エイプリルフール…
「憑依」「入れ替わり」「皮」「女体化」
彼女は、”この中のどれか一つだけ嘘じゃない”と言うー。
果たして、その答えは…?
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放課後ー
信博は考えていたー
「わたしは憑依されている
わたしは皮にされている
実はわたしは元男
わたしは誰かと入れ替わっている
この中で嘘じゃないのはど~れだ!?」
どれか一つー。
”嘘”じゃないものがあると、彼女の久瑠美は言った。
そして、放課後に答えを聞かせてほしいー
と。
久瑠美が、信博のほうを横目で見て
ほほ笑んでいるー
”くそー!完全に久瑠美に遊ばれてるぞ俺!”
信博はそんな風に思うー
どれも絶対にありえないー
憑依も皮も女体化も、入れ替わりも
絶対にありえない。
どれも、アニメや映画の世界では
見たことがあるが、
現実世界ではありえるはずがない。
いや、待て。
信博は冷静に考える。
やはり、憑依と皮はどう考えても
現実世界では起きるはずがない。
人間が他人を乗っ取るなんてことは
できないだろうし、幽霊が久瑠美に
憑りついて久瑠美に成りすましている…
なんてこともあり得ない。
この世に幽霊なんて、いるはずがないし、
それなら久瑠美の言動におかしな部分も出るはずだ。
久瑠美に憑りついた幽霊が、久瑠美の記憶を
奪っているならともかく、
そもそも幽霊がいない以上、それはあり得ないー
”わたしは元男”は
どうだろうかー。
これなら、現実的に不可能ではない。
手術やらなんやらを受ければー
100%不可能なことではないかもしれないー
でもーー
久瑠美とは小学生の頃からの知り合いだ。
久瑠美は昔からちゃんと女の子だったー。
信康と出会う前は実は男でーーなんて
可能性はほぼ0に近い。
”朝、起きたら女だった”もあり得ないー。
だから、これもない。
と、すればー
入れ替わり…だろうか。
だが、ぶつかったら入れ替わった、
階段から転落したら入れ替わったー
赤い紐を握ったら入れ替わったー
そんなのは現実ではありえない。
あるとすればーーーー
久瑠美に双子の妹か姉がいればどうだろうか。
その姉か妹と、”入れ替わる”ことは
可能かもしれないー久瑠美のふりをして
双子の姉か妹が学校に来ていればー
それは確かに”入れ替わり”と言えるのかもしれないー
現実的に実現可能であるのは
”女体化”か”入れ替わり”であると考える信康。
しかしー
やはり久瑠美が性転換をしているとは思えない。
そもそも小さいころからの知り合いだから
それは不可能なはずだー。
そしてー
久瑠美に双子の姉か妹がいるなんて話も
聞いたことがないー
小さいころから久瑠美の家に遊びに行っていたことは
あるがー、表札には久瑠美と、その弟の名前しか
なかったはずだー。
つまり、久瑠美に”双子の姉妹”はいないはずなのだー
「------」
真剣に考え込んでいる信博を横目で見ながら
クスクスと笑う久瑠美。
久瑠美は先に、信博との待ち合わせ場所に向かうー
「--やっぱり」
信博は決意したー
「やっぱり
”この中で嘘じゃないのはど~れだ”
これこそが、嘘だろう」
信康は心に決める。
答えはー
”この中で嘘じゃないのはどれ”が嘘ー
つまり、4つの選択肢全部が嘘、という答えだ。
これしかないー
「ってか、なんで俺、こんなこと
真面目に考えてるんだ~!?」
信博は苦笑いする。
最初から「4つとも嘘だろ~?!」で済む話だったかもしれないー
「ま…まぁ…
久瑠美、俺が悩んでいるの見て楽しそうだったし。
いいか」
信博はそう呟いた。
エイプリルフールを久瑠美が堪能してくれたのであれば、
もう、言うことはない。
「--もしも、信博が間違えたら…
わたし”そのまま”になっちゃうかも!」
昼休みに久瑠美から言われた言葉が
少し不安だー。
あり得ない、あり得ないと思いつつも
久瑠美が、誰かに憑依されていたらー?
久瑠美を助けることができないまま
久瑠美は永遠に…
「いやいやいや、考えすぎだろ!」
信博は呟く。
さっき、合理的に考えた通りだ。
入れ替わりか女体化以外は
現実的には不可能だし、
女体化も入れ替わりも、小さいころからの
付き合いの久瑠美にできることではない。
やはり、全部嘘だ。
「--お待たせ」
指定された場所に到着した信博。
使われていない教室の側の廊下の影ー。
ここに来る人はほとんどいないー
久瑠美がにっこりと笑う。
「わたしの嘘、見破れた~?」
とても楽しそうだー。
憑依ー
皮ー
女体化ー
入れ替わりー
「--…」
信博は意を決して答えたー
「ぜんぶ、嘘」
信博が言うー。
「ぜんぶ、嘘だー。」
とー。
「--ふぅん」
久瑠美がにっこりと笑うー。
「憑依も皮も女体化も入れ替わりもされてない。
嘘なのは
”この中で嘘じゃないのはど~れだ!?”って
言う部分だ!」
信博がどや顔で言う。
久瑠美がにこにこほほ笑んだまま信博を見つめるー
「--ほんとうに、それでいいの?」
久瑠美が悪い笑みを浮かべるー
「え…?」
信博は思わず戸惑ってしまう。
久瑠美がもう一度口にした。
「本当に、その答えでいいの…?」
低く、脅すような声ー
こんなこと言うような子だっただろうかー
信博は、目の前にいる久瑠美を見つめるー
いいや、罠だ。
久瑠美の脅しだー。
昔から久瑠美はドッキリとか、
そういうのが好きだった気がするー
これも、そういうことなのだろうー
「ああ」
信博は答えた。
もう、迷わない。
全部、嘘だ。
沈黙ー
信博が緊張しているとー
久瑠美が拍手をし始めたー
「ぴんぽんぴんぽーん!おめでと~!」
久瑠美が優しく微笑むー
「--わ…!や、、やっぱり…」
信博が安堵のため息をつくー
今、もしも
”実はわたしは憑依されてました~!”とか言われたら
どうしようと、信博は内心びくびくしていた。
だが、やはり、
信博の推理通りだった。
「憑依されてなんかないし、
皮にされてなんかないし、
入れ替わってるわけでもないしー
久瑠美は生まれた時から女の子だし~!」
笑いながら言う久瑠美。
「あ~たのしかった~!」
久瑠美が満足そうにしているー
信博は”遊ばれたな~”と思いつつも、
”まぁ、久瑠美が楽しかったならいっか”と
笑いながら久瑠美と一緒に下校していくー
いつものように雑談する二人ー。
結局、
久瑠美のエイプリルフール遊びに翻弄されて
信博はひとつも嘘をつくことが
できなかったー
が、久瑠美が楽しそうだから良しとすることにしたー
楽しく雑談しながら
家への道を歩くふたりー
「あ、わたし、今日は買い物してから帰るからここで!」
久瑠美が立ち止る。
いつもはもう少し先の道まで一緒なのだが、
今日は買い物があるのだという。
「--あ、うん、わかった」
信博がほほ笑む。
「また明日」
「うん。また明日」
別れる二人ー。
「-----」
信博と別れた久瑠美は、
近くのスーパーに向かう。
スーパーに入ると、
久瑠美は、ライターだけを購入して
そのままスーパーから出たー。
そして、久瑠美は、
人の気配のしない方向に向かっていくー
遠い昔に放棄されて
廃墟になったままの建物がある場所に向かう久瑠美ー
久瑠美は慣れた手つきで、その廃墟に入っていくー。
廃墟の扉を開ける久瑠美。
年ごろの女子高生が入るような場所では
ないものの、
本人は気にせず、中へと入っていくー。
そしてー
「---…ふふふふふふ」
久瑠美は不気味な笑みを浮かべたー
廃墟の建物の中の一室に入った久瑠美は、
その部屋の奥にいる人物に声をかけたー
「ザンネンだったなぁ!くくく」
とー。
買ったばかりのライターで
ボロボロの部屋に置かれたたばこに火をつけて
それを口に咥える久瑠美ー
その視線の先にいたのはーー
縛り付けられたーー久瑠美だった。
「ん…んん~~~~!!!んっ!!」
口を塞がれて拘束された久瑠美がもがくー。
さっきまで信博といっしょだった久瑠美のほうが
煙草を咥えながら笑う。
「誰も、気づかなかったよ」
脅すような口調で言う久瑠美ー
「憑依ではないー
皮でもないー
久瑠美は元々女の子だから久瑠美が女体化したわけではないー
入れ替わっているわけでもないー
”全部 嘘”
それは正解だぁ」
久瑠美がたばこを吸いながら
一人呟くー
足を組んで座りながら
縛られた久瑠美のほうを見つめる。
そしてー
「--でも…」
久瑠美の姿をしていた”何か”が
ドロドロと変化していきーーー
汚らしいおじさんの姿に変わるー
「--”変身”-」
おじさんは呟いたー。
「んんんん~っ!」
拘束された久瑠美が叫ぶ。
「---まさか、本物の彼女は
春休みのうちに拘束されていて、
別人が、変身しているなんて
思わなかっただろなぁ~」
おじさんが笑うー
久瑠美はー
3月の間にー
春休みの間に、
このおじさんに拉致されて
誰の目にもつかない廃墟に
連れてこられた上に、拘束されていたー
そしてー
このおじさんは
”他者に変身する力”で、久瑠美に変身したー
久瑠美の姿に変身して、学校に登校したー。
変身した相手の記憶を引き出すことも、たやすいことだー。
「--もしも、信博が間違えたら…
わたし”そのまま”になっちゃうかも!」
約束通りー
”そのまま”にならせてもらうー
「--きみの彼氏、
目の前にいる彼女が”偽物”だって
気づくこと、できなかったよぉ~」
おじさんがヘラヘラ笑いながら久瑠美を見る。
縛られたままの久瑠美が必死にもがくー
「--ふふふふふ…」
本物の久瑠美の髪をいやらしい手つきで
触りながら、おじさんはにこにこと笑う。
「--大丈夫さ。誰も悲しまない。
君の彼氏だって、気づかなかったんだ。
みんなみんな、目の前にいる久瑠美ちゃんが
偽物だなんて気づかない。
中身なんてどうでもいいんだ。
姿と、記憶ー。それがあれば、
中身なんて、みんなどうでもいいんだ」
おじさんが、久瑠美の胸や足をべたべたと触る。
久瑠美が必死に叫びながら
もがくー。
「--くくくく」
おじさんは久瑠美に耳打ちしたー。
「きみは、もう、いらない」
おじさんはそう言うと、再び久瑠美の姿に変身したー
「これから俺は…ううん、わたしは
君の姿で生きていくー
わたしが、久瑠美になるー んふふふふふ♡」
偽物の久瑠美は、たばこを放り投げると
それを足で踏みつぶしたー
偽物の久瑠美はニヤニヤと笑うー
ずっとー
そう、ずっとー
小さいころから、周囲に蔑まれてきたー
容姿に恵まれずー
”気持ち悪い”と言われ続けてー
会社までリストラされたー
”努力が足りない”
そうも言われたー。
俺だって努力したー
けど、”恵まれているやつら”には分からないー
どんなに努力したって、どうにもならないこともあるってことをー
だったら、してやろうじゃないかー。
俺は、”他人に変身する力”を”努力”して手に入れたー
そして、俺のアパートの前を通る女の中から
一番俺好みの子を見つけたー
それが、久瑠美ちゃんだー。
俺は、久瑠美を拉致して、久瑠美に変身したー。
新しい人生を手に入れるためにー
目的?
そんな大それた目的なんてない。
ただ、俺はー
ただ、普通の女の子として、生きてみたいだけだ。
他人の人生を奪うー?
仕方がないじゃないか。
周囲が”努力しろ”ばかり言うから
してやったんだよ。努力をな。
「--------」
偽の久瑠美は、頭の中で何かをつぶやくと、
笑みを浮かべたー
そしてー
「久瑠美は、二人もいらない」
そう呟くと、本物の久瑠美に手をかざしたー
”他人を別の姿に変身させることもできるー”
「---あ…」
本物の久瑠美が、カエルに変身していくー
偽物の久瑠美が、カエルになった本物の久瑠美を見つめる
「--ゲコ」
元気よく飛び跳ねるカエル。
「--くくくくく…久瑠美ちゃん…ばいばい」
偽物の久瑠美はそう呟くと、
カエルになった本物の久瑠美を
そのままにして、その場から立ち去ったー
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
1週間後ー
「--おっはよ~!」
久瑠美が信博に声をかける。
「あ、おはよ~!」
信博が笑う。
”さぁ、楽しいJKライフのはじまりだ”
久瑠美は内心で笑みを浮かべたー
”この彼氏、あんま面白くないなぁ。
適当にタイミングを見計らって
理由をつけて振ってやるかー”
目の前にいる久瑠美はー
久瑠美じゃない。
信博がそのことに気づく日は来るのだろうかー
けれど、もしも
気付いたとしてもー
もう、遅いー。
おわり
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エイプリルフールネタのお話でした~!
エイプリルフールのお話なので、
最初の4択に答えはありませんでしたケド…汗
お読み下さりありがとうございました!
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