医療界の重鎮の娘を救うため、
他の患者を犠牲にして、脳移植手術を行った病院ー。
しかしー
目を覚ましたその娘は、”移植した患者側の脳”に支配されていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「奈津美ー よかったー」
奈津美の父親である香川理事長が
娘・奈津美のお見舞いにやってきたー
「ーお父さんー」
奈津美はにこっと、微笑むと、
父親のほうを見つめて、穏やかな表情を浮かべるー。
「ーーーーーー」
だがー、父も、病院の関係者も知らないー。
奈津美に対する”脳移植”手術は確かに成功したー。
しかしー…
”奈津美”が目覚めるはずだったのにー
目覚めたのは移植に使われた脳ー…”敏郎”側の意識ー。
しかも、身体は奈津美のもので、”脳の一部”を損傷したのみだったため
記憶領域は無事ー
そのため、”敏郎の意識”が
”奈津美の記憶”を持った状態で奈津美の身体を支配してしまったのだー
「ーねぇ、お父さんー」
父親と少し雑談した後に、奈津美が微笑みながら
父親の香川理事長に話しかけるー。
奈津美は笑っているー
だが、その目には憎しみが宿っていたー。
あのあとー
情報収集をした限りではー
”医療界の重鎮の娘”の命を救うことを優先しー
”敏郎”は、見捨てられたー。
手術の開始直前に、Dr速水は敏郎のオペを放り出し、
奈津美の方のオペに回りー、
結果的に研修医レベルのDr小久保が敏郎のオペを行いー
急な交代に動転し、失敗ー
敏郎は寝たきりになってしまったー
しかも、親族が生命の維持を望んでいたにも関わらず、
勝手に”脳移植”をし、
敏郎をゴミのように切り捨てて、この病院は奈津美を助けたー。
「ーーわたしを助けるためにー
他の患者さんの脳を勝手に移植したんだってー」
奈津美はにやりと笑いながら呟くー
”お前たちは、この親父に怒られることを恐れてー
この娘を生かしたんだろー?
俺を犠牲にしてー”
邪悪な笑みを浮かべながら、奈津美はそんなことを
考えて、さらに言葉を続けるー
「ーわたしのここに入ってる脳の一部ー…
ホントは助かるはずだった患者さんのものらしいのー」
”奈津美”として振る舞うことは、
奈津美の記憶がある以上、たやすいことだー。
笑みを浮かべながら自分の頭を指でトントンと叩くと、
奈津美は、さらに言葉を続けたー。
「ーー本当だったら、死ななくても済んだはずなのにー
その人のこと、この病院は殺したのー」
奈津美の目には強い怒りが滲み出ているー。
”ーーこの女の父親に、目をつけられることを
恐れてたんだろー?
だったらー、その恐れてたことを、現実にしてやるー”
そう、思いながら
病院の悪事を、担当者の名前共々、父親にばらした奈津美ー。
その言葉を聞いて、父親である香川理事長は
驚きの表情を浮かべたー
ニヤッと笑う奈津美ー
”ー本当だったら俺はまだ生きることができたはずなんだー
これはー復讐だー”
だがーーー
奈津美の思惑とは”異なる反応”が、
父親から返って来たー
「ーーはははー
よかったな 奈津美ー。
この病院の先生たちは、そうまでしてお前を助けてくれたってことだー。
ちゃんと感謝するんだぞ」
父の香川理事長はそう口にすると、
「ー山瀬病院長だったかー…私からも感謝しておかねばなー」
と、呟くー
「ーーーーーー」
奈津美の表情からは笑顔が消えているー
手を震わせながら、
歯ぎしりをしているー
「ーお父さんー…娘が助かれば
他の患者はどうなってもいいって言うの?」
敏郎は辛うじて”奈津美のフリ”をしながら
そう言葉を吐き出すとー、
父の香川理事長は「違うー。そういうことではない」と、
言いながら奈津美の手を握りしめるー。
「ーでもー…やむを得ないこともあるんだー。
奈津美にもいつか分かるさー」
香川理事長がそれだけ言うと、
奈津美は「ーーでも!その人は死んじゃったんだよ!?」と、
奈津美の口調を保ったまま叫ぶー。
「ーーー…ははーそうだなー…
わかったー。
私も病院長に挨拶をしたら、
奈津美に脳を提供してくれたその人にお礼を言っておこうー。
奈津美を助けてくれたんだから、感謝しなくちゃなー。」
香川理事長は、娘の奈津美に強い口調で言われたからか
そう言い放つと、「まだ無理しちゃだめだからな?」と、
心配そうに呟いてから、
そのまま病室の外へと出て行ったー
「ーーーーーー…」
鬼のような形相で怒りを露わにする奈津美ー
「ークソ…くそっ…くそっ!この女の父親も
俺のことなんて何とも思ってないー…!」
奈津美は何度も何度も近くの壁を蹴り飛ばすと、
顔を真っ赤にしながら
「ー復讐してやるー…全部ぶち壊してやる」と、
怒りの形相で呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
奈津美の”体調”自体は次第に回復しー
かなり体力も戻って来たー
交通事故の後遺症のようなものも
幸い”身体”にはないー。
まぁー
本人からすれば脳移植された挙句、
”別人の脳”の方に支配されてしまうなどとは
夢にも思わなかっただろうけれどー。
そんなことを思いながら
奈津美は復讐のために動き出すー
”医療界の重鎮の娘って立場を利用してー
お前たちを破滅させてやるー”
院長室で話すDr速水と山瀬病院長を部屋の外から
見つめながら奈津美は、にやりと笑うー。
病院は、今日、記者会見を行うー。
奈津美の父親である香川理事長が”娘の命を救ってくれたお礼に”と、
この病院に新プロジェクトを発足する支援を行うことを決定、
大々的に今日、それを発表するのだー
そこにー
奈津美は乱入するつもりでいたー。
”俺を犠牲にして、この娘を助けたこいつら”に
復讐をするのだー。
もちろん、奈津美という子に恨みはないし、
この子が敏郎の脳を欲しい!と言ったわけではないことは分かっているー。
助けられるのであれば、この子が助かるのは良いことだー。
しかし、敏郎自身の命を犠牲にして、
この子を助けた、というのであれば話は別だー。
しかも、薄汚いやり方でー
若手のDr小久保に罪をなすりつけるという
クズのような連中を許すことはできなかったー。
記者会見が始まるー
山瀬病院長とDr速水、重藤(しげふじ)副院長、
医療界の巨大団体の理事長で奈津美の父親・香川理事長が
記者会見の場に姿を現すー。
未来医療のための新事業の立ち上げを
この病院で行うことを決めたと発表する香川理事長ー。
もちろん、娘の奈津美を助けてくれたことがきっかけだー。
山瀬病院長は笑みを浮かべながら
香川理事長が話す姿を見つめるー。
重藤副院長はそのまま真剣な表情で前を見据えー、
Dr速水は、山瀬病院長を横目で見つめながら
”あなたは俺の踏み台に過ぎない”と、心の中で
笑みを浮かべるー。
そんな時だったー
奈津美が記者会見に乱入するー
「ー奈津美!?」
香川理事長が驚くー
「ーわたしはー
香川理事長の娘の奈津美と申しますー。
今日ここに集まった皆さんにお話がありますー」
奈津美が、普段とはまるで別人のような口調で
堂々と記者たちに向かって話しかけるのを見て、
香川理事長は困惑するー。
「ーこの病院は、わたしを助けるために、
岸原敏郎さんという一人の男性を見殺しにし、
植物状態になった岸原敏郎さんの脳の一部を
親族の了承もなしにこのおー……いえ、わたしに移植ー、
結果、岸原敏郎さんを”殺害”しましたー。
さらに、それを隠蔽するために、
この病院に勤務されていた小久保という医師を
解雇し、罪を擦り付けていますー」
奈津美がそう言い放つと、
記者たちがどよめき始めるー
「ーーな… なつ…みー」
香川理事長が顔を真っ青にするー。
だがー
娘を溺愛している父はー、
それに強く反論することが出来ず、困惑するー
「ーーそれはーーー
真(まこと)かねー?」
山瀬病院長が突然、Dr速水のほうを見て叫ぶー
「ーー何ですって?」
Dr速水が山瀬病院長のほうを思わず見返すー
「ー私はそんな指示はしていないー
君は勝手にーそのような非人道的なことをしたのかね?」
山瀬病院長は、Dr速水に”罪”を擦り付けてー
トカゲの尻尾切りをしようとしてみせるー。
しかし、Dr速水は「私は病院長、あなたから指示をされて、
岸原さんから、香川奈津美さんの手術に移り、
脳移植も、あなたが用意したという脳の一部を使って
手術しただけだ!」と反論するー。
「ーーー黙れ!雇われの外科医ごときが!
そのような言い逃れ、できると思うな!」
山瀬病院長はそう言うと、
「ーーー皆様、お騒がせして大変申し訳ございませんー。
我が病院の医師が、独断でこのようなー」
と、言葉を口にしたー。
奈津美は”汚い野郎め…”と、険しい表情で
山瀬病院長を睨みつけるー。
山瀬病院長もDr速水も醜悪すぎるー。
山瀬病院長は、事前にDr速水から提案されて
”ゴーサイン”を出しているー。
知らなかった、などでは済まされないー。
逆にーDr速水は、
病院長から指示をされた、と言っているものの、
実際に指示をされたのは、敏郎のオペから奈津美のオペに
移動することだけであり、
脳移植はDr速水が提案したことだー。
敏郎が寝たきりになったこと自体は山瀬病院長の指示によるものとしても
親族に無断で脳移植をしたことはDr速水自身が提案者だー。
「ーーー君は、解雇だー。
ここから今すぐ去りたまえ」
山瀬病院長がDr速水に対してそう言い放つー。
Dr速水が”仕方がなく”
山瀬病院長に脳移植を提案した際に
密かに隠し持っていたボイスレコーダーをこの場で再生しようと
ポケットに手を入れたー
その時だったー
「ー”嘘”はいけませんなー
山瀬院長ー」
今までずっと黙っていた重藤副院長が口を開くー
「ーーなに?」
山瀬院長が表情を歪めながら重藤副院長のほうを見るとー
「ーー我が病院は院長の決裁が無ければ脳移植などできないし、
オペを放棄することもできないー
すべてはあなたの指示のはずだー」
と、重藤院長は低く、重々しい威厳に満ちた声でそう言い放つー。
「ーー香川 奈津美さんを救うためとは言えー、
患者の命は、等しく平等でなければならないー。
他の患者を生贄に捧げるような真似は、あってはならないー」
重藤副院長はそう言うと、
「ー貴様!重藤!私を裏切るのか!?」と、
山瀬病院長が声を荒げたー
だがーーーー
「ーーー恥を知りなさい!」
重藤副院長が大声で叫ぶー。
「ーー患者を救うべき我らにあるまじき行為ー
新規プロジェクトに携わる前に、
我々は”膿”を絞り出さなくてはならないー」
それだけ言うとー
重藤副院長は、香川理事長のほうを見て頷いたー
山瀬病院長とDr速水ー。
”どっちを残した方が病院の利益になるのかー”
それを瞬時に判断した重藤副院長は、
山瀬病院長を”処分”する決断をしたー
言葉巧みに山瀬病院長に罪を擦り付けー、
自身と、Dr速水は何も知らず、
全ては山瀬病院長の独断と強権的な指示であったことを伝えるー。
その上で重藤副院長は、
山瀬病院長の解任及び、自分を含めた重役の報酬カット、
そしてDr速水の一定期間の謹慎処分を下した上で、
岸原拓郎の遺族には、責任を持った賠償をすると発表ー
その上で、香川理事長主導の新規プロジェクトを、
”病院の膿を出し切った上で誠心誠意行っていく”と、したー。
「ーーーー~~~~」
香川病院長が表情を歪めながらも、
重藤副院長の、用意周到な言葉に圧倒されて、
その場に座り込むー
「ー速水くんーすまないねー。
謹慎は”パフォーマンス”だー。
必ず呼び戻すー。
それでいいかな?」
小声でそう言うと、Dr速水は
重藤副院長が、山瀬病院長を切り捨てて
病院のダメージを最小限に抑える方向に舵を切ったことを理解しー、
「はい」と、笑みを浮かべながら答えたー
香川理事長もそんな様子を見ながら
その話に乗るとー
”山瀬病院長解任”というパフォーマンスだけで、
奈津美ーー
奈津美に脳移植された敏郎の復讐は”不発”に終わってしまったー
「ーー奈津美ー
嫌な思いをさせて、悪かったねー」
父親である香川理事長が言うー。
重藤副院長が「ー申し訳ありませんでしたー」と、頭を下げるー。
新規プロジェクト発足の記者会見の場でー、
この病院の悪事をばらまき、復讐してやろうとした奈津美ー。
しかし、それには失敗しー
山瀬病院長だけがー、解任されるという結果に終わったー
「ーーふざけるなよー」
一人、病院内を歩く奈津美は険しい表情を浮かべたー。
自分たちの野心のためだけに
敏郎を見殺しにして、
敏郎の脳を勝手に使った
こいつらを許さないー
山瀬院長は、もうどうでもいいー。
だが、まだDr速水と、この女の父親である香川理事長とー
そして重藤副院長とかいうやつが残っているー
「ーーー復讐してやるー」
そう呟いた奈津美ー
だがー
その直後、突然ズキッと激しい頭痛が奈津美を襲いー、
奈津美は、その場に倒れ込んでしまったー…。
<後編>へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
次回が最終回デス~!
続きは前編と同様にまた1週間後になってしまいますが
ぜひ楽しんでくださいネ~!
今日もありがとうございました~!
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