<脳移植>悪意の信号(シグナル)~後編~

”医療界の重鎮”である男・香川の娘、
奈津美が交通事故で負傷したー

その奈津美を救うために”犠牲”にされた男・敏郎ー。

しかし、奈津美に脳の一部を移植された彼は
奈津美を乗っ取り、復讐のために動き出したー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーう…」

突然、頭の痛みに襲われて倒れた奈津美が
目を覚ますと、
Dr速水が「お目覚めですか?」と、
一見すると優しい笑顔を浮かべたー

「ーーあ…はいー…」
奈津美が表情を歪めるー

「ーーーあの…わたしはー…?」
奈津美がそう呟くと、
Dr速水は「ーーなかなか強かなことをするものですねー
お偉いさんのお嬢様があんなことをするなんてー」と、
会見の場で、山瀬病院長が失脚する原因を作った
奈津美に対して、そんな言葉を投げかけたー。

「ーあ、あの…どういうー…?それより、わたしはー…?」
奈津美が困惑した表情を浮かべながら言うー

「ーーーーーー…」
Dr速水は、一瞬、鋭い視線を奈津美の方に向けると、
奈津美は少したじろいだ様子を見せるー

「ーー事故の後ー、覚えていませんか?」
Dr速水がそう”確認”すると、
奈津美は「事故ー…?」と首を傾げるー

「ー香川奈津美さんーあなたは交通事故に巻き込まれてー
 この病院に運ばれてきたー

 そして、先日手術が成功し、目を覚まして
 経過観察中だったー…

 ーーーの、ですが。」

Dr速水がそう言うと、
奈津美は再び険しい表情を浮かべたー

「ーーーーーー…おっと失礼ー
 まだ目を覚ましたばかりで記憶がハッキリなさらないのでしょうー。
 随分無理して動いてましたからねー。

 とにかく、香川奈津美さんー
 あなたは無事、助かりましたー。
 しばらくは安静にして、早く日常に復帰できるように、頑張りましょう」

Dr速水はそれだけ言うと、立ち上がり、
病室の外へと出ていくー

「ーーーーーー」
廊下を歩きながら鋭い目つきを浮かべるDr速水ー

”あの女ー…もしかしてー”

そんなDr速水の考えを知らず、病室で目を覚ましたばかりの奈津美はー
「ーーわたし…事故にー…」と、
交通事故に遭った瞬間の記憶をようやく思い出すー

しかしー

「ーーー…なんかー…頭…痛いー」
奈津美がそれだけ呟くて、苦しそうに呟くと、
ハッとした様子で表情を変えたー

「ーーってーー…な、なんだ今のー」
奈津美が表情を歪めるー

「ーー……い、今のはー?」
再び険しい表情を浮かべる奈津美ー

奈津美に”移植”された敏郎は思うー

今ー
自分がー
”岸原敏郎”であることをー
完全に忘れてしまっていたー…

今ー
自分はー完全に”香川奈津美”に
なってしまっていたー

「くそっ…」
奈津美は顔を押さえながら怒りの表情を浮かべるー。

「ー移植された俺の脳が、次第にこの子の身体にー
 馴染んでいってるのかー…?」

奈津美は鏡を見つめるー。

もしかするとー
このまま進めば最終的に自分は、
”自分を香川奈津美”としてしか認識できなくなるのではないかー?

そんな不安を感じたー

「くそっ…ふざけるなー」
そう呟くと同時に、再びズキッズキッと頭に痛みが走るー

「ーーーとにかく、この病院の奴らに、絶対復讐してやるー」
そう呟きながらふらふらと立ち上がった奈津美は
”父親”に連絡を始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

奈津美の父である香川理事長は
腹黒い性格の持ち主であるものの
娘の奈津美を溺愛しており、
それが”一つの弱点”でもあったー

「ーお父さん!わたし、誰かを犠牲にして
 それを隠蔽するー…みたいな汚い大人の世界、大っ嫌いなの!」

奈津美が、父・香川理事長の元を訪れてそう叫ぶー。

”奈津美の記憶”を使えば
奈津美として振る舞うことはたやすいー

「な…奈津美ー」
戸惑った様子の香川理事長ー。

「ーーお父さんは、悪い人なのー?」
”わざと”娘を溺愛している父親に響きそうなことを言いながらー
目に涙を浮かべて見せる奈津美ー。

「ー新しいプロジェクトー…とか、そういうのは分からないけどー
 あの副院長と、速水って医者は許しちゃだめ!
 わたしの代わりに、岸原さんって人が死んでるんだよ!?

 責任、ちゃんと取らせなくちゃ!」

怒りの口調でそう言い放つ奈津美を見てー
「な、奈津美ー落ち着いてくれー…彼らは、奈津美を助けるためにー」と、
香川理事長は言葉を口にするー。

だがー
奈津美は「ー悪いお父さんは嫌い!大っ嫌い!」と、叫ぶー

その言葉に、香川理事長は強いショックを受けてー
「ま、待ってくれ!わかった!わかった!」と、
泣きそうになりながら叫んだー

ニヤッと笑う奈津美ー
涙を浮かべながら邪悪な笑みを浮かべた奈津美にー、
父・香川理事長は気づくことはできなかったー。

そしてーーー

「なっー…」

数日後ー
香川理事長の圧力で、重藤副院長と、Dr速水のスキャンダルが
週刊誌に流れたー。

病院の解体はもはや免れないー。
脳移植を実行したDr速水も医師免許のはく奪や、場合によっては
逮捕もあり得るー。

奈津美の脳移植の件も含め、情報が流れたからだー。

「ーやられましたねー…あの小娘ー」
Dr速水が呟くと、
憔悴しきった様子の重藤副院長が
「この病院はー…終わりだ…くそっ」と、頭を何度も何度も掻きむしるー。

「ーーーー」
だが、Dr速水にとってはこの病院など、どうでもよかったー。

香川理事長と奈津美の元をその日のうちに訪れた
Dr速水は、笑みを浮かべながら二人に対して言い放ったー

「ー娘さんはー
 このまま放っておけば、死にますー」

とー。

「ーな、なんだと!?」
香川理事長が驚いて叫ぶー。

「ーーどうでしょう?そこで、私と取引をするというのはー?」
Dr速水の言葉に、
香川理事長は「”取引?”」と首を傾げるー。

「ーーえぇーーー」
そこまで言うと、Dr速水は奈津美のほうをチラッと見て笑みを浮かべるー。

奈津美は不満そうにDr速水を睨み返すと、
Dr速水は言葉を口にしたー

「岸原敏郎さんー」
その言葉に、奈津美は表情を歪めるー

”こいつー…俺がこの子を支配してるって気づいたのかー?”
奈津美は一瞬、そんな風に思ったものの、
Dr速水の口から飛び出した言葉の続きは、敏郎が思っている内容とは
少し違ったー。

「彼女に移植した岸原敏郎さんの脳ですが、
 奈津美さんの身体が”拒絶反応”をわずかながら起こしていてー
 このままだと、奈津美さんは、異なる脳同士の拒絶反応によってー
 最後にはそうーー廃人となってしまいます」

Dr速水のその言葉に、
香川理事長は顔を赤らめて、露骨に焦りの感情を振りまくー

「ーーそれはーし、手術に失敗したということか?!」
香川理事長の言葉に、Dr速水は首を振るー

「実例の少ない手術だった故、
 少し想定外の経過をたどりましたがー
 ご安心下さいー。
 私が再度手術を行えば、それも治すことが出来ますー」

Dr速水の言葉に、香川理事長はDr速水の言わんとしていることを
理解するー

「ーー貴様ー…
 つまり、私の娘を助ける代わりにー
 医師免許のはく奪を取り消せー

 そう言いたいのかね?」

香川理事長の言葉に、Dr速水は「私は一言も、そのようなことは
言っていませんー」と、した上で、
「がーー、医師免許をはく奪されてしまえば、
 娘さんの手術も、できませんな?」

と、ニヤリと笑みを浮かべながら呟いたー

「ーーーくそっー…君は悪魔だなー」
香川理事長は、Dr速水に陥れられた山瀬病院長の気持ちを
少し理解しながらも「わかったー…わかった!」と、叫ぶー。

Dr速水は満足そうに笑みを浮かべるとー
「ではー」と、頭を下げてその部屋から出て行こうとしたー。

激しくずきずきする頭ー
奈津美は表情を歪めながら
廊下に飛び出して、Dr速水に追いつくと、
Dr速水を呼び止めたー

振り返るDr速水ー

「ーこれはこれはー…」
振り返ったDr速水は少しだけ笑うと、
奈津美は「ーーあんたにも復讐するー!」と、
指を指しながら言い放ったー

だが、Dr速水は笑うー

「予想外でしたよー
 岸原敏郎さんー

 あなたの脳を移植したあとー
 私の見立てでは、奈津美さんの脳の機能を補い、
 奈津美さんが自我を持って、意識を取り戻すはずだったー

 だがー、どういうわけかー
 あなたの方が自我を持ち、奈津美さんの意識を封じ込めた状態で
 今、こうしているー」

Dr速水の言葉に、
奈津美は「やっぱり、俺のことー…気づいてたのか」と
観念して表情を歪めるー。

「ーーまぁ、途中からですが」
Dr速水はそう言いながら笑うと、
奈津美のほうを今一度見つめたー。

「ーーーだったら、俺の目的は分かってるはずだ」
奈津美が憎しみを込めて言うー。

奈津美を助けるため”オペを突然放棄ー”
そのせいで、拓郎は植物状態になったー。

さらにー
勝手に脳移植ー。

病院に殺されたも同然なのだー。

「ーーえぇ。ですがー…
 あなたの自我はいずれ、香川奈津美さんに吸収されて
 自我を消失するー。

 元々は意識を取り戻すまでにそうなるーハズでしたが
 何らかの原因でそれが遅れているだけー

 あなたはそう遠くないうちに消えることになるー」

Dr速水が笑うー。

表情を歪める奈津美ー。

少し前に”自分を奈津美だと思い込んでいて、
自分を拓郎であることを思い出せない時”があったことを思い出すー。

あれはー
”奈津美”なのかー
それとも”自分を奈津美だと思い込んだ俺”なのかー

いやー
どっちだとしても
”岸原拓郎”は死んだも同然であることには変わりないー。

「ーー頭痛ー」
Dr速水がふと呟くー

「ー!」
奈津美がDr速水を見つめるー。

「これまでに何度か激しい頭痛に悩まされているはずですー

 あれは、”拒絶反応”ー
 本人とは異なる”意思”で身体が動いていることによる
 拒絶反応ですー。

 それがこのまま続けば、香川奈津美の身体は、
 その負担に耐え切れなくなり、やがて、廃人となるー」

Dr速水はそこまで言うと、
「つまり」と、笑みを浮かべながら言うー。

「ーあなたが”香川奈津美”に吸収されることを受け入れれば
 あなたは消滅して香川奈津美となりー

 あなたがそれを頑固にも強い意志で抑え込めばー
 身体が耐えきれなくなり、香川奈津美は廃人と化すー。

 そう、あなたに生き延びる道はないー」

Dr速水の言葉に、
奈津美は呆然とした表情を浮かべるー。

「ーでも、私なら可能だー。
 私が再度オペをすることによってー
 香川奈津美の身体を守り、岸原敏郎さんー
 あなたの自我を消失しないようにすることが出来るー」

Dr速水はそこまで言うと、ニヤリと笑みを浮かべたー

「ーーーその代わりー
 今回の件は黙っててもらいたいー。

 お金はいらないー
 
 あなただって、そんな若い身体で生きていくことができるんだー
 悪い話ではないはずー」

Dr速水はそう言いながら、笑みを浮かべたー。

”ーークククー
 オペの最中に岸原ー、お前の自我を消してやればー
 俺の勝ちだー”

Dr速水は内心でそんな邪悪なことを呟くー。

そうー、”助ける”フリをして、
再手術で奈津美の自我を引き出し、
敏郎を消し去ろうと、Dr速水は目論んでいたー。

だがー

「断る」
奈津美がそう呟くー

「なにっ…?」
Dr速水は呆然とするー

「”断る”と言ったんだー」
奈津美はそれだけ言うと、ボイスレコーダーを手に
「今の会話も公表するー」と、言い放つー。

「ーなんだと… そんなことしたら、お前もー!」
Dr速水が奈津美を指さすー。

今の会話が公表されればー
”奈津美を拓郎が乗っ取っている”状態であることも
世間の知るところとなるー

「それにー、お前は自我を消失するか、
 身体からの拒絶反応でその身体ごと死ぬか、
 どっちかになるんだぞ!」

Dr速水が叫ぶー

「ーいいじゃないかー
 ちょうどいいー
 それで、お前らへの復讐になるならー」

奈津美はニヤッと笑ったー

その日のうちに、音声データを流しー
Dr速水は香川理事長から呼び出された挙句、失脚ー
違法な手術を行ったとして警察に逮捕されたー

そしてー
奈津美は激しい頭痛に耐えながら
警察に連行されていくDr速水のニュースを見つめると
にやりと笑みを浮かべたー

「あと、一人ー」

俺をこんな目に遭わせたやつらへの復讐ー。

あとは、”こいつの父親”への復讐ー

だが、それはもう何もしなくても達成できるー。

激しい頭痛ー
身体を突き抜けるような苦痛に耐えながらー
奈津美は笑ったー

「俺がこの女ごと死ねばー
 娘を溺愛しているあのおっさんにとってはー
 何よりも強い復讐になるー」

奈津美はーーー
その日の夜ー
”異なる脳への拒絶反応”により、息を引き取ったー

”愛娘を失った香川理事長”は、その後、廃人同然の老人のようになってしまいー
失脚したー。

”悲劇の脳移植”に巻き込まれた男の復讐はー
こうして、幕を下ろしたのだったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

久しぶりに脳移植系のお話を書いてみました~!☆

まだまだあまり執筆経験のないジャンルなので
書いていて新鮮な気持ちですネ~笑

お読み下さりありがとうございました~!

※いつもは土曜日(週1回唯一の予約投稿の日)に
 掲載していた作品ですが
 今週はクリスマスイブが土曜日なので
 前倒しにしました!
(クリスマスイブにはクリスマスモノ!)

脳移植<悪意の信号>
憑依空間NEO

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