この世のバグー
”12月32日”
毎年ー、この世界には、
12月31日から翌年に年越しすることが出来ずに、
”12月32日”と呼ばれる空間に飛ばされ、人知れず消えてしまう人が
いるのだというー…。
※12月32日の2024年⇒2025年バージョンデス!
過去の12月32日はこちらからご覧ください~!
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2024年大晦日ー。
彼は、いつも通り”Hなゲーム”を遊んでいたー。
板倉 貞治(いたくら さだはる)ー。
30代後半の彼は、人付き合いが嫌いで、
友達もおらず、独身を貫いていたー。
両親も既に他界しており、
彼が今暮らしているのは、その両親が残した”実家”だー。
持ち家であるために、既に家賃の支払いなどは存在しておらず、
彼はパートで”それなり”に働きながら、
あとは家で引き籠る生活を送っていたー。
彼は”年末年始”というものにも興味がないー。
もちろん、大晦日にもだー。
2024年も間もなく終わろうとしている中、
彼は最近ハマっているR18なゲーム
”緑色のサキュバスと1枚の葉っぱ”を夢中になってプレイしていたー。
のりしお味のポテトチップスを口の中に放り込み、
べたべたとした手で平気でパソコンに触れる貞治ー。
コーラを飲み干して、ニヤニヤとしながら画面を見つめると、
そのゲームに出て来るヒロインを見て「ふほっ…」と、
声をあげたー。
そんな中ー、
2024年は終わりを迎えるー。
世間では2025年に向かう中、カウントダウンで盛り上がったりしている人も
いたものの、彼にとっては何も関係がなかったー。
ゲームで遊びながら、のりしおのポテトチップスを口に運ぶー。
そうして、彼の2024年は終わりを迎えて、
2025年に突入したー。
が、その瞬間ーーー
彼は2025年1月1日ではなくーーー
2024年12月32日と呼ばれる”異空間”に放り込まれてしまったー。
これは、この世界のバグー。
毎年年越しの瞬間に数名の人間が不運にも
12月32日に迷い込みーー
そしてー、”異様な世界”を体験するー。
しかし、12月32日に迷い込んで消えた人間は
”最初から存在しなかった”ことになるため、
世の中は誰も、毎年12月32日に迷い込んで
消滅している人間がいることに気付かないー。
「ーーーーーーー」
けれどー、
貞治は自分自身が”異世界”に飛ばされてしまったことに
気付いてすらいなかったー。
それもそのはずー。
ここ数年、”12月32日”に飛ばされた人間は
家族や恋人、”誰か”と一緒にいたー。
一緒にいた人間が普通に年越しし、
自分が12月32日に飛ばされた場合、
”自分の周囲にいた人間”が突然消滅するような状態になるため、
その本人は異変に気付くー。
実際、去年の”12月32日”の犠牲者も、
その前の年の”12月32日”の犠牲者も、
一緒にいた人間が”消えた”ために、すぐに異変に気付いたー。
実際には自分だけが”異世界”に飛ばされている状態であるため
”消えた”のは自分であるものの、
とにかく、周囲の異変に気付くことはできていたー。
しかし、貞治は違うー。
誰かと一緒にいるわけでもなく、一人暮らしであるために、
自分が”12月32日”に飛ばされても気づかなかったー
「ーーーーーーー」
年越しの時間を過ぎてもー、
12月32日に飛ばされても、ムキになってゲームを続ける貞治ー。
がー、やがてーー
「よっしゃ!!! ーーえ?」
そう叫んだ貞治は、”異変”に気付いたー。
”12月32日”に飛ばされた人間には
色々な異変が起きるー。
男性が12月32日に飛ばされた場合”女体化”することが多くー、
貞治もまた、女体化していたのだー。
声を出したことで、ようやくそれに気づいた貞治は
嬉しそうに笑みを浮かべるー。
「うぉぉぉぉぉ…な、な、なんだこれー…
お、お、俺が女になってるぞー!?」
すっかり可愛らしい声になった貞治が、
そんな言葉を口にしながら、嬉しそうに鏡を見つめるー。
そこには、元の貞治とは似ても似つかない
美少女の姿があったー。
「って、これー、”緑色のサキュバスと1枚の葉っぱ”のーーー」
そう言葉を口にするー。
どうやら、今プレイしていたHなゲームの
登場キャラクターの一人そっくりな姿に女体化したようだー。
本人の強い願望や欲望がそうさせたのかもしれないー。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!すげええええ!」
狂ったように叫びながら、胸を揉みまくる貞治ー。
自分が女体化したこと以外には
全く気付かずに、胸を揉んで、
髪のニオイを嗅いで、手をペロペロと舐め回し、
欲望の限りを尽くしたー。
やがて、そのままポテトチップスを口に運びながら
ゲームを再開すると、彼はそのまま寝落ちしてしまったー。
美少女な姿には全く似合わない、
とんでもなくだらしない姿で寝ている貞治ー。
やがて、女体化した貞治が目を覚ますと、
貞治は表情を歪めたー。
「あれーーー???
まだ暗いー?」
とー。
”12月32日”は、闇に染まった空に、不気味な赤い月が輝いた状態が
ずっと続いておりー、
外には”人”の気配もないー。
それもそのはず、毎年数名だけが飛ばされてくるこの世界には
”人”がほとんどいないのだー。
「ーーー14時ー???
なのになんでこんなに暗いんだー!?!?」
窓の外がずっと”夜”のような状態であることに
ようやく気付いた女体化した貞治は、
そのままの格好で、外に顔を出すー。
全然サイズの合っていない、
自分が元々着ていたシャツのまま、
美少女姿の貞治が顔を出したためにー、
”誰かが見ていたら”驚いてしまうような光景では
あったもののー、”誰も”周囲には人間がおらず、
女体化した貞治のことを見て、驚く人間はいなかったー。
「ーーー…つ、月が赤いー…?
なんだこれ…?」
ゴクリ、と唾を飲み込む貞治ー。
さらには、車が異形の形に変形していたり、
近くの家の一部も、植物のようなものに包まれている場所が
あったりと、何もかもが”おかしい”ー
そんな状態に見えたー。
「ーーーーー……~~~~~~」
貞治は表情を歪めるー。
がーーーー
彼は、そのまま扉を閉めたー。
「ーま、いいやー。
明日になれば元に戻ってんだろー。
たぶんー、あれだなー。
なんだっけー?
皆既日食ー?」
適当なことを呟く女体化した貞治ー。
皆既日食(かいきにっしょく)という現象は
確かにあるし、
昼間に夜のように真っ暗になることがある現象では
あるものの、
こんなに長時間、ずっと真っ暗であることはあり得ないー。
が、そんなことを知ってか知らずか、
女体化した貞治は、再びゲームを始めると、
Hなゲームのヒロインのセリフを
音読し始めたー。
「ーへへへへへー
何で女になったのか分からないけどー
えへへへへー
すげぇー…自分のボイスで楽しめるぜー」
ニヤニヤとする女体化した貞治ー。
そのまま、嬉しそうに一人でゲームを遊びながら、
”12月32日”と呼ばれる異世界に迷い込んでしまったことも気づかずに、
そのまま12月32日の夜を迎えるー。
”12月32日”とは、この世界のバグー。
毎年、ごくわずかな数の人間が、ちゃんと年越しすることが出来ずに、
この12月32日と呼ばれる世界に迷い込んでしまうー。
だがー、
貞治は知らないー
”この世界”は、バグを自動的に”修正”することをー。
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「ーーーーーー(今年は、ここに来た人間を見かけなかったなー…)」
12月32日の世界に居座り続けている老人が、心の中でそう呟くー。
今年ここに飛ばされてきた貞治は、
12月32日に迷い込んでも、家に引き籠り続けていたため、
この老人と遭遇することはなかったー。
”ま、どこかにはいるんじゃろー。
今日が終われば、元の世界に戻れるから、心配はいらんがなー”
老人はそう呟くー。
彼はー、
”12月32日が終われば、この世界の修正作用によって、
みんな元の世界に戻っている”と、言っていて、
毎年、12月32日に迷い込んだ人の前に現れては、
そう説明していたー。
”元の世界に戻っている”と、老人が確信している理由はふたつー。
毎年、”この世界に飛ばされてきた人間”が、
1日経過するといなくなることー
そして、”元の世界”で、毎年のように誰かが行方不明になっていれば
必ず”神隠し”として、騒ぎになっているはずなのに、
それが起きていないことー、だ。
しかしー、この12月32日の世界に留まり続けている老人は
”誤解”しているー。
確かに、1日経てばこの世界に飛ばされてきた人間は
この世界からいなくなるー。
そして、毎年、この世界にやってくる人間と
色々話をする限りー、
”元の世界”では、大みそかに人が行方不明になった、みたいなニュースは
見たことがないと言うー。
それはつまり”元の世界”で大みそかの日に急に消えた人はいない、
ということだー。
この2つを総合すれば
”12月32日に飛ばされても、次の日には元の世界に戻っている”と、
老人が判断するのは無理もないー。
老人の言う通り、ここは”この世のバグ”であり、
”バグは修正される”という分析もあっているー。
世界には”修正作用”があるのだー。
しかしー…
彼は重大なことを知らないー。
12月32日を終えた人が向かうのはー”無”ー。
そして、毎年年越しのタイミングで
数名の人間が消えているのに、
元の世界で騒ぎになっていないのはー
”12月32日に飛ばされた人間は”バグ”として消滅し、
元々存在しなかったこと”になるからー。
”修正作用”によって、バグの狭間に飛ばされた人間は
”元々いなかったこと”になるのだー。
それを知らない貞治は、
Hなゲームを楽しみながら、”12月32日”を終えたー。
がーー
その瞬間ーーー
「えっーーー…?」
女体化した状態のまま、自分の胸を揉んでいた貞治はー、
突然”何もない空間”に飛ばされて
表情を歪めるー。
「な、なんだこれー…?」
貞治はそう呟きながらも、胸を揉み続けるー。
ここはー
12月32日を終えた人間がたどり着く場所ー。
”バグ”が消去される空間ー
「ーはぁ~~~♡マジで気持ちイイー」
しかし、貞治はそんな空間に飛ばされても、
マイペースに胸を揉みながら、
女体化した自分の身体をただ、ひたすらに楽しんでいたー。
がーーー
”バグ”は、修正されるー。
この世の”バグ”とも言える空間に迷い込んだ貞治の存在は、
”バグ”そのものー。
それが修正されるということは、すなわち、消滅を意味するー。
身体が消滅し始める貞治ー。
昨年、”ここ”に迷い込んだ人間や、
その前に”ここ”に迷い込んだ人間は
当然、自分自身が完全に消滅するその直前、
その異変に気付き、それぞれ悲鳴を上げていたー。
だがー、
貞治は、気付いていなかったー。
女体化した自分の胸を嬉しそうに揉みながら
ゲラゲラと笑う貞治ー。
「ふへへー…気持ちイイー…マジで気持ちイイー」
嬉しそうにそう叫んだ貞治はー
満面の笑みのまま、”消滅”してしまったのだったー…。
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2025年1月1日ー。
この世のほとんどの人は、
いつものように、年越しをし、
新年を迎えていたー。
「そういえば、この家って、誰か住んでるんだったっけー?」
近所のおばさんが、同じ年ぐらいの友達と
歩きながら、ふと、ポツンと建つ一軒家を指差すー。
「ーこの家は随分前から、空き家でしょー。
住んでた板倉さん、子供いなかったから、
奥さんが亡くなってからは誰も住んでないしー」
「ーそっかぁー…そうだったねー」
二人は、そんな会話をしながら
貞治が住んでいた家の前を通り過ぎていくー。
”12月32日”に迷い込んで消滅してしまった人間は
”最初から存在しなかった”ことになるー。
こうして今年も、
”何人かの人間”が年越しできずに異世界に飛ばされ、
そして、”消滅”してしまったことを、
誰も認識することなく、
新しい1年が始まっていくのだったー…。
おわり
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コメント
”12月32日”の3年目でした~!☆!
去年、”来年はあるか分からないデス~”みたいなことを
言いましたが、やっぱりあったのデス…!
……次は………また来年(あるかどうかも含めて)のお楽しみデス~!!
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