「このホテルはおかしいー」
狂気に飲み込まれているホテル
”ドリーム・エデン”
彼は、無事にドリーム・エデンから
逃げ出すことはできるのかー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ー今から1時間以内に”俺”を見つけ出すことができればー
お前の家族は、無事、解放してやろうー
だがー
見つけられなかった場合ー
お前は”ホテルの一員”になってもらうー」
”憑依”されている女性スタッフの崎野が
虚ろな目のままそう呟くー
「今の言葉、忘れるなよー」
信也が怒りの形相でそう呟くと、
ホテルの部屋のテレビの電源が突然入り、
そこに、”残り時間”が表示されたー
「ふざけやがって!」
信也が叫ぶー。
姉の恵梨をおもちゃのようにされて、信也は
怒り狂っていたー。
「ーーーふふふ…頑張ってね信也」
背後にいたバニーガール姿の姉・恵梨が言うー。
「ーー信也が頑張らないと、わたし、このホテルで
ずぅ~っと、エッチなことさせられちゃう…
この身体が傷んで、ごみになるまで…ね?
ふふふふふふふっ」
恵梨の言葉に、信也は「姉さん…くそっ!」と叫ぶー
「ーーほら、おしゃべりしてないで早く、
”俺”を見つけないとー
それとも、姉さんを捨てて、ホテルから逃げるかい?」
姉・恵梨がニヤニヤしながら言うー。
「ーわたし、知らない男といっぱいヤラされて
妊娠しちゃったりして!
あはははははははっ」
笑い続ける恵梨に、
信也は「必ず助けるから…待ってて姉さん!」と
部屋を飛び出したー。
信也は父・晴彦や、母・美希のことも心配するー。
さっき、ロビーから部屋に連絡したときには、
父・晴彦とは連絡がついていたー。
だが、”恵梨は戻ってきてるぞ”と、電話で言っていたということは
その時には既に姉と同じように”憑依”されていたのか、
あるいは、普通のフリをして戻ってきた恵梨に、その直後に
襲われたか、のどちらかだろうー
一方、母の美希は、温泉に向かったまま行方不明ー。
もしかしたら、まだ無事かもしれないー
信也は、そう思いながら階段を駆け下りるー。
ホテル内の客は、みんな操り人形のように立ち尽くしているー
”クククーこのホテルの中の人間は全員、俺の操り人形だー
俺が好きな時に憑依し、好きなように操ることができるー。”
ホテルの館内放送から、声が響き渡るー
その声も、知らない女の声で、誰かが乗っ取られて
放送させられていることがわかるー。
”まぁ、でも、お前に俺を見つけ出すことは不可能だー”
女の声でそう呟く謎の人物ー。
”何人に対しても同時に憑依することができるしー
俺はすべての感覚を一度に味わうことができるー”
その言葉と同時にー
温泉があるフロアに突入した信也の前にー
ツインテールの少女が姿を現したー
その手には、包丁が握られているー
「ーーククク…
いつ、どこでも、ホテル内にいる限り、
俺はお前を妨害できるー
身体は、いくらでもあるんだからな!」
可愛らしい声で包丁を振り回してくるツインテールの少女ー
信也は「ひっ!?」と叫びながら、
なんとかそのツインテールの少女を回避するー。
そしてー
「ごめん!」と叫びながら少女の手を思いっきり叩き、
包丁を突き落とさせるー
信也はすぐにその包丁を手にして、
「動くなー」と、言いながら、そのまま女湯の方に向かうー
女湯に入ることには、躊躇があったがー
それでも、もう、そんなことを言ってる場合ではなかったー。
脱衣所に入り、その奥の浴室に向かうー。
浴室からは、奇妙な声ー
いいやー…
喘ぐような声が聞こえてきたー
そしてー
浴室の扉を開けた信也は表情を歪めたー。
裸の女たちが、抱き合って、喘ぎ声をあげてー
地獄のような光景がそこには広がっていたー
まさに、乱交と言えるようなー
そんな状態ー。
そして、その中には、母親である美希の姿もあったー。
「ーー母さん!」
悲痛な叫びをあげる信也ー。
その言葉に、母親の美希は反応したー
「ーお前のお母さんの身体ー…
結構、エロいよなぁ?」
「ーーくそがあああああああああああ!」
信也は、怒り狂って、乱れ狂う女たちに突進するー
しかしー
女たちに取り押さえられてー
挙句の果てに、母親である美希にキスをされてしまうー
「ーー全員」
8人いる女が全員一斉に同じ言葉を喋るー
母親の美希も同じー
「ー全員、俺が憑依して操ってるんだー
クククー
こんなところで、油を売ってていいのか?
俺を見つけないと、ほら、お前も、お前の家族も
俺のものになるー」
女たちの言葉に「必ず見つけ出してやるから、覚悟しておけよ!」と叫ぶ信也ー
母親の美希をはじめとする女性たちを
必死に振り払って、そのまま浴室から脱出した信也ー
信也は浴室から引き返して、ロビーの方に向かおうとするー。
その途中には、さっき憑依されていたツインテールの少女が
人形のように座り込んでいたー
”さすがの俺も、複数の身体を同時にコントロールするのは
精神的に疲れるんでな。
必要のない身体はそうして休眠状態にしておくのさ”
今度は、男の声ー
その言葉に、信也は
”ロビーにいた客が、まるでRPGゲームのNPCのように
規則的な動きしかしてなかったのはそういうことか”と
考えながら、すぐに顔をあげて
「今からお前のところに行くから、覚悟しとけ!」と叫んだー。
ホテルを掌握しー
ホテルの人間全員を操ることのできる人間など、
そうそうはいないー
そしてー
信也はあることを思い出すー。
姉が行方不明になったと伝えた時もー
812号室で自殺している人を見つけた時もー
妙に反応が薄かった男ー
ロビーにたどり着いた信也は、
カウンターの方に向かうー
するとそこにはー
「おやおや」
ホテル支配人の小田切の姿があったー。
「ーーみんなを元に戻せ!」
信也が怒りの形相で叫ぶと、
小田切は笑いながら首を振ったー。
「ーわたしは、君と君の家族の安全は保証したー。
だが、他の人間の身体を返すとは、一言も言っていない」
小田切の言葉に、信也は「ふざけるな!」と叫ぶー。
だが、ホテル支配人の小田切は首を振ると、
「君に、選択させてあげよう」と、
笑みを浮かべるー。
ロビーに置かれている大きなテレビには
時間が残り20分であることを示す映像が映し出されているー
挑発なのか、残り時間が表示されている後ろで、
不敵に笑みを浮かべるバニーガール姿の姉・恵梨の映像が
映し出されているー
「ー綺麗なお姉さんも、君の判断次第では、遊ばれつくした末に
妊娠して、ゴミのように廃棄されてしまうかもしれないー
そうはなりたくないだろう?
だがー
君の人生は、君のものだー」
支配人の小田切はそれだけ言うと、
合図をするー。
「ーーー!父さん!」
背後から現れた父親の晴彦が虚ろな目のまま、
ホテル入口の扉を開けるー。
「ー私は気まぐれでねー。
今なら、君にチャンスをあげてもいいー…
そう、思ってる。
そこの扉から、このまま黙って立ち去れば
君だけは解放してやろうー。
このまま残って、戦いを続けるというのであれば
それもいいー
だが、君は私には勝てないー。
そうなれば、家族だけではなく、君自身も、この
ホテルで永遠に私のおもちゃだー。
さぁ、どうするー?
3分ー
考える時間をあげよう。
このまま君だけでも助かるかー
無謀にも家族を救おうとして、全員犠牲になるかー
選びたまえ」
支配人・小田切の言葉に、
信也はホテルの入口のほうを見つめたー。
父・晴彦は、うつろな目ー。
「ーーーー」
信也は目をつぶるー
「ーー君が一人逃げても、お姉さんも、
ご両親も、誰一人君を責めないはずさー。
君一人だけでも助かるのならば、それでー」
支配人・小田切がそこまで言うとー
「ーー俺の勝ちだああああああああああ!」と、
信也は叫びながら、小田切の方に向かってきたー
「ーーー!」
小田切が目を見開くー
信也は小田切の顔面を思いっきり殴り飛ばしたー。
ロビーの絨毯の上に叩きつけられる小田切ー
信也は小田切の腕を掴み、
「俺の勝ちだ!母さんと父さん、姉さんを開放しろ!」と叫ぶー
「ー今から1時間以内に”俺”を見つけ出すことができればー
お前の家族は、無事、解放してやろうー
だがー
見つけられなかった場合ー
お前は”ホテルの一員”になってもらうー」
「ーーお前はさっきそう言った!約束は守ってもらう!」
信也の叫びに、「あぁ、守るよー」と、支配人の小田切は笑みを浮かべたー。
だがー
「ーー君はきっと後悔する…今、一人で逃げ出さなかったことをー」
支配人の小田切の不気味な笑みに、
「ーお前…!約束を守れ!」と叫ぶー。
”あぁ、守るよー”
声が別の方向から響いたー。
ホテルの館内放送からだー。
「ーー!?」
信也が振り返るー。
「ーー残念だったねー」
支配人の小田切の不気味な笑みー。
「ーーこの男も、俺に”憑依”されているだけさー。
支配人が俺だと思ったのだろうー?
いやぁ、残念残念ー
俺は、小田切じゃないよー」
支配人の小田切がマリオネットのようにかくかくと動きながら笑うー
「ーな…なんだって?」
信也は唖然とするー
てっきり、このホテル支配人の小田切が、
ホテル内の人々に憑依している男だと思っていたー
だがー
違ったー
”残念だなぁ…あと5分ー
俺のところにたどり着けなければ、お前は俺の身体だー”
館内放送から響き渡る言葉ー
その場に倒れ込む支配人の小田切ー
”まぁ、いいー
最後に教えてやるー”
その言葉を聞きながら、信也は走ったー。
「くそっ…どこにいるんだ…!
お前は誰なんだ!?」
”俺は”ホテルそのもの”に憑依してるんだー
だから、ホテルのシステムもすべて、思いのままー
そして、ホテルにいる人間にも、いつでも憑依できるー”
ホテル内が停電するー。
不気味なエンディングテーマ曲のような音が流れ始めるー
”お前は逃げるべきだったー。
でも、もう俺の気分は変わってしまったー。
お前は、もう、終わりだー”
男の声が、女の声に変わっていくー。
姉の恵梨の声だー。
”お前の姉さんの声、可愛い感じで、いいよな?
気に入ったよー
くく、助けたいか?
助けたいだろ?
なら、俺のところにたどり着いてみろー”
恵梨の声で、館内放送が続くー
「くそっ!!お前は、お前は誰なんだ!」
信也が叫ぶとー
姉・恵梨の声が再び響き渡ったー
”お前、俺と1回あってるじゃないかー。
”812号室”でー”
その言葉に、信也は
”812号室で自殺していた男”を思い出すー。
”俺は人生に疲れて、このホテルの812号室で
首を吊って自殺したんだー。
俺の人生はそこで終わると思ったー。
でもなー
終わらなかったー
俺のこの世に対する強い恨みが、俺に奇跡を起こさせたー
俺は霊となって、この世に残りー
そして、このホテル自体に俺は憑依して、
ホテルのシステムも、ホテルにいる人間も、全員俺が乗っ取ったんだ!
ドリーム・エデン…いい名前じゃないか。
これから、このホテルは俺にとってのエデンとなるのさー
ははははっ!”
姉・恵梨の声で語り終えた男は笑うー
あと2分ー
信也は階段を駆け上がるー。
812号室で首を吊っていた男は、まだ運び出されておらずー
そのままにされていたー。
”俺の本体まで、たどり着けるかな?”
笑う恵梨ー。
ホテル内の防火シャッターが勝手に閉まるー。
ホテル内の人間が、操られて襲い掛かってくるー。
信也は、ついにー
男の元までたどり着けなかったー
”ははは、残念だったなー”
今度は、母・美希の声ー
膝をつく信也ー
ホテルの床から、不気味な赤い霧のようなものが現れるー
信也は、目から涙をこぼしながら、
男の最後の言葉を聞いたー
”ホテルへようこそー”
その言葉を最後に、信也は、ホテル中に蔓延する男の意識に憑依されー
乗っ取られてしまうのだったー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
ホテルそのものに憑依していて、
システムも、その中にいる人間も、すべて掌握している男ー。
これはどうにもなりませんネ~…!
お読みくださりありがとうございました~!
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