<憑依>消えた彼女①~失踪~

大の仲良しの彼女の様子が
おかしいー。

そのことに気付いた彼は
彼女に理由を問いただそうとする。

しかし、彼女は忽然と姿を消した…。

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大学生の根島 介司(ねじま かいじ)は、
同じ大学に通う彼女・馬本 枝美(まもと えみ)と
大の仲良しだった。

お互い、大学に通うために
こっちにやってきて一人暮らしをしている。

いつも穏やかで、優しく、笑みを絶やさない彼女は、
介司にとって、本当に心の支えだった。

だがー…。

”ごめんね”

そう書かれた手紙ー
それを置いて、彼女は
消えてしまったー。

”失踪”
したのだー。

介司は、枝美の両親とも
連絡を取り、慌てて枝美のことを
捜索したが、
ついに、枝美が見つかることはなかった。

枝美が姿を消してから既に1年ー。

枝美は見つからないまま、
時間だけが過ぎて行く。

一体、彼女はどうしてしまったのか。

何か事件に巻き込まれてしまったのか。

警察による捜索でも
彼女は見つからず、
介司は、手詰まり状態になっていた。

1年たった今でも、
枝美の、可愛らしい笑みを、
優しい笑みを忘れることはできない。
普通に生活を送っていても
ふと彼女のことを思い出すことがある。

「--枝美…」
介司は、悲しそうに、そう呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1年前ー

枝美と介司は、大学の食堂で
雑談していた。

「--それにしても、よく食べるね」
枝美が言う。

「--あぁ、ラーメンは別腹だからな」
ラーメン大好きの介司は
ラーメンを食べながら笑う。

枝美も、そんな介司を見て
優しく微笑んだ。

「--ところで、来月の誕生日だけどさ、
 枝美にびっくりのサプライズ用意してるから
 楽しみにしててくれよな~」

介司が笑いながら言う。

「-え~楽しみ~!
 でも…
 言っちゃったらサプライズじゃないじゃん」

枝美が苦笑いしながら言うと、
介司が「しまった!」と苦笑いしながら
頭を抱える。

笑う2人。

平和な日常は続いていた。

けどー
枝美は既にこの時、
”自分のある変化”を不安に感じていた。

「そうだ…あのさ…」
枝美が真剣な表情になって言う。

「--…ん?」
介司が枝美の真剣な表情を読み取って
ニヤニヤするのをやめて
話を真剣に聞くポーズに入る。

「--わたし…わたしね…最近…」
枝美が、困り果てた様子で言う。

介司が”何の話だ?”と内心で
不安になりながら枝美の方を見つめていると、
枝美が一瞬ピクンと震えた気がした。

「枝美…?」
介司が言うと、枝美はにっこりとほほ笑む。

「あ、ごめんごめん
 やっぱりなんでもな~い!」
枝美は笑みを浮かべると
ラーメンの方を指さした。

「ほら!早く食べないと伸びちゃう!」

「あ、そうだ!いっけね!」

介司は、笑うと、
再びラーメンを口に運び出した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

しかしー

その日を境に、
枝美は、だんだんと元気をなくしていった。

”何かに悩んでいるような”

そんな、雰囲気だ。

「--枝美…何か、何か、悩んでいるのか?」
ある日、介司は心配になって
枝美に悩みがないかどうかを聞いてみた。

最近、大学にいる最中の枝美の様子が
明らかにおかしい。

何か落ち込んでいる様子だし、
介司とも距離を置こうとしている、
そんな感じがする。
共通の友人に話を聞いてみても
”やはり元気がない”のだと言う。

「---……」
枝美は泣きそうな表情を浮かべながら
介司の方を見る。

「-…悩みがあるなら、
 俺が力になるから」

介司がそう言うと、
枝美は何かを口にしようとした。

しかし…
ブツブツと何かを呟くと
枝美は優しく笑みを浮かべた。

「ごめん…
 なんでもないよ…
 ちょっと、疲れてるだけだから」

その言葉に、介司は
少し悲しそうな目をした。

”なんでもない”
わけがないー。

明らかに何かに落ち込んでいる。

けれどー
枝美はそれを自分に相談してくれない。
そのことを介司は
少し悲しく思っていた。

それから数日ー

「おっはよ~!」
大学で枝美が笑いながら話しかけてきた。

「あ、おはよう」
介司も微笑み返す。

「ふふふ~か~いじ!」
介司の腕に抱き着く枝美。

「お、おい~みんな見てるぞ~」
介司が苦笑いしながら言う。

むぎゅう…と甘えるようにして
くっついてくる枝美。

枝美は笑う。
「いいじゃない~!もっとラブラブになろうよ~!」
と。

「-なんだなんだ?今日は妙にハイテンションだな~」

そう言って微笑む介司。

枝美の悩みはもう解決したのだろうか。
いやー
解決したからこそのこの明るさなのだろう。

介司は、自分が力になれなかったことに関しては
残念に思ったが
とりあえずこうして枝美が元気に
なったことで、一安心した。

だがー。

その後、枝美は突然バイト先を辞めてしまった。

スイーツを販売するお店で
介司もたまに枝美に会いがてら
買い物に行っていたのだが、
買い物に行った際に、枝美が
バイトを辞めたことを
顔見知りの店員から知らされた。

”酷く、落ち込んでいる様子だった”
のだと言うー

だがー

「--…」
介司は不思議に思う。

1週間前ぐらいから、枝美は
とても元気になった。
落ち込んでいるのが嘘のように。

あれは、
無理して明るく振る舞っているだけなのかー?

そんな疑問が、
介司の中で膨らんでいく。

それからさらに数日が経過したある日。
介司は友達からあることを聞いた。

”枝美ちゃん、メイドカフェで働いてるんだなぁ~”

そう言われた介司は、
思わず驚いてしまう。

「---はっ!?見間違えだろ?」
介司の言葉に
友人は首を振った。

「いやぁ、あれは間違えなく枝美ちゃんだったよ」
と。

「バカな…」
介司は驚いた。
枝美はそういう、女という立場を利用した
ことは苦手だったはず。

同性の友達は多いものの
恋愛経験は少ないみたいだし
男に媚を売るようなことは
大の苦手だったはず。

その彼女が、メイドにー?

”今日、話があるの”

LINEが届く。
夜に話が出来るかどうか。

その確認だった。

介司は”できるよ”と答えた。

12月に入って、
イルミネーションが街で輝きだした。

そんな街中で、
介司は枝美と合流した。

枝美が微笑む。

「--…枝美…
 話って?」

介司がそう言うと、
枝美は微笑む。

そして…

突然、その笑みが消えた。

「………」
枝美は、泣きそうな目で介司の方を見ている。

「--枝美?」
介司が不安になりながら言う。

枝美が何やらブツブツと呟いている。

しかしー…
少しすると、枝美は少しだけ首を振った。

「--枝美…」
介司は”言えない何か”に悩んでいるのだと
考えて、静かに枝美を抱きしめた。

抱きしめられた枝美が
”悪い笑み”を浮かべていることにも気づかずにー

そしてー
彼女は”消えた”

翌日ー
彼女は大学にも来ず、
LINEの連絡もつかず、
家にも帰宅せずー
消えてしまった。

体調不良かと思い
介司はしばらく連絡を待っていたが
夜になっても連絡がなかったため、
枝美の家を訪れると
そこにはーーー

”ごめんね”
とだけ書かれた紙が
書き残されていた。

枝美は、消えたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あれから1年、
何の進展もない。

枝美は消えたまま。

直前から、枝美の様子がおかしかった。

だがー
結果的に介司は枝美に
何かしてやることはできなかった。

枝美がおかしいのは分かっていた。
そして、枝美が姿を消すまでに
時間はあった。

それなのにー
介司は、
枝美に何も出来なかった。

ただ、枝美が変わっていくのに戸惑い、
そして、彼女は消えてしまった。

「くそっ…」

”ごめんね”
とは、いったいどういう意味なのか。

やはり、彼女は何か事件に
巻き込まれていたのだろうか。

「枝美…」
彼の部屋にはー
今でも彼女の枝美との写真が
大切に飾られている。

いつか急に戻ってくるかもしれない。

家族もー
友達もー
彼氏もー
全て捨てて行方をくらました彼女が
無事だとは思えないー。

けれどー。
遺体が見つかったわけではない。

「---俺は信じるよ…」
介司は悲しそうに呟く。

彼女の写真に向かって、
いつか、彼女が帰ってくるはずだとー。

そう、信じてー

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

けれどー…。

介司がどんなに願っても、
介司がどんなに信じても
彼女はもう”帰ってこない”

何故ならー

彼女はー…

1年前ー

介司と幸せな日々を送る枝美は、
大学のある男子学生に呼び出されていた。

石島 豪人(いしじま ごうと)
大学内で、少し不穏なうわさのある男子学生だ。

噂とはー
なりふり構わず女子をナンパして歩いているという
そういう”噂”だ。

「--話って?」
枝美が、豪人に呼び出された場所へと向かう。

すると、豪人は笑った。

「へへ…馬本さん…
 彼氏とは上手くいってる?」

突然の質問に枝美は少し
嫌な気持ちになりながら答える。

「--え、う、うん…
 上手く行ってるけど…それがどうかしたの?」
枝美がそう答えると、豪人はニヤリと笑った。

「俺さ、ずっと馬本さんのこと
 好きなんだ…
 大学で最初に君を見たときから
 君以上の女神はいない、
 そう思ってたんだ…ふふ」

豪人のいきなりの言葉に
枝美は困り果てた様子で
返事を返す。

「--そ、そんなこと急に言われても…
 わ、わたし、困っちゃうんだけど…」

「--彼氏と別れて、俺のものになってくれよ。
 俺が好きなエロゲーのヒロインに
 馬本さん、よく似てるんだよ!」

豪人は言った。

”最低”と内心で枝美は思いながらも、
それを表情に出すことなく答える。

「ごめん…そういうのはちょっと…
 浮気はできないから」

そう言うと、豪人はクククと笑った。

「そう言うと思ったよ。
 
 でもさ…
 今、俺を受け入れなかったこと、
 一生後悔するよ?」

そう言うと、
豪人はポケットから小さな容器を取り出して
それを飲み干したー。

「-!?」
枝美が不思議そうな顔をする。

「--憑依」
豪人はそう呟くと、有無を言わさず、
枝美にキスをした。

「--!?!?!?!?」
枝美がとっさのことに
驚くー。

そして、何をする間もなく、
枝美は意識を失ってしまった。

・・・・・・

「---う…ん」

ふと目を覚ます枝美。

「あ、、あれ…わたし…?」
枝美は周囲を見渡す。

さっき、豪人にキスをされて、
それから…?

慌てて時計を見る枝美。
時間は10分ぐらいしか経過していない。

続いて慌てて周囲を見渡す枝美。

しかし、
そこに豪人はいない。

「ほっ…」
一安心する枝美。

疲れていて夢でも見ていたのだろうか。
そんな風に思いながら
枝美は立ち上がる。

確かに、豪人のことは
ちょっと気味悪いと思っているから
それが夢に出て来ても仕方がないかもしれない。

そんな風に思いながら、
枝美は歩き出したー

”くくく…”
自分の身体を捨てて
豪人は枝美に憑依したー。

本当は自然なカタチで付き合うことができれば
それが一番だったが、
枝美は、自分を拒んだ。
だったら、枝美と一心同体、
いや、枝美を乗っ取って、
自らが枝美になるー。

豪人は、その道を選んだのだった。

”さ~て、すこ~しずつ、
 枝美ちゃんの身体もらっていくからなぁ…
 くくく”

「--くくく」
ふいに、枝美が不気味な笑みを浮かべた

「-!?」
枝美は自分で、自分の”おかしな行動”に気付く。

「--今…わたし…、笑ってた…?」
不気味そうに呟く枝美。

彼女はまだ知らない。
この先に、自分を待ち受ける運命をー。

②へ続く

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コメント

失踪した彼女の真相は…!?
なんだか予想がついちゃいそうですが
続きは明日デスー!

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憑依<消えた彼女>

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