身体を貸しー、夜に溶け込み、
悪人を葬り去る美少女ー。
彼女の心を凍らせてしまった”出来事”とはー?
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーく、くそっ…!なんなんだお前はー!?」
怯えた表情で叫ぶスーツ姿の男ー。
彼は、会社で部下にパワハラを繰り返し、
休職に追いやった男だー。
しかし、それでも彼は開き直った。
”あんなぐらいで休職するなんて、根性が足りないんだよ”
とー。
周囲の人間の誰が見ても、
明らかにこの男に原因があることは、誰もが分かっていたー
それほどに”陰湿”で”しつこく”パワハラを繰り返していたのだー。
だが、彼はその企業の会長の息子だったー。
そのため、誰もそれを追求することはなく、
休職した社員のほうに”問題あり”の烙印がつけられてしまったのだー。
その会社の社員たちは、
影で”パワハラ御曹司”と陰口を叩いていたー
「はぁっ…はぁっ…はぁっー」
血を流しながら、山林奥深くで苦しんでいるパワハラ御曹司ー。
「ーーーー」
白いブラウス姿の少女がゆっくりと近づいてくるー。
その手が、鋭いブレード状に変化しているー。
冬美の身体を、冬美に憑依している死神が、
魔力で一時的に変形させて、それでパワハラ御曹司を刺したのだー。
ペロリと、ブレード状になった手についた血を舐める冬美ー。
「ーーーーはぁ… はぁ… たすけてー」
パワハラ御曹司の言葉に、冬美は笑みを浮かべたー。
冬美の瞳には、”深い憎しみ”が、込められているー
「法律で裁かれなければ、何をしてもいいー。
お前、そう思ってるんだろ?」
冬美が冷たい口調で呟くー
「お、、俺を殺す気か…!…助けてくれ!」
パワハラ御曹司は、さらに血を流しながら
苦しそうに叫んだー。
冬美は、そんなパワハラ御曹司の前で
不良のような座り方をすると、静かに微笑んだー
「”こんなぐらいで死ぬなんて、根性が足りないんだよ”」
とー。
パワハラ御曹司が、休職した男に言ったというセリフを
真似して、そう呟くー
「ーーーぁ、、うぁぁぁ…」
パワハラ御曹司が動揺して表情を歪めるー
「ーパワハラされても、根性でどうにかなるんだろー?」
可愛い声なのに、冷たいー
そんな冬美の声ー。
「ーーだったら、刺されても根性でどうにかできるだろ?」
冬美が笑いながら、パワハラ御曹司を見つめるー
「ーーぅ、、、ぅ…ぅ」
パワハラ御曹司は、急激に弱っていきー
そのまま動かなくなるー。
冬美は、目を赤く光らせてからー
手をパワハラ御曹司の遺体にかざしー、
それを”消滅”させていくー。
”終わったのー?”
冬美の意識が声を掛けてくるー。
基本、乗っ取っている間は冬美は眠っているのだがー
たまに、意識を取り戻すこともあるー。
最もー
死神が冬美の意識を強制的に眠らせることもできるのだが、
死神の目的は、冬美を乗っ取ることが目的ではないー。
だから、それはしなかったー。
「ーあぁ、終わったぜ」
冬美の口でそう呟くと、冬美が浴びた返り血を、
手をかざして消していくー。
これも、死神の力ー。
「ー俺は、人間の身体がなけりゃ、この世界じゃ何もできないからなー。
お前には、感謝してるぜー」
冬美の口で死神がそう呟くと、
冬美は”どういたしまして”と呟くー。
「ーしっかし、怖い女だぜー…
こんなことを毎晩させられていても、全く怖がる様子もないなんてー」
冬美の口から死神が吐き出した言葉に、
冬美の意識は”知ってるでしょー?わたしのお姉ちゃんのことー”と呟くー。
「ーーまぁ…なー」
冬美が月を見上げるー。
”お姉ちゃんー”
冬美はー
小学生時代に、”姉”を前の前で殺害されたー。
ごく普通の日にー
突然、それは起きたのだー。
その日は、土曜日だったー。
”大好きなお姉ちゃん”と一緒に、
近所のショッピングセンターに買い物に出かけていたー。
その帰りのことだったー。
突然、笑いながら近づいてきた男にー
”お姉ちゃん”は、突然ナイフで切り裂かれたー。
悲鳴を上げながら「たすけて…」と叫ぶ、”お姉ちゃん”が、
何度も何度も刺されて、
弱っていき、無残な姿で横たわるのを、
まだ幼かった冬美は、泣くこともできずー
震えながら見つめることしかできなかったー
男は、その場で駆け付けた警察官に逮捕されたー。
警察官が駆け付けるまで、男はずっと
動かなくなった”お姉ちゃん”を刺し続けていたー。
理由は”俺を裏切った昔の彼女に似てたから”という
あまりにも身勝手な理由だったー。
しかもー
男は、逮捕されたあとから、”奇妙な言動”を繰り返し続けー、
やがて”責任能力なし”と、判断、重い罪に問われることすらなかったー
”お母さん、なんで、悪い人なのに、バチがあたらないの?”
”お母さん、なんでわるものなのにやっつけないのー?”
”お母さんーなんでー?”
当時の冬美には、理解できなかったー
”お姉ちゃんを奪ったわるもの”が、野放しにされる事態がー。
理解、できなかったー。
そしてー
高校生になった今もそうー
”責任能力が無ければ、人の命を奪ってもいいのー?”
という思いが、ずっとずっとー膨らんでいるー。
”奪われた側は、どうすればいいのー?”
当事者にならなければ、分からないー。
この、地獄はー。
冬美はやがてー
”法律で裁かれない悪人たち”に、憎悪を抱くようになったー。
そんな時だったー
”死神”と出会ったのはー。
自分が今、死神と組んでしていることが正しいことかは分からないー
いや、”法律”いうなら悪人は冬美であり、
冬美に消された人間たちのほうが”善人”なのだろうー。
だって、”浮気のデパート”も”転売大商人”も”パワハラ御曹司”も、
法律上では罪に問えなかったのだからー。
「ーー冬美ー?」
親友の美晴が、学校で考え込んでいた冬美に声を掛けるー。
美晴は、冬美が”大人しく”なってしまった原因を知っているー
”お姉ちゃんが目の前で殺された”
例の事件まで、冬美はむしろ明るい性格だったのだからー。
あの直後はー
何事にもビクビクして、
声を掛けるだけで怯えたり、涙を見せるような状態だったー。
今、こうして”学校に来れている”だけでも、奇跡と思えるぐらいに、
当時の状況は悲惨なものだったー
「ーあ、…ち、ちょっと考え事しててー」
冬美が微笑むと、美晴は「そっか。無理しないでね」と、微笑むー。
「うんーありがとうー」
冬美にとって、親友の美晴は、かけがえのない存在だったー。
あの時、小学生時代、お姉ちゃんが殺された直後ー
美晴は、一生懸命、冬美を励まし、声を掛けてくれたー。
高校生になった今でも、美晴は大切な友達だー。
昼休みー
冬美がトイレに入ると、突然死神が姿を現したー。
昼間は死神は冬美の身体から抜け出していて
”次のターゲット”を探しているー。
「ーー学校には来ないでって言わなかったっけ?
他の人には見えないとは言え、わたしには見えるんだからー」
冬美が言うと、
死神は「それは分かってるさー。でも、すぐにでも知らせた方がいいと思ってな」と、
死神が言うー
「ーみつけたぜーお前の”本命”ー」
とー。
「ーー!」
冬美が表情を歪めるー
「ーお前の”姉さん”殺した野郎ー。
今は普通に出所して暮らしてるー。
しかもー、当時、精神鑑定で軽い罪になったけどよー
そいつさー」
死神が冬美に耳打ちするー。
冬美の姉を殺した人物はー
会社で問題を起こしてクビになったあとから、
周囲に”1回、人を壊してみたいよな”などと呟いていたのだというー。
その後、病院に通院していたものの、
それは”事件を起こしたときに有利になるから”という理由で、
逮捕後の奇妙な言動も全て、演技だったのだと、死神は伝えたー。
「ーーでも、そんなに簡単に精神鑑定を欺けるとは思えないけどー」
冬美が言うと、死神は”特定の何かに優れた人間っているだろ?”と笑うー。
「ーお前の姉さん、殺した野郎は、そういうところに優れてたんだよー
今は仲間に、お前の姉さんを殺したときのことを
”武勇伝”みたく語ってるみたいだぜー」
死神の言葉に、冬美は鬼のような形相で呟くー
「今夜、裁いてー」
と。
「ーーへへ、言われなくてもそうするさー」
死神は笑うー。
死神は”あの世”で、理不尽に殺された人間たちを見て
怒りを感じてこの世にやってきたー。
”死神”の禁忌を破ってでも、この世界の悪人を許せなかったー。
”死神の俺が、情を持つなんてなー”
そしてー
この世界を徘徊しているうちに
”強い恨み”の気配を感じてー
それに興味を持った彼はー
子供部屋で、”男”の似顔絵を壁に描いて、
ハサミで何度も何度も何度も刺し続けている少女を見つけたのだー。
それが、冬美だったー。
壁に描かれた”お姉ちゃんを殺した男”を、
無表情のまま、何度も何度も突き刺していたー。
壁は、そのせいでボロボロだったー
「へぇ…」
死神は、そんな冬美を興味深く見つめていたー。
余程の恨みが、あるのだろうかー。
その時だったー
「ーーだぁれ…?」
まだ幼かった冬美が静かに呟いたー
「ー!」
死神は驚くー。
人間に、自分の姿は見えないはずだからだー
「ーー…俺が見えるのか?」
死神が自分を指さしながら言うと、
「うんー」と、冬美は怯えることなく返事をするー。
「ーーーーーこりゃ…驚きだな」
死神がそう呟いていると、冬美は続けるー。
「ねぇー…あくまさんー」
冬美の言葉に、死神が「!」と、反応すると、
冬美はさらに言葉を続けたー。
「ーどうして、わるいことをしたわるものを
誰もやっつけてくれないのー?
どうして、お姉ちゃんを奪ったわるいやつを
誰も倒してくれないのー?」
その言葉に、
死神は少しだけ笑うー。
「ーーーへぇ…」
”俺と同じ”だー。
理不尽な犠牲者にこの娘は怒りを感じているー
憎しみを抱いているー。
同じ怒りを持つ者同士だからかー?
それとも、強い憎しみが、俺を呼び寄せたのかー?
死神はそんなことを思いながら、呟くー
「ー悪魔だと分かっていて、全然怖がらないとはなー」
”どこか”この子も、お姉ちゃんとやらを失ったときに
”壊れて”しまったのだろうー。
「ーなぁー
”いっしょに”わるものをやっつけないかー?」
死神が、まだ幼い冬美に、そう声を掛けるとー
冬美は「ーそんなこと、できるの?」と不思議そうに首を傾げたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜ー
「ーーあぁ、そうそうー。お前にもう一つ言っておくことがあるー」
死神が言うと、
冬美は「なぁに?」と、反応するー。
「ー今日の帰りに気付いたんだけどさー
おそらく今日か明日ー、お前の同級生、一人自殺するなー…」
「ーーーえ?」
冬美の言葉に、死神が”その先”を口にしようとするー
”次”のターゲットー
”法律で裁かれない悪”ー
だが、その悪は冬美にとって、辛く、過酷なものにー
「ーーまぁ、その話はあとだー。
お前が余計なことを気にすると、憑依にも影響が出るかもしれないからなー」
死神が言うと、
冬美は「なら、最初から、中途半端なこと言わないでよ」と、
冷たい口調で呟くー
「へへ、悪い悪いー」
死神はそれだけ言うと、「身体、借りるぜ」と呟くー。
「ーどうぞご自由に」
冬美はそう呟くと、死神に憑依されるー。
「ーーぅ…」
冬美の身体の動きを確認した死神は
”今夜”仕留めるターゲットのことを思い浮かべるー
冬美の姉の仇でもある
”猿芝居殺人野郎”が、今日のターゲットだー。
やつはー
冬美の姉を殺したあと、巧みな演技で精神鑑定で心神喪失状態と判断され、
自由になってからはそのことを”武勇伝”のように語っているようだー。
”お姉ちゃんを奪ったあいつを、やっつけてー”
冬美の強い怒りが、冬美の底から伝わってくるー
冬美を乗っ取った死神は
「ー当然、そうするさー。任せなー」と
鏡に映る冬美に向かって呟くと、窓を開けて、家の外へと向かっていったー。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
お姉ちゃんの仇との対決…!
続きはまた明日デス~!
今日もありがとうございました~!
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