<入れ替わり>人の心と、鉄の心①~彼の提案~

”人型のアンドロイド”が当たり前のように存在する世界ー。

その世界で、辛い日常を送るOLが、
アンドロイドからある提案をされるー。

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OLの葉鳥 由奈(はとり ゆな)は、
今日も疲れ果てた様子で
家への道を歩いていたー

社会人になってから2年ー。

既に、由奈の頭の中は
”学生時代に戻りたい”でいっぱいだったー。

コンビニで高校生を見かけたりすると、
”いいなぁ~”という気持ちが
心の底から湧き上がってくるー。

もちろんー
大学時代にも、高校時代にも嫌なことはあったし、
その前も、同じことだー。

しかし、社会人になってからは
”学生時代がどんなに楽で、楽しい時間だったのか”を
由奈は嫌と言うほど思い知らされたー

学生と、社会人では違うー。
”働く”ということの大変さ、過酷さを思い知り、
”人間の労働システム、間違ってるよー”
などと、ため息をついたー。

職場の上司・塚沢(つかざわ)は、
”ハラスメント王子”なんて言われているどうしようもない奴だし、
塚沢部長の親が会社の専務であるために、
パワハラだろうと、セクハラだろうと、何でも
やりたい放題の状況になってしまっているー。

塚沢部長以外にも
”男に媚びを売ってチヤホヤされて、いい身分ね?”だとか、
”若いからって調子に乗らないで頂戴!”だとか
嫌味ばかり言ってくる50代独身のおばさん社員にも
連日嫌味を言われたり、
勝手に由奈から”恋愛感情を抱かれている”と勘違いしている
田所(たどころ)さんという40代のおじさんもいるー。

正直、もう疲れたー。

「あ~~あ…子供の頃はキラキラとした世界に見えたんだけどなぁ…」
由奈はため息をつきながら、コンビニで一つだけパスタを手に取り、
デザートにと、コンビニスイーツを見つめるも
「ーはぁ~」と、ため息をついて、
パスタだけを購入して、そのままコンビニの外に出るー。

安月給ー。

”給料が低すぎるー”

この世界はー
何でもお金だー。

健康保険に、年金に、住民税に、家賃に、電気代に、水道代にー

由奈は頭を抱えるー

お金が圧倒的に足りないー
何なら、1000億円欲しいー!

使いきれない、という意見もあるけど、
由奈には使い切る自信があったー。

今日も”サービス残業”をさせられて、
夜遅くになって帰宅した由奈ー。

「ーーお帰りなさいー」
そんな由奈の家にはー
イケメンの男子がいたー。

絵に描いたような、
女性向け恋愛アドベンチャーにでもいそうな男だー。

「ーーあぁ~マサル~…疲れたよぉ~」
甘えるような声を出して、由奈はその男・マサルに抱き着くと、
マサルは「お疲れ様」と、優しく由奈の頭を撫でたー。

彼はー
”彼氏”ではないー。
”お兄ちゃん”でもないー。
ましてや、”夫”でもないー

彼は、人間そっくりの”家庭用ロボット”ー

”アンドロイド”と呼ばれる存在だったー。

2120年ー。
この世界では、”家庭用アンドロイド”が普及していたー。

21世紀ごろから特に顕著になった”おひとり様”の増加ー。
2050年を過ぎたあたりから、
それによる問題が、社会的に増え始めたー。

孤独により、精神を病んでしまう人間の増加ー
孤独により、失うモノがない状態で犯罪を起こす人間の増加ー
一人暮らしの人間が急病により倒れて、そのまま孤独死する案件の増加ー。

そんな”孤独”が社会問題となり、
また、未婚率の上昇などにより、”疑似的なパートナー”を求める声も
確実に世間には広がりつつあったー。

そんな中ー
2085年に開発されたのが”家庭用アンドロイド”だったー。

人間そっくりの”ロボット”で、
超性能のAIが搭載され、
まるで”本当の人間”のように振る舞うことができるー。

もちろん、最初は色々な部分で”課題”も生じたー。

だが、2090年頃までに必要な法改正が行われて、
反対する人間も多い状況の中、
”これからは家庭用アンドロイドが必要だ”と、
正式に発売が決定ー
現在、技術の向上により”一般人”でも手の届く価格で
家庭用アンドロイドを購入できるようになっていたー。

”マサル”も、その家庭用アンドロイドで、
由奈の家にやってきた”ロボット”だー。

「ーそれにしても~~~
 マサルって本当の人間みたいだよね?」

由奈が笑いながら言うと、マサルは
「まぁーそうですね」と、笑いながら頷くー

容姿や性格は色々なタイプが用意されており、
購入時には、ある程度の性格も設定することができるー

一度”起動”してからは、AIが自律的に考えて行動し、
性格も、周囲の環境によって変わっていくことはあるものの、
概ね、”購入者”の理想的な存在となってくれるー。

また、人付き合いが苦手な人は
”絶対服従のアンドロイド”に設定することもできるなど、
色々なニーズに答えているー

”未婚率の上昇、深刻ー”

そんなネットニュースを見つめながら由奈は
「確かに、マサルがいれば、彼氏欲しいとは思わないしなぁ…」と、
苦笑いするー。

”孤独”を防ぐために普及した”家庭用アンドロイド”だったが
現在は別の問題に直面していたー

それが、”男女ともに、未婚率が爆増”したことだったー。

家庭用アンドロイドがいれば、恋人なんて必要ないー。
男女ともに、そんな人間が行政側の”予測”とは真逆に、
爆増してしまったのだったー

だがー
そんなことは、由奈には関係のないことだし、
由奈自身も気にしていなかったー

「ねぇねぇ、聞いてよ 今日も…」
由奈は、マサルに対して仕事の愚痴を呟き始めるー。

帰宅した由奈は、着替える前にまず、
マサルに仕事の愚痴を話すのが日課になっていたー。

マサルは由奈の話にしっかりと耳を傾けながら、
時折頷き、しっかりと話を聞いてくれているー。

「ーーははは…それは辛いですね…」
マサルの言葉に、由奈は「でしょ~?」と、言うと、
マサルは「本当に、お疲れ様」と、由奈の頭を
優しく撫でたー。

幸せそうにする由奈ー。

由奈はようやくため息をつくと、
「あ、晩御飯食べなくちゃ…!いつもごめんね」と、
苦笑いするとー
「ーーいえいえ、俺のエネルギー源は電気ですからー」と、
照れくさそうに笑ったー。

アンドロイドは”電気”で動くー。
この時代の技術により、電気代は微々たるもので、
そんなにかからないし、
彼らは”人間ではない”ため、
”食べること”は必要としていないー。

中には”一緒にご飯も食べたい”という理由で、
食事をするように設定されている
家庭用アンドロイドもいるものの、
由奈の家のマサルは、食事はとらないタイプでー、
”食事”の代わりに”電気”を補充しているー。

パスタを電子レンジで温め始める由奈の後ろ姿を見つめながら
マサルは「由奈ー…」と静かに呟いたー

毎日、”由奈の愚痴”を聞かされていたマサルには、
”ある感情”が芽生え始めていたー

”由奈を助けてあげたい”という感情だー。

「ーーーー」
だがー
そんな思いが日に日に強くなりー
”アンドロイド”の自我が、”人間とは異なる方向”に
進み始めていたー。

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翌日ー

「ーー今日もお疲れさまでした」
マサルがそう言うと、
由奈に対して「掃除と、お風呂の用意は終わってますからー」と
優しい笑顔で報告する。

「ーうん。いつもありがとうー」
由奈はそれだけ言うと、
「ーねぇ~マサル、聞いてよ~!」と、いつものように”愚痴”を
口にし始めたー

「ーーーーー」
そんな由奈を見て、マサルは意を決して、言葉を呟いたー

「ーー由奈さんー…
 お話があります」
とー。

「ーえ…?なになに?」
由奈は少し驚いた様子でマサルのほうを見るー

「ー由奈さんの仕事ー、俺が変わることはできませんか?」

「ーーーえ?どういうこと?」
由奈は困惑しながらマサルのほうを見つめると、
マサルが、手にしたアンドロイド専用の端末に、何か画面を表示させたー

そこにはー
”意識転送プログラム”と書かれているー。

由奈を救いたい一心で、マサルのAIが、必死になって作り上げたー
”人間とアンドロイドの精神を入れ替えるための”プログラムだー。

「ーーー俺が、由奈さんになって、由奈さんの代わりに
 仕事をしてー、家に帰ってきたら、由奈さんと交代するー

 そうすれば、由奈さんにこんなつらい思いをさせなくて済みますー」

マサルの言葉に、由奈は「マサル…」と、少し
驚いた様子で呟くー。

マサルはすぐに
「あ、いえー、俺と身体を取り換えるなんて、
 いきなり言われても不安だと思いますし、
 ”急にこいつ逃げたらどうしよう”って、思いますよねー」
と、苦笑いするー。

「ーーもちろん、俺は由奈さんのためのアンドロイドですからー、
 由奈さんが嫌だ、と言うなら強制はしませんし、
 全然それでも大丈ーーー」

「ーーいいよ。…マサル、ありがとうー」
由奈は、マサルの言葉を遮って、マサルの手を掴むー。

”アンドロイド”と言えど、
もはや外からは”ほとんど人間”としか分からないようになっているー

当然、区別がつかないと問題が生じるため、
”アンドロイドと分かるギアのようなもの”が
ついてはいるものの、それ以外は、人間とほとんど変わらないー。

「ー……由奈さんー」
マサルは静かに頷くと、
”入れ替わり”についてマサルは説明を始めるー

”入れ替わるのは、由奈が仕事に行くときのみ”
”その代わり、普段マサルが留守の間にやっている家事は由奈がすることになること”
”帰ってきたらすぐに由奈と身体を元通りにすること”
”由奈が望むなら、仕事に行くときも、由奈が行くこともできること”
”由奈としての振る舞いには自信はあるけど、多少、違うところもでてしまうこと”
”由奈の身体で、トイレに行ったりすることは、必要なために許してほしいこと”

など、良い部分も、悪い部分も含めてすべてを説明したー。

「ーーーわかったー。でも、大丈夫なの?」
由奈が不安そうに呟くー

「ーー由奈さんの身体の健康状態に影響はありませんし、
 由奈さんは全く心配はいらなー」

「ーそうじゃなくて…わたしの職場、辛いと思うよ…?
 そんなところだけマサルに押し付けちゃって…」

由奈がそう呟くと、マサルはにっこりと笑ったー

「ー由奈さんのために全力を尽くすー。
 それが、俺の使命ですからー。
 俺は全然辛くないですし、由奈さんが喜んでくれるなら、それでー」

マサルの言葉に、由奈は微笑みながら
「本当にありがとうー」と、
アンドロイドのマサルを静かに抱きしめたー。

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翌日ー

「ーこれが…人間の身体ー」
由奈になったマサルは、少し驚いた様子で由奈の身体を動かすー

マサルになった由奈は
「見た目は同じでも、大分感覚は違うんだね」と、微笑むー。

「ーー由奈さんー…俺の身体の過ごし方の注意点は、
 ここにまとめておきましたー」

と、由奈になったマサルが、紙を手渡すー。
マサルが、昨夜のうちに”入れ替わったあとの由奈のために”と、
準備をしておいたものだー。

「ーーうん。ありがとう。」
マサル(由奈)が言うと、
由奈(マサル)は、昨日の夜のうちに聞かされた”由奈として大事なこと”を
いくつか再度確認するー

「ーー…俺、由奈さんのために頑張りますからー」
由奈(マサル)の言葉に、
マサル(由奈)は、静かに頷いたー

こうしてー
”仕事の時”だけ、入れ替わって由奈の代わりに、マサルが由奈の身体で
仕事をするー

そんな、日々が始まったのだったー。

②へ続く

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コメント

私がほとんど書いたことがない(ほぼ初めてだったような…?)
人間とアンドロイドの入れ替わりデス~!

どのようなお話になっていくのか、ぜひ楽しみにしていてくださいネ~!

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