”お姉ちゃんの仇”を見つけた少女は、
いつものように”自分の身体”を貸して、
その男と対峙するー。
そして、その先に待っていたのはー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー」
一人の男子高校生がため息をつくー。
彼は、自ら命を絶とうとしていたー。
原因は、”いじめ”ー。
「ーーーーーー」
”あの悪魔”の顔が浮かぶー。
けれどー
もうー
疲れてしまったー。
このまま生きていても、楽しいことなんて、何もないー。
彼はそう思いながら、
夜の学校で、一人、自らの人生に幕を引いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
”ねぇ、さっきのー”
ラバースーツ姿で夜の街を移動する冬美ー。
死神が冬美に憑依しているのは、
別に、欲望を楽しむためではないー。
この服装も単純に、夜の闇に紛れるためだけー。
「ーーーあん?」
冬美が移動しながら呟くー。
今、冬美は死神に憑依された状態でー
”お姉ちゃんの仇”である、
猿芝居殺人男の元へと向かっているー。
精神鑑定をも欺きー、
男は、冬美の姉を殺しておきながら
心神喪失状態としてロクな罪に問われなかったのだー。
”わたしの同級生が自殺するかもしれないって話ー”
冬美の意識が、冬美の身体を支配している死神に話しかけるー。
「ーーあぁ…それかー…」
冬美の身体で死神は呟くとー
「言っておくけど…止めることはできないぜ」と、呟いたー。
「ーー”死神”が人の命を救うことはできないんでなー」
とー。
「ー俺たちにできるのは”死”を与えることだけー。
”救う”ことはできないー」
冬美の身体でそう呟くとー
ちょうどタクシーから降りてきた”お姉ちゃんの仇”の姿が見えたー。
「へへへー」
酒を飲んでいるのか、ご機嫌そうに夜の街を歩く男ー
”ーーお姉ちゃん…”
冬美の意識が激しい怒りを燃え上がらせるー
「ー落ち着けよー。いつものように”淡々”と処理するぞ」
冬美の身体で死神がそう呟くー。
そしてー
裏路地にその男が入ったタイミングでー
冬美は”死神の魔力”で手をブレード状に変形させてー
物陰から飛び出し、男を突き刺したー
「ーーぐっ…おぉ…?」
何が起きたのかも分からないまま、
冬美の姉を殺した男は、苦しんで路上を転がりまわるー。
冬美はブレードに変形した手で、髪を少しだけかき分けると、
その男を冷たい目で見つめたー。
”ねぇ…そいつだけは絶対許せない…!わたしに代わって”
冬美が怒りを込めた声で呟くー。
目の前で引き裂かれた姉の姿が目に浮かぶー。
当時ー
小学生だった冬美ー
けれど、高校生になった今でも、あの日の光景は
一度たりとも、忘れたことはないー。
「ーーーダメだ」
死神が冬美の声で呟くー。
「ーそれじゃ、ただの殺人だろ?」
死神は言うー。
”人間が、人間を殺しちゃいけないー。”
とー。
”でも、あなたはー!”
冬美の意識が叫ぶと、
死神は冬美の身体で答えたー
「ー俺は死神ー。
死神が、人間共が法律で裁かない…いや、裁けない悪党に
裁きを与えているだけー。
お前は、その死神に身体を乗っ取られて、勝手に”やらされている”だけー。」
冬美の口でそう呟くと、そのまま冬美の姉の仇の男に
向かって歩いていくー。
”ーー…あなたー…もしかしてー”
冬美の意識は呟くー。
冬美のことを死神なりに気遣っているのだろうかー。
「ーその代わりー…」
冬美は呟くー。
「ーお前の怒りは、お前の身体を通じて、俺もよく分かってるー。
ちゃんとあいつを”裁く”
だからーお前は自分で自分の手を汚すんじゃねぇ。」
それだけ言うと、冬美は、再び手をブレード状に変形させて、
逃げようとしていた男を突き刺したー
悲鳴を上げる男ー
だが、その声は”死神の魔力”で裏路地の外には
響かないようにされていたー。
倒れ込んだ男の胸倉を掴む冬美ー
冬美は、「助けて…」と呟く男をー
”笑いながら”何度も突き刺したー。
あの時ーこの男に冬美の姉がされたようにー
何度も、何度もー
返り血を浴びて、血濡れた美少女になった冬美は、
笑うー。
「ーーわたしを昔振った彼氏に、あんた似てるからー」
冬美はそう呟くー
”俺を裏切った昔の彼女に似てたから”
それが、この男が冬美の姉を八つ裂きにした理由ー。
それを、そのままこの男に返したー
「ーーーひ、、…ひ…こ、、殺さないでくれー…
そ、その年で一生殺人犯として生きていくことに…」
男が苦しみながら呟くー
冬美は「心配ねぇよ」と、冷たい口調で呟いたー。
「ーお前だって、人殺しして、心神喪失を装って、
今、こうして普通に暮らしてるだろー?」
その言葉に、男はようやく気付いたのかー
「まさか…お前……あの時のーーー妹ーー?」と呟くー
「ーーそう」
冬美は静かに呟いたー
男は必死に叫ぶー
「あ、、謝る…金なら払うー
一生かけて償う…!
許されないだろうけど、、な、、何でもするー」
冬美は、死神に身体を乗っ取られながら、
その様子を内側から見つめていたー
事件が起きるたびに、色々言われるしー、
一生かけて償うとか、
色々きれいごとも言われてるけどー
事件の遺族の気持ちは、遺族にしか分からないー。
他の遺族の気持ちは分からないー
でも、わたしの願いはーー
”お姉ちゃんと、同じ目に遭って、死ねー”
それだけー。
何をされても、何百万回謝られても、
お姉ちゃんは返ってこないー
だったら、
お前も、同じように、死ねー。
冬美は、心の中から強く、そう呟いたー。
これが正しいことかは分からないー
いや、きっと正しくはないのだろうー。
でもー
お姉ちゃんを奪われた”わたし”の気持ちは
”わたし”にしか分からないー。
「何でもするー?」
冬美の身体を動かしている死神は、
その気持ちを受け取ったのか、静かに呟いたー
「ーじゃあ、お姉ちゃんと同じようにー
”死んで”ー」
その言葉に、悲鳴を上げる男ー
死神は、冬美の身体で男を粉々に引き裂くと、
そのままいつものように、手をかざして男を”消滅”させたー。
冬美の身体についた返り血も、また、消えていくー
冬美は月を見上げて涙をこぼすー。
「ーーーー…へへ、何で俺が泣いてるんだろうなー」
冬美の身体で死神はそう呟くと、静かに涙を拭ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
学校では、”騒ぎ”が起きていたー
「どうしたのー?」
冬美が不安そうに呟くと、
親友の美晴が「あ、冬美!」と立ち止まるー
「ーー幸嶋(こうじま)くんがー」
そう呟く美晴ー。
昨晩ーー
隣のクラスの男子・幸嶋が自ら学校で命を絶った、というのだー
「ーー!!」
冬美が表情を歪めるー。
昨日、”お姉ちゃんの仇”である男に”裁き”を与える前ー
死神が確かそんなようなことを言っていたー。
美晴をはじめ、クラスメイトたちは困惑していたー。
「ーー冬美…大丈夫?」
美晴が、動揺している様子を全く見せない冬美のほうを見つめるー。
”同級生の死”
そんな状況に、いつもの”大人しい性格の冬美”なら
動揺する、と、そう美晴は考えていたのだー
だが、冬美は動揺しなかったー
”もう”
人の死に慣れてしまったからー。
そしてー、
昼休みー。
「ーーーーそういうことーーー」
冬美が屋上で一人、呟くー。
冬美にしか見えない死神が、冬美に向かって静かに告げるー。
「自殺した幸嶋って男子をいじめてたのはー
お前の親友ー、磯村 美晴ー」
死神の言葉に、冬美は目を閉じるー。
「ーーーでも、幸嶋って男子は遺書も何も残してないし、
そのことを知ってる人間はほとんどいないー。
お前の友達は”人間一人を殺して”起きながら
何の罪にも問われないだろうさー」
「ーーーーー」
冬美は屋上から遠くを見つめながら呟くー。
「ーー裁くの?」
とー。
「ーー俺は、そのつもりだぜ」
死神はいつも通り笑うー。
「ーーーーーー」
冬美は答えないー。
「ーー…やっぱ、友達となると、そりゃ、そう簡単にはー」
死神がそう言いかけると、冬美は「わかったー」と呟くー
「え?」
死神が少しだけ困惑するー。
「ーー人を傷つけて、そのまま自分だけ生きているなんて、許せないー。
それが、美晴であってもー」
冬美の目にはー”怒り”の色しか浮かび上がってなかったー
「ーーわたしはー…
相手が友達でも、お母さんでも、お父さんでもー
悪いことをしていて、あなたが裁くべきだと思ったならー
何も迷わないー。」
冬美の言葉に、死神すら、ゾクッと感じて、
冬美の後ろ姿を見つめるー。
「ーー今夜?」
冬美が言うー。
「ーーーえ」
死神が唖然としていると、
「ー裁くのは、今夜ー?」
と、冬美が聞き返したー
「ーーあ、あぁ…」
死神はそう返事をすると、屋上から
立ち去っていく冬美に声を掛けるー。
「ーーお前ー…ますます気に入ったぜー
正直、最初はお前のこと
”偶然俺が見える、利用価値のある身体”としか
思ってなかったけどー…
お前は最高のパートナーだ」
死神の言葉に、冬美は表情を変えずに、
「ーーそう。ありがとうー」と、だけ呟いて立ち去っていくー。
”わたしの”心”は、とっくにあの日、壊れてるからー”
お姉ちゃんが殺された日のことを思い出すー。
”あなたがいなければ、たぶんわたしはー”
冬美は、”お姉ちゃん”を失ったあとの廃人のように
過ごした日々のことを思い出すー。
自ら”命”すら捨てようとしていたあの時ー
冬美は、死神と出会ったー。
”あなたは、わたしの恩人ー。
そして、わたしの仇まで取ってくれたー。
でもーーー”
冬美は教室に戻ると「美晴ー」と、微笑みながら声を掛けるー。
「ーー美晴、今日の放課後、大事なお話があるんだけど、
時間、ある?」
冬美が微笑みながら聞くと、
美晴は「え?あ、うん!大丈夫だよ!」と微笑むー。
美晴との約束を取り付けた冬美は、
そのまま座席へと戻っていくー。
”同級生をいじめて、自殺にまで追いやっておいて
自分は平然と過ごしているー”
「ーー友達だと思ってたのにー」
冬美はそう呟くと、静かに5時間目の授業の準備を始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
夜ー。
近くの建物の屋上に美晴を呼び出した冬美ー
”なんでこんな場所に?”と、思いながらも
”夜景がきれいだから”と説明されて、
首を傾げながらやってきた美晴ー
そこにー
白いブラウス姿の冬美がやってくるー。
「ーー美晴ー…自殺した幸嶋くんを、いじめてたって、ほんとうー?」
冬美が尋ねるー。
「ーーーー…え」
美晴の表情から笑顔が消えるー。
「ーあんたなんて、生きてる価値ないよ ーーーって、
言ったって、本当ー?」
その言葉に、美晴は「…え…ちょっとまって」と、呟くー。
冬美の方に近付いてくると、
「どうして…それをー?」と、不安そうに呟くー。
冷たい目で冬美が美晴を見つめていると、
やがて美晴は重い空気に耐えかねたのか
「だ、、だって、幸嶋が悪いんだよ!」と言い訳を始めたー
その内容は、見苦しい言い訳だったー
「でもねー…わたし、幸嶋が死ぬなんてー」
その言葉に、冬美は「もういいよ」と呟いたー。
その言葉は、美晴に向けられたものではなかったー。
”へへ、もう話、しなくていいのか?”
死神が確認するー。
「ーーうん。もう話すことなんてない」
”親友”が相手だからー、という理由で
死神が”裁く前に”話をさせてやる、と、冬美に美晴と話す時間を与えていたー。
だが、美晴の言い訳を聞いて、冬美はもう、話す気も失くしてしまったー
”じゃあ、身体借りるぜ”
その言葉に、冬美は頷き、「うっー…」と呟くー。
その直後ー
冬美が笑みを浮かべて、
手から、不気味なオーラを放つと、美晴の身体が、屋上の端のほうに
勝手に動き始めるー
「ーーえ……ちょ…っ…え?冬美ー?」
美晴が表情を歪めるー。
「一人の同級生を、飛び降りにまで追い込んだんだからー
自分も、同じことされる覚悟は、あるんだよな?」
冬美の口調がいつもと違うー
美晴は「ちょっと!?待って!ちょっと!」と、叫んでいるー。
「ーーあんたなんて、生きてる価値、ないよー」
冬美の言葉に、美晴が「ふ、、ふざけないで!」と叫ぶー。
「ーーわたしが、、わたしが”仲良くしてやって”たのに、
その結果がコレー!?
調子に乗らないで!」
美晴が叫ぶー。
”美晴ー”
心の中で、冬美の意識が呟くー
”仲良くしてやってたー”
そうー。
「ーーーさよなら」
冬美が冷たい声で呟くと、
美晴は、そのまま屋上から転落して、下から、鈍い音が響き渡ったー。
冬美は屋上からそれを見つめるとー
そのまま死神の魔力で、美晴の遺体を消滅させるー。
「ーーーー…終わったぜ」
冬美がそう呟くと
”ーーー今日もお疲れ様”と、冬美の意識が返事をするー
「さ、帰るぜ」
”美晴以外には見えないように”死神の魔力で、姿を消していた冬美は、
そのまま家へ向かって歩き出すー。
”あなたは、わたしの恩人ー。
そして、わたしの仇まで取ってくれたー。
でもーーー”
冬美は心の中で呟くー
”いつかー
わたしはあなたに裁いてほしいー”
”だってー
今してる、こういうこともー
”人の命を奪っている”ことには変わりないのだからー”
冬美は、そんな風に思いながら、死神に身体の自由を奪われたまま、
その目で月を見つめるのだったー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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闇夜の美少女の最終回でした~!☆
ここまでお読みくださりありがとうございました!!
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