”12月32日”
それはー、この世界のバグー。
毎年…”12月31日”から”1月1日”に切り替わるタイミングで
”そこ”に迷い込む人間がいるのだと言うー…。
※12月32日の続編デス!(本編はこちら)
前作を見たことがなくても、大丈夫ですが
興味があれば読んでみて下さいネ~!
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”10…9…8…”
今年も、1年が終わるー。
2023年12月31日大晦日ー。
妻と、子供二人と共に、
”大晦日”のひと時を過ごしていた男・栗沢 克洋(くりさわ かつひろ)ー。
2023年もあと10秒を切り、
息子の圭太(けいた)と、娘の葵(あおい)は、嬉しそうに
その様子を見つめているー。
子供の時は、”年越し”することを何となく特別に思ったものだー。
克洋も、子供の時のことを思い出しながら、二人の子供に
「ー2023年ももう終わっちゃうな~」などと笑いながら
言葉を口にするー
妻の恵美(めぐみ)も、微笑ましくそんな光景を見つめているー。
そんな、家族と共に迎える”年越し”ー
”1…”
がーーー
「ーーー!?!?!?!?」
”2024年”を迎えたその瞬間ー
隣にいた子供たちと妻が、”消えた”ー
「ーーーえ……
恵美? 圭太? 葵?」
妻と子供たちの名前を呼ぶ克洋ー。
だが、返事はないー。
慌てた様子で家の中を探したものの、
三人の姿はなく、克洋は慌ててスマホを手にしたー。
がーー…
スマホに反射した自分の姿を見て、克洋は驚くー
「ーーえ……」
それもそのはずー…
スマホに反射した自分が”女”になっていたからだー。
しかも、まるで女子高生か、女子大生かー、
そのぐらいの年齢に見える”若い”女にー。
「ーーな、な、なんだこれはー…!?」
鏡を見つめる克洋ー。
その声は、明らかに”女”の声になっているー。
しかも、その服装はまるでお姫様が着るような
格好で、克洋はそんな自分を見て
恥ずかしそうに顔を赤らめるー
”い、いったいどうなって…
い、いや、今はそれよりも、みんなはー?”
自分の状況も心配だが、
それよりも急に姿を消した恵美、葵、圭太の三人のことが心配だー。
そう思いながらスマホで妻・恵美に連絡をしようとするー。
しかしー
”この電話は、現在使われておりません”
「ーな…何だと!?」
克洋は、可愛らしい声のまま叫ぶー。
「ーーど、どうなってるんだー…」
そう思いながら、慌ててスマホを操作していると、
やがてー…スマホに”12月32日”と表示されているのに気づいたー
「ーーな…なに…?」
震える克洋ー。
2023年12月32日ー…
スマホには、そう表示されているのだー。
「じ…12月32日って…な、なんだー…?」
そう思いながら、克洋は”何かがおかしい”と思い始めるー。
「ーーゆ…夢ー?」
そう言葉を口にしながら、”自分”の頬をつねくってみるー。
けれどー、痛みはちゃんとあるし、
”夢”とは思えないような感覚に、克洋は困惑の表情を浮かべるー。
「ーーー…こんな変な光景を見るほど、酔っ払ってもないはずだがー…」
冷静になって考えながらも、克洋は”警察に通報するかー…?”と、
首を傾げるー。
家族が消えたー。
そして、自分が急に女になっているー。
…だが、これは事件なのか?
何が起きているのか、さっぱり分からないー。
そう思いながら、克洋が仕方がなく、家の外に飛び出すー。
”お姫様のような格好をしたまま”外に出ることを
とても恥ずかしく思いながらも、
ずっと家の中にいるわけにはいかない、と、
外の様子を確認するー。
だがーーー
「ーーーー!!!!」
女体化した克洋は、空に輝く”月”が、赤く光っていることに気付くー
「な、な、な、なんだこれはー」
呆然とする克洋ー。
そういえば、息子が最近ハマっているゲームで、
月が赤く染まるシーンがあったようなー、
などと、今はどうでもいいことを考えてしまいながらも、克洋は
深呼吸を繰り返すー。
いきなりの意味が分からない現象の連続に、困惑するー。
そしてーー
「ーー…」
周囲を見渡した克洋は、更なる異変に気付くー。
それはー…
”まるで人の気配を感じない”ことだー。
周囲の家の電気は、ついていたり、消えていたりー。
だが、人の気配が一切ないー。
「ーー…な、何が起きているー…
え、エイリアンの侵略でも起きたのかー!?」
そう思いながら、”そういえば”と、
家の少し先に”初日の出を見ることができる地元の人間が知るスポット”があるー。
そこなら、人が集まっているはずー。
そこに向かうには時間がかかるが、人が集まっているのは、
下からでも見えるー。
そう思いつつ、そこが見える場所に向かう克洋ー。
だがーーー…
”いつもなら”初日の出が見えるその場所にも、
人が集まっている様子はなかったー
「ーーだ、誰もいないー?」
女体化した克洋は途端に不安になり、
「だ、誰か!?誰かいませんか!?」と、声を上げるー。
するとーーー
しばらくして、一人の老人が姿を現したー
「ほっほっほー…”今年”も迷い人が来たようじゃなー
もう、そんな時期かー」
老人は笑いながらそう言うと、
「ようこそ、12月32日へー」
と、そう言葉を口にしたー。
戸惑う克洋に、老人は丁寧に今の状況を説明してくれたー。
ここは”12月32日”と呼ばれる”この世界のバグ”とも言える空間で、
毎年、この近辺の地域では、”数名”、12月31日から年越しするタイミングで、
1月1日ではなく、12月32日迷い込んでしまうというのだ。
そして、この老人も、以前、この付近の初日の出スポットに来た際に
この世界に迷い込み、彼は以来、この世界が気に入り、
ずっと”12月32日”に留まっているのだというー。
「ーーそ、それで、元に戻れるんですかー?」
克洋が言うと、
「ー”バグは修正される”
この世界には修正作用があってなー。”12月32日”が終われば
お前さんも、元の世界に戻れるー。
ちゃんと、明日には2024年1月1日になっているはずじゃー」と、
そんな言葉を口にしたー。
老人が言うには、12月32日をこの世界で1日過ごせば、
”バグ”で、ここに迷い込んだ事実が”修正”されて、
克洋は2024年1月1日になった瞬間に戻れるのだと言うー。
「去年の今ごろも、ちょうど彼女と初日の出を見に来ていたとかいう
男子大学生たちに会ったものじゃー。
彼らも、ちゃんと”修正”されて、元の世界に戻って行ったー」
老人のその言葉に、
克洋は「ー、そ、そうですかー」と、安堵の表情を浮かべるー。
「ーそれにしても、可愛い服じゃのぅ…
お前さんの、趣味か?」
老人は笑いながら言うー。
「ち、ち、ち、違いますよ!ここに来た時からこの服でー」
克洋が恥ずかしそうに、女体化した自分と、その服を見つめながら
そう言うと、老人は笑いながら「冗談じゃよー。この世界では色々バグっておるからなー
不思議なことがたくさん起きるんじゃ」と、そう説明してくれたー。
「ーま、明日になれば元通りじゃー。
この不思議な世界で1日、ゆっくりするといいー」
老人のその言葉に、克洋は少し安堵した様子で、そう言葉を口にしたー。
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12月32日の23時50分ー。
克洋は”せっかくだから”と、女体化した自分の身体を
ちょっと楽しんだりしながら、この世界で1日を過ごしたー。
朝の時間になっても明るくならないこの世界は、妙に不気味だったー。
が、あの老人の言う通りなら、あと10分で
元の世界に帰ることが出来るー。
そう考えていた克洋は、ふと、あることを思うー
”でも、あのじいさん、ずっとここに留まってるならー…
”元に戻ったあと”の人がどうなってるかなんて、
直接見てないってことだよなー?”
そんな不安を感じた克洋は、立ち上がると、
「じいさん!じいさん!いたら返事をして下さい!」と、
そう叫ぶー。
「ーーーじいさん!」
克洋が今一度そう叫ぶと、
「なんじゃー?そんなに無理して可愛い声を出すと、
喉を傷めるぞ?」
と、老人が姿を現したー。
「ーーーあ、よかったー」
赤い月が輝く中ー、
克洋は安堵の表情を浮かべると、
「じいさんは、ずっとこの世界にいるって言ってましたよね?」
と、そう言葉を口にするー。
「あぁ、わしはこの異様な世界に興味を持ってなー
ずっとここで研究を続けておるー
お前さんも、わしみたいに”ここに居座る”って強く思えば、
ここにいられるかもしれんぞー」
老人の言葉に、克洋は「いえ、それは結構ですー」と言うと、
疑問を口にしたー。
”どうして、12月32日を終えた人が、元の世界に戻れたと確信できるんですか?”
とー。
「ーはは、去年来た若者も、同じようなことを言ってたなー。
でも、大丈夫じゃ。
お前さん、”近所で人が行方不明になった”なんてニュースを
元の世界で見たことがあるかいー?」
老人の言葉に、克洋は「いえー」と、首を横に振るー。
”時々12月32日”に迷い込む人が現れるあの近辺に住む克洋ー。
だが、人が行方不明になったというニュースは見たことがないー。
「この世界に一度迷い込んだら、元に戻れないならー
今頃、この辺りは”行方不明者が続出するエリア”として
大騒ぎになってるはずじゃぞ?
じゃがー、ここに来る者はみな、そんなニュースは見たことも
聞いたこともないと言うー。
それが、みんな元の世界に戻れている証拠じゃー。
世界には”修正作用”があるー。
バグが修正され、正されるー」
老人のその言葉には、妙に説得力があるように、克洋はそう感じたー。
”バグは修正される”
12月32日が間もなく終わるー。
克洋は「ー色々、ありがとうございましたー」と、頭を下げると、
「ー家族の元に、帰ります。おじいさんもお元気でー」と、
そう言葉を口にしたー。
「あぁ、達者でなー」
老人は笑みを浮かべるー。
12月32日が終わったー。
がー、老人は強い意思でここに留まり、
この”12月32日”の研究を続けて居るー。
がーーー…
彼も知らないー。
元の世界で”12月32日”に迷い込んで消えた人間が
騒がれていない本当の理由をー。
それはーー
”元の世界に戻れているから”ではないということをー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「え…」
12月32日を終えた克洋は、”何もない空間”にいたー。
「ーーえ……も、元の世界に戻れるはずじゃー…?
な、なんだここはー!?」
何もない”無”の世界ー。
克洋は、慌てて手に持ったスマホを確認するー。
しかし、そこにはーーー
”9.999999999999999999999999月9999999999999999日”
「な…なんだこれはー
お、おいっ! じ、じいさんー!?
じいさん!?いますか!?!?」
克洋が必死に叫ぶー。
だがーーー
克洋の身体が光の雫になって消えていくー
「うっ…うぁ!?な、なんだこれー
お、おいっ!
や、やめろっ! おいっ!」
世界のバグは、修正されるー。
世界にとってのバグは”アップデート”され、消滅するー。
バグはデバッグにより、消去されるー
「やめろ…!うあああああ!」
顔以外が全て消滅した状態の克洋は思うー。
恵美ー、葵ー、圭太ー
家族の顔を浮かべながら、ついに砕け散るようにして消滅しー、
スマホが落下するー…
無の空間を落下していたスマホも消滅しー、
やがて、”世界のバグ”は修正されたー…。
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2024年1月1日ー
”あけまして、おめでとうございます~!”
テレビから、そんな声が響き渡るー。
母・恵美と、息子の圭太、娘の葵も、
そんな光景を見つめながら
圭太が「2024年~!」と、おもちゃを振りながら喜んでいるー。
その家に”克洋”は存在しないー。
恵美は、二人の子供を見つめながら思うー。
”シングルマザーは大変だけど、
今年も、二人のために頑張らなくちゃー”
とー。
父親はーー…
どうしていないのだっただろうかー。
恵美はそんなことを一瞬考えるも、
すぐに違和感も失いー、
”とにかく、頑張らなくちゃ!”と微笑むー。
家の隅っこには、ちょうど1週間前にスマホで撮影して
プリントアウトしたクリスマスの時の写真が飾られているー。
家族”三人”で嬉しそうに映る写真ー。
”不自然”に開いているスペースー。
けれどー、母親と、子供二人の間に”不自然なスペース”がある理由に
気付く人間はいないー。
本当はそこにー”大事な人”がいたことに
気付く人間はもういないー。
12月32日に迷い込んでしまった”バグ”は修正されるー。
最初から、存在などしなかったかのようにー、
世界は修正作用により、正されるー。
だからー…
消えた人間のことを認識できる人間はいないー。
だからこそー…
”誰も騒がず”ニュースにもならないー。
今年もまた、一人が消えたー。
来年もまた、人知れず、誰かが消えるのかもしれないー。
おわり
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コメント
昨年に続き、まさかの”12月32日”の復活でした~!☆
来年は…もうないかもしれませんし、
あるかもしれませんネ~笑
今年も私はしっかり年越しします~!☆
皆様も、ちゃんと年越ししましょうネ~!
お読み下さりありがとうございました~!
コメント