”仕事の時だけ入れ替わる”
アンドロイド・マサルの提案した、
”由奈とマサルが入れ替わる日々”は
続いていたー。
そして、その果てに待っていたのはー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ー由奈ちゃん、今日も可愛いねぇー」
イヤらしい手つきで由奈(マサル)のことを触る
塚沢部長ー。
流石”ハラスメント王子”の異名を持つ部長だー。
「ーーーあ、そうだ、今度はアレやっといてー。
あ、タイムカードは切っといたから」
セクハラをかました直後にパワハラー。
ハラスメント王子の神髄を、由奈(マサル)は
見せつけられると、”これも由奈さんのため”と、
心の中で念じながら「はい」と笑顔を浮かべるー。
由奈に好意を抱かれていると思い込んでいる田所さんが、
「由奈ちゃん、大丈夫かい?」などと声を掛けて来て、
やたらと由奈に近付いてくるー。
下心が、丸見え…
いや、もはやこのおじさんは、由奈と付き合っているぐらいに
思い込んでいるのかもしれないー。
「ーお疲れ様~! お・さ・き・に」
サービス残業を頼まれた由奈(マサル)をあざ笑うかのように
”若いからって調子に乗らないで”おばさんが
嫌味っぽくそう言い残して、会社から立ち去っていくー。
「ーー”人間は、愚かだー”」
由奈(マサル)は静かにそう呟くー。
由奈とは思えないような、鋭い目つきで、
塚沢部長のほうを睨みつけるー
「ーーえ?」
隣にいた田所が困惑した様子で、由奈(マサル)のほうを見ると、
由奈(マサル)は「あ、いえ、何でもないですよ~」と、
笑顔を浮かべたー。
来る日もー
来る日もー
嫌味に、仕事の押し付けにー、パワハラにー、
サービス残業にー
人間の嫌な一面を、由奈(マサル)は嫌と言うほど知ったー
もちろん、
”由奈さんのため”なら、このぐらいは大丈夫だー。
だがー
”由奈さんを守る”ということを何よりも大事にしている
由奈(マサル)からしてみれば、
由奈を傷つける”こいつら”は、”障害”でしかなかったー
由奈の人生に対する障害だー。
「ーー大丈夫?」
夜ー
険しい表情を浮かべていた由奈(マサル)に対して、
マサル(由奈)は不安そうに聞いたー。
「ーそろそろ…もう、やめる?」
マサル(由奈)の言葉に、
由奈(マサル)は「えっ」と、顔を上げるー。
「ーーううんー…
マサル、ホントに辛そうに見えるし、
もう、わたしも十分休んだからー
明日からはわたしがー」
「ーーダメです!!!!!!!!!」
由奈(マサル)は、突然マサル(由奈)の言葉を
大声で遮って立ち上がったー。
「ーーえ」
少し戸惑うマサル(由奈)ー。
「由奈さんを、あんなに醜いところに行かせるわけにはいきませんー。
あそこには、由奈さんを傷つける愚かな人間ばかりしかいませんー。
あそこに行けば、由奈さんは傷ついてしまうー。
そんなこと、俺は由奈さんにさせられませんー」
由奈(マサル)は由奈の顔を赤くしながら
怒ったような口調で、早口でそう言い放ったー
「ーマ、マサル…」
マサル(由奈)は不安そうにそう呟くと、
由奈(マサル)は「ー由奈さんのためですからー」と、
ようやくいつものような笑みを浮かべると、
少し深呼吸してから、
「ーーあそこには、由奈さんの味方はいませんー。
由奈さんは、俺が守りますー」
と、言い放ったー
「ーーうん…ありがとうー
でも、マサルが無理をしすぎて壊れでもしちゃったら、
その方が、わたし、悲しいし、困っちゃうからね?」
マサル(由奈)が言うと、
由奈(マサル)は「ー大丈夫ですよ。俺はアンドロイドですからー」
と、微笑むー
「ーー違うでしょ!入れ替わっている間はわたしの身体なんだから、
マサルはアンドロイドじゃなくて、人間なの!
わたしの身体、壊しちゃいやだからね?」
マサル(由奈)にそう指摘されてー
「ーははは…そうですねー。気を付けます」と、少し恥ずかしそうに
由奈(マサル)は呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その翌日ー。
由奈(マサル)は、いつものように仕事を終えて
職場から帰ろうとしていたー。
今日も残業をさせられたものの、
仕事もそれほどなかったからか、
いつもに比べればマシな時間だったー
「お疲れ様でした」
由奈(マサル)が、そう言いながら職場から
立ち去ろうとすると、
塚沢部長が口を開いたー
「そうだー由奈ちゃんー」
塚沢部長に呼び止められた由奈(マサル)が
立ち止まって振り返ると、
塚沢部長が立ち上がって、
由奈(マサル)に近付いてきたー
「実は今日、俺、誕生日なんだよね」
とー。
「ーーは…はぁ…」
由奈(マサル)は”だから何が言いたいんだ?”と思いながら
塚沢部長のほうを見つめると、
塚沢部長は突然、由奈(マサル)にキスをしたー
慌てて振り払う由奈(マサル)ー
「ーな、な、何をするんですか!?」
由奈(マサル)が叫ぶと、塚沢部長は笑みを浮かべたー
「どうせ親父が俺を助けてくれるしー」
塚沢部長の父親は、この会社の幹部ー。
だからこそ、”ハラスメント王子”の異名を持つほどに
問題になっていても、塚沢部長は部長の座に居座ることが
出来ているー。
由奈(マサル)に向かって、不気味な笑みを浮かべながら
ゆらゆらと近づいてくる塚沢部長ー。
”こいつは、由奈さんを傷つけようとする敵ー”
”こいつは、由奈さんを傷つけようとする敵ー”
”こいつは、由奈さんを 由奈さんをー”
「ーえへへへへへへ」
塚沢部長の下品な笑みを見た
由奈(マサル)はーーー
「人間は、愚かだ!!!!!!!!!!」
と、突然、怒りを爆発させたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マサル(由奈)が時計を見つめるー。
「ーマサル、遅いなぁ…」
心配そうに”電気を食べながら”アンドロイドのマサルの”充電”を
終えるー。
その時だったー。
玄関の扉が開いて、由奈(マサル)が帰宅するー。
「ーー少し遅くなりました」
由奈(マサル)がそれだけ言うと、
マサル(由奈)は、いつものように少しだけ微笑んでから
「おかえりなさいー」と、言葉を口にするー。
だがーー
マサル(由奈)は次の瞬間、目を見開いたー。
由奈(マサル)の左手に”血痕のようなもの”が
付着していたのだー。
「ーマサル!?」
マサル(由奈)が驚いた様子で声を上げるー。
しかし、由奈(マサル)は「すぐに綺麗にしますから」と、
洗面所の方に向かっていこうとするー
「え…な、なにがあったの…?その血ー」
マサル(由奈)がなおも食い下がるー
「ー由奈さんを、守るためです」
由奈(マサル)はそれだけ言うと、そのまま手を洗い始めるー。
”由奈(マサル)の手に血がついていたー”
しかも、そこそこの量の血ー。
そんな光景に動揺したマサル(由奈)は
動揺することしかできなかったー。
そして、その日の夜ー。
元に戻ったあとに、自分の部屋でスマホを
確認していた由奈は、表情を歪めたー。
”A社部長 自殺”
スマホでそんなニュースを見つめながら、
由奈は震えるー。
その、自殺した部長というのはー
由奈の上司ー
”ハラスメント王子”の異名を持つ”塚沢部長”だったからだー。
由奈の脳裏にー
さっきー、”血のついた手”で帰宅した
由奈(マサル)の姿が浮かぶー
「ー俺、由奈さんのこと、絶対に守りますからー
”愚かな人間”たちからー」
少し前に、”人間は愚か”だと言い放っていた
マサルの姿が脳裏に浮かぶー。
「マサル……もしかしてー…」
由奈は震えたー。
まさか、マサル、”わたしの身体で”ーーー
強い不安を感じながらも、由奈はマサルに確認することも
できないまま、そのまま一晩中、震えが止まらず、
眠れない夜を過ごすことになってしまったー。
翌日ー。
今日は休日であることもあり、
二人は入れ替わることなく、
1日を過ごしているー。
マサルは、いつものように穏やかな表情を浮かべながら
家事を続けているー。
本当は”そういう用途のアンドロイド”だから、
全ての家事を任せてもいいものの、
由奈はなんだか悪い気がして、いつもマサルのことを
手伝っているー。
「ーははは…大丈夫ですよ、由奈さんー。
俺はこういうために作られた存在なんですからー」
「ーでも、手伝ったっていいでしょ?」
「ーーはは…ありがとうございます」
そんな会話を繰り広げながらー
しばらく沈黙した後に
由奈は意を決して、マサルに”確認”したー。
「ーーーねぇ、マサルー昨日…」
そんな由奈の言葉に、マサルは由奈のほうをじっと見つめ返してきたー。
「ーーー昨日?あぁ、はいー。
由奈さんを怖がらせるようなことして、申し訳ありません」
「ーーいえ…その………塚沢部長はー…」
由奈がそこまで言うと、マサルは食器を洗っていた手を止めて、
由奈のほうを見たー。
「昨日、スマホでニュースになってたからー。
塚沢部長が”自殺”したってー…
それをー」
「ーーーーー」
マサルは沈黙するー。
「ー人間は、愚かです」
しばらくして、マサルは静かに口を開いたー。
「由奈さんの会社に由奈さんの身体で会社に行って、
俺、毎日毎日、人間は愚かだって思うようになったんですー」
マサルの言葉に、由奈は「マサルー…」と
表情を歪めるー
平和を守るために作られたAIが、やがて、
平和を守るためには”人類の排除”という答えにたどり着き暴走するー
そんな話を、由奈は昔、見たことがあったー。
だがー
まさか、マサルがー
「ーーー……ま、まさかマサルー」
由奈が震えながら言うと、
マサルは、由奈のほうをじっと見つめるー。
由奈は、言葉を振り絞るようにして、呟いたー。
「ーわ、わたし…自首するねー」
とー。
マサルが、由奈の身体で塚沢部長を殺してしまったー。
だったら、その罪を償わないといけないー
「ーーじ、自首!?由奈さん!?ちょっと待ってください!」
突然、マサルが由奈の手を力強く掴んだー
「いたっ!」
由奈が悲鳴を上げると、すぐにマサルは謝罪して、
「ー由奈さんは何か勘違いしてます」
と、慌てて言葉を付け加えたー。
「ーーえ」
由奈がマサルのほうを見つめると、
マサルは、「怖がらせないために、黙ってましたけど、逆効果でしたー」
と、頭を下げると、
”昨日”の出来事を伝えたー。
終業後、ハラスメント部長こと塚沢に襲われそうになった由奈(マサル)ー
思わず怒りから「人間は愚かだ!!!!!!!!!」と叫んだその直後ー
塚沢部長は逆上、由奈(マサル)に乱暴な行為をしようとしてきたー。
しかし、偶然、そこに夜間警備の警備員がやってきて、
塚沢部長の”行為”が発覚ー
さらには会社の別部署に残っていた塚沢部長の父である
会社幹部も駆け付けー
塚沢部長の父は、呆れた様子で言いはなったー
”バカ息子がー”
とー。
言い逃れのできない女子社員への乱暴の現場を目撃された息子を、
塚沢部長の父親は斬り捨てたー。
その場で震えながら、
「父さん!」と何度も叫んでいた塚沢部長の無様な姿ー。
由奈(マサル)も、警備員も、塚沢部長の父親も、
そんな彼の姿を哀れみの目で見つめていたー。
だがー
その時だったー
突然立ち上がった塚沢部長が、オフィスにあった鈍器で、
オフィスのガラスをたたき割りー、
”飛び降り”を図ったのだー。
塚沢部長の一番近くにいた
由奈(マサル)はそれを止めようとしたー。
”血痕”は、ガラスを割った際に塚沢部長が傷を負いー、
その血が、由奈(マサル)の手に付着したものー。
結局ー
塚沢部長は、由奈(マサル)を振り払いー
そのままオフィスから転落、死亡したー。
「ーーーー…そんな生々しい話を、由奈さんに
してもいいものかと思いー、
黙っていましたー」
部長の自殺は由奈の耳にもいずれ入ることは
分かっていながらも、目の前で自殺された、なんて話は、
しない方がいいと思い、マサルは黙っていたのだと説明したー
「ーですから、俺は部長を殺したりはしていません。
由奈さんは、自首する必要なんて、ありません」
マサルの言葉に、由奈は安心した様子で
深くため息をついたー
「ーーわ、わたし…マサルが、人間は愚かなんて
言いだしてたからてっきりー」
と、不安そうに、そう呟いたー。
「ーーーははは、確かにそれは言いましたけどー…
でも、愚かだからこそ、ちゃんと俺たちのような
存在が導いてあげないといけないですしー
俺はとにかく、由奈さんを守るためにここにいるんですから、
由奈さんを犯罪者にするようなことを、するわけがないでしょう?」
マサルの言葉に、由奈は「そっか、そうだよね」と、
笑みを浮かべるー。
マサルは「誤解が解けて何よりですー」と、言うと、
再び食器の片づけを始めるー
「ー俺のせいで、不安にさせて、すみませんでした」
マサルの言葉に、由奈は「ううんー。わたしこそ疑ってごめんねー」と、
申し訳なさそうに、けれども誤解が晴れて嬉しそうに、
そう、言葉を伝えたー。
「ーマサルー、いつもありがとうー
これからも、よろしくねー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜ー
”でも、愚かだからこそ、ちゃんと俺たちのような
存在が導いてあげないといけないですし”
そうー
人間は、愚かー
「ーー由奈さんが悲しまないように、
俺たちのような”完璧な存在”が
人間を導いてあげないといけないなー」
マサルは、寝静まった由奈を見つめながら
そんな言葉を口にしてー
「由奈さんは、俺が守るー」
と、不穏な笑みを浮かべたー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
人間とアンドロイドの入れ替わりでした~!☆
私の中では初挑戦(だったはずデス…)なので、
とっても新鮮な気持ちで執筆できました~!☆
最後は暴走フラグが…★笑
お読み下さりありがとうございました~!
コメント
今回は残念でした。人同士でないと面白くないですよ。
人同士の入れ替わりだから興奮したり、ハアハアてなるんだけど、アンドロイドは所詮人工物。読んでも興奮しない。例えばSiriやAlexaに恋する人はいないですよね?。百歩譲って動物までですね。
コメントありがとうございます~!
今回はご期待にお応えできずごめんなさい!
ただ、好みは皆様それぞれ異なりますので、
こういったお話が苦手・嫌い・興味のない方も、
逆に好きな方や、たまには読みたいという方も
(実際に両方のご意見を頂いたことがあります)
いるので、
これからも好みに合わない作品も、逆に合う作品も
出てくると思いますが、
好みに合わなかった時は、今回はダメだな…ぐらいに思って、また次の作品を
楽しみにしていて下さい~!