<憑依>俺は浴衣を着てみたい①~願い~

「お前の彼女に憑依して女の子として浴衣を着てみたい」

ある日ー
そんな、とんでもないお願いを親友からされてしまった…!

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男子大学生の野川 裕平(のがわ ゆうへい)は
親友からの”頼み”に、思わず表情を歪めてしまったー。

「--今、なんて?」
裕平の言葉に、裕平の家を訪れていた親友・
菅本 眞喜雄(すがもと まきお)は、もう一度”頼み事”を
口にしたー。

「ーー姫梨(ひめり)ちゃんに、憑依させてくれー。
 俺は、女の子として、浴衣を着てみたいんだ!」

”折り入って頼み事があるー”

大学の夏休みの最中に、そう、親友から言われた
裕平は、眞喜雄を家に招いたー

その結果が、これだー。
意味がサッパリ分からないー。

「--いや…あの…
 わりぃけど、何言ってるかよくわかんねぇ…」
裕平は、戸惑いを隠せない様子で言ったー。

姫梨、とは裕平の彼女のことで、
裕平・姫梨・眞喜雄は、小さいころからの幼馴染の間柄だー
偶然ー、大学まで同じで、小さいころからの腐れ縁とも言える関係は
ずっと、続いているー。

そのせいか、3人とも、お互いに相手の言いたいことや
考えていることも、すぐに理解できるような間柄だったー。

だがー
今日ばっかりは、違うー。

裕平には、親友の眞喜雄が、何を言っているのか、
全く理解できなかったー。

「---そ、そ、そうだよなー。
 わかった。順番に説明するから、聞いてくれ」
眞喜雄がそう言うと、
今度は丁寧に、ひとつひとつ説明を始めたー。

「ーー俺、姉貴がいるだろ?」
眞喜雄の言葉に、「あぁ、小さいころはよく遊んでもらったな」と、裕平が
懐かしそうに笑うー。

「--小さいころさ、姉貴とよく一緒に近所のお祭りに行ってたんだけどさ、
 毎年、姉貴が着てた浴衣がすごい綺麗でさー。
 当時はまだ男女とか、そういうこともよく分かってない年齢だったからー、
 ”大きくなったら僕もお姉ちゃんみたいに浴衣を着たい”って
 言ってたんだよ」

眞喜雄が言うと、
裕平は「はは、お前にも純粋だった時代があったんだな」と冗談を口にするー

「うるせー!今も純粋だ!」
眞喜雄は笑いながら叫ぶと、
さらに話を続けるー。

「でもさー、俺は男だろ?
 だから、姉貴のように浴衣を着ることはできないー

 ま、当たり前なんだけど、どうしても小さいころの夢をかなえたくてさー

 別にー
 下心があるとかそういうことじゃなくて、
 ただ純粋に、昔の姉貴のように、女の子として浴衣を着て
 お祭りに行ってみたいな、ってさ…」

”眞喜雄の夢”
それは、分かったー

裕平は、そう思いながら
「---…浴衣なら、男でも着れるだろ?」

「--いやいや、違うんだよ!
 俺が浴衣を着てもいいんだけど、
 なんかこう、うまく言えねぇけど、
 姉貴みたいに女の子として浴衣を着て
 お祭りをニコニコしながら楽しんでみたいんだよ!」

眞喜雄が、少し恥ずかしそうに叫ぶー

「----へぇ…なるほど」
分かったような、分からないようなー
そんな感情を抱きながら、
裕平は

「--お姉さんの浴衣借りて着ればいいんじゃね?
と、提案するー

「ばかっ!そうじゃねぇよ!
 大体俺みたいにゴツイ大学生が姉貴の浴衣なんて着たら
 それこそ試合終了だろ!」

眞喜雄が叫ぶー。

「--…じゃあ、女装するとか?」
裕平がさらに提案すると、
眞喜雄は「ちがーーーーう!」と叫んだー

そして、あるものを鞄から取り出す眞喜雄ー

見たことのない謎の液体ー。

それを手にした眞喜雄が
「先月、ネットで偶然”憑依薬”ってのを見つけたんだー。
 他人の身体をかりることが出来る薬さー」
と、説明するー

「--は????」
裕平は、表情を歪めたー

「--お前、ついに頭おかしくなったのか?」
笑いながら裕平が言うと、
眞喜雄は「おかしくなってねぇよ!」と必死に否定するー。

「--いやいやいや、他人に憑依するとか、ないだろ?」
裕平の言葉に、眞喜雄も「俺も最初はそう思ってたんだけどさ」と、
「-俺んちのウーパールーパーで試したら、ホントに憑依できたんだよ!」と
興奮した様子で叫んだー

「-お、お前…ウーパールーパーに憑依したのか?」
裕平が戸惑いながら言うー。

「-あぁ。だって人間で試すわけにはいかねぇだろ?
 身体を奪われる側からすりゃ、数秒、数分だって怖いだろうし」
眞喜雄の言葉に、裕平は「まぁ…そりゃそうだけど」と、呟くー

眞喜雄の方を見る裕平ー

”憑依薬”なんてものが本当にあるのだろうかー。

だが、眞喜雄は昔から”嘘”をつかないー。
発言や行動にデリカシーのなさを感じることはあるが
半面、いつも裏表のない性格でー
とても、純粋だー。
純粋すぎる故の”危うさ”もあるものの、
いざという時には頼りになるー。

眞喜雄が”ウーパールーパーに憑依できた”と言っているということは
眞喜雄は本当にウーパールーパーに憑依したのだろうー。

”憑依薬”を手に入れてー
それを試すのに、人間ではなく
ウーパールーパーを選ぶところも、眞喜雄らしいー。

誰かに憑依すれば、その人に迷惑をかけちまうじゃないか、と
真顔で言う眞喜雄はー
やはり、純粋なのだろうー。

そして、ウーパールーパーだって憑依されれば怖がるかもしれないー
という点まで、考えが及ばない点も、また、眞喜雄らしいー

「--わかった。信じる。信じるよ
 でもーーー

 って、、おい!!!!!!!」

普通に会話しながら、裕平は
ようやく眞喜雄が何を言いたいのか、途中で理解して
叫び声を上げたー

「--まさか、姫梨に憑依して
 浴衣を着たいって言うんじゃないだろうな!?!?」
裕平が、叫ぶと、
「最初からそうお願いしてるじゃないかっ!」と、眞喜雄は叫んだー

「断る」
裕平は即答したー。

眞喜雄は「頼む!頼むよ!この通りだ!」と叫ぶー。

「--俺が変なことしないってのは知ってるだろ?
 本当にただ、姫梨ちゃんになって、浴衣を着て
 お祭りを楽しみたいだけなんだ!
 お祭りが終わったらすぐに姫梨ちゃんから出ていくからー!」

眞喜雄が、必死に頼み込む姿を見て、
裕平は、3本の指を立てたー。

「3つー。問題があるー」
とー。

「--へ?」
眞喜雄の言葉に、裕平は”3つの問題点”を指摘し始めたー。

「ひとつは、
 明日、俺とお祭りに行くことを、姫梨はすっげぇ楽しみにしてることー。

 お前が姫梨に憑依したらー
 姫梨はお祭りを楽しめなくなっちまうー」

裕平が言うと、
眞喜雄は「う…」と、表情を歪めるー。

確かに、その通りかもしれないー
眞喜雄が姫梨として、お祭りを楽しめばー
乗っ取られている姫梨は、お祭りを楽しめないー。

「--ふたつめ…
 眞喜雄のことだから、姫梨の身体で悪さとか
 そういうことはしないと思うけど…
 お前、絶対、姫理の身体で男っぽくガツガツ歩いたり、
 平気で「俺はさァ~!」とか言い始めるだろ?」

「---う」
図星だったー

悪意を持って悪いことはしないがー
正直、姫梨として完璧に振舞える自信はなかったー。

「そして最後!」
裕平は、キッ、と鋭い目つきで眞喜雄を見つめるー。

「--俺に頼まれても、俺が勝手に決めていい問題じゃないだろ!」
とー。

「----うぅぅっ!」
眞喜雄が表情を歪めるー

確かに、身体を返すのは、姫梨だー。
だったら、姫梨に頼むのが筋だー

「--い、、いや、いや、姫梨ちゃんに絶対変態だと思われて試合終了だろ?」
眞喜雄が言うと、
裕平は「そう思うんならやめとけよ。」と、眞喜雄に言い放ったー

眞喜雄は、姫梨に嫌われたりすることを昔から
恐れているー
こういう話に持っていけば、眞喜雄も諦めてくれるはずだー。

「-----わかった」

「え?」
裕平が、思わず声を上げるー。

「今から、俺は姫梨ちゃんに直接お願いする!
 姫梨ちゃんを、呼んでくれ!」

「---は????え?」
裕平は困惑の表情を浮かべたー

「--俺は、浴衣を着てみたい!」
眞喜雄の叫びに、裕平は「ど、どうなっても知らないからな!」と、
仕方がなく姫梨に連絡を入れたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

しばらくして、姫梨が到着すると、
裕平は「急に呼び出してごめんな」と、姫梨に向かって
まず、謝罪の言葉を口にしたー

「ううん。今日は特に予定なかったし、大丈夫ー。
 で、”とんでもない話”ってー?」
姫梨が首を傾げると、
「もう、なんか、こうー
 眞喜雄に直接聞いてくれれば分かるよ」と、
呆れた様子で、裕平は姫理に言い放ったー。

「--ふ~ん…?」
不思議そうな顔をしながら、姫梨が眞喜雄の方を見るー。

「--眞喜雄くんのとんでもない話って?」
姫梨が、眞喜雄に対してそう言うと、
眞喜雄は、正座をしてから叫んだー。

「明日のお祭りー
 姫梨ちゃんの身体を貸してほしいんだ!

 俺は、浴衣を着てみたいんだー!」

眞喜雄は叫んだー。

その言葉に、姫梨は「え?」と、唖然とした様子ー。

それを見て、裕平は
「おいおい眞喜雄、さっきも言ったけど、ちゃんと説明しないと
 分からねぇよ」と、呆れ顔でツッコミを入れたー。

眞喜雄が「あ、、あぁ、そうだったな」と言うと、
唖然としたままの姫梨の方を見て、
さっき、裕平に説明したことと、ほとんど同じ内容を
姫梨に向かって説明し始めたー。

姫梨に対して熱心な説明を続ける眞喜雄ー
半分呆れ顔でその様子を見つめながら、裕平は
”断られるに決まってんだろ…”と、苦笑いするー。

そうこうしているうちに、眞喜雄が全てを説明し終えるとー、
もう一度、姫梨に向かって、
頭を下げたー

「頼むー。
 俺の純粋な夢を叶えさせてくれー」

姫梨は、頭を下げる眞喜雄の方を見つめながらー
少しだけ間を置いたー

”ほらな、言わんこっちゃない”
姫梨が返事をする前に、裕平は、
眞喜雄が、姫梨に怖られる光景を頭の中に思い浮かべて、
心の中でそう呟いたー。

「--うん。いいよ。わかった」
姫梨が微笑むー。

「---え?」
「---え?」
裕平と眞喜雄が同時に声を上げるー。

「--って、えっ!?!?!?」
裕平が姫梨の方を見るー。

「--今、なんて?」
お願いしていた本人がある眞喜雄も、
断られると思っていたのか、信じられない、という様子で顔を上げたー。

「--いいよ!」
姫梨はもう一度言ったー。

「---ねぇねぇ裕平、わたしとのお祭りは、明後日にしようよ!」
姫梨が裕平に対して言うー。

お祭りは明日と明後日の二日間あるー。
当初、明日、二人で楽しむ予定だったがー
明日を眞喜雄に託し、姫梨本人は明後日、裕平とお祭りに行けばいい、と
考えたのだったー。

「--え、あ、、え??いや、別にいいけど…」
裕平が戸惑いながら返事をしたー。

「-やった!これでわたしたちみんな、幸せ!
 Win Win Winってやつだね!」
姫梨が嬉しそうにそう言ったー。

姫梨曰はくー

姫梨本人は、
”誰かに乗っ取られる”という未知なる経験が出来ることー
裕平と一緒にいられる時間が増えることー

裕平は、中身が違うとは言え、姫梨と二日間デートできることー

そして、眞喜雄は、小さいころからの夢を叶えることができることー

全員が”得”をするー。
そういうことのようだー。

「--で、でも、自分の身体を貸すなんて、怖くないのか?」
裕平が言うと、姫梨は
「だって、そんな薬があるのに、わざわざ先に説明しちゃうぐらいだし、
ウーパールーパーでテストするぐらいだしー
何より、眞喜雄くんだしー、
わたしの身体で変なことなんて絶対しないと思うし!」
と、笑顔で言い放ったー

「おい!眞喜雄くんだし!は、なんか馬鹿にしてるように聞こえるぞ!」
笑いながらツッコミを入れる眞喜雄ー。

姫梨は、昔から好奇心旺盛だったー
今回も、そういうことなのだろうー。

姫梨が裕平を見て「あ、裕平がイヤだったらやめるけど…」と、
裕平に対する配慮も見せると、
裕平は「あ、いや、姫梨がいいなら、俺もいいよ」と、笑みを浮かべたー。

こうしてー
”親友に憑依された彼女”とのお祭りデートが始まるのだったー。

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

お祭りが始まる前までで、①が終わってしまいましたが
次回以降を楽しみにしていてくださいネ~!

(①はウーパールーパーへの憑依だけになっちゃいました笑)

コメント

  1. 匿名 より:

    SECRET: 0
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    相手の許可もらってから憑依するという話も珍しい。

    大抵の話では一方的に勝手に憑依する人物ばかりだから新鮮な展開ですね。

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    コメントありがとうございます~!

    どのようになっていくか、楽しみにしていてください~!

  3. 葛餅 より:

    ウーパールーパー…不覚にも笑ってしまった