<憑依>ある日、突然憑依薬が届いた③~逃亡~(完)

ある日、誤送されてきた憑依薬を
欲望に負けて使ってしまった男子大学生ー。

そして彼は、そのまま憑依の魅力に魅入られていくー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー……へへへ…せっかく憑依薬を手に入れたのに、
 それを手放したりするもんかー」

勝美がニヤニヤしながらそう呟くー。

「ー大体、機密事項として開発していた薬を
 俺なんかに送るほうが悪いんだー」

勝美はそう呟くと、そのままもう一度、家の外の様子を
部屋の中から伺うー。

”よし、あいつはいないなー”

未来技術研究センターの男の突然の訪問にさっきは
驚いたものの、何も問題はないー。
何故なら、自分には”憑依薬”による、憑依の力があるー。

これを使えばー、何も怖いことはないー。

「ーーーどうせ素直に返したって、 
 ”憑依薬”なんて存在を知った俺がどうなるか分からないしー」

自分を正当化しようと、何度も何度も
未来技術研究センターの悪口を繰り返す久義ー。

”あいつらが悪いんだ”と、
そう何度も何度も自分に言い聞かせながら、
勝美は、”さて…と、シャワー入ろうと思ったけど”と、
心の中で呟いてから、計画を変更して、すぐに
勝美の身体を開放することに決めるー。

「ーーあんまのんびりしてると、またあいつらが
 来るかもしれないからなー」

憑依した時に勝美が着ていた服を身に着けると、
「ーーは~~…やっぱ生足ってすげぇな」と、ニヤニヤしながら
デニムパンツから覗く生足を何度も何度も撫でると、
「って、そろそろ行かないと」と、玄関から外に飛び出したー。

一応、周囲を警戒するー。
未来技術研究センターの人間がまだ見張っている可能性も、
もちろんそうだが、
同じアパートに住む近所の住人に勝美の姿を見られると
色々と面倒だー。

近所の住人に目撃されれば、
当然”一人暮らしの男子大学生の家から女子大生が出て来た”という
光景を目撃することになるー。

もちろん、彼女だと言い張れば良いが、
解放した後の勝美本人が万が一、この近くを通ったりして
近所の人間が”森野くんの彼女さん?”なんて声を掛けてしまったら
最悪、勝美に憑依したことが発覚することにもつながりかねない。

それは、避けなくてはならない。

「ーーーーよし」
誰もいないことを確認し、足早にアパートから
立ち去る勝美ー。

だがー
アパートの物陰から”未来技術研究センター”の男が
そんな様子を見つめていたー

”帰ったフリ”をして、”本当に久義が留守なのか”を
確認していたのだー。

「ーーー解放するなら、人目のつかない場所だな」
勝美はそう呟きながら”公園の女子トイレでいいか”と、
近くの、比較的綺麗な公園の女子トイレに駆け込もうとするー。

昨日、親友の貞治の彼女・真美子に憑依した際には
癖で普通に男子トイレに入ってしまったが
流石に今日はもうそんなことー

「ーすみませんー」
人通りの少ない道路に入ったところで、
背後から男に声を掛けられたー

一瞬ー、
勝美は”あぁ、この身体だと可愛すぎて声かけられちゃうのか”などと
ゾクゾクしながら振り返ったもののー
すぐにー

勝美は表情を歪めたー。

背後から声を掛けて来たのは、
さっき久義の家に来た
”未来技術研究センター”のスーツ姿の男だったからだー

「ーー森野久義さん、でよろしいですか?」
男がそう呟くー

「ーーえ…?え?
 え???
 な、な、何を言ってるんですかー?
 どこからどう見ても、わたし、女ですけど?」

少し怒りっぽい口調で、あくまでも
”自分は久義の彼女の勝美だ”と主張する勝美ー。

「ーーえぇ、そうですね。
 ”身体”は女性ですねー」

スーツ姿の男はそう呟くー。
さっきはモニター越しだったため
”未来技術研究センター”しか読めなかったが
改めて社員証を確認すると、
”黒岩”とそこには書かれていたー

つまり、この男が、久義に憑依薬を誤送した黒岩だー。

恐らくは会社から酷く叱責されて
慌てて回収しようとしているのだろうー。

「ーーーか、身体は女性ーって…
 し、失礼ですよ!わたしの中身が男だって言うの!?」

勝美が声を荒げるー

「ーえぇ。森野久義さんー。違いますか?」
黒岩がそう言い放つー

「”くそっーこいつ…俺が憑依薬を使ったことを確信してるー?”」

そう呟くと同時に、黒岩が欠けている眼鏡が一瞬、
光ったのを確認したー

「ーーまさかー」
勝美は表情を歪めるー

「ーえぇー森野さんー。
 この眼鏡で、”憑依してる人間”のことを見ることができるのですよー。
 嘘は無用ですー。

 その女性の身体を開放して、
 憑依薬を返しなさいー

 今ならまだ間に合いますー。
 我々も何もなかったことにしましょうー」

その言葉に、勝美はムッとしたー。

「ま、まるで、俺が悪いような言い方ですね!?
 間違って送ったのは、あんたらでしょう!?」

勝美が叫ぶー。

「ーーーーーー」
黒岩は「返す言葉もありません」と首を横に振るー

「ーーですから、こうして回収しに来たのですし、
 我々が、いえ、特に私が悪いと思っているからこそ、
 憑依薬を悪用したことも、不問にすると言っているのです」

黒岩がそう呟くー。

確かにー
真美子や勝美に憑依したこと、
勝手に使ったことを不問にしてくれるのであれば、
久義にとって、悪い話ではないし、
ここで、素直に返却に応じれば良かったのかもしれないー。

しかし、久義は何故かここで、意地を張ってしまったー。

「ーーふ…ふざけんな!送り間違えたお前らが悪いんだ!」
勝美がそう叫ぶー

黒岩は「やれやれー仕方ありませんねー。」と、
苦笑いするー。

「ーお、おい寄るな!近寄るな!叫ぶぞ!
 きゃ~~!って叫ぶぞ!」

勝美が後ずさりしながら言うと、
黒岩は「センターに”強制的に憑依状態から分離させる”装置もあります。
一緒に来ていただきましょうー」と、笑みを浮かべるー。

その言葉に、勝美はー
いや、勝美に憑依している久義は”センターでそのまま処分される”と、
命の危険すら感じたー

そして、咄嗟にー

「ーーぅ」
勝美がその場に倒れ込むー

「ー!?」
黒岩が驚くと同時にー、黒岩の身体がビクンと震えたー

「ーーえへへへ…何だよー
 偉そうに出て来た割に、憑依に対する対策はしてねーのかよ」
突然、黒岩がニヤニヤと笑みを浮かべー
倒れたままの勝美を見つめるー。

そしてーーー
黒岩の身体を乗っ取ったままー
久義は、とんでもない行動に出たー。

通りを引き返しー
大通りに出るとー
信号を無視して、笑いながら車の方に向かっていきー

”今だー”

車に激突する瞬間に黒岩の身体から飛び出したー

激しい音が眼下から響き渡るー

黒岩の身体が吹き飛ばされてー
無残な姿になるー

「うっー」
気分が悪くなり、目を逸らす久義ー

「はぁ…はぁ…はぁ…お前らが悪いんだー」
久義は、”憑依”でジャマな黒岩を始末してー、
霊体のまま、飛び去って行ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーへへへへへ…」
ポテトチップスを口に運びながら
幼馴染のツンデレ大学生・大滝羽須美に憑依した久義は、
笑みを浮かべるー。

”自分の姿”に戻って、
久義としてアパートに戻れば、
未来技術研究センターの人間がまたやってくるかもしれないー。

そう判断した久義は、
憑依薬を手に入れた時に”憑依したい候補”として
挙げた三人のうちの一人、幼馴染の羽須美に憑依して
ニュースを見つめていたー。

ニュースでは黒岩の死亡事故のニュースが報じられているー

”自殺”であるとー

「はははははっ!自殺だってさ!」
羽須美は愉快そうに笑うと、ポテトチップスの袋を捨てて
笑みを浮かべるー

「ーでもまぁ、こうなっちまうと、自分の身体で過ごすのは
 難しそうだし、誰かの身体を奪って、
 生きるとするかぁー

 ー大滝さんには、それまで身体を貸してもらうよー」

そんなことを呟くと、羽須美の部屋の鏡を見つめて
ふとドキッとするー

そういえば、大学で再会してから、ツンデレみたいになってしまってて
羽須美とはロクに話すこともできてなかったー。

そう、思いながら鏡に映る羽須美に向かってー

「ーー久義くん…実はわたし、ずっと久義くんのことがー」
と、甘い声で呟くー。

「ーーずっと、大好きだったのー♡」
心底大好きだった、と言わんばかりの声を出して
興奮する羽須美ー

「えへっ…えへへへっ!えへへへへへへっ♡」
羽須美の姿で、下品な笑みを浮かべると、
「俺も…俺も好きだったよぉ~♡」と、
羽須美の声で叫んで鏡に無我夢中でキスを
繰り返したー

唾液が鏡に垂れるのを見て、
それにも興奮しながら、
羽須美が興奮していると、
玄関を乱暴にノックする音が聞こえたー。

「ーー!?」
羽須美が表情を歪めるー

”まさか、また未来技術研究センターの奴らかー?”

「ーー………」
ゴクリ、と唾を飲み込んでから、
羽須美が来客をモニターで確認するー

バイト先の先輩だった勝美の場合、
久義の家で、勝美のまま電話に出てしまったからこそ、
疑われたのだと思うが、
羽須美の場合は、そのような失態は冒していないー。

羽須美に憑依してからは、
一度も自分の家に行っていないし、
久義に繋がるようなことはしていないー。

だが、奴らは”謎の眼鏡”を持っているー。

もしも奴らに、羽須美の姿を見られてしまったら、
羽須美に憑依していることにも、気づかれてしまうだろうー。

「ーーー…はい」
インターホンに応答する羽須美ー

するとー

”未来技術研究センターの森野と申します”

「森野ー」
羽須美は表情を歪めるー。
久義の名字も、森野ー。

確か、研究センターの黒岩は、
”同じ苗字”相手に試験中の憑依薬を送ろうとしていたー。

黒岩が死んだ今ー、
森野の方が、憑依薬を取り戻しに来たのだろうかー。

「ーみ、み、みらいぎじゅつ…
 う~ん…どちら様ですかぁ?」
羽須美は引きつった笑顔を浮かべながらそう応答するー。

「見え透いた芝居はおやめなさいー。
 あなたは、取り返しのつかないことをした」
冷たい声で、森野を名乗る男が呟くー。

「ーーー……は…ははっ…ははははっ!
 何のことだか、分からないですねぇ

 お帰り下さい」

羽須美は苛立ったような口調でそう言うと、
インターホンを切ったー。

だが、森野を名乗る男は諦めずに、
再び玄関の扉を叩いたー。

”あなたは取り返しのつかないことをしましたー
 黒岩に憑依して、彼を殺したのも分かっていますー
 それに、既に何人もの人間にそうして憑依して、
 我が物にしていますねー”

森野が言うー。

「ーう…う…うるせぇ!お前らが悪いんだろうが!」
羽須美の喉が痛みそうなほどに怒鳴り声を上げるー

”これが最後の警告ですー。
 どうしても、憑依薬を返すつもりもー
 身体を返すつもりも、ありませんか?”

森野が脅すような口調で呟いたー。

「(くそっ…うるせぇ奴だな!お前も黒岩とかいうやつと同じようにー)」

羽須美に憑依している久義が、そんな風に思っているとー
突然、周囲が暗くなり、不気味な”黒っぽい場所”に、
久義が飛ばされたー

「えっ!?」
驚く久義ー。

羽須美の身体ではなく、久義の身体に戻っているー

そしてー
奥から足音が聞こえて、久義が驚いてそちらを見るとー
スーツ姿の眼鏡をかけた男ー・森野がやってきたー。

「ーこ、ここはー」
久義が震えながら呟くと、森野が言うー。

「あなたが憑依している大滝という女子大生に
 私も上から憑依しましたー。」

「ーーえっ?」
久義が驚くー。

森野は、二人以上憑依すると、
身体の主導権の奪い合いが始まり、憑依した意識が
このような精神世界にやってきてしまうー、と、説明したー

「ここは、大滝羽須美の中の精神世界ですー」

「ーーーえ……え」

久義が、羽須美の身体から慌てて抜け出そうとするー。

「ー既に憑依されている人間に、憑依すればー
 こうして、”中にいるあなた”に直接会うことができるー」

森野はそれだけ言うと、
突然、銃のようなものを向けて来たー

「ーえっ、ちょっとまっーーー」

久義がそう叫ぶと同時に、エネルギー弾のようなものが
放たれてー
久義の身体に直撃したー

久義の身体が、煙のようになって消えていくー

「あっ…あっ…えっ…? あっ…たすけー…」
情けない表情を浮かべながら叫ぶ久義ー

森野は眼鏡をいじりながら呟いたー

「憑依薬を開発する我々がー
 あなたのような悪い使い方をする人間を消す方法を
 考えていない、とでもー?」

森野は笑いながら言うー。

「ーあーー…あ…や、やめて…ひ…人殺し!」
久義が叫ぶと、
森野は笑ったー。

「ーー霊体を消しても、人殺しにはなりませんよー」

その言葉を最後に、
久義は、悲痛な叫び声をあげてー
この世から、消滅してしまったー

「ーーーーーー」
羽須美の身体から抜け出した森野は、
意識を失ったままの羽須美を確認して、
”じきに意識を取り戻すでしょう”と、呟くと、
”今後は、憑依薬の誤送などということが
 二度と起きないようにしなくてはなー”
と、心の中で静かに呟き、その場を後にしたー

おわり

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コメント

憑依薬の欲望に負けて
身を滅ぼしてしまうお話でした~!

憑依薬はちゃんと、正規の方法で入手しましょうネ~笑

お読み下さりありがとうございました~!

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