<憑依>ある日、突然憑依薬が届いた①~誤送~

一人暮らしの男子大学生は、
ある日、自宅に届いた身に覚えのない郵便物を見て、
表情を歪めるー。

しかも、その中身は
”秘密裏に研究されている憑依薬”だったー…!

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「ーーははは もっと彼女を大切にしろよ~?」

男子大学生の森野 久義(もりの ひさよし)は、
笑いながら親友の大室 貞治(おおむろ さだはる)に
対してそう言い放ったー

「えへへへへ~来年は忘れないって」
親友の貞治には真美子(まみこ)という彼女がいて、
とても穏やかで大人しい性格の子だー。

その、真美子の誕生日を、忘れてしまった貞治は、
今日、こうして友人である久義にそのことを口にしていたのだったー。

幸い、真美子は「全然大丈夫」と、笑ってくれていたー、と
貞治は言っていたが、
久義は”そんなこと言ってると、いつか彼女に振られるぞ”と、貞治に忠告したー。

久義は、同性の友達と一緒にいる方が落ち着くタイプで
あることからか、今まで異性に対して縁はなかったものの、
貞治を始め、友達自体はそこそこの人数いるタイプの男子大学生でー
何故か”恋愛経験がないのに、よく恋愛相談をされる”ことも多く、
久義自身も”俺に聞くかぁ!?”と、よく笑っているー。

「ーーーまぁ…愛想尽かされないように、気を付けないとなー」
貞治が真剣な表情になって、そう呟くー。

貞治とは、高校時代からの付き合いだが、
昔から、がさつでいい加減な一面があるー。
優しいし、いいやつだとは思うが、
こういう”いい加減な部分”で、真美子に振られる可能性は十分にあるー。

「そうそう。まぁ、振られたときはまた
 彼女なし仲間として迎えてやるよ」

久義がそんな冗談を笑いながら口にすると、
「ーへへへ~お断りだね~!」と、貞治は笑いながら冗談を返したー。

「ーーっと、そろそろ俺は帰るかなー
 洗濯物、取り込まないとだし」

久義がそう呟きながら、
スマホで雨雲の位置を確認するー。

確か今日は、夕方以降、雨が降る予報が出ていたはずだー。
これ以上、油を売っていると、
朝、干してきた洗濯物が濡れてしまうー

「ーおう。アドバイス、ありがとな」
貞治が呟くー。

「ーアドバイスったってー、
 経験者でもないし、大したこと言えてねぇけどなー」

笑いながら久義がそう言うと、
そのまま二人は手をあげて別れの挨拶を済ませー、
久義は洗濯物を取り込むために、家に向かって歩き始めたー。

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日が沈みー
夜になるー。

幸い、雨はまだ降っておらず、
家の到着した久義は、宅配ボックスから
小さなダンボールと、いらないチラシを何枚か
回収すると、そのまま家の中に入るー。

彼は大学入学時に一人暮らしを始めて
今年が2年目ー。

最初は初めての一人暮らしに色々と
戸惑ったものの、
1年以上が経過した今では、
当然”一人暮らし”にも、すっかりと慣れている状態だー。

「ーーふぅ。危なかったなー」
ベランダに干していた洗濯物の回収を終えると、
ほぼ同時に降り出した雨を見つめながら、
久義はそう呟くー

雨はすぐにそこそこの強さで降り注ぎ、
ギリギリ間に合ったことに安堵の溜息をつくー。

洗濯物を畳みながら、
”あ、そういえば何か郵便物あったな”と思いながら
久義は帰宅した際に宅配ボックスから
取り出したいくつかの郵便物に視線を送ったー。

ほとんどが、久義にとって全く用のない
チラシだったが、一つだけ小さなダンボールが
入っていたー。

”未来技術研究センター・転移研究技術部門主任・黒岩”

差出人名は、そう書かれていたー。

「ーーーー……知らないなぁ」
久義は”怪しいな”と思いながらも、
自分の名義で届いていることを今一度宛先から確認し、
少しの間考えるー。

「別に着払いで届いているわけでもないしー……」

色々なことを考えるー。
”送りつけ商法”とか言われる詐欺か何かも確かあったはずだー。

だがー
開けて身に覚えのないものだったら
そのまま使わなければ、確か法律上は問題なかったはずだし、
大学関係のものかもしれないー、

と、思いながら久義は深呼吸して、
そのダンボールを開封したー。

すると、そこにはー

”例の新薬が完成しましたー
 サンプルをお送りいたしますー
 確認、よろしくお願いいたします”

と、そう書かれた紙が入っていてー
もう一つー、小さな容器に入った謎の液体が
封入されていたー。

「ーーっっ…」
久義は咄嗟に身の危険を感じたー

毒物が入っているダンボールを開けてしまったのではないか、と
思ったからだー。

しかしー…
久義の体調に異変はなく、久義は緊張した様子で、
もう一度ダンボールの中身を覗き込んだー。

謎の液体入りの容器には、
一緒に説明書のようなものがくくりつけられていて、
そこに色々な文字が書かれているー

その文字に目を通すとー

「ーひょうい…やく…?」
久義は、思わず表情を歪めたー。

憑依薬ー。

効能、と記された部分には
”自らの身体を霊体に変換し、他人に憑依、
 その身体を支配できる”
と、あるー。

さらにはー
”憑依後の離脱も治験により確認済み。
 他人に憑依したあとも、自分の身体を再度霊体から
 人間の状態に戻すことも可能”
と書かれていて、
その後に色々な説明が記述されているー。

”憑依されている間の被憑依者は、憑依されている間の記憶は残らない”
”被憑依者の、憑依されたあとの健康状態には異常なし”
”憑依の最中に死亡した場合、被憑依者は死亡、憑依者側への影響は現在確認中”

そんな数々の説明書きを見つめながら、
「なんだよ…これ…」と、
久義は震えたー。

”憑依薬はあくまでも医療用を想定として開発中ですー。
 社会の混乱を防ぐため、本薬品の存在は
 機密事項となっておりますので、
 よろしくお願いいたしますー”

「ーーー…これって」
久義は、”送り間違えたのか?”と、表情を歪めるー。

”未来技術研究センター”なんて聞いたことがないし、
知り合いもいないー。
未来技術研究センターへの就職を目指して就活しているなら
ともかく、そんなこともしていないー。

そう思って、
中身をよく見てみると、
”未来技術研究センター総合技術フェロー・森野様”と書かれた
納品書のような紙も封入されていたー

「ーーバカだこいつーーー!!!!」
久義は思わず叫んでしまったー

未来技術研究センターの黒岩という男は、
恐らく”森野間違え”をしたのだー。

「ーー確かに俺は森野だけどー…」
久義のフルネームは、森野久義ー。

この未来技術研究センターの総合技術フェローという役職にいる人物も
”森野”と言うらしいー。

そのため、間違えたと思われるが、
どうしてこのような間違えをしたのだろうかー。

「ーーっていうか…最悪だな…」
久義は呟くー。

恐らくはこれは”最高機密”クラスの新薬だろうー。
”他人に憑依できる薬”なんて聞いたことがないし、
確かに、そんなものが本当に開発中であるなど、驚きでしかないー。

”一般人には絶対に教えてはいけない”
そんな、情報に見えるー。

それを知ってしまったということはー

「ー…俺、消されたりしないよな?」
久義は「あぁ、くそ、面倒臭い!」と今一度叫ぶと、
中身を何度も確認するも、
”未来技術研究センター”の連絡先はどこにも書かれておらず、
ネット上には、情報はあったものの、
やはり連絡先は存在していなかったー。

「ーーーー…」
久義は”まぁ、そのうち間違いに気付いて連絡してくるだろ”と、
思いながら洗濯物を畳む作業を再び再開する。

「ーーーー」
「ーーーーーー」

だがー

「ーー…え…憑依?」
ふと、”入っていた薬”について
冷静になって考え直してみると、
恐ろしいことが書かれていた気がして、
再びその説明書に目をやるー。

”他人の身体を自由に操ることができるー”

「ーーーマ…マジかー…」
身体が震えるー。

もしー
もしも、これを使えばー

「ーーー……いやいやいやいやいや」
”女子の身体”も自由に使うことができるー。
そんなことを一瞬考えてしまったー

「そんなこと、絶対だめだ!」
理性で自分の欲望を抑える久義ー。

久義は気が気ではない状態で、
眠れない夜を過ごしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー」

翌朝ー。
久義は、どうしても憑依薬のことが気になってしまうー

本来であれば、間違って届いたこの謎の薬は
持ち主に返却するべきだー。
持ち主の住所も、連絡先も曖昧で分からない以上、
相手からの連絡を待つしかなかったが、
差出人の黒岩という人か、受取人の森野という人が
気付けば、調べて連絡はしてくるはずだー。

だから、久義は何もせずに連絡を待つ。
それが、正しい行動だとは、自分でも思うー

「ーいや…でもー…」
久義は、”他人に憑依できる”という現実に
ドキドキしてしまうー。

もしかしたら違う意味かもしれないし、
本当に憑依できるなんて、思っていないー。

でも、それでもー…

「ーーー」
憑依薬の容器を見つめる久義ー。

これを飲めば、自分は霊体になって、誰にでも憑依することができるー

「そ、そんな馬鹿なー」
久義はそう言いながら首を振って大学に行く準備をしようとするー。

しかし、やっぱりそれが気になってしまうー。

「ーーーー…」
「ーーーー…」

久義は、小声で呟くー

「お、お、俺は治験に協力するんだー」
自分に言い聞かせるようにー

これは、”勝手に薬を飲む”んじゃなくて、
あくまでも”自主的に治験に協力するんだ”と、
自分で自分を美化させながら、ついにー
久義は憑依薬を飲んでしまったー。

そしてー
飲んだ直後に意識が飛びー、
気付いた時には、霊体になっていたー

「ーーうっ…えっ!?マジか!?やべぇ」
霊体になった自分ー。
身体はその場に残るのではなく、
身体自体が透明になって、そのまま霊体になる感じのようだー。

「へぇ…この状態になってる間、自分の身体の心配を
 する必要もないってことだな」

満足そうに笑みを浮かべると、
久義の行動は早かったー。

欲望に負けるまでの時間は長かったが、
一度欲望に負けてしまうと、
後はブレーキの壊れてしまった暴走特急のようなー、
そんな状態になってしまったー

”憑依を試す相手”は既に決まっているー。

”いたいたー”
自分の霊体で空中を浮遊しながら、
久義は笑みを浮かべるー。

最初に憑依を試す相手はー
親友の貞治ー

ーーーーの、彼女の真美子だー。

眼鏡がトレードマークの穏やかな真美子ー。
そんな真美子を見つめながら
久義は、目の前をわざとふわふわしてみるー

しかし、真美子は一切反応を示さないー。

「ーやっぱ、見えてないんだなぁ」
久義はそんなことを呟きながら、
真美子に声を掛けてみるが、反応はないー。

完全に、真美子にはその姿が見えていないし、
声も聞こえていない状態ー

”本当に、憑依なんてできるのかー?”
そんな疑問を抱きながら、久義は深呼吸をしてからー
ひと思いに真美子の身体に飛び込んだー

「ひぅっ!?」
真美子がビクンと震えるー。

そしてー

身体の感覚が戻ってくるー。
霊体の感覚とは違う、生身の肉体の感覚ー

「うっぉ…すげぇ…」
両手を見つめながら
自分の胴体を見下ろして、胸が上から見えるのを確認するー。

「ーふぉぉぉぉ…」
口から出るのは真美子の声ー。

髪の感触も感じながら、
本当に自分が憑依できた、ということを実感すると、
久義に憑依された真美子は
「やったぜ!!!!!!!!」と、嬉しそうに、
突然大声で叫びー、
周囲を歩いていた学生たちを驚かせたー。

②へ続く

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コメント

今日は憑依薬を使うまでが中心になってしまいました~!☆
明日以降は、憑依で色々と…☆!

お読み下さりありがとうございました!~
今日も変わらず暑いので、気を付けて下さいネ~!

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