アンドロイドのマサルはー
由奈に対して”仕事の時だけ入れ替わって由奈さんの辛い仕事を俺が引き受けます”
と、提案してきたー。
”仕事”の時だけマサルが由奈になるー。
そんな、生活が始まってー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
由奈(マサル)は職場にやってくると、
由奈から聞いた通りの仕事をこなし始めるー。
「ーおはようございます」
「ーこちらの作業は終えておきました」
「こちらもわたしがやっておきます」
いつもより少し無感情ー
だけど、優秀な由奈(マサル)の振る舞いに、
周囲の社員たちは、驚くー。
もちろん、由奈も仕事は一生懸命やっているし、
客観的に見て仕事ぶりは良いほうではあるー。
しかし、マサルは”人間を支えるために作られた”
アンドロイドだー。
由奈本人よりも、優れた仕事ぶりで、
そんな由奈(マサル)を見た同僚たちは
驚きの表情を浮かべていたー。
「ー由奈ちゃんーすごいじゃん」
”ハラスメント王子”の異名を持つ塚沢部長が、
そんな風に声を上げるー。
由奈(マサル)は「ありがとうございます」とだけ言いながら
さらに次の作業に取り掛かるー。
”由奈さんのためにー
由奈さんのためにー
由奈さんのためにー”
由奈(マサル)はそんなことを考えながら、
辛い仕事も、徹底的にこなしたー
自分が頑張ることによって、結果的に由奈を助けることに繋がるし、
自分が由奈の代わりにこうしてお金を稼げば、
由奈は楽をすることだってできるー
”由奈さんを支えたいー”
マサルの人工知能は、そんな風に考え、
必死に由奈のために役立とうとしていたー。
「ーそうやって、あの先輩の気を引こうとしたって無駄よ」
由奈に対して、いつも”男に媚を売っている”と嫌味を
言ってくる女性社員が今日も嫌味を言ってくるー。
「ーいい気にならないでー」
”若いからって調子に乗るな”おばさんがいつものように
嫌味の言葉を口にするー。
「ー今日の由奈ちゃん、一段と頑張ってるねー」
”由奈に恋愛感情を抱かれている”と勝手に勘違いしている
40代独身の田所さんは、今日も勘違いしたまま、
ニヤニヤと笑みを浮かべるー。
だが、それでも由奈(マサル)は、
由奈のために、と必死に働き続けたー
(由奈さんは、いつもこんなに辛い仕事をしているのかー)
作業中に、雑用も頼まれて
休憩中にも、雑用を頼まれてー
頼まれた雑用を始めたばかりなのに、塚沢部長からまた別の仕事を
頼まれるー
(由奈さんをこんなひどい目に遭わせてー)
由奈(マサル)はそう思いながらも、
”とにかく、由奈さんのために、頑張らないとな”と、
心の中で静かに呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーあ~~~~~…」
一方、マサルの身体になった由奈は、
”アンドロイドの身体”に戸惑いを感じていたー。
”全然疲れないー”
マサル(由奈)はそんな風に思うー。
マサルの身体は”電力”さえ補給を続けていれば、
全然疲れることがないのだー。
「すごいなぁ…」
”疲れた”と感じてきたときは
充電の残量が減ってきたときー。
だが、電気を補充すれば”あっという間に”電力を補充することができるー。
電気は、コンセントから直接補充することもできるものの、
”見た目”に配慮してか、特殊な容器に充電、
ペットボトルのような見た目のそれを口に咥えて
補充する形式を取っているー。
「ーーーは~~~…なんとも言えない」
マサルの身体で電気の補充を行った由奈は
それだけ呟くと、試しにご飯を食べてみるー。
だがー”ご飯”の味は、由奈が普段食べている味と大分違って
”かなり薄味”に感じられたー
一応、ご主人様でもある”人間”と一緒に
食事をとることができるようにと、
アンドロイドにもある程度の味覚が設定されてはいる。
しかし、それでも人間とはかなり異なる味の感じ方で
マサルが普段、あまり積極的にはごはんを食べようとしない
理由が、マサルの身体になってみて、初めてよく分かったー。
「ーーー”マサルも食べなよ~”って言うのは、迷惑だったかなー」
マサル(由奈)はそう思うと、家事を続けるー。
「毎日、マサルも大変だなぁ…」
いつも、マサルがしてくれている家事を
全て自分でこなしていくー。
やっぱり、”マサルのように”完璧な状態で
家を維持しておく、ということは
難しいものなのだと、
”自分で”すべてをやってみて、改めて実感するー。
「ーそういえば、トイレ行きたくならないのも、便利だよねー」
食事を取っても、マサルたちアンドロイドは、
”身体の中でそれを分解”し、ほとんど排出を必要としていないー。
電気だけの場合は全く必要ないし、
食事をとった場合でも、ほとんど必要ないー。
「ーーー便利だけど…ちょっと、寂しい感じもするかもー」
そんな風にマサル(由奈)が呟いているとー
由奈の身体で初日を終えたマサルが、ようやく帰宅したー。
「ーーマサル!お帰りなさい!」
マサル(由奈)が言うと、由奈(マサル)は
「ただいま帰りましたー」と、いつものような
穏やかな笑みを浮かべたー。
「ーはい。いつも由奈さんが買っている晩御飯ですー」
わざわざ、コンビニで食料まで買ってきてくれた由奈(マサル)ー
由奈(マサル)は「早速、元に戻りましょう」と、
入れ替わりのためのプログラムを起動すると、
それを起動しー、すぐにマサルと由奈は、元の身体に戻ったー
「ーーじゃあ、着替えはこちらにー
すぐにお片付けをしておきますのでー」
マサルの言葉に、由奈は心配そうにマサルのほうを見つめたー
”仕事だけを押し付けて帰宅後の晩御飯すら、自分が独占するー”
そんな状況に、由奈は”申し訳ない”気持ちで
いっぱいになっていたー。
「ー大丈夫ですよー
俺は、由奈さんが幸せなら、それで十分ですからー」
マサルは笑顔で言うと、
由奈の仕事の後片付けを始めたー。
由奈は「ごめんね」と、言いながらも、
マサルがコンビニで買ってきてくれた
”晩御飯”を口の中に運び始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日も、その翌日もー
マサルは、出勤前になると由奈と入れ替わり、
由奈として職場に向かい、
由奈は、マサルとして1日を過ごしたー。
「ーーー………本当に、これでいいのかなー」
マサル(由奈)は自宅でそんな風に呟くー。
確かに、マサルは
”人間をサポートするために生まれたアンドロイド”だー。
そして、それを購入したのが、由奈ー。
完全に、アンドロイドはアンドロイドだと割り切って
利用しているユーザーも、当然世の中には多い。
しかしながら、一人暮らしの由奈は、
マサルのことを、単なる”お手伝いの家電”ではなく、
”一緒に生活するパートナー”として考えていたー
そういう人も当然いるし、
由奈の考えは別に珍しいものではないー。
だからこそー。
”自分の辛い部分”だけを全て肩代わりしてくれるマサルに対して
申し訳ないという気持ちと、
”わたしはこのままでいいのかな…?”という不安が
強く、強く、心の中で湧き上がりつつあったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー何なのあんた!いい気になって!」
先輩の女性社員が、
”仕事のできる由奈”に嫉妬して、
嫌がらせのようなことをしてくるー
”人間は、愚かだー”
由奈(マサル)はそんな風に思い始めていたー。
”愚かな人間たちから、由奈さんを守らないとー。
俺が守らないで、誰が由奈さんを守るんだー”
由奈を守るためー。
由奈(マサル)は、職場でも全く”辛い”とは
感じなかったー。
全ては由奈のためー。
”由奈さんが笑ってくれれば、俺も由奈さんのために
頑張ることができるー”
だがー
「ーーー!」
由奈(マサル)の髪を、先輩の女性社員が引っ張りながら
「調子に乗らないで」と、怒りの形相で呟いたー
「ーーー!」
”由奈さんを傷つけるやつは、許さないー!”
由奈(マサル)はそう思うと同時に、
その先輩女性の腕を掴み、強い力で
その腕をねじっていたー
「いたっ…いたっ!ちょっと!何するの!?いたっ!」
その先輩に対して、殺意すら抱きながら
由奈(マサル)は、冷たい無感情な目で、その先輩を見つめると、
ぎこちない笑みを浮かべながら「ーー次、やったらただじゃおかないですからね」
と、先輩を脅すような口調で呟いたー
突然の由奈の反撃に驚いた陰険な先輩女性は沈黙するー。
ハラスメント王子の塚沢部長ー
由奈に好意を抱かれていると思い込んでいる40代独身の田所さんー
さっきの陰険な先輩女性ー
”若いからって調子に乗らないで”おばさんー
「ーーーー…俺は由奈さんを守る」
「ーーーー…俺は由奈さんを守る」
「ーーーー…俺は由奈さんを守るー」
女子トイレで、由奈(マサル)は鏡を見つめながら
静かに、何度も何度もそう呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーおかえり~!今日もお疲れ様…!
いつもありがとう!」
マサル(由奈)がそう言うと、
由奈(マサル)は笑顔で、「由奈さんのためですから」と答えるー。
いつものように”晩御飯”も購入してきて、
それをマサル(由奈)に手渡すと
”早速ー”と、いつものように身体を元通りにしようとするー
「ーわ!待って!タイム!」
だがー
マサル(由奈)は、いつものようにすぐに元の身体に戻ろうとせずに、
「ちょっと待って」と、言葉を続けたー。
「ー由奈さん…?」
由奈(マサル)が不思議そうに首を傾げるー。
マサル(由奈)は気づいていたー。
言葉にはしないものの、由奈(マサル)は、日に日に”疲れて”
いることをー
”俺はアンドロイドだから、大丈夫ですよ”と、いつも言っていたものの、
”人間の身体”でマサルは仕事に行っているのだー。
マサルの身体を体験した今だからこそわかるー
”マサルの身体”では確かに疲れというものをほとんど感じないし、
ストレスのようなものも、あまり感じない気がするー。
ストレスの方は、”単に自分が仕事に行っていないから”かもしれないがー
マサルの身体でいるうちは、本当に
”肉体的な疲れ”は、全くと言っていいほど、感じなくなったー。
それはつまりー
”由奈の身体で仕事に行っているマサル”は、
それなりに疲れを感じているはずなのだー。
「ーーー…ごはん、食べて」
マサル(由奈)が言うと、
由奈(マサル)は「えっ?」と不思議そうな顔をするー
「今日は、マサルがわたしの身体でご飯食べてー?
たまには、仕事が終わった後の楽しいことも、
体験しなくちゃ
それにー”人間の身体”でご飯食べると美味しいから!
ほら!」
マサル(由奈)がそこまで言うと、
由奈(マサル)は、少しだけ微笑むと
「ありがとうございますー」と、
嬉しそうに食事を食べ始めたー
美味しそうに買ってきた弁当と由奈の好きなスイーツを食べる
由奈(マサル)ー
「ーーどう?」
マサル(由奈)が笑いながら言うと、
由奈(マサル)は、心底嬉しそうに
「ーーとても美味しいですー」と、答えたー。
アンドロイドと人間では、味の感じ方がまるで違うー。
「由奈さんの食べるご飯は、いつもこんなに美味しかったんですねー」
由奈(マサル)が言うと、
マサル(由奈)は「これからは、半分ずつごはん食べよ!」と、
笑いながら提案したー。
「ーーー俺の主が、由奈さんで本当によかったですー」
由奈(マサル)は、心底嬉しそうにそう呟くー。
そして、改めて決意したー
”由奈さんのことは、俺が絶対に守るー”
とー。
「ー俺、由奈さんのこと、絶対に守りますからー
”愚かな人間”たちからー」
由奈(マサル)は、マサル(由奈)に向かって
微笑みながらそう呟いたー
「ーーえ…?」
食事が終わりー
由奈とマサルは元の身体に戻るー
だがー
マサルが”愚かな人間”と言い放った時の光景がー
由奈の頭の中に、しばらく焼き付いて、離れなかったー
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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次回が最終回デス~!
不穏な気配が漂っていますが、果たして…?
また明日を楽しみにしていてくださいネ~!
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