とある病院ー
交通事故により、絶望的な状況で運び込まれた少女ー。
しかし、彼女は”医療界の重鎮”の娘だったー。
自分に責任が及ぶことを恐れた病院長は
”禁忌”に手を染めるー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
少し前に発生した交通事故に巻き込まれた
女子高生・香川 奈津美(かがわ なつみ)が、
病院に運び込まれてきたー
救急車から担架に乗せられた奈津美は
かなり酷い状況で、
医師もすぐにそれを理解せざるを得ないような状況だったー。
しかもーーー
その子はーー
「何ー?香川理事長の娘さんがー?」
病院の院長・山瀬(やませ)は表情を歪めるー
「はいー交通事故に巻き込まれて
かなり危険な状況です」
秘書の男の言葉に、山瀬院長は呆然とした表情を浮かべるー
「ーま、まずいぞー」
爪をかじり始める山瀬院長ー。
医療界の重鎮”香川理事長”は
一人娘である奈津美を溺愛していたー
その奈津美がこの病院で死ぬようなことがあればー…
「ーーーくそっ!この病院は終わりだー!」
患者の命ではなく、病院の保身を第1に考える
山瀬院長は頭を抱えながら、
「ー速水(はやみ)に執刀させろ!」
と、秘書の男に伝えるー
「ーしかし、速水先生は本日ー、
別の患者のオペがー」
秘書が言うと、
山瀬院長は「構わん!金を積めば速水は必ず従う!」と叫ぶとー、
秘書は困惑しながらも頭を下げたー。
アメリカで最先端の医術を学び、
多額の報酬でこの病院に引き抜かれた
外科医のエース Dr・速水 竜一郎(はやみ りゅういちろう)ー
医療界の重鎮の娘を救えるのは、
彼をおいて、他にはいなかったー。
「ーこれより、岸原 敏郎(きしはら としろう)さんのオペをー」
奈津美の手術室とは別の手術室で、
中年の男性・岸原敏郎のオペを始めようとしていた
Dr速水ー。
しかし、そこにスタッフが駆け込んでくるー
「ーー何だ君は?オペの最中だぞ」
Dr速水が不満そうに言うと、山瀬病院長からの伝言を耳打ちされた
Dr速水は「ーなるほど」と頷くと、
助手だった別のドクターに「岸原さんは任せた」とだけ、告げて
手術用の手袋を捨て、そのまま奈津美の方に向かって歩き出すー
「えっ!?ちょっ!?速水先生!?」
急にオペを押し付けられたDrは思わず悲鳴に似た叫び声を上げるー。
だがー
Dr速水はそれを無視しー、
交通事故にあった女子高生・奈津美の手術室に入ってくると
その様子を見て
「あちゃ~…可愛い顔が台無しだな」と、冗談を口にしながら
そのまま手術台の近くに立ったー
「まぁいいー…俺に任せておけば問題ないー」
そう呟くと、自信満々にDr速水は奈津美のオペを開始したー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー何だと!?脳死状態だと!?」
山瀬院長が困惑した様子で叫ぶー。
オペは成功したー。
だが、脳に重い障害が残り、奈津美は
目を覚まさない状況に陥ってしまっていたー。
”事故の時点”でどうすることもできないダメージを受けていたため
Dr速水としても、ひとまず生命の維持に目的を切り替え、
寝た切りの状態だとしても、助けることに注力したー。
その結果が、今の状態だー。
Dr速水は「ええ」と、ハッキリ答えながら
「一部機能に大きな障害が残り、目を覚まさない状況です」と、
淡々と説明したー
「ーふ、ふざけるな!香川奈津美は、
香川理事長の娘さんだぞ!
このような結果になったら、うちの病院はー」
その言葉に、Dr速水は「分かっています」と頷くと、
”既に手は打ってあります”と、淡々と説明を続けたー
「ーど、どうすると言うのだ?」
山瀬病院長が言うと、
「ーー”脳移植”を行います」と、Dr速水が
淡々とスクリーンに”計画”を表示したー
「香川奈津美さんが目を覚まさないのはー
脳の一部の部分の損傷が激しいことによるものですー
ですが、彼女の記憶をつかさどる部分は無事ー。
よってー、
別の人間から脳の”この部分”を移植することができればー
香川奈津美さんは、目を覚ますことができるでしょう」
Dr速水の説明に、
「待て…!の、脳移植と言ってもー
そんな治療うちには実例がー
しかもー…誰の脳を移植すると言うのだねー?」
と、山瀬院長は口を挟んだー
「ーご安心をー。
先日、香川奈津美さんの手術のために
院長から呼び出されて、私がー
そう、いわば手術を放棄した患者ー
岸原 敏郎さんー
彼は、あのあと、危篤状態となり、意識が戻らない状態ですー。
恐らくもう、彼の方は目覚めることはないでしょうー
その、岸原敏郎の”脳”を使いますー」
Dr速水の言葉に、
山瀬病院長は「なっ!」と、表情を歪めるー。
「どうせもう目を覚ましません。彼の脳を
香川奈津美の損傷した部位に移植することで
香川奈津美は目を覚ましますー
難しいオペですが、私ならできますので、
あとは病院長のご指示があればー」
Dr速水がそう言うと、
山瀬病院長は「いや!待て!岸原敏郎さんの家族はー!」
と、叫ぶー
「ーご家族は何と?」
Dr速水が言うと、
「ーー寝たきりでも、生命の維持を希望しているー」と、
山瀬病院長が、戸惑いながら呟いたー
「ーなるほどー
まぁ、仕方がありませんー
どうせ目覚めないおっさんを生かしておいても意味がないー
院長が適当に理由を考えておいてくださいー
責任は、あの日私が去った後にオペを担当した小久保くんにも
押し付けて置けばよいでしょう。
それで、香川奈津美を救うことができますー」
あまりにも淡々と、恐ろしいことを口走る
Dr速水に対して、逆に山瀬院長の方が困惑した表情を浮かべるとー
「ーおっさんの患者一人と、大して能力のない医師を切り捨てればー
香川奈津美を救出することができるんですー」
と、Dr速水が顔を近づけながら脅すような口調で
言葉を続けたー
「ー私はいち外科医にすぎません。
病院長の指示なしでは動けないー
さぁ、院長、許可をー」
Dr速水の言葉に、山瀬病院長は
目を泳がせながら返事に困った様子を見せているー
それを見かねたDr速水が呟くー
「ーふ、ふざけるな!香川奈津美は、
香川理事長の娘さんだぞ!
このような結果になったら、うちの病院はーー」
さっき、山瀬院長自身が言った言葉を繰り返すと
「ーーー…破滅です」
と、自分の言葉を続けたー。
「ーーーーし…しかしー」
山瀬院長も病院を守るため、そして自分の地位を守るため
それなりに汚いこともしてきたー
だが、Dr速水の言う
”男性患者の脳を勝手に移植に使い”
”責任を若手の外科医に押し付ければいい”
という主張は、そんな山瀬院長からしても
悪魔のような囁きに聞こえたー
「ーーふぅ」
Dr速水はため息をつくと、
「院長のご許可が下りないのであれば
私には何もできませんー
これで、失礼いたします」
と、自分の足を叩いて、そのままイスから立ち上がり、
院長室から出て行こうとしたー
「ーーま、待ちたまえ!」
山瀬院長が叫ぶー
自分が脂汗をかいているのが分かるー
背中もびっしょりと濡れているー。
だが、それを悟られないように
山瀬院長は強気な口調で言い放ったー
「ーー患者と小久保くんのことは私がなんとかするー
”脳移植”できるんだなー?
いざ、そんな手術をして
”ごめんなさい失敗しました”は
許されないぞ?」
山瀬院長がそう言うと、
Dr速水は「私を誰だと思っているのですー?」と、
笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
香川理事長の娘、香川奈津美に対する
”脳移植”手術が行われたー
Dr速水は言葉の通り、完璧にオペをこなしー、
寝た切りになっていた岸原敏郎の脳を移植したー。
当然、岸原敏郎は完全に死亡しー、
その責任は若手の外科医・小久保に押し付けられる形で
”処理”されたー。
「ーーーーわたしー……」
数日後、奈津美が目を覚ましたー
山瀬院長とDr速水が揃って奈津美のところにやってくると
Dr速水は笑顔を浮かべながら
「ここは、病院です」と、説明を始めたー。
「ーーー病院ー」
奈津美は表情を歪めながらそう呟くと、
「ー香川さんは、交通事故に遭われて、ここに運びは困れたんです」と、
山瀬病院長が丁寧に説明するー
内心では”小娘が”と、思っているがー
父親の”香川理事長”は医療界の大物であるため、
山瀬院長は媚を売るかのように低姿勢で説明を続けているー。
「ーアメリカで最先端の医療を学んだ我が病院のエース、
速水くんの手術ですからー、
もう、何も心配はいりません」
山瀬院長がそう言うと、
奈津美は穏やかな笑みを浮かべながら
「ありがとうございますー」と、丁寧に頭を下げたー。
「ーーーお父様も近いうちにお見舞いにいらしてくれるとのことですのでー」
山瀬院長が色々な説明を終えると、
ニコニコしながら「では、私はこれで」と、立ち去っていくー。
顔を奈津美から背けた直後、真顔に戻る山瀬院長ー
”小娘がーうちの病院で死なれたら
危うく、うちの病院がつぶれるところだったー”
そんなことを思いながら廊下に去っていくー。
「ーーー…」
Dr速水は、そんな山瀬院長が出て行った扉を見つめながら、
「ー具合の悪いところは、ありませんか?」と、穏やかに言葉を口にするー
「ーはいー本当に、ありがとうございますー」
その言葉に、Dr速水は「そうですか」と頷くと、
「なにかあったらすぐにスタッフが駆け付けますので
そこのボタンを遠慮なく押してください」と、
淡々と説明すると、
丁寧ではあるが、山瀬院長とは異なる”冷たさ”を感じさせるような
そんな振る舞いでそのままDr速水は病室から
外へと出て行ったー
「ーーーーーー」
一人、病室に残されていた奈津美は
浮かべていた笑顔を一瞬に消して、真顔になったー
山瀬院長と同じようにー
「ーーこりゃすげぇー」
奈津美が笑みを浮かべるー
「ーしかし、何で俺の脳が
こんな子に移植されたんだー?」
奈津美が首を傾げるー
「しかもこの女ー
医療界の権威の娘だって言うじゃねぇかー」
奈津美はそう呟くとー
不気味な笑みを浮かべながらも、
今までのことを思い出し始めるー。
本来はー”岸原敏郎の脳の一部を移植”したことにより、
奈津美の目覚めを妨害していた要素が取り除かれて
奈津美は記憶に障害を残すこともなく目覚めるはずだったー。
がー…
確かに奈津美は目覚めたー
奈津美の記憶もそのままー
なのにー…
”奈津美”ではなく、”移植された脳”の元の持ち主である
敏郎の意識が”奈津美の身体と記憶を奪った状態”で
目を覚ましてしまったのだー
奈津美の身体と
奈津美の記憶ー
それを手にしたままー
中年の男・岸原敏郎が目を覚ましてしまったのだー
「ーーーーー真面目な子だなー」
”記憶”を読み取り、奈津美はそう呟くー。
敏郎の脳が移植されたこの奈津美という子は、
”医療界の重鎮”の父親を持ちながらも、
おごり高ぶるようなこともなく、真面目に生きて来たことが
”記憶”から分かったー
「ーこの子の意識はどうなったんだー?」
少し心配する奈津美ー。
生前の岸原敏郎は別に悪人ではなく
”ごく普通のおじさん”だー。
奈津美のような可愛い子になったことで、
欲も出て来てはいるものの、
奈津美のことを傷つけるつもりは”今のところ”はなかったー
「ーーー”それにしても、何で俺の脳がこの子にー?”」
そんな疑問を抱きながら奈津美は病室の外へと歩き出したー。
・・・・・・・・・・・・・・・
「どうせこの先、生きていても
対して役に立たないおっさんを犠牲にしてー
香川奈津美を生かした!
いやぁ、流石は速水くんだー」
院長室で山瀬病院長がご機嫌そうにそう叫ぶー。
「ーーありがとうございます」
Dr速水は穏やかな笑みを浮かべながら頭を下げつつもー
その目は、笑っていなかったー
”ー俺が提案した時にはビビってたくせにーよく言うよー
醜悪な権力の塊がー”
Dr速水はそう思いながらも、
岸原敏郎の遺族への説明など、これまで打ち合わせたことを再確認するー
山瀬病院長は
「ー金にならない患者を生贄に捧げて、香川理事長の娘さんを守った!
いや、めでたい!」
と、ご機嫌そうに叫んだー
しかしー
「ーーーーーーーーー」
”自分がなぜ脳移植されたのか”
そこに疑問を抱き、病院内を徘徊していた奈津美がー
その話を聞いてしまったー
”敏郎を犠牲に、奈津美を助けた”という話をー
「ーーーーぶち壊してやるー」
病院の悪意を知った奈津美は、
敏郎の脳に支配されたまま、憎しみの言葉を口にしたー
続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
久しぶりの脳移植モノデス~!
登場人物それぞれに腹黒さが出ていますネ~!
これから恐ろしいことが起きていきそうデス…!
土曜日の作品なので、
続きはまた来週になりますが、
(※私のスケジュールの都合上)
楽しみにしていてくださいネ~!
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