元妻と妻が入れ替わってしまった…!
このままでいるわけにもいかず、
入れ替わった二人と息子を連れてひとまず
帰宅するも…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「パパ~? だれ~?」
息子の宗太が
”梨奈”になった香織のほうを見てそう言い放つー。
当然の疑問だー。
宗太からすれば”知らないお姉さんが家にやってきた”のだからー。
まさか「中身はママなんだよ」と、説明しても
理解することは出来ないだろうし、宗太を混乱させてしまい、
余計にややこしい事態になってしまうことは
目に見えている。
「あ、え、えっと、わたしはマ、ママのおともだち!」
梨奈(香織)が戸惑った表情でそう言うと、
宗太は不思議そうな顔をしながらも、なんとか納得した様子だったー。
宗太を部屋で遊ばせながら、
卓が改めて二人に話を聞くー。
「ー状況はさっき説明した通りよ」
香織(梨奈)が腕組みをしながら言う。
「ーーーーーー」
なおも、”元妻の梨奈”を疑う卓は、
「本当にそんなことが起きるのか?」と、香織(梨奈)に指摘するー
「どういう意味よ?」
深いそうな香織(梨奈)ー
「ーーだっておかしいだろ?
俺たちがあの場所にいることを知って、
やって来たんじゃないのか?
偶然、あの時間に、あの場所に、トイレに行って
香織とぶつかるなんてー、
あまりにも偶然が重なりすぎてるだろ!」
卓が声が大きくならないようにそう言い放つと、
「ーーーそれは」
と、香織(梨奈)が不快そうに表情を浮かべるー。
「ーーす、卓ー落ち着いてー」
たまらず、梨奈(香織)が口を挟むー。
宗太のほうを心配そうに見つめる梨奈(香織)ー
”子供の前だから”と、そう言いたげな表情だー。
卓はすぐに何度か咳払いをすると、
「ごめん」とだけ言い放ち、冷静さを少し取り戻す。
改めて、穏やかな口調で冷静に確認すると、
香織(梨奈)は、梨奈(香織)のほうを見つめながら、
少しだけため息をついたー。
「ー偶然が重なることってあるでしょ?
宝くじだって当たる人は当たるんだから。
そういう偶然が、違う形で出ただけ」
香織(梨奈)はなおも、あの場にいたのは
偶然だと呟くー。
「ーー…後からトイレに入ったのは、梨奈か?」
卓が確認するー。
確か、トイレで出会い頭にぶつかったと言っていたー。
恐らくは”トイレから出ようとした”どちらかと、
”トイレに入って来た”どちらかが、ぶつかったのだろうー。
香織(梨奈)は「わたしが後からよ」と、呟くー。
だが、その答えを聞いて、卓は表情を歪めたー
「そりゃ、おかしいなー」
とー。
「なにが」
香織(梨奈)は不愉快そうに呟くー
「ーーパパ~!みてみて~!」
宗太が部屋からおもちゃを持ってそれを自慢しにやって来るー。
卓は「お~~!すごいな~!」と、宗太を構いながら、
「お、宗太~!次はあれとかどうだ~?」と、パズルのおもちゃを指さし、
一度、宗太を遠ざけるー。
本当は宗太とたっぷり遊んであげたかったが、
今は宗太のためにも、”元妻と妻が入れ替わってしまった”この状況を
どうにかしなくては、ならないだろう。
話を戻すー。
「ー梨奈が後から入って来たって言うなら、
トイレの近くにいた俺と宗太の姿も、見たんじゃないのか?
梨奈の性格を考えれば、一言ぐらい何か喋りかけてきても
おかしくないと思うんだけどな。」
卓と宗太は、トイレから少し離れた自販機コーナーのベンチに
座って待っていたー。
トイレに入る際に、そのコーナーは、ほぼ確実に視界に入る位置にあり、
梨奈が卓に気付かなかったとは思えないのだー。
「ーーそれは、気付かなかっただけ。
別れてもう何年も経ってるんだし」
香織(梨奈)は、
”親子がいるな”ぐらいにしか思わなかったと説明するー。
「ーーーそれに、元夫を見かけたからと言って
必ず話しかけるものでもないでしょ」
香織(梨奈)の言葉に、
卓はそれ以上追求することはできなくなってしまうー。
「ーま、まぁ…梨奈さんが偶然かどうかよりも
まずは元に戻れるかどうかを確かめてみましょ?」
梨奈(香織)が言うー。
梨奈と香織の面識はこれまでに一度もなかったが、
今の妻である香織は、梨奈のことを、卓から聞かされて
写真なども見て、その姿も知っているー。
別に卓は”元妻の話をされる”ことを、香織が嫌がる可能性もあったし、
自ら積極的にするつもりはなかったのだが、
香織自身はそういうことを気にするタイプではなく、
むしろ”昔の卓を知りたい”という理由で、
積極的に色々聞いてきたため、結果的に梨奈の写真も
それなりに見せてはいたー。
とは言え、直接会うのはこれが初めてー。
少なからず、梨奈になってしまった香織にも
焦りの色のようなものは、見えたー。
「ーーそうだな」
卓は、そう言うと、「まぁ…でも、宗太が寝てからの方がいいかもな」と、
呟くー。
宗太の前で”ママ”と”知らないお姉さん”がぶつかったり、何だりしていたら、
やっぱり宗太からすれば怖いかもしれない。
だから、そういう姿を見せるのはやめよう、という配慮だったー。
「ママ~」
宗太が、”何も知らず”、香織になった梨奈に声をかけるー。
「ーーーーー」
香織(梨奈)は複雑そうな表情を浮かべてー、
手をバッと上げるー。
”!?”
卓は、香織(梨奈)が一瞬、宗太を叩くのではないかと思ったー。
咄嗟にそれを止めようと身体を動かすもー、
香織(梨奈)は、宗太の頭を優しく撫でようとしただけだったー
「ふぅ…」
卓は、額の汗をぬぐうと、ため息をついたー
”卓は、わたしのものなんだよ!”
”これは全部卓のためなの”
”卓…どうしてわたしに全部報告できないの!?”
”梨奈”が妻だった頃のことを思い出すー
小さい頃からよく知る幼馴染で、良い家庭を築き上げることが
できると思っていたのに、梨奈は豹変してしまったー
「ーわたしが、卓を苦しめていたなんて、気付かなかったー。
本当に、ごめんー」
離婚を告げたとき、梨奈はそう言っていたー。
妙にあっさりと引き下がり、それきりだったー。
だが、まさかこんなことになるなんてー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜ー。
宗太が寝静まったのを確認すると
”元に戻るために”あらゆることを試し始めるー
ぶつかってみるー
手を握り合ってみるー
頭をお互いにぶつけてみるー
抱き合ってみるー
やがてー
キスも試すー。
「ーじ、自分とキスをするときがくるなんてー」
梨奈(香織)が戸惑いながら言うと、
香織(梨奈)も困惑の表情を浮かべたー。
だが、結局何をしても元に戻ることが出来ずー、
”ひとまず、この状態のまま生活する”ことになったー
聞けば、”梨奈”は現在一人暮らしで、
仕事はほぼ全部リモートでこなすことができる仕事を
しているのだと言うー。
つまりは、香織の身体でも、そのまま仕事できるということだー。
一方、梨奈になってしまった香織としても、
息子の宗太も心配だし、”梨奈として梨奈の家に帰る”ことは
したくない様子だったー。
香織(梨奈)が”わたしの家はしばらく留守でもいいから”と言うので
結局のところ、香織(梨奈)と梨奈(香織)が二人とも
この家に、卓・宗太と共に暮らすことになったー
そうすれば、宗太から”ママ”とは思われなくても、
香織は”梨奈として”宗太のことを見守ることは出来るー。
元に戻る方法を模索しながら、
二人の愛した女性と共に暮らすことになってしまった卓は、
困惑の日々を送るー。
梨奈と香織の二人は、思った以上に上手くやっていて、
二人で色々なことを話しているー。
最初、”元妻の梨奈”が、香織に何かをするのではないかと
心配していたが
案外、意気投合できた様子だったー。
「ーーーーーー…」
卓は、梨奈になってしまった妻・香織と共に、
”元に戻る方法”を模索していくー。
しかし、香織になった梨奈の方は
元に戻る方法を探すのに消極的で、
日に日に、その疑いは強まっていくー
元に戻る方法は見つからないー。
”入れ替わり”について、ネットで検索しても、
出て来るのは入れ替わりの映画ー、入れ替わりの漫画ー、
入れ替わりの小説、入れ替わりのドラマー、
入れ替わりのAVー。
そういう類のものばかりで、
現実の入れ替わりなんて存在しないー。
一つだけ、質問するサイトに
”お姉ちゃんと入れ替わっちゃいました どうすればいいですか?”という
質問があったが、
最終的には質問者が「嘘に決まってるだろ ご苦労さん」と
回答者たちをあざ笑うようなお礼をつけていて、
結局悪戯だったー。
「ーごめんな…香織ー」
梨奈(香織)に向かって、卓がため息をつきながら言うー。
「ーーううんー…卓は何も悪くないし、
梨奈さんも…悪気はないみたいだしー
仕方ないよ…」
梨奈(香織)が諦めたような表情で笑うー。
「ーーーー」
息子の宗太のほうをチラッとみるー。
香織になった梨奈が、宗太と遊びながら、
自分の仕事を自分の家から持ち込んだパソコンでやっているー。
「ーーーでも、いつまでもこうしてるわけにはいかないしー
香織のためにも、宗太のためにも、早く二人を元に戻さないとなー」
卓がそう言うと、
香織(梨奈)は「うん。わたしの方こそ迷惑かけてごめんね」と、
少し申し訳なさそうに呟いたー。
香織は、梨奈になってからー、
”身体が違うから”か、宗太とは、最低限の会話で済ませているー。
それが、どんなに辛いことか、卓にはよく分かったー。
”自分の息子が目の前にいるのに、親として扱ってもらえない”のだからー。
宗太はまだ3歳ー。
入れ替わりなんて説明しても理解できないだろうし、
かと言って、”他人に対して配慮する”ような年齢ではないー
残酷にも、”他人の身体になったママ”の目の前で
”ママの身体になった他人”のことをママと呼び、嬉しそうにしているー。
香織になった梨奈もそれを理解してなのかー
それとも本当に宗太のためなのかー、
宗太ととても楽しそうに話をしているー。
「ーーーー香織ー…梨奈に何か、されてないよな?」
卓が今一度確認する。
梨奈(香織)は「うんー…」とだけ答えたものの、
その表情は少し後ろめたさを感じさせるようなー
複雑そうな表情だったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜ー
卓は、”妻になった元妻”である、香織(梨奈)を
こっそりと呼び出したー
「ーなに?香織さんも寝静まったあとに呼び出すなんてー?」
香織(梨奈)はそこまで言うと、少しだけ笑みを浮かべたー。
「ーもしかして、わたしとしたくなっちゃった?」
とー。
「ーーふざけるな」
卓は少し苛立ちを露わにするー
そういえば、幼馴染であり、元妻の梨奈は性欲も強かったー
当時は、自分も若かったし、それなりに楽しかった気もするがー、
梨奈の本性を知った今では、もうそんな気も起きないー
「いいじゃんー身体は奥さんなんだから、浮気にはならなー」
「そう言う問題じゃない!」
卓が言うと、香織(梨奈)は「ー少し揶揄っただけでしょ」と、
不満そうに言葉を口にするー。
「ー…」
険悪な空気が流れるー。
それを打ち消そうと、卓はため息をついて、話題を変えるー。
「”幼馴染”として聞きたいことがあるー」
卓は、昔のように”気軽に話せる間柄”として会話するために
そんな前置きをしてから、言葉を口にするー。
「俺は正直、梨奈が何かしたんじゃないかって思ってる」
単刀直入にそう言うと、香織(梨奈)はムッとした表情を浮かべるー
「もし本当に事故ならごめんー。
でもさ、あの場所、あの時間に、同じ時間にトイレに行って
しかもぶつかって、普通は起きるはずもない入れ替わりが起きてー…
普通、あり得ないだろー?
ぶつかったって入れ替わりなんて起きるわけないんだからー
…だから、疑う俺の気持ちも分かってほしいー」
卓はそう言いながら「もう一度聞くー。本当に、何もしてないんだな?」と、
再度、香織(梨奈)に確認したー。
「ーーーーーーーー」
香織(梨奈)は、しばらくの間、卓を睨むようにして見つめていたー。
”香織に睨まれているような気がして”辛かったー。
だが、やがて言葉を口にしたー。
「ーーーどうして、わたしばかり疑うの?」
と、不満そうにー
「ーその理由で疑うのは分かるよー。
でも、何でわたしだけー」
瞳を震わしながらー
自暴自棄な雰囲気でそう吐き捨てる香織(梨奈)ー
だがー、そうは言いながらも
香織(梨奈)は落ち着かない様子で手を握ったり開いたりー、
瞳もキョロキョロとしてー、
何か嘘をついているようなー、そんな反応を見せているー。
「ーーそれは今までのお前のー!」
卓が、梨奈から猛烈な束縛を受けた過去を思い出しながら言うと、
香織(梨奈)は「もういい。疑うなら好きにして」と、
吐き捨てるようにして言いながら、
そのまま部屋から出て行ってしまったー
「あ、梨奈!おい!」
卓はすぐに香織(梨奈)を呼び止めたもののー
その言葉は香織(梨奈)には届かなかったー。
「ーーーくそっ…なんなんだ一体ー…」
この状態が続く限り、”香織になった梨奈”が、家に帰ることも出来ないー。
いや、帰ろうと思えばできるかもしれないがー、
そうなれば、息子の宗太からすると”ママ、どこに行くの?”ということに
なってしまうー
かと言って、梨奈になった香織が、香織として香織の家に帰るのも
難しいー。
香織からすれば”夫と息子から引きはがされる”のと同じことで
まるで”元妻に家を奪われた感覚”に陥るだろうー。
しかし、香織になった梨奈からすれば
”いつまでもわたしの家”をそのままにしておくことも出来ないだろうし、
それもまた理解できるー。
”今の妻と昔の妻”がずっと共同生活を続けるのは難しいー
早く、この問題を解決しなければならないー。
”破滅へのタイムリミット”は、刻一刻と迫っていたー。
③へ続く
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コメント
次回が最終回デス~!
果たして、円満解決できるのでしょうか~?
今回もお読み下さりありがとうございました~!
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