷い束縛”だったー。
改心するなどとは思えないー。

卓はそんな風に思っていたが、
香織(梨奈)は
「わたしが悪いって思ったからこそ、離婚もすぐに受け入れたし、
 そのあとだって、何年も、何もしなかったでしょ?」
と、言葉を口にしたー。

確かに、それはそうだー。
離婚もあっさり受け入れたし、離婚後も、何もしてくることもなく、
円満に離婚は出来たー。

だがー

「ー今、こういう状況に陥ってる」
卓が不満そうに言い返すー。

「ーーー」
香織(梨奈)は、大きなため息をつくと、
何かを言おうとして、そのまま首を横に振ったー

「なんだよー言えよー…」
苦笑いしながら卓が言うー。

「っていうか、その反応、懐かしいなー。
 梨奈が何か言おうとして、我慢するとき
 いっつもそれ、するもんなー」

卓が”幼馴染”である梨奈を相手に懐かしそうに言うと、
香織(梨奈)は「ふん」と、だけ呟いて
そのまま立ち去ってしまったー。

”停滞”
そんな状況が続いていたー。

だがー、事態が急変したのは、
その翌日だったー。

朝ー
ものすごい音がして、慌てて卓が部屋から飛び出すとー
香織と梨奈が階段から転がり落ちていたー

「ーえっ!?!?お、おいっ!」

呆然として駆け寄る卓ー。

幸い、二人はほとんど怪我もしておらず、
すぐに身体を起こしたー。

しかしー
その時”奇跡”が起きたー

「えっ!?」
梨奈が声をあげるー

「あ、あれー…?」
香織が声をあげるー。

「ーー…ど、どうしたー…?」
卓が困惑した表情を浮かべるとー、
梨奈の方が「ーも、戻ってる!」と、声をあげたー。

それに続いて、妻の香織も「ほ、ほんとだー」と、
戸惑いながら自分の身体を見つめるー。

「ーえ…?う、嘘だろ?何でまた急に!?」
卓がそう言うと、
「階段ー?」と、元妻・梨奈が階段を見上げるー

「ここから、落ちた衝撃でー?」
とー。

妻・香織も不安そうに階段のほうを見上げるー。

”お互いがぶつかる”
そんな突発的な事故で入れ替わったというのなら
確かに、些細なきっかけで元に戻る可能性もあるのかもしれないー。

「ーーだ、だから言ったでしょ!
 わたしは何も仕組んでないって!」

元妻の梨奈が不満そうに叫ぶー。

妻の香織は申し訳なさそうに苦笑いをしているー

「ママ~?どうしたの~?」
息子の宗太も騒音を聞きつけたのか、
両親と梨奈のいる場所にやってくると、
梨奈は「なんでもないよ~!宗太くん」と、笑みを浮かべながら呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

元妻と現妻ー
二人は元に戻り、梨奈は帰宅したー。

だがー
卓は”ある不安”を覚えていたー

それはーー

”実はまだ”元に戻っていないのではないか、
という不安ー。

これは、梨奈の陰謀なのではないかー、と。

「ーー香織ー…”本当に”元に戻ってるよな?」
卓はそう確認すると、香織は「うんー正真正銘、わたしだよ」と、
微笑んだー。

香織は、自分たちの出会いや誕生日プレゼントなど
”二人しか知らないであろうこと”を口にするー。

がー
それでも不安は消えなかったー。

”香織になった梨奈”が、香織のフリをしているのではないかー。
そんな不安が膨らむー。

香織(梨奈)が、梨奈(香織)から、そういう情報を聞きだしていればー。
”自分たちの出会いや誕生日プレゼント”などを口にすることは、可能だー。

卓はそう思い、後日ー”梨奈”に連絡をしたー。

”ーーはぁ~…”
ため息をつく梨奈ー。

”そんなこと、するわけないし、
 仮にわたしがーー…香織さんのフリをして、卓と一緒になろうとしても、
 こうやって、わたしの方に連絡されたら、わたしがまだ実は香織なんだったら
 ここで、助けを求めるでしょ?”

梨奈の言葉に、卓は「まぁ、それはそうだけど」と呟くー。

仮に、元妻の梨奈が香織に成り代わろうとして、
”まだ入れ替わった状態のままなのに香織のフリ”をしていたとしても、
こうして梨奈に確認されてしまえば、終わりだー。

香織がまだ梨奈の身体のままだとしたら、
こうして卓が連絡すれば、助けを求めて来る…と思うし、
息子の宗太を人質にでも取られていない限り、
梨奈が”香織のフリを続ける理由”はないはずだー

「本当に、元に戻ってるんだな?」
卓が疑いの言葉を口にするー。

”しつこいー。わたしも忙しいんだから、もう切るよ?

 大体、入れ替わるまで何年も連絡も取ってなかったんだからー
 わたしももう、卓とは関わりたくないの。わかった?”

梨奈のきつい言葉に、卓は「わかったよー」と、
”別れたのは、そっちの束縛のせいだろ”と、心の中で少し毒を吐きながら
電話を切ったー。

夜ー

香織は今日も宗太と楽しそうに遊んでいるー。
宗太もとても、嬉しそうだー。

「ーーーーー」
けれど、何故だろうかー
時折、香織が複雑そうな表情を浮かべることがあるー

そんな気がするー

考えすぎだろうかー。
本当に、二人は元に戻ったのだろうかー。

だが、香織も梨奈もそう言っているしー、
少なくとも、入れ替わったままなら、
”元妻・梨奈の身体になった香織”の方は、
助けを求めて来るはずだー。

それがないと言うことは、
ちゃんと戻っているー

”考えすぎか”
卓はそう思いながら、香織と宗太の方に向かっていくと、
「今度の休みの日、またどこかに遊びに行くか」と、
笑顔で言葉を投げかけたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

約1か月前ー。

”どういうことですか?”

梨奈は戸惑いの声をあげるー。

「ーーー…卓のこと、まだ好きですか?」
スマホを手に、そう囁いたのは、卓の妻・香織ー。

”ーーー………急に、何ですかー?”
梨奈が戸惑っているー。

だが、香織が梨奈に繰り返し、”卓はまだ好きかどうか”を
聞くため、梨奈は答えたー

”ーーー本当は、一緒に歩んでいきたかったーって思いはあります。
 でも、わたしが彼を束縛して、傷つけてしまいましたからー
 もう、わたしには卓に近付く資格はありません”

元妻・梨奈は言う。

幼馴染でもある梨奈は、心底、結婚していた時代の
”卓への束縛”を反省していたー。
心の底からー。

だからこそ離婚をすぐに受け入れたし、その後、卓に絶対に近付かなかったー。

「ーーーー…」
その答えを聞いて香織は続けるー。

「ーーもしも、もう一度、卓の妻になることができるとしたらー?」
とー。

”何を言ってるんですか?”
梨奈が戸惑うー

「ーわたしと、梨奈さんの身体を入れ替えるんです」
”今の妻”である香織が、”元妻”の梨奈の連絡先を調べー、
梨奈に入れ替わりを持ち出した張本人ー

「土曜日にー卓と子供と、デパートに遊びに行きますー
 その時に2階の南側の階段のところのトイレにわたし、行きますからー
 梨奈さん、後から入ってきてくれませんかー?

 そこで、わたしと梨奈さんの身体を入れ替えますー」

香織はそう呟くー。

デパートの同じトイレに”同じタイミング”で入りー、
そこで”入れ替わり薬”を使いー、身体を入れ替えるー。

入れ替わったあとは、卓の家でしばらく一緒に暮らしー
”相手に完全に成りすますための情報交換”を行うー。

そして、梨奈と香織、二人が十分にお互いとして振る舞えるようになった
タイミングで”元に戻ったフリ”をして、
香織は梨奈として、卓の元を離れて、
梨奈は香織として、再び卓の妻になるー。

そうー
二人は元に戻ってなどいないー

元に戻ったー”フリ”をするまでの約1か月間ー
二人は”お互いのフリを完璧にできるように”情報交換を続けていたのだー。

”また…また、卓と一緒にいられるならー
 わたしは…わたしはいいですけどー

 でもー…
 どうしてそんなことを?

 ー香織さんと、卓には子供もいますよね?”

梨奈が困惑しながら聞いてくるー。

そんな言葉を聞いて、香織は笑ったー

「ーわたし、昔から子供が大っ嫌いでー。
 でもー卓には言えないし、
 だからと言って、もう耐えられないー。

 だからー、また”自由”が欲しいんですー。
 独身の頃のような、自由がー。」

香織はそう答えたー。

穏やかで優しい性格の香織ー
だが、”子供が大嫌い”という一面もあったー。
それを隠して今までやってきたが、もう限界だったー。

だから香織は”自分の代わりに香織をやってくれる相手”を
探していたー。

そして、元妻の梨奈に接触したー。

梨奈は困惑しながらも、それを承諾したー。

香織としては、息子の宗太からとにかく離れたいー
梨奈としては、もう一度卓とやり直したいー。

二人の利害が一致しー、
”今の妻”香織が発案したこの計画は、実行に移されたー

そして、今ー

「ーーーーーよかったね~~」
息子の宗太の頭を撫でながらー
香織ー

いいや、香織(梨奈)は思うー。

”卓ー”

卓のほうを見つめる香織(梨奈)ー

死ぬほど卓を束縛したわたしといいー、
自分の子供を身体を入れ替えてまで捨てた香織さんといいー…

ほんと…昔から女運がないというかー…
見る目がないね…

香織になった梨奈はそんな風に内心思うー。

けれどー
それを卓に伝えれば、彼は今度こそ、完全に女性不振になりー、
二度と結婚しなくなるー

そんな気がしたー。

「ーーー」
複雑そうな表情を浮かべながらも香織(梨奈)は思うー

”わたしはもう一度卓とやり直すことができて幸せ”
”卓は、香織さんが元に戻ったと思っていて幸せ”
”宗太くんはわたしもずっと可愛がるし、この先も幸せにしてみせるー”
”香織さんは自由を手に入れることができて幸せ”

そう、誰も、誰も困っていないー

香織(梨奈)は”自分が香織”であることを一生、
自分と香織だけの秘密にして、生きていくことを決意したー

卓は、そんな真相を知ることはないー。

二人の妻は入れ替わったままー

それを知るのは、香織と、梨奈の二人だけなのだからー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

入れ替わりを仕組んだのは、”今の妻”の方でした~!

もし…いつか気付いてしまったら…
大変なことになりそうですネ~!

お読み下さりありがとうございました~!

コメント